ライブラリー 2017年の米国の老人介護施設にみられる抗菌薬の使用
Antimicrobial Use in a Cohort of US Nursing Homes, 2017
JAMA. 2021 Apr 6;325(13):1286-1295. doi: 10.1001/jama.2021.2900.
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上記論文の日本語要約
【重要性】抗菌薬耐性の制御が公衆衛生の優先事項であるが、米国の老人介護施設での抗菌薬使用に関するデータが少ない。
【目的】老人介護施設入居者の抗菌薬使用割合を評価し、抗菌薬の種類と頻度の高い適応症を記載すること。
【デザイン、設定および参加者】2017年4月から2017年10月までに実施した抗菌薬使用に関する横断的な1日点有病率調査。最終調査日が2017年10月31日であった。新興感染症プログラム(EIP)に参加する10州から選定した161の老人介護施設に調査日時点で入居していた入居者15,276例を対象とした。EIPのスタッフが施設の記録を確認し、入居者のデータおよび調査時に投与されていた抗菌薬に関するデータを収集した。施設のスタッフやNursing Home Compareウェブサイトから施設に関するデータを入手した。
【曝露】調査時点で参加施設に居住。
【主要評価項目】調査対象を入居者総数で除した、調査時に抗菌薬を投与していた入居者数と定義した入居者100人当たりの抗菌薬使用割合。抗菌薬使用の多変量ロジスティック回帰モデルおよび各分類内の薬剤の割合。
【結果】対象とした老人介護施設の入居者15,276例(平均[SD]年齢77.6歳[13.7]、女性9,475例[62%])のうち、96.8%から完全なデータを入手した。全体の抗菌薬使用割合は、入居者100人当たり8.2(95%CI、7.8~8.8)であった。調査前30日以内に施設へ入居した入居者の抗菌薬使用率が高く(入居者100人当たり18.8;95%CI、17.4~20.3)、この入居者は中心静脈カテーテル(62.8;95%CI、56.9~68.3)または尿道カテーテル(19.1;95%CI、16.4~22.0)を留置している割合が高かった。抗菌薬は活動性感染症(77%[95%CI、74.8-79.2])に用いられることが最も多く、主に尿路感染症(28.1%[95%CI、15.5-30.7])の治療が理由であった。一方、18.2%(95%CI、16.1~20.1)が予防的投与であり、尿路感染症に対する投与が最も多かった(40.8%[95%CI、34.8~47.1])。フルオロキノロン系抗菌薬(12.9%;95%CI、11.3~14.8)が最も多く使用され、使用された抗菌薬の33.1%(95%CI、30.7~35.6)が広域スペクトラム抗菌薬であった。
【結論および意義】2017年に米国の老人介護施設で実施した横断的調査では、抗菌薬使用割合が入居者100人当たり8.2であった。この試験から、老人介護施設の入居者にみられる抗菌薬の使用パターンに関する情報が得られる。
第一人者の医師による解説
抗菌薬適正使用の指針や評価の検討のため介入前後の調査を繰り返し実施すべき
塩塚 美歌(医員)/岩田 敏(部長) 国立がん研究センター中央病院感染症部
MMJ. February 2022;18(1):22
近年、薬剤耐性菌対策は公衆衛生における重大な優先事項となり、抗菌薬適正使用の必要性が認識されている。一方で米国の療養施設(nursing home)は、長期療養目的だけでなく、リハビリテーション、創傷ケア、デバイス管理などを要する患者が急性期後治療を目的に入所しており、耐性菌の保菌や感染症発症のリスクが高く、耐性菌の温床となりうることが懸念されている。
本論文では、米国内161カ所の療養施設の入所者を対象に、2017年4月~10月のある1日における各施設での抗菌薬使用状況について調査した横断研究(点有病率調査)の結果を報告している。対象施設はカリフォルニア、ニューヨークなど10州で各々選択された地域にある公的医療保険認定施設の中から無作為に選ばれた。主要評価項目は入所者100人ごとの抗菌薬使用率である。対象者15,276人(平均年齢77.6歳、女性62%)のうち、1,258人(プール平均8.2%)に1,454剤の抗菌薬全身投与(経口、経消化管、筋肉内、静脈内、吸入のいずれかの経路)が行われており、そのうち1,082人(86%)で1種類、158人(12.6%)で2種類、18人(1.5%)で3または4種類の抗菌薬が投与されていた。使用率が最も高かったのは、急性期後治療目的の短期入所者、入所から間もない者やデバイス留置者であった。中でも、調査日前2日以内の入所者での使用率は21.0%と高かった。デバイスの中では、中心静脈カテーテル留置中の使用率が最も高く、調整オッズ比は11.1(95% CI, 8.5~14.5)であった。抗菌薬の80.4%は経口または経消化管投与、77.0%は感染症治療の目的で投与され(内科的予防投与18.0%)、適応症は29.0%が 尿路感染症、21.4 %が 皮膚軟部組織感染症、14.9%が呼吸器感染症であった。抗菌薬のクラスはニューキノロンが12.9%と最も多く、33.1%が広域抗菌薬であった。
同様の調査は各国で行われており、最近の欧州の長期療養施設における抗菌薬使用率は4.9%と報告されている1。また日本の介護老人保健施設における2019年の調査2では、調査票に回答した126施設(有効回収率8.4%)における入所者総数10,148人中、抗菌薬使用者は172人(1.7%)であり、肺炎、尿路感染症、蜂窩織炎の治療で第3世代セファロスポリン、キノロンが選択される傾向が認められた。施設の特徴の差や調査条件の違いなどを考慮すると、国際間での単純な比較は難しいが、これらの調査は抗菌薬適正使用推進活動で優先すべき介入事項の検討や、介入後の効果測定に不可欠な情報が得られるものであり、繰り返し実施されるべきである。
1. Ricchizzi E, et al. Euro Surveill. 2018;23(46):1800394.
2. 薬剤耐性(AMR)アクションプランの実行に関する研究班 .
http://amr.ncgm.go.jp/pdf/20191125_report.pdf(2021 年 12 月アクセス)