ライブラリー 肺塞栓症の救急外来患者に対する安全な外来管理の増加。プラグマティックな対照試験。
Increasing Safe Outpatient Management of Emergency Department Patients With Pulmonary Embolism: A Controlled Pragmatic Trial
Ann Intern Med 2018 Dec 18 ;169 (12):855 -865 .
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【背景】救急部(ED)で急性肺塞栓症(PE)を発症した低リスク患者の多くは、外来診療が可能であるにもかかわらず、入院している。在宅退院の阻害要因の一つは、どの患者が安全に入院を見送ることができるかを特定することの難しさである。
【目的】急性肺塞栓症患者のケア現場でのリスク層別化と意思決定を促進する統合電子臨床判断支援システム(CDSS)の効果を評価する。
【デザイン】対照的プラグマティック試験である。(ClinicalTrials. gov: NCT03601676)。
【設定】統合医療提供システム(Kaiser Permanente Northern California)の地域ED全21施設。
【患者】急性PEを有する成人ED患者。【Intervention】便宜上選択した10施設の介入施設で、16か月の試験期間の9か月目(2014年1月から2015年4月)に多角的な技術・教育介入を行い、残りの11施設を同時対照として使用。
【測定法】主要アウトカムとしてEDまたはEDに基づく短期(24時間未満)外来観察ユニットからの自宅退院を挙げた。有害事象は、5日以内のPE関連症状による再診、30日以内の静脈血栓塞栓症の再発、大出血、全死因死亡であった。
【結果】介入施設でPEと診断された適格患者881名と対照施設822名において、介入施設では調整後の自宅退院が増加したが(介入前17.4%、介入後28.0%)、対照施設では同時に増加せず(介入前15.1%、介入後14.5%)、差分法にて比較した。差分比較では11.3%ポイント(95%CI、3.0~19.5%ポイント、P = 0.007)であった。CDSSの導入に伴うPEに関連した5日間の再診や30日間の主要な有害転帰の増加は認められなかった。
【結論】急性PEを有するED患者に対する医療現場の意思決定を医師が支援するCDSSの導入と構造的な推進により、外来管理が安全に増加した。
【Primary funding source】Garfield Memorial National Research FundとThe Permanente Medical Group Delivery Science and Physician Researcher Programsを基に作成。
第一人者の医師による解説
妥当な結論 ガイドラインの内容に保証を与える有意義な研究
佐藤 徹 杏林大学病院循環器内科教授
MMJ.June 2019;15(3)
本論文は、世界中のガイドラインで使用されている急性肺塞栓症の重症度指標(Pulmonary Embolism Severity Index;PESI)スコアが 低値で在宅治療の除外項目に該当しない患者を入院させずに在宅治療とするデジタル判定戦略(integrated electronic clinical decision support system;CDSS)の妥当性と安全性を検討したeSPEED試験の報告である。米国の21の 一般病院で前向きに、CDSSを使う病院と使わない病院、使う前と後で比較しており、結論はCDSSを使用した方が在宅治療の割合が高く、安全性は変わらなかった、というものである。
PESIは10の臨床的特徴とバイタルサインからなり、その合計得点によりⅠ~Ⅴに重症度が分類され、ⅠとIIで在宅治療が推奨される。介入前8カ 月の 観察期間の後、16カ 月 のCDSSによる 技術的・教育的介入期間があり、介入後8カ月の観察期間が設けられている。11病院がCDSSを使用し、10病院が使用していない。使用した病院はCDSS を病院内で推進できる指導者がいる病院としており、無作為に決められたものではない。使用した病院の患者の方が結果的にやや軽症であった。介入群881人、対照群822人の患者が対象となり、 在宅治療を受けた割合は前者で17.4%、後者が 15.1%であったが、前者の在宅治療達成率は介入 期間後に28%へと有意に上昇した。5日以内の再入院が介入群で介入前9人、介入後8人、対照群でそれぞれ6人と3人で、1カ月以内の有害事象も両群とも1人とわずかであった。
CDSSを使うかどうかは担当医師がこのアルゴリズムにアクセスするかどうかで決まり、実際3 分の2の患者で使用されていた。判定は「在宅/入院を推奨する」という形で提示され、最終決定は主治医が行うようになっている。このシステムの教育と使用率向上のために複数の手段が講じられおり、多施設研究ながら細かいところまで方法の均一性が図られている。
筆者の評価は、結果については先行研究(1)のとおりでPESIが低値で除外項目を考慮すれば在宅治療で構わないという結論は妥当であり、ガイドラインの内容に保証を与える有意義な研究と考える。 それにしても、治療法の有効性に関する前向き試験の施行能力は欧米とますます差がついていると感じ、新しい治療法の試験施設として日本が一層避けられる現状をみると寂しくなる。欧米への追従がすべて正しいとは言えないが、新しい治療法の エビデンス作りは日本でも必要なものと私は思う。
1. Vinson DR, et al. Appl Clin Inform. 2015;6(2):318-333.