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筋層浸潤尿路上皮がんに用いるニボルマブ補助療法とプラセボの比較
筋層浸潤尿路上皮がんに用いるニボルマブ補助療法とプラセボの比較
Adjuvant Nivolumab versus Placebo in Muscle-Invasive Urothelial Carcinoma N Engl J Med. 2021 Jun 3;384(22):2102-2114. doi: 10.1056/NEJMoa2034442. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【目的】高リスク筋層浸潤尿路上皮がんの根治的手術後に用いる術後補助療法の役割は明らかになっていない。【方法】第III相多施設共同二重盲検無作為化比較試験で、根治的手術を受けた筋層浸潤尿路上皮がん患者をニボルマブ(240mg静脈内投与)群とプラセボ群に1対1の割合で割り付け、2週間ごとに最長1年間投与した。試験登録前にシスプラチンを用いた術前化学療法を実施していてもよいこととした。主要評価項目は、全患者(intention-to-treat集団)および腫瘍のPD-L1発現レベル1%以上の患者の無病生存とした。尿路外無再発生存を副次的評価項目とした。【結果】計353例をニボルマブ群、356例をプラセボ群に割り付けた。intention-to-treat集団の無病生存期間中央値は、ニボルマブ群が20.8カ月(95%CI、16.5~27.6)、プラセボ群が10.8カ月(95%CI、8.3~13.9)であった。6カ月時の無病生存率はニボルマブ群が74.9%、プラセボ群が60.3%であった(再発または死亡のハザード比、0.70;98.22%CI、0.55~0.90;P<0.001)。PD-L1発現レベルが1%以上の患者では、割合はそれぞれ74.5%と55.7%であった(ハザード比、0.55、98.72%CI、0.35~0.85、P<0.001)。intention-to-treat集団の尿路外無再発生存期間の中央値は、ニボルマブ群が22.9カ月(95%CI、19.2~33.4)、プラセボ群が13.7カ月(95%CI、8.4~20.3)であった。6カ月時の尿路外無再発生存率は、ニボルマブ群が77.0%、プラセボ群が62.7%(尿路外の再発または死亡のハザード比、0.72;95%CI、0.59~0.89)。PD-L1発現レベル1%以上の患者では、それぞれ75.3%および56.7%であった(ハザード比、0.55;95%CI 0.39~0.79)。ニボルマブ群の17.9%とプラセボ群の7.2%にグレード3以上の治療関連有害事象が発現した。ニボルマブ群では、間質性肺炎による治療関連死が2件報告された。【結論】根治的手術を受けた高リスク筋層浸潤尿路上皮がん患者を対象とした本試験では、術後ニボルマブによりintention-to-treat集団およびPD-L1発現レベル1%以上の患者の無病生存期間がプラセボよりも長くなった。 第一人者の医師による解説 日本でも21年3月に適応拡大申請 手術療法+ニボルマブがいずれ標準治療に 水野 隆一 慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室准教授 MMJ. December 2021;17(6):183 筋層浸潤性尿路上皮がんに対する標準治療は、膀胱がんであれば膀胱全摘除術、腎盂尿管がんであれば腎尿管全摘除術とされている。これらは根治を目的とした術式であるが、病理学的に固有筋層浸潤や所属リンパ節転移を認める患者における術後再発率は50%以上と報告されており、再発抑制を目的とした術後補助療法の確立は緊急の課題である。今回報告されたCheckMate274試験は、根治切除後の再発リスクが高い筋層浸潤性尿路上皮がん患者を、ニボルマブ(240mg)群とプラセボ群に1:1に割り付けて比較評価した第3相試験である。根治切除後120日以内で画像再発がない、病理学的に尿路上皮がんが確認された患者を対象とした。ニボルマブ、プラセボともに2週間ごとに最長1年間投与された。主要評価項目は、全無作為化患者(ITT)およびPD-L1発現レベル1%以上の患者における無病生存期間(DFS)、副次評価項目は尿路外無再発生存期間(NUTRFS)、疾患特異的生存期間(DSS)、全生存期間(OS)であった。探索的評価項目は、無遠隔転移生存期間(MFS)、安全性、健康関連の生活の質(QOL)などであった。その結果、ITT解析による主要評価項目DFSは、ニボルマブ群において20.8カ月と、プラセボ群10.8カ月に比べ有意に延長していた(ハザード比[HR],0.70;P<0.001)。PD-L1発現レベル1%以上の集団における6カ月時点の無病生存率もニボルマブ群74.5%、プラセボ群55.7%とニボルマブ群で有意に改善していた(HR,0.55;P<0.001)。NUTRFS、DSS、OS、MFSについても、ITT、PD-L1発現レベル1%以上の集団のどちらでもニボルマブ群で延長が認められた。グレード3以上の治療関連有害事象はニボルマブ群で17.9%、プラセボ群で7.2%に認められた。治療関連有害事象による投薬中止はニボルマブ群12.8%、プラセボ群2.0%であった。ITT、PD-L1発現レベル1%以上の集団ともに、ニボルマブ群ではプラセボ群に比べ健康関連QOLの悪化は認められなかった。本試験の結果から高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの術後補助療法として、ニボルマブがプラセボよりも有意にDFSを延長できることが明らかとなった。局所進行腎盂尿管がん患者に対するプラチナ製剤の術後補助療法によるDFS延長は示されているが、コンセンサスはない。ニボルマブは、高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの術後補助療法として2021年8月に米食品医薬品局(FDA)が承認し、日本でも21年3月に適応拡大が申請された。手術療法+ニボルマブ術後補助療法が高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの標準治療になる日は近い。