「精神」の記事一覧

ビタミンD長期的補給がうつまたはうつ症状リスクおよび気分スコアの変化にもたらす効果 無作為化試験
ビタミンD長期的補給がうつまたはうつ症状リスクおよび気分スコアの変化にもたらす効果 無作為化試験
Effect of Long-term Vitamin D3 Supplementation vs Placebo on Risk of Depression or Clinically Relevant Depressive Symptoms and on Change in Mood Scores: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2020 Aug 4;324(5):471-480. doi: 10.1001/jama.2020.10224. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】25-ヒドロキシビタミンD値が低いと後にうつ病リスクが高くなるが、長期にわたる高用量摂取を検討した大規模試験がほとんどない。 【目的】ビタミンD3補給が後のうつ病リスクおよび気分スコアにもたらす効果を検証すること。 【デザイン、設定および参加者】米国で成人2万5871例を対照に心血管疾患とがんの予防を検討した無作為化試験VITALの補助的試験、VITAL-DEP(Vitamin D and Omega-3 Trial-Depression Endpoint Prevention)に50歳以上の男女1万8353例が参加した。1万6657例にうつ病発症リスク(うつ病既往歴なし)、1696例にうつ病再発リスク(うつ病既往歴があるが、過去2年間うつ病の治療を受けていない)があった。2011年11月から2014年3月にかけて無作為化し、2017年12月31日に割り付けた治療が終了し、この日が最終追跡日となった。 【介入】2×2要因デザインを用いて、ビタミンD3(コレカルシフェロール1日当たり2000IU)、魚油またはプラセボに無作為化。9181例をビタミンD3、9172例をマッチさせたプラセボに割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、うつ病または治療を要するうつ症状のリスク(総発症例数および再発例数)および気分スコア(8項目から成る患者健康質問票うつ尺度[PHQ-8]、0[症状なし]から24点[症状が多い]、臨床的意義のある最小変化量は0.5点)の平均差。 【結果】無作為化した1万8353例(平均年齢67.5[SD 7.1]歳、女性49.2%)の治療期間中央値は5.3年間で、90.5%が試験を完了した(試験終了時生存していた参加者の93.5%)。ビタミンD3群(うつ病または治療を要するうつ症状609例、1000人年当たり12.9)とプラセボ群(同625例、13.3)のうつ病または治療を要するうつ症状のリスクに有意差は見られず(ハザード比0.97、95%CI 0.87-1.09、P=0.62)、うつ病発症または再発に群間差はなかった。時間の経過に伴う気分スコアの変化に治療群間の有意差は見られず、PHQ-8スコアの平均変化量も有意差はなかった(気分スコアの平均変化量0.01点、95%CI -0.04-0.05)。 【結論および意義】試験開始時に治療を要するうつ症状がない50歳以上の男女を中央値5.3年間追跡した結果、プラセボを比較して、ビタミンD3治療によってうつ病の発症や再発、治療を要するうつ症状、気分スコアの変化に有意な差は認められなかった。この結果は、うつ病予防のための成人へのビタミンD3投与は支持するものではない。 第一人者の医師による解説 大規模 RCTによる長期介入でも効果は確認できず 山口 智史/佐々木 司(教授) 東京大学大学院教育学研究科健康教育学分野 MMJ. February 2021;17(1):15 うつ病は疾病負荷の主要因の1つとなっている(1)。特に、高齢者のうつ病は十分に治療されていないケースが多いため(2)、医療において、高齢者のうつ病予防は重要な領域である。高齢者では、血中ビタミンD濃度が低い場合に抑うつリスクが高いことが、横断研究のメタ解析によって示されている(3)。しかし、ビタミンD濃度を上昇させる介入がうつ病予防に有効であるかどうかについては十分に検討されていない。今回報告されたVITAL-DEP試験は、ビタミン Dのサプリメントを毎日服用することで、うつ病の予防が可能であるかを5年にわたる介入により検証した、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験である。 試験対象者は、50歳以上の男女で、研究参加時点までにうつ病の診断を受けたことがない人か、うつ病既往があっても寛解後2年以上経過している人である。主要評価項目は2つあり、1つ目は、うつ病の発症および再発の有無である(うつ病の発症および再発は、医師によるうつ病の診断を受けたかどうか、うつ病の治療を受けているかどうか、うつ症状を測る質問票[PHQ-8]で点数がカットオフ以上となったかどうかのいずれかを指す)。2つ目は、PHQ-8で測ったうつ症状の長期的変化である。割り付けられた参加者は18,353人、このうち57.5%が5年間研究に参加し続けた。追跡調査は年1回の郵送による質問票で行われ、うつ病の発症と再発の確認、うつ症状の測定が行われた。また、割り付けられた錠剤の3分の2以上を服用したと回答し、プロトコール遵守とみなされた参加者は毎年の調査で90%を超えていた。ビタミンD服用群9,181人中、うつ病が発症または再発した人は609人であった(12.9/1,000人・年)。一方、プラセボ群では9,172人中625人であった(13.3/1,000人・年)。うつ病の発症・再発に関して、ビタミンD服用群とプラセボ群の間で、ハザード比は有意とならなかった。また、質問票で測ったうつ症状の点数も、2群間に有意差は認められなかった。これは、介入期間中のどの時点でも同様であった。 今回の結果は、10,000人を超える非常に多くの一般住民に対して、5年という長期の介入を続けたランダム化試験によるものである。著者らはこれらの点をVITAL-DEP試験の強みとして挙げており、得られた結果は、成人のうつ病予防のためにビタミンDを服用させることを支持するものではなかったと結論している。 1. Mathers CD, et al. PLoS Med. 2006;3(11):e442. 2. Unutzer J, et al. J Am Geriatr Soc. 2000;48(8):871-878. 3. Li H, et al. Am J Geriatr Psychiatry. 2019;27(11):1192-1202.
うつ病に用いるpsilocybinとエスシタロプラムを比較した試験
うつ病に用いるpsilocybinとエスシタロプラムを比較した試験
Trial of Psilocybin versus Escitalopram for Depression N Engl J Med. 2021 Apr 15;384(15):1402-1411. doi: 10.1056/NEJMoa2032994. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】psilocybinは抗うつ作用を有する可能性があるが、psilocybinと実証済みのうつ病治療との直接比較はない。 【方法】罹病歴の長い中等症ないし重症の大うつ病性障害患者を対象とした第II相二重盲検無作為化比較試験で、psilocybinと選択的セロトニン再取り込み阻害薬エスシタロプラムを6週間にわたって比較した。患者をpsilocybin 25mgの3週間隔2回投与かつプラセボ6週間連日投与群(psilocybin群)とpsilocybin 1mgの3週間隔2回投与かつエスシタロプラム6週間連日経口投与群(エスシタロプラム群)に1対1の割合で割り付けた。全例に心理的サポートを実施した。主要評価項目は、自己報告による簡易抑うつ症状尺度16項目スコア(QIDS-SR-16、スコア範囲0~27点、スコアが高いほど抑うつが重症)のベースラインから6週時までの変化量とした。6週時のQIDS-SR-16の改善(スコア50%以上低下と定義)およびQIDS-SR-16の寛解(スコア5点以下と定義)など16項目を副次評価項目とした。 【結果】59例を組み入れ、30例をpsilocybin群、29例をエスシタロプラム群に割り付けた。ベースラインの平均QIDS-SR-16スコアは、psilocybin群14.5点、エスシタロプラム群16.4点であった。ベースラインから6週時までの平均スコア変化量(±SE)は、psilocybin群-8.0±1.0点、エスシタロプラム群-6.0±1.0点で、群間差は2.0点(95%CI -5.0~0.9、P=0.17)であった。psilocybin群の70%とエスシタロプラム群の48%にQIDS-SR-16の改善が認められ、群間差は22%ポイント(95%CI -3~48)であった。それぞれ57%と28%にQIDS-SR-16の寛解が認められ、群間差は28%ポイント(95%CI 2~54)であった。その他の副次評価項目は概ねpsilocybin群の方がエスシタロプラム群よりも良好であったが、解析では多重比較を補正しなかった。有害事象の発現率は両群で同等であった。 【解釈】6週時のQIDS-SR-16うつ病スコアの変化量を基にすると、この試験では選択した患者群でpsilocybinとエスシタロプラムの抗うつ作用に有意差は認められなかった。副次評価項目は概ねpsilocybinの方がエスシタロプラムよりも良好であったが、この評価項目の解析では多重比較を補正しなかった。psilocybinと検証済みの抗うつ薬を比較するには、大規模で長期的な試験が必要である。 第一人者の医師による解説 シロシビンの効果検証 より大規模で長期の試験が必要 高橋 英彦 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学主任教授 MMJ. August 2021;17(4):108 シロシビン(psilocybin)はヒカゲシビレタケなどのマジックマッシュルームに含まれる幻覚成分で、セロトニンと類似した化学構造を有し、セロトニン 5-HT2A受容体にアゴニストとして主として作用する(1)。シロシビンには抗うつ作用があると考えられるが、シロシビンと既存のうつ病治療法との直接的な比較は行われていない。そこで、著者らは第2相二重盲検無作為化対照試験で、中等度〜重度の大うつ病性障害の患者を対象に、シロシビンまたは選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるエスシタロプラムを6週間経口投与し、有効性と安全性を比較した。患者は、シロシビン25mgの2回投与(1、4週目)に加えプラセボを6週間連日投与する群(シロシビン群)と、薬理作用が無視できるシロシビン1mgの2回投与(1、4週目)に加えエスシタロプラムを6週間連日投与する群(エスシタロプラム群)に割り付けられた。主要評価項目は、6週目の16項目のQuick Inventory of Depressive Symptomatology-Self-Report(QIDS-SR-16)の得点のベースラインからの変化量であった。副次評価項目として、6週目にQIDS-SR-16の奏効(スコアがベースラインよりも50%以上減少)、QIDS-SR-16の寛解(スコアが5以下になった場合)など16項目を設定した。30人がシロシビン群に、29人がエスシタロプラム群に割り付けられた。ベースライン時のQIDS-SR-16の平均スコアは、シロシビン群で14.5点、エスシタロプラム群で16.4点であった。ベースラインから6週目までのスコアの変化量の平均(± SE)は、シロシビン群で−8.0±1.0ポイント、エスシタロプラム群で−6.0±1.0ポイントとなったが有意差はなかった。QIDS-SR-16上の奏効はシロシビン群で70%、エスシタロプラム群で48%で得られ、QIDS-SR-16上の寛解はそれぞれ57%と28%に認められたが、いずれも有意差はなかった。有害事象の発生率は両群間で同程度であった。本試験の限界として、エスシタロプラムは効果発現にもっと時間がかかる場合もあり、6週間は短い可能性が挙げられる。シロシビン25mgは1mgに比べて高揚感や解放感を感じる人が多く盲検化に影響を与えたかもしれない。結論として、シロシビンを既存の抗うつ薬と比較するには、より大規模で長期の試験が必要である。 1. Madsen MK, et al. Neuropsychopharmacology. 2019;44(7):1328-1334.
うつ病スクリーニングに用いるHospital Anxiety and Depression Scale抑うつサブスケール(HADS-D)の精度:系統的レビューと個別参加者データのメタ解析
うつ病スクリーニングに用いるHospital Anxiety and Depression Scale抑うつサブスケール(HADS-D)の精度:系統的レビューと個別参加者データのメタ解析
Accuracy of the Hospital Anxiety and Depression Scale Depression subscale (HADS-D) to screen for major depression: systematic review and individual participant data meta-analysis BMJ. 2021 May 10;373:n972. doi: 10.1136/bmj.n972. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】身体的な健康問題がある人のうつ病スクリーニングに用いるHospital Anxiety and Depression Scale抑うつサブスケール(HADS-D)の精度を評価すること。 【デザイン】系統的レビューおよび個別患者データのメタ解析。 【データ入手元】Medline、Medline In-Process and Other Non-Indexed Citations、PsycInfoおよびWeb of Science(開始から2018年10月25日まで)。 【レビュー方法】HADS-Dスコアおよび妥当性が裏付けられている診断面接に基づくうつ病の状態を適格なデータセットの対象とした。一次試験データおよび一次報告から抽出した試験レベルのデータを組み合わせた。HADS-Dのカットオフ閾値を5-15とし、半構造化面接(例、Structured Clinical Interview for Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)、構造化面接(例、Composite International Diagnostic Interview)およびMini International Neuropsychiatric Interviewを用いた試験を対象に、二変量ランダム効果メタ解析を用いて、統合した感度および特異度を別々に推定した。一段階メタ回帰を用いて、精度に参照基準分類および参加者データとの関連が認められるかを検討した。生データを提供していない試験が公表した結果を含めることにより結果に影響があるかを評価するため、感度分析を実施した。 【結果】適格試験168報のうち101報から個別参加者データを得た(60%;25,574例(適格参加者の72%)、うつ病患者2,549例)。半構造化面接、構造化面接およびMini International Neuropsychiatric Interviewのカットオフ値7以上で感度と特異度の合計が最大となった。半構造化面接を用いた試験(57件、10,664例、うつ病患者1,048例)で、カットオフ値7以上の感度および特異度が0.82(95%信頼区間0.76~0.87)および0.78(0.74~0.81)、カットオフ値8以上では0.74(0.68~0.79)および0.84(0.81~0.87)、カットオフ値11以上が0.44(0.38~0.51)および0.95(0.93~0.96)であった。参照基準でもサブグループ全体でも精度がほぼ同じであり、データを提供しなかった試験が公表した結果を含めた場合も同様であった。 【結論】うつ病をスクリーニングする際、HADS-Dカットオフ値7以上で感度と特異度の合計が最大となった。カットオフ値8以上でも感度と特異度の組み合わせはほぼ同じであったが、7以上を用いた場合よりも感度が低く、特異度が高かった。HADS-Dにより内科疾患のあるうつ病患者を特定するには、偽陰性を避けるために低いカットオフ値を用いて、偽陽性を減らし重症度が高い患者を特定するために高いカットオフ値を用いることができるであろう。 第一人者の医師による解説 より症状の強い患者の特定には高めのカットオフ値が適す 岸本 泰士郎 慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座特任教授 MMJ. February 2022;18(1):7 身体疾患を有する患者のうつ病診断は、倦怠感、食欲低下、睡眠障害など双方の疾患に共通してみられる症状が多いこともあって、困難である。Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)は、身体疾患を有する人の不安障害とうつ病を同定するために開発された尺度で、身体疾患との重複を避けるため不眠、食欲不振、疲労などの身体的症状が含まれていない。医療現場で簡便に行えることから、十分に活用することが望まれる。 本論文は、HADSのうつ病サブスケールであるHADS-Dを用いた大うつ病のスクリーニング精度について系統的レビューとメタ解析を行い、大うつ病のスクリーニングのための最適なカットオフ値を検討した研究の報告である。 解析には、有効なインタビューで大うつ病が診断され、それにHADS-Dスコアを紐付けた研究データが用いられた。1次研究データと研究レベルのデータが抽出され、統合された。HADS-Dのカットオフ値の5 ~ 15について、二変量ランダム効果メタ解析を用い、感度と特異性を診断方法ごとに推定した。診断方法として、半構造化診断面接(例:Structured Clinical Interview for Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)、完全構造化面接( 例:Composite International Diagnostic Interview)、Mini International Neuropsychiatric Interview(MINI)を用いた研究が選択された。 選択基準を満たした研究168件のうち101件から個人データが得られた。半構造化診断面接、完全構造化面接、MINIそれぞれにおいて、カットオフ値を7以上とすることで、感度と特異度の合計が最大となった。半構造化面接を用いた研究では、カットオフ値を7以上としたところ、感度0.82(95%信頼区間[CI], 0.76 ~ 0.87)、特異度0.78(0.74 ~ 0.81)であった。同様に、カットオフ値を8以上とした場合、感度0.74(95% CI, 0.68 ~ 0.79)、特異度0.84(0.81 ~ 0.87)、カットオフ値を11以上とした場合、感度0.44(0.38 ~ 0.51)、特異度0.95(0.93 ~ 0.96)であった。精度は診断方法の違いにかかわらず同様であった。 このように、HADS-Dのカットオフ値を7以上とすることで、感度と特異度が最大となった。カットオフ値を8以上としても、感度と特異度の合計は同程度であったが、感度は低く、特異度は高くなった。偽陰性を避けるためには低いカットオフ値が、また偽陽性を減らし、より症状の強い患者を特定するには高めのカットオフ値が適しているだろう。
オピオイド漸減に過剰摂取や精神的危機を引き起こす危険性
オピオイド漸減に過剰摂取や精神的危機を引き起こす危険性
Association of Dose Tapering With Overdose or Mental Health Crisis Among Patients Prescribed Long-term Opioids JAMA. 2021 Aug 3;326(5):411-419. doi: 10.1001/jama.2021.11013. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】オピオイド関連の死亡率や国の処方ガイドラインにより、慢性疼痛に対して長期的にオピオイド療法を処方されている患者において、用量の漸減が行われている。過量投与や精神衛生上の危機など、漸減に関連するリスクに関する情報は限られている。 【目的】安定した長期高用量オピオイドを処方された患者において、オピオイドの漸減と過量投与や精神衛生上の危機の割合に関連があるかを評価する。 デザイン・設定・参加者】2008年から2019年のOptumLabs Data Warehouseからの非識別医療・薬局請求と登録データを用いたレトロスペクティブコホートスタディである。12か月のベースライン期間に安定した高用量(平均50モルヒネミリグラム当量/日)のオピオイドを処方され、少なくとも2か月のフォローアップを受けた米国の成人が対象となった。 【曝露】オピオイドテーパリング、7か月のフォローアップ期間内の60日の重なった6週間のいずれかの期間に平均日用量が少なくとも15%相対減少したと定義される。最大月間投与量減少速度は、同期間中に計算された。 【主要評および測定法】最大12か月の追跡期間中に、(1)薬物過剰摂取または離脱、(2)メンタルヘルス危機(うつ、不安、自殺企図)のための救急または病院受診が発生した。離散時間負の二項回帰モデルにより,テーパリング(対テーパリングなし)および減量速度の関数としてアウトカムの調整済み発生率比(aIRR)を推定した。 【結果】ベースライン期間203 920人の安定した期間を経て,113 618人が最終コホートに含まれることになった。漸減を受けた患者の54.3%が女性で(漸減を受けなかった患者では53.2%)、平均年齢は57.7歳(58.3歳)、商業保険に加入していたのは38.8%(41.9%)であった。漸減後の患者期間は、100人年当たり9.3件の過量投与イベントと関連しており、漸減しない期間では100人年当たり5.5件であった(調整後発生率差、100人年当たり3.8件[95%CI、3.0-4.6];aIRR、1.68 [95%CI 、1.53-1.85])。テーパリングは、非テーパリング期間の100人年当たり3.3件と比較して、100人年当たり7.6件のメンタルヘルスクライシスイベントの調整後発生率と関連していた(調整後発生率差、100人年当たり4.3件[95%CI、3.2~5.3];aIRR、2.28[95%CI、1.96~2.65])。月間の最大減量速度を10%増加させると、過剰摂取のaIRRは1.09(95%CI、1.07-1.11)、精神衛生上の危機は1.18(95%CI、1.14-1.21)となった。 【結論と関連性】安定した長期高用量オピオイド療法を処方されている患者では、テーパーリングイベントは過剰摂取および精神衛生上の危機のリスク上昇と有意に関連することが示された。これらの知見はテーパリングの潜在的な害について疑問を投げかけるものであるが,観察研究デザインにより解釈は限定的である。 第一人者の医師による解説 長期間、高用量オピオイドを処方されている患者では拙速な漸減は有害 松本 俊彦 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長/薬物依存症センター センター長 MMJ. April 2022;18(2):36 北米では、医師による安易なオピオイド鎮痛薬の処方が災いして、過剰摂取による死亡者の急増、深刻な社会問題(「オピオイドクライシス」)を招いている(1)。このため、各種の治療ガイドラインでは、慢性疼痛に対して長期処方されているオピオイドの漸減が推奨されているが(2)、同時に、漸減が、患者の過剰摂取や精神的危機、違法オピオイドへのアクセスを高める可能性も指摘されている。しかし、漸減の有害性リスクに関する検証は十分になされていない。 本論文において著者らは、高用量オピオイドを長期間処方されている患者に対する漸減療法が、過剰摂取や精神的危機の発生と関連するのかどうかを、後ろ向きコホート研究のデザインで検討している。米国の医療関連データベース Optum Labs Data Warehouseを用いて、モルヒネ換算50mg/日以上のオピオイドを1年以上継続投与され、2カ月間以上の追跡を受けた患者113,618人のうち、追跡期間中に漸減(1日の平均投与量にして15%以上の減量と定義)が行われた患者を特定した。この患者データを用いて、追跡期間中における漸減実施期間と非実施期間との間で、薬物の過剰摂取や精神的危機(うつ病、不安、自殺企図)といった有害事象の発生頻度を比較した。 検討の結果、オピオイドの漸減は、過剰摂取で3.8件 /100人・年(95%信頼区間[CI], 3.0〜4.6)、精神的危機で4.3件 /100人・年(95% CI, 3.2〜5.3)の増加と関連していた。精神的危機の種類別にみると、漸減はうつ病2.46件 /100人・年(95%CI, 2.05 ~ 2.96)、不安障害1.79件 /100人・年(95 % CI, 1.48 ~ 2.15)、自殺企図3.30件/100人・年(95% CI, 2.19 ~ 4.98)といった有害事象の増加につながった。さらに、漸減速度と有害事象の関連についての検討では、月あたりの減量速度を10%速めると、過剰摂取は1.09件/100人・年(95% CI, 1.07〜1.11)、精神的危機は1.18件 /100人・年(95% CI, 1.14〜1.21)増えることが明らかにされた。 慢性疼痛に対して高用量オピオイド治療を漫然と長期間続けるのは問題であり、処方医は常に漸減の可能性を探るべきなのは言うまでもない。しかし、拙速な漸減は有害事象を引き起こすリスクもある。現状では、日本は北米のような悲劇的状況とはほど遠いが、数年前よりオピオイドの非がん性疼痛への適応拡大がなされ、痛みの臨床現場にも高用量オピオイド長期使用患者は徐々に増えつつある2。その意味で、臨床医が知っておくべき情報といえよう。 1. 山口重樹ら . 精神科治療学 . 2020;35(7):777-782. 2. 木村嘉之ら . 日本臨牀 . 2019;77(12):2065-2070.