「脳卒中」の記事一覧

虚血性脳卒中患者の心房細動検出に用いる植込み型ループレコーダーと体外式ループレコーダーの比較:PER DIEM無作為化臨床試験
虚血性脳卒中患者の心房細動検出に用いる植込み型ループレコーダーと体外式ループレコーダーの比較:PER DIEM無作為化臨床試験
Effect of Implantable vs Prolonged External Electrocardiographic Monitoring on Atrial Fibrillation Detection in Patients With Ischemic Stroke: The PER DIEM Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jun 1;325(21):2160-2168. doi: 10.1001/jama.2021.6128. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】体外式ループレコーダーまたは植込み型ループレコーダーを用いた心電図モニタリングによる虚血性脳卒中後の心房細動(AF)または心房粗動の相対検出率は明らかになっていない。【目的】虚血性脳卒中を発症して間もない患者で、植込み型ループレコーダーを用いた12カ月間のモニタリングが従来の体外式ループレコーダーを用いた30日間のモニタリングよりもAF発生を多く検出できるかを明らかにすること。【デザイン、設定および参加者】カナダ・アルバータ州の大学病院2施設および市中病院1施設で、2015年5月から2017年11月にかけて虚血性脳卒中発症6カ月以内でAFの既往歴がない患者300例を登録し、医師主導型非盲検無作為化臨床試験を実施した。最終追跡が2018年10月であった。【介入】参加者を植込み型ループレコーダー(150例)と体外式ループレコーダー(150例)による持続的心電図モニタリングに1対1の割合で無作為化により割り付けた。参加者は、経過観察のため30日後、6カ月後および12カ月後に受診した。【主要評価項目】主要評価項目は、AF確定(definite AF)またはほぼ確実なAF(highly probable AF)(無作為化後12カ月以内に2分以上持続する新たなAFの判定)とした。新規AFのtime to event解析、虚血性脳卒中の再発、頭蓋内出血、死亡および12カ月以内に発生した機器関連の重篤な有害事象などの8項目を事前に定めた副次評価項目とした。【結果】無作為化により割り付けた300例(年齢中央値64.1歳[四分位範囲、56.1~73.7];女性121例[40.3%];CHA2DS2-VASc[うっ血性心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病、脳卒中または一過性虚血発作、血管疾患、65~74歳、性別]スコア中央値4点[四分位範囲、3~5]の原因不明の脳卒中66.3%)のうち273例(91.0%)が24時間以上の心臓モニタリングを完了し、259例(86.3%)が割り付けたモニタリングおよび12カ月間の経過観察を完遂した。主要評価項目は、植込み型ループレコーダー群の15.3%(150例中23例)、体外式ループレコーダー群の4.7%(150例中7例)に発現した(群間差、10.7%[95%CI、4.0~17.3%];リスク比、3.29[95%CI、1.45~7.42];P=0.003)。8項目の副次評価項目のうち、6項目に有意差が認められなかった。植込み型ループレコーダー群の5例(3.3%)に虚血性脳卒中が再発したのに対して、体外式ループレコーダー群では8例(5.3%)に再発を認めた(群間差、-2.0%[95%CI、-6.6~2.6%])。各群1例(0.7%)に頭蓋内出血が発生し(群間差、0%[95%CI、-1.8~1.8%])、各群3例(2.0%)が死亡し(群間差、0%[95%CI、-3.2~3.2%])、それぞれ1例(0.7%)と0例(0%)に機器関連の重篤な有害事象が発現した。【結論および意義】AFの既往歴がない虚血性脳卒中患者で、植込み型ループレコーダーによる12カ月間の心電図モニタリングのAF検出率が、30日間の体外式ループレコーダーによるモニタリングよりも有意に高かった。このモニタリング法による臨床成績および相対的な費用効果を比較する詳細な研究が必要である。 第一人者の医師による解説 社会的経済的状態と疾病の発症について 生活習慣との相互作用を含めた研究が必要 門脇 孝 虎の門病院院長 MMJ. December 2021;17(6):188 心原性脳塞栓症は最重症のノックアウト型脳梗塞をきたす。原因の大部分は高齢化で増加が予想される心房細動(AF)だが、幸い抗凝固療法によりリスクを約3分の1に低減することができる。したがって、AF診断の強化が要介護削減、健康寿命延伸のカギを握る。虚血性脳卒中(IS)は心原性に限らずAF有病率が高い。再発予防の観点からAF診断が重要だが、ホルター心電図などでは検出困難な発作性AFが多数潜在している。このような潜在性AFの検出には植込み型ループレコーダー(ILR)が極めて有用だが、その保険適用は発症原因が特定できない潜因性脳梗塞(CS)に限られる。本研究は、既知のAFがない発症半年以内のISを対象とし、4週間可能な限り体外式ループレコーダー(ELR)を装着する群と、ILRで1年間監視する群とに無作為に割り付け、2分間以上持続するAFの検出率を比較検討したものである(各群150人)。その結果、AF検出率はELR群の4.7%に対し、ILR群では15.3%と10.7%高く、リスク比は3.29であった(P=0.003)。ILRはELRより有意にAF検出率を高められるという結果が示されたことから、ILRの適応をすべてのISに拡大すべきかどうかが議論となるが、本研究の対象患者は66%がCSである上に、病型別の検出率も示されていないため、CS以外のISでの有用性は明らかでない。長時間の心電図モニタで病型別のAF検出率を検討した報告はほとんどない。参考までに、当院では入院時心電図でAFが認められないすべてのISに対し、原則1週間デュランタR(ZAIKEN)による非侵襲的心電図モニタを行っており、Stroke2021で筆者が当院の臨床データを発表した時点で7日目まで監視しえた患者は1,066人に達する(1)。病型別のAF検出率は、TIA0%、ラクナ梗塞3.9%、アテローム血栓性脳梗塞5.4%、CS10.5%であり、CS以外の病型におけるAF検出率はCSのおよそ半分以下となっている。したがって、CS以外のISではILRによるAF検出率の上乗せ効果はさほど大きくなく、侵襲的で高額なILRの適応をすべてのISに拡大するほどのメリットは得られないと予想される。潜在性AFの検出は「Thelonger,thebetter」であり、検出力の観点からはILRが最も優れるものの検査数は限られる。重要なのは検出数を増やすことであり、まずは広く実施可能で、検出力も比較的高い非侵襲的長時間心電図モニタによるAF監視の強化を優先すべきであろう。 1. 第 46 回日本脳卒中学会学術集会:虚血性脳卒中急性期の非侵襲的長時間心電図モニタによる悉皆的心房細動スクリーニングの有用性(抄録番号:卒中 O-061-2)
発症時刻不明の脳梗塞に対して高度画像診断を基に実施するアルテプラーゼ静注 個別被験者データの系統的レビューとメタ解析
発症時刻不明の脳梗塞に対して高度画像診断を基に実施するアルテプラーゼ静注 個別被験者データの系統的レビューとメタ解析
Intravenous alteplase for stroke with unknown time of onset guided by advanced imaging: systematic review and meta-analysis of individual patient data Lancet. 2020 Nov 14;396(10262):1574-1584. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32163-2. Epub 2020 Nov 8. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】発症時刻不明の脳梗塞は、血栓溶解療法の対象から除外されている。今回、このような患者で、画像バイオマーカーから救済可能な組織が特定できた場合に用いるアルテプラーゼ静注が安全かつ有効であるかを明らかにすることを目的とした。 【方法】2020年9月21日以前に公表された試験の個別被験者データの系統的レビューとメタ解析を実施した。灌流・拡散MRI、灌流CTまたはDWI-FLAIR1 MRIでミスマッチ所見が認められた発症時刻不明の成人脳梗塞患者を対象に、アルテプラーゼ静注を標準治療またはプラセボと比較した無作為化試験を適格とした。主要評価項目は、90日時の機能的転帰良好(修正ランキン尺度[mRS]0~1点、後遺症がなしを示す)とし、調整した無条件混合効果ロジスティック回帰モデルを用いて治療効果を推定した。90日時のmRS改善と患者個別の転帰(mRS 0~2点)を副次評価項目とした。安全性評価項目を死亡、重度の後遺症または死亡(mRS 4~6点)、症候性頭蓋内出血とした。本試験は、PROSPEROに登録されている(CRD42020166903)。 【結果】特定した抄録249報のうち、WAKE-UP、EXTEND、THAWS、ECASS-4の4試験が適格基準を満たした。4試験から843例分の個別被験者データが得られ、そのうち429例(51%)がアルテプラーゼ、414例(49%)がプラセボまたは標準治療に割り付けられていた。アルテプラーゼ群420例中199例(47%)、対照群409例中160例(39%)の転帰が良好であり(調整後オッズ比[OR]1.49[95%CI 1.10~2.03]、P=0.011)、4試験の異質性は低かった(I^2=27%)。アルテプラーゼに機能的転帰の有意な改善(調整後共通OR 1.38[95%CI 1.05~1.80]、P=0.019)および患者個別転帰の高オッズ(調整後OR 1.50[同1.06~2.12]、P=0.022)との関連が認められた。アルテプラーゼ群では90例(21%)に重度の後遺症または死亡(mRS 4~6点)が発生したのに対して、対照群では102例(25%)であった(調整後OR 0.76[同0.52~1.11]、P=0.15)。アルテプラーゼ群の27例(6%)、対照群の14例(3%)が死亡した(調整後OR 2.06[同1.03~4.09]、P=0.040)。症候性頭蓋内出血発生率は、アルテプラーゼ群の方が対照群よりも高かった(11例[3%] vs. 2例[1%未満]、調整後OR 5.58[同1.22~25.50]、P=0.024)。 【解釈】DWI-FLAIR画像または灌流画像でミスマッチが認められた発症時刻不明の脳梗塞で、アルテプラーゼ静注によって、プラセボまたは標準治療と比べて90日時の良好な機能的転帰が得られた。症候性頭蓋内出血リスクが上昇したが、全機能的転帰で純便益が認められた。アルテプラーゼ群の方がプラセボ群よりも死亡が多かったが、重度の後遺症または死亡が少なかった。 第一人者の医師による解説 DWI-FLAIRミスマッチまたはCT/MRI灌流画像は アルテプラーゼ静注療法の適応判断に有用 秋山 武紀 慶應義塾大学医学部脳神経外科専任講師 MMJ. June 2021;17(3):77 アルテプラーゼ静注療法は、発症4.5時間以内の脳梗塞に対する重要な治療の1つとして普及している。しかし、起床時に症状を有することが確認されたものの正確な発症時刻を同定できない、いわゆるwake-up strokeも散見され、発症時刻不明であっても有効かつ安全な治療法が求められている。 本論文では、発症時刻不明または発症後4〜5時間を経過した脳梗塞に対し、画像診断により適応を判断しアルテプラーゼ静注療法を行った群とプラセボ群を比較した無作為化対照試験を系統的にレビューし、基準を満たした4試験(WAKEUP、EXTEND、THAWS、ECASS-4)から抽出した843人の個人データを用いてメタ解析を行った。患者背景は平均年齢68.5歳、女性38%、NIHSS中央値7点、治療判断のための画像診断は① DWIFLAIRミスマッチ(MRI拡散強調画像[DWI]で高信号域の領域はあるが、FLAIR画像で信号変化を認めない場合)または②灌流画像(MRI潅流画像またはCT灌流画像でのペナンブラ領域[灌流の低下はあるが、不可逆的な脳虚血に陥っていないと判断される領域]がある場合)が使用された。 結果は、90日後の予後良好(mRS 0-1)はアルテプラーゼ群47%、対照群39%と有意にアルテプラーゼ群で高かった(オッズ比,1.49)。有害事象では、症候性頭蓋内出血の発生率がアルテプラーゼ群3%と対照群1%未満に比べ有意に高かった。死亡率はアルテプラーゼ群の方が有意に高く(6%対3%)、アルテプラーゼ群の死亡の26%は症候性頭蓋内出血に起因した。しかし非自立・死亡であるmRS 3-6はアルテプラーゼ群の方が対照群よりも有意に少なく(35%対42%)、結論として、画像診断をガイドにアルテプラーゼ静注療法の適否を判断する方法の有効性が認められた。 本研究により発症時刻不明の脳梗塞に対し、より先進的な画像診断を追加することでアルテプラーゼ静注療法の適応を判断できることが明らかとなり、適応の範囲が広がった。脳卒中治療ガイドライン 2015(追補2019)では発症時刻不明の脳梗塞に対し、「頭部MRI拡散強調画像の虚血性変化がFLAIR画像で明瞭でない場合、アルテプラーゼ静注療法を行うことを考慮してもよい(グレードC1)」となっているが、近日改訂されるガイドラインでは灌流画像に関する追加記載、エビデンスレベルの変更が予想される。単純CT所見と発症時刻から治療適応を判断していた時代から、MRIやCTの灌流画像も求められる時代に突入したといえる。脳卒中診療体制の整備が進められる中、適切な治療を行うために、的確な画像診断を迅速に行える施設への転院搬送システムもより一層重要となることが予想される。 略号: NIHSS=National Institutes of Health Stroke Scale、DWI-FLAIR=diffusion weighted imaging-fluid attenuated inversion recovery、modified Rankin Scale=mRS.
急性虚血性脳卒中に用いる機械的血栓除去術単独と機械的血栓除去術+静脈内血栓溶解療法併用による機能的転帰に対する効果の比較 SKIP無作為化臨床試験
急性虚血性脳卒中に用いる機械的血栓除去術単独と機械的血栓除去術+静脈内血栓溶解療法併用による機能的転帰に対する効果の比較 SKIP無作為化臨床試験
Effect of Mechanical Thrombectomy Without vs With Intravenous Thrombolysis on Functional Outcome Among Patients With Acute Ischemic Stroke: The SKIP Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jan 19;325(3):244-253. doi: 10.1001/jama.2020.23522. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】急性大血管閉塞性脳卒中で、機械的血栓除去術に静脈内血栓溶解療法を併用する必要があるかどうか明らかになっていない。 【目的】機械的血栓除去術単独が、脳梗塞後の良好な転帰で静脈内血栓溶解療法+機械的血栓除去術に対して非劣性を示すかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】2017年1月1日から2019年7月31日の間に日本の23の病院ネットワークで組み入れた大血管閉塞に伴う急性期脳梗塞患者204例を対象とした医師主導型多施設共同無作為化非盲検非劣性臨床試験であり、最終経過観察日は2019年10月31日であった。 【介入】患者を機械的血栓除去術単独群(101例)と静脈内血栓溶解療法(アルテプラーゼ0.6mg/kg)+機械的血栓除去術併用群(103例)に無作為に割り付けた。 【主要評価項目】有効性の主要評価項目は、90日時の修正ランキン尺度スコア0~2点(0点[無症状]~6点[死亡])と定義した転帰良好とし、非劣性マージンオッズ比0.74、片側有意閾値0.025(97.5%CI)で評価した。副次評価項目に90日死亡率などの7項目を規定した。あらゆる脳出血、36時間以内の症候性脳出血などの4項目を安全性の評価項目とした。 【結果】204例(年齢中央値74歳、男性62.7%、National Institutes of Health Stroke Scaleスコア中央値18点)のうち全例が試験を完遂した。機械的血栓除去術単独群の60例(59.4%)、静脈内血栓溶解療法+機械的血栓除去術併用群の59例(57.3%)の転帰が良好であり、群間で有意差はなかった(差2.1%[片側の97.5%CI -11.4%~∞]、オッズ比1.09[同0.63~∞]、非劣性のP=0.18)。7項目の有効性評価項目と4項目の安全性評価項目のうち、90日死亡率(8例[7.9%] vs. 9[8.7%]、差-0.8%[95%CI -9.5%~7.8%]、オッズ比0.90[同0.33~2.43]、P>0.99)などの10項目に有意差がなかった。機械的血栓除去術単独群の方が併用群よりもあらゆる脳内出血の発症率が低かった(34例[33.7%] vs. 52例[50.5%]、差-16.8%[同-32.1%~1.6%]、オッズ比0.50[同0.28~0.88]、P=0.02)。両群間で症候性脳内出血の頻度に有意差はなかった(6例[5.9%] vs. 8[7.7%]、差-1.8%[同-9.7%~6.1%]、オッズ比0.75[同0.25~2.24]、P=0.78)。 【結論および意義】急性大血管閉塞に伴う脳梗塞に用いる機械的血栓除去術単独は、機能的転帰に関して、静脈内血栓溶解療法と機械的血栓除去術の併用に対する非劣性が示されなかった。しかし、効果推定の信頼区間が広かったため、劣性であるとの結論を示すこともできなかった。 第一人者の医師による解説 機械的血栓回収療法の施行前の t-PA投与が不要になる可能性を示唆 木村 和美 日本医科大学大学院医学研究科神経内科分野大学院教授 MMJ. June 2021;17(3):78 ガイドラインには、「機械的血栓回収療法を行うときは、t-PA静注療法の適応例に対してはt-PA静注療法を優先すること(グレード A)」と記載されている。t-PA静注療法は、脳主幹動脈閉塞の早期再開通率が高くない上に、薬剤による出血合併症のリスクがあり、また、治療に要する時間、複数の医療スタッフの必要性など、コスト・ベネフィットが高くない。以上の理由から、この数年来「機械的血栓回収療法の施行前に、t-PA投与が必要か否か」が急性期脳梗塞の治療上解決すべき大きな命題であった。 本論文で報告されたSKIP研究の目的は、脳主幹動脈閉塞を伴う急性期脳梗塞患者を対象としたラ ンダム化比較試験(RCT)により機械的血栓回収療法単独と併用療法(機械的血栓回収療法+t-PA静注療法)の間で患者転帰良好に差があるか否かを明らかにすることである。目標症例数は、過去の文献より算出し200人が適切と判断した。適格基準は(1)年齢18〜85歳(2)急性期脳梗塞(3)発症前mRS(Rankin Scale)スコア2以下(4)閉塞血管は内頸動脈と中大脳動脈(5)初診時NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)は6以上(6)ベースラインASPECTS(Alberta Stroke Program Early CT Score)6以上(7)発症から4時間以内に穿刺が見込まれる患者である。主要評価項目は発症後90日の転帰良好(m RS 0〜2)の割合とし、機械的血栓回収療法単独が併用療法に対して非劣性であるか否かを検証した(非劣性マージンのオッズ比0.74)。有害事象評価項目は、発症後36時間の頭蓋内出血の割合とした。 結果は、患者204人の登録があり、機械的血栓回収療法単独群が101人、併用群が103人であった。患者背景は2群間で差はなく、均等に割り付けされていた。主要評価項目の発症後90日のm RS 0〜2の割合は、単独群59.4%と併用群57.3%であり、補正なしのロジスティック回帰モデルにおけるオッズ比は1.09(97.5%CI,0.63〜∞;P=0.17)で、機械的血栓回収療法単独群の方が転帰良好例は多いが、非劣性は証明できなかった。発症後36時間の頭蓋内出血の割合は、単独群が34人(33.7%)、併用群が50人(50.5%)と、併用群の方が有意に多かった(P=0.02)。以上より、脳主幹動脈閉塞例には、t-PA投与なしに可及的速やかに機械的血栓回収療法を行う方が、患者の転帰が良好になる可能性が示されたが、非劣性は証明できなかった。中国から同様な研究が2件(DIRECT-MT(1)、DEVT(2))報告されており、非劣性を証明している。そのほか、世界では3件のRCTがon goingであり、結果が楽しみである。SKIP研究は、機械的血栓回収療法の施行前に、t-PA投与が不要になる可能性を示唆した研究で、今後、脳梗塞急性期治療にパラダイムシフトが起こるかもしれない。 1. Yang P, et al. N Engl J Med. 2020;382(21):1981-1993. 2. Zi W,et al.JAMA.2021;325(3):234-243.
一過性脳虚血発作の発症と長期的な脳卒中リスクとの関連
一過性脳虚血発作の発症と長期的な脳卒中リスクとの関連
Incidence of Transient Ischemic Attack and Association With Long-term Risk of Stroke JAMA. 2021 Jan 26;325(4):373-381. doi: 10.1001/jama.2020.25071. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】一過性脳虚血発作(TIA)とその後の脳卒中リスクの関連を正確に推定することによって、TIAを発症した患者の予防策を向上させ、脳卒中の負担を抑制させることができる。 【目的】集団のTIA発症率、TIA後の脳卒中リスクの時期と長期的傾向を明らかにすること。 【デザイン、設定、参加者】ベースラインでTIA、脳卒中の既往のない参加者1万4059例から後ろ向きに収集したデータの後ろ向きコホート研究(Framingham Heart Study)。1948年から2017年12月31日まで追跡した。TIA未発症例の標本とTIA初発例を年齢と性別で(5対1の比率で)マッチさせた。 【曝露】時間(TIA発症率の算出、時間傾向分析)、TIA(マッチさせた縦断コホート)。 【主要評価項目】主要評価項目は、TIA発症率、短期(7日、30日、90日)と長期(1~10年)で比較したTIA後の脳卒中発症率、マッチさせたTIA未発症対照例と比較したTIA後の脳卒中、3分類の期間(1954~1985年、1986~1999年、2000~2017年)別に評価したTIA後90日時脳卒中リスクの経時的な傾向。 【結果】追跡調査期間66年の参加者1万4059例(36万6209人・年)のうち435例がTIAを発症し(女性;229例、平均年齢73.47[SD 11.48]歳、男性;206例、平均年齢70.10[SD 10.64]歳)、TIA未発症の対照例2175例とマッチさせた。TIAの推定発症率は1000人・年当たり1.19であった。TIA後の追跡調査期間中央値8.86年の間に、130例(29.5%)が脳卒中を発症した。そのうち28例(21.5%)が初回TIA発症後7日以内、40例(30.8%)が30日以内、51例(39.2%)が90日以内、63例(48.5%)が1年以上経過後に脳卒中を発症した。脳卒中発症までの期間中央値は1.64年(四分位範囲0.07~6.6年)であった。年齢と性別で調整した脳卒中発症の10年累積ハザードは、TIA発症例(435例中130例が脳卒中発症)が0.46(95%CI 0.39-0.55)、マッチさせた対照のTIA未発症例(2175例中165例が脳卒中発症)が0.09(95%CI 0.08-0.11)であり、完全調整後ハザード比(HR)は4.37(95%CI 3.30-5.71、P<0.001)であった。1948~1985年(16.7%、TIA発症155例中26例が脳卒中発症)と比較したTIA後90日脳卒中リスクは、1986~1999年では11.1%(162例中18例が脳卒中発症)、2000~2017年では5.9%(118例中7例が脳卒中発症)であった。第1期(1948~1985年)と比較すると、90日間脳卒中リスクのHRは、第2期(1986~1999年)で0.60(95%CI 0.33-1.12)、第3期(2000~2017年)で0.32(95%CI 0.14-0.75)であった(傾向のP=0.005)。 【結論および意義】今回の1948~2017年を対象とした集団コホート研究で、推定粗TIA発症率は1.19/1000人・年であり、脳卒中リスクは、TIA発症後の方がマッチさせたTIA未発症の対照よりも有意に高かった。TIA発症後の脳卒中リスクは、最も近い2000~2017年の方がそれ以前の1948~1985年よりも有意に低かった。 第一人者の医師による解説 TIAは脳卒中の強い危険因子 長期間にわたる血管リスク管理を徹底すべき 犬塚 諒子/藥師寺 祐介(主任教授) 関西医科大学神経内科学講座 MMJ. August 2021;17(4):109 一過性脳虚血発作(TIA)は切迫(脳)卒中の主要な先駆症状である。近年の2次予防的介入の進歩は、TIA発症後の短期的のみならず、長期的な脳卒中発症リスクの低下をもたらしていると思われるが、既報はない。そのことを明らかにするために、本研究ではFramingham Heart Study(FHS)のデータを用い、後ろ向き検証がなされた。対象として、1948年から2017年までのFHS参加者のうち、登録時にTIAや脳卒中の既往のない14,059人が抽出された(発症率コホート)。その中で、TIAを発症した症例(TIA群)と、それらに年齢・性別をマッチさせた対照(非 TIA群)を、1:5の比で抽出した縦断的解析用の集団も用意された(調整済み縦断的コホート:それぞれn=435、n=2,175)。これら2種のコホートを用いて、① TIA発症率② TIA後の脳卒中発症率(時代的変遷も含む)が検証された。 TIAの推定発症率は1.19/1000人・年であった。また、TIA後の脳卒中発症率は中央値8.9年の追跡期間中で29.5%であり、発症までの期間中央値は1.64年であった。TIA群の脳卒中発症リスクは、非 TIA群に比べ4.4倍と有意に高かった。TIA後90日間での脳卒中発症率の時代別変遷は、1948~85年で16.7%、1986~99年で11.1%、2000~17年で5.9%であり、1948~85年と比較し、2000年以降で有意に低かった。 本研究で示された時代ごとのTIA後の脳卒中発症率の低下は、薬物療法や外科的介入(頸動脈内膜剥離術、頸動脈ステント留置術)などのエビデンス構築、および普及を反映しているものであろう。しかし、TIA後の脳卒中発症率は非 TIA群の約4倍といまだ高い結果は見逃せない。さらに、TIA後の脳卒中発症率に関しては、従来、比較的短期的なイベントとして警鐘を鳴らされてきた感が強いが、本研究結果をみると、脳卒中の発症は短期間内にプラトーに達するわけではなく、追跡期間全体にわたって増加し、かつ半数(49%)は初回 TIAから1年後以降に発症することが示されたことは特筆すべきであろう。本研究は、後ろ向き研究であることなどから、結果解釈に制限はあるものの、TIAに限った均一な集団での、これまでにない長期間の追跡研究結果としての価値がある。事実、近年における5年を超える追跡期間を有した代表的研究であるTIAregistry.org projectはTIAに加え、軽症虚血性脳卒中も含んでいた側面を持つ(1)。本研究は、TIAは完成型脳卒中の強い危険因子であり、長期間にわたる血管リスク管理を徹底すべき疾患であることを示唆している。すなわち、TIA患者を診た場合は、「脳卒中になる一歩手前の崖っぷちにいる患者」と認識し、長期間にわたる生活習慣改善や内服調整を要することを説明しなければならない。 1. Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2018;378(23):2182-2190.
一過性脳虚血性発作後の脳卒中リスクを評価するカナダTIAスコアの前向き検証とABCD2およびABCD2iとの比較 多施設共同前向きコホート研究
一過性脳虚血性発作後の脳卒中リスクを評価するカナダTIAスコアの前向き検証とABCD2およびABCD2iとの比較 多施設共同前向きコホート研究
Prospective validation of Canadian TIA Score and comparison with ABCD2 and ABCD2i for subsequent stroke risk after transient ischaemic attack: multicentre prospective cohort study BMJ. 2021 Feb 4;372:n49. doi: 10.1136/bmj.n49. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】前回作成したカナダTIAスコアを検証し、救急科を受診した一過性脳虚血性発作患者の新たなコホートでその後の脳卒中リスクを層別化すること。 【デザイン】前向きコホート研究。 【設定】5年以上追跡したカナダの13の救急科。 【参加者】一過性脳虚血発作または軽微な脳梗塞で救急科を受診した連続成人患者7607例。 【主要評価項目】主要評価項目は、7日以内の脳梗塞または頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術の施行とした。副次評価項目は、7日以内の(頸動脈内膜剥離術および頸動脈ステント留置術の有無別の)脳梗塞とした。7日後および90日後の電話による追跡調査でQuestionnaire for Verifying Stroke Free Status(脳卒中症状の有無を検証する質問票)を用いた。初回の救急科受診を知らせずにおいた3人の脳卒中専門医が全評価項目を判定した。 【結果】7607例のうち108例(1.4%)が7日以内に脳梗塞を発症し、83例(1.1%)に7日以内に頚動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術を施行し、そのうち9例には頸動脈内膜剥離術と頸動脈ステント留置術いずれも施行した。カナダTIAスコアは7日以内の脳梗塞、頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術のリスクを低リスク(0.5%以下、区間尤度比0.20、95%CI 0.09~0.44)、中リスク(リスク2.3%、区間尤度比0.94、0.85~104)、高リスク(リスク5.9%、区間尤度比2.56、2.02~3.25)に層別化し、ABCD2(0.60、0.55~0.64)やABCD2i(0.64、0.59~0.68)よりも正確であった(AUC 0.70、95%CI 0.66~0.73)。7日以内の頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術に関係なく、その後の脳梗塞リスクの結果がほぼ同じであった。 【結論】カナダTIAスコアは、患者の7日以内の脳梗塞リスクを頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術に関係なく層別化し、今や臨床現場での使用の準備が整ったと言える。この検証した推定リスクを管理計画に組み込めば、初回救急外来受診時の入院や調査の時期、専門医への紹介の優先順位付けに関する早期意思決定が改善するであろう。 第一人者の医師による解説 項目多くやや煩雑だが 実臨床への適応はさほど困難ではない 上坂 義和 虎の門病院脳神経内科部長・脳卒中センター長 MMJ. August 2021;17(4):110 一過性脳虚血発作(TIA)は完成型脳梗塞の危険信号として重要である。内科的治療の進歩により以前は4~10%といわれていたTIA後7日以内の脳梗塞発症リスクは現在低下している(1)。TIAで救急外来を受診する患者全員に包括的な検査や入院加療を行うことは、各国の事情にもよるが医療システム上困難なこともある。ABCD2スコアはTIA患者に対する最もよく知られたトリアージツールであるが、前向き検証の結果では低リスクと高リスクの識別能が低いことが指摘されている(2)。 本論文の著者らは、9項目の臨床情報の有無(初回か否か2点、持続時間10分以上2点、頸動脈狭窄の既往2点、抗血小板薬治療3点、歩行障害1点、片側の筋力低下1点、回転性めまい-3点、拡張期血圧110 mmHg以上3点、構語障害ないし失語1点)と4項目の検査所見の有無(心電図での心房細動2点、CT上の脳梗塞[新旧問わない]1点血小板数40万 /μ L以上2点、血糖270 mg/dL以上3点)からなるCanadian TIAスコア(-3~23点)を報告した(3)。 本研究は2012年10月31日~17年5月30日にカナダの13の救急施設に来院した18歳以上 のTIAや軽症の脳梗塞患者7,607人を対象とした前向き研究である。Canadian TIAスコアとABCD2スコアおよび画像情報を加えたABCD2iスコアを算出し、TIA発症後7日以内の脳梗塞および頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術などの血行再建を合わせたものを主要評価項目、TIA発症後7日以内の脳梗塞のみを副次評価項目に設定した。主要評価項目の発生率が1%未満の場合を低リスク、1~5%の場合を中リスク、5%超を高リスクとした。Canadian TIAスコアは低リスク(-3~3点)が全体の16.3%を占め、中リスク(4~8点)は全体の72.1%、高リスク(9点以上)は11.6%を占めた。ABCD2スコア、ABCD2iスコアではいずれも低リスクに分類された患者は皆無であり、3~7%が高リスクで大半が中リスクに分類された。 Canadian TIAスコア自体に頸動脈狭窄に関する項目が含まれており、血行再建に関する層別化能がよいのは当然と考えられるが、脳梗塞だけに限定した副次評価項目においてもCanadian TIAスコアによるリスク層別化能は優れていた。ABCD2スコアに比べ項目が多くやや煩雑ではあるが、救急診療で通常確認している項目からなっており実臨床への適応もさほど困難ではないだろう。 1. Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2016;374(16):1533-1542. 2. Perry JJ, et al. CMAJ. 2011;183(10):1137-1145. 3. Perry JJ, et al. Stroke. 2014;45(1):92-100.
虚血性脳卒中後の上肢機能障害に用いるリハビリと迷走神経刺激(VNS-REHAB):無作為化盲検ピボタルデバイス試験
虚血性脳卒中後の上肢機能障害に用いるリハビリと迷走神経刺激(VNS-REHAB):無作為化盲検ピボタルデバイス試験
Vagus nerve stimulation paired with rehabilitation for upper limb motor function after ischaemic stroke (VNS-REHAB): a randomised, blinded, pivotal, device trial Lancet. 2021 Apr 24;397(10284):1545-1553. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00475-X. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】虚血性脳卒中後に長期的な上肢機能障害がよく起こるが、リハビリテーションと迷走神経刺激の組み合わせによって改善すると思われる。著者らは、この方法が脳卒中後の上肢障害改善に安全で有効な治療であることを明らかにすることを目的とした。 【方法】英国および米国の脳卒中リハビリテーション施設19箇所で実施されたこのピボタル無作為化三十盲検シャム対象試験は、虚血性脳卒中から9カ月以上経過し、中等度ないし重度の上肢機能障害が残る患者をリハビリテーション+迷走神経刺激(VNS群)とリハビリテーション+シャム刺激(対照群)に(1対1の割合で)割り付けた。ResearchPoint Global社(米テキサス州オースティン)がSAS PROC PLAN(米SAS Institute Software社)を用いて無作為化を実施し、地域(米国 vs 英国)、年齢(30歳以下 vs 30歳超)、治療開始前のFugl-Meyer Assessment-Upper Extremity(FMA-UE)スコア(20~35点 vs 36~50点)で層別化した。参加者、評価者および治療実施者に割り付けを伏せた。全参加者に迷走神経刺激装置を留置した。VNS群は、0.8mA、100μs、30Hzの刺激を0.5秒間受けた。対照群は、0mAの刺激を受けた。参加者は、6週間にわたり施設内で治療を受けた後(1週間に3回、計18回)、自宅で運動プログラムを継続した。主要評価項目は、施設内での治療完了初日の障害の変化とし、FMA-UEスコアで測定した。施設内治療完了から90日後にもFMA-UEの奏効率を評価した(副次評価項目)。全解析はintention-to-treatで実施した。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT03131960として登録されている。 【結果】2017年10月2日から2019年9月12日までの間に、108例を無作為化により割り付けた(VNS群53例、対照群55例)。106例が試験を完遂した(各群1例が脱落)。施設内治療完了初日、平均FMA-UEスコアはVNS群では5.0点(SD 4.4)、対照群では2.4点(3.8)上昇した(群間差2.6点、95%CI 1.0~4.2、P=0.0014)。施設内での治療から90日後、VNS群53例中23例(47%)、対照群55例中13例(24%)がFDA-UEスコアの臨床的に意義のある効果を達成した(群間差24%、6~41、P=0.0098)。対照群に手術関連の重篤な有害事象が1件発生した(声帯麻痺)。 【解釈】リハビリテーションと組み合わせた迷走神経刺激は、虚血性脳卒中後の中等度ないし重度上肢機能障害の新たな治療選択肢となる可能性がある。 第一人者の医師による解説 対象患者の障害程度の見極めと 治療の侵襲性と介入時期等についての議論が必要 赤倉 奈穂実/早乙女 貴子(医長) 東京都立神経病院リハビリテーション科/髙橋 一司 東京都立神経病院院長 MMJ. October 2021;17(5):141 虚血性脳卒中後に多くの患者で上肢機能障害が残存することは知られているが、これまでに上肢機能障害に対する効果が報告された治療法はわずかである。 脳卒中後の脳神経細胞には可塑性があることが指摘されている。迷走神経刺激(VNS)は皮質全体でアセチルコリンやノルエピネフリンなどの可塑性を促進する神経調節物質の放出を引き起こす。VNSを運動と同期的に行うことでシナプス再編成と残存神経の動員を促し、上肢の運動機能を回復させることが、動物実験で示されている(1),(2)。 本論文は、脳卒中後遺症のある患者を対象にVNS治療を英国と米国の19の脳卒中リハビリテーション施設で実施した無作為化三重盲検比較試験の報告である。年齢22~80歳、発症後9カ月~10年、中等度~重度(Fugl-Meyer Assessment-Upper Extremity[FMA-UE]スコア,20〜50点[最高得点は66点])の上肢機能障害を有する片側テント上虚血性脳卒中患者108人にVNS装置の植込み術を行った後、VNS刺激+リハビリテーション(VNS群53人)または偽刺激+リハビリテーション(対照群55人)のいずれかを週3回・6週間施設内で実施、その後自宅での運動プログラムを継続した。リハビリテーションプログラムは、リーチと把握、物体の裏返し、食事動作などの患者ごとに個別化した難易度の課題を反復して行った。 プログラム終了時の評価では、FMA-UEスコアの平均値は、ベースラインに比べ、VNS群で5.0点、対照群2.4点改善し、2群間に有意差が認められた。プログラム終了後90日目にFMA-UEスコアで臨床的に意義がある6ポイント以上の改善が得られたのは、VNS群では23/53人(47%)、対照群では13/55人(24%)であり、2群間の差は有意であった。手術に関連した重篤な有害事象は、対照群で1件(声帯麻痺)であり、これはてんかんやうつ病に対するVNS治療でみられる頻度と相違なかった。著者らはVNSが脳卒中後遺症としての上肢機能障害を改善させる新しい戦略になりうると結論付けている。 この治療法の課題として、運動神経回路の回復には上肢の運動が必要であり、対象となる患者の障害の程度を見極める必要があることや、介入時期、治療の侵襲性についても、さらなる議論が必要である。脳卒中後の中等度〜重度の上肢機能障害に対するリハビリテーションとVNSの組み合わせは新規治療として可能性を秘めている。 1. Engineer ND, et al. Front Neurosci. 2019;13:280. 2. Meyers EC, et al. Stroke. 2018;49(3):710-717.
大血管または小血管の病変に起因する脳卒中患者の心房細動検出に用いる長期心臓モニタリングと通常治療の効果の比較:STROKE-AF無作為化試験
大血管または小血管の病変に起因する脳卒中患者の心房細動検出に用いる長期心臓モニタリングと通常治療の効果の比較:STROKE-AF無作為化試験
Effect of Long-term Continuous Cardiac Monitoring vs Usual Care on Detection of Atrial Fibrillation in Patients With Stroke Attributed to Large- or Small-Vessel Disease: The STROKE-AF Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Jun 1;325(21):2169-2177. doi: 10.1001/jama.2021.6470. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】大血管または小血管の病変に起因する虚血性脳卒中患者では、心房細動(AF)のリスクが高いと考えられておらず、この集団でのAF発症率は明らかになっていない。 【目的】12ヵ月間の追跡で検討した大血管または小血管の病変に起因する虚血性脳卒中患者のAF検出で、長期心臓モニタリングが通常治療より有効性が高いかどうかを明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】STROKE-AF試験は無作為化(1対1)多施設共同(米国の33施設)臨床試験であり、2016年4月から2019年7月までに患者496例を登録し、2020年8月まで主要評価項目を追跡した。60歳以上の患者または脳卒中の危険因子が1つ以上ある50~59歳の患者で、植込み型心臓モニタ(ICM)植込み前10日以内に大血管または小血管の病変に起因する指標となる脳卒中を発症した患者を適格とした。 【介入】患者を無作為化により、指標となる脳卒中から10日以内にICMを植え込む介入群(242例)、12誘導心電図やホルター心電図によるモニタリング、遠隔モニタリング、発作時心電図記録計などの施設ごとの標準治療を実施する対照群(250例)に割り付けた。 【主要評価項目】12ヵ月間での30秒以上持続したAFの発症。 【結果】無作為化した492例(平均[SD]年齢、67.1[9.4]歳;女性185例[37.6%])のうち、417例[84.8%]が12ヵ月間の追跡を終了した。CHA2DS2-VASc(うっ血性心不全、75歳以上、糖尿病、脳卒中または一過性脳虚血発作、血管疾患、65~74歳、性別)スコア中央値(四分位範囲)は5(4~6)であった。12ヵ月時点のAFの検出率は、ICM群の方が対照群よりも有意に高かった(27例[12.1%] vs 4例[1.8%];ハザード比、7.4[95%CI、2.6~21.3];P<0.001)。ICMを植え込んだICM群の221のうち、4例(1.8%)にICM処置に起因する有害事象が発現した(植込み部位感染1例、切開部出血2例、挿入部痛1例)。 【結論および意義】大血管または小血管の病変に起因する虚血性脳卒中患者にICMモニタリングを植え込んだ方が通常治療よりも12ヵ月間でAFを多く検出した。 第一人者の医師による解説 臨床的に将来の心原性脳塞栓症の発症予防に寄与するか否かはさらなる研究が必要 秋山 久尚 聖マリアンナ医科大学内科学(脳神経内科)病院教授 MMJ. February 2022;18(1):8 潜因性脳卒中・脳梗塞(cryptogenic stroke)、塞栓源不明脳塞栓症(ESUS)患者における心房細動(AF)の検出に長時間植込み型心臓モニター(ICM)が有用であることはCRYSTAL-AF試験で報告され、現在の治療ガイドラインでも継続的な心臓モニターが推奨されるに至っている。一方、大血管アテローム硬化(以下、アテローム血栓性脳梗塞)または小血管閉塞(以下、ラクナ梗塞)での発症機序は一般に動脈硬化、リポヒアリノーシスとされ、AFの寄与が高くないという考えから、長時間心臓モニターを含めたAFの検索は通常行われず、AFの検出(率)とその臨床的意義は不明である。 今回報告されたSTROKE-AF試験では、米国の包括的脳卒中センター 33施設において、2016年4月~ 2019年7月にかけてTOAST分類により心原性脳塞栓症、cryptogenic stroke、ESUSではなく、アテローム血栓性脳梗塞またはラクナ梗塞と診断された60歳以上、または50 ~ 59歳で、1つ以上の脳卒中危険因子(うっ血性心不全、高血圧、糖尿病、90日以上前の脳梗塞、その他の虚血性血管疾患など)を有する患者496人のうち4人を除外した492人(平均67.1歳、女性37.6%)を対象として登録している。これらを介入群と対照群1:1に無作為化し、介入群(242人)ではアテローム血栓性脳梗塞またはラクナ梗塞の発症後10日以内に長時間 ICM(Reveal LINQ™[Medtronic社])を植込み、対照群(250人)では短時間心電波形モニター(12誘導心電図、ホルタ心電図、テレメトリーまたはイベントレコーダー)を行い、2020年8月まで(平均331.4±90.9日)の観察期間中、どちらがAF(30秒以上持続)を検出する上で有用かを検討した。 その結果、12カ月間の追跡期間中、ICM群では27人(12.1%)、対照群では4人(1.8%)にAFが検出され(ハザード比 , 7.4)、検出時期の中央値はそれぞれ99日目と181日目、AF最長持続時間の中央値はICM群で88分であった。アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞の2病型群でのサブグループ解析では、AF検出率もICM群(それぞれ11.7%、12.6%)、対照群(2.3%、1.0%)と病型にかかわらずICM群の方が有意に高値であったが、ICM群の両病型間では有意差はなかった。また事後解析で、12カ月間における脳梗塞再発率は介入群と対照群との間で有意差はなかった。 本試験では、アテローム血栓性脳梗塞またはラクナ梗塞でのAF検出においても長時間 ICMが有用なことが明らかとなった。長時間心臓モニタリングの汎用はAF検出の重要性に新しい視点を示したが、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞におけるAF検出が、臨床的に将来の心原性脳塞栓症の発症予防に寄与するか否かはさらなる研究が必要である。
無症候性頸動脈高度狭窄症へのCEAとCAS 有用性に差はない
無症候性頸動脈高度狭窄症へのCEAとCAS 有用性に差はない
Second asymptomatic carotid surgery trial (ACST-2): a randomised comparison of carotid artery stenting versus carotid endarterectomy Lancet. 2021 Sep 18;398(10305):1065-1073. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01910-3. Epub 2021 Aug 29. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】重度の頸動脈狭窄を有し、最近脳卒中や一過性脳虚血を発症していない無症状の患者においては、頸動脈ステント留置術(CAS)や頸動脈内膜剥離術(CEA)は、開存性を回復し長期脳卒中リスクを軽減することができる。しかし、最近の全国的な登録データでは、いずれの治療法も約1%の脳卒中や死亡のリスクをもたらすとされている。ACST-2はインターベンションが必要と考えられる重度の狭窄を有する無症候性患者を対象に,CASとCEAを比較する国際多施設共同無作為化試験であり,他のすべての関連試験と比較して解釈されたものである。対象は、片側または両側の重度の頸動脈狭窄があり、医師と患者の両方が頸動脈の処置を行うべきであることに同意しているが、どちらを選択するかはかなり不確かな患者であった。患者はCASとCEAに無作為に割り付けられ、1ヵ月後とその後毎年、平均5年間フォローアップされた。手続き上のイベントは、手術後30日以内のものを対象とした。Intention-to-treatの解析が行われた。手技の危険性を含む解析は表形式を使用。非手術的な脳卒中の解析およびメタ解析にはKaplan-Meier法およびlog-rank法を用いた。本試験はISRCTNレジストリ、ISRCTN21144362に登録されている。 【所見】2008年1月15日から2020年12月31日までに、130施設で3625例がランダムに割り付けられ、CASに1811例、CEAに1814例、コンプライアンスも良好、内科治療も良好で平均5年の追跡調査である。全体として、手術中に障害を伴う脳卒中または死亡が1%(CAS群15例、CEA群18例)、手術中に障害を伴わない脳卒中が2%(CAS群48例、CEA群29例)であった。5年間の非手術的脳卒中のKaplan-Meier推定値は、致死的脳卒中と障害性脳卒中が各群2~5%、あらゆる脳卒中がCASで5~3%、CEAで4~5%(率比[RR]1~16、95%CI 0-86~1-57、p=0~33)であった。CASとCEAのすべての試験で、あらゆる非手術的脳卒中のRRを合わせると、症状のある患者と症状のない患者でRRは同等であった(全体RR 1-11, 95% CI 0-91-1-32; p=0-21)。 【解釈】能力のあるCASとCEAでは重大な合併症は同様に少なく、これら二つの頸動脈手術が致命的または障害のある脳卒中に及ぼす長期効果は同等である【FUNDING】英国医学研究評議会と健康技術評価計画.頸動脈の手術は、頸動脈の手術と同様に、頸動脈の手術と同様に致命的または障害のある脳卒中を引き起こす。 第一人者の医師による解説 患者ごとのリスク評価の重要性は揺るがない 髙橋 淳 近畿大学医学部脳神経外科主任教授 MMJ. April 2022;18(2):38 頚部頚動脈狭窄症は脳梗塞の原因の1つである。これに対する頚動脈内膜剥離術(CEA)は複数のランダム化試験(1991 ~ 95年)を経て、症候性、無症候性のいずれも単独内科的治療に対する優位性が確立された。一方、1990年代以降普及した頚動脈ステント留置術(CAS)については、CEAを対照とする非劣性試験が実施されてきた。SAPPHIRE(北米、2004年、症候性 + 無症候性)はCEA高リスク群でCASの非劣性を証明したが、CEA低リスク群では欧州の2試験でこれを証明できず、CREST(北米、2010年、症候性 + 無症候性)でようやく非劣性が示された。無症候性限定の試験としては、ACT-1(米国、2016年)がCEA低リスク群におけるCASの非劣性を示した(1)。 本論文は、「無症候性高度狭窄に対するCEAとCASの効果を十分な症例数で比較すること」を目的とした、英国を拠点とする多施設共同ランダム化試験(ASCT-2)の報告である。「頚動脈高度狭窄に対して介入の適応がありCEAとCASの選択に迷う例」を対象とした。33カ国130施設から患者3,625人を登録、CASまたはCEAにランダムに割り付け、平均5年間観察した。主要評価項目は①30日以内の手術関連死 +脳卒中、②その後の手術非関連脳卒中である。 その結果、術後30日以内の手術関連死 +重度脳卒中(6カ月後 modified Rankin Scale[mRS]スコア 3〜5)はCAS群0.9%、CEA群1.0%(P=0.77)、手術関連死 +全脳卒中 はCAS群3.7 %、CEA群2.7%(P=0.12)で、いずれも有意差なし。観察期間中(手術非関連)においては、致死的 / 重度脳卒中が両群ともに2.5%、全脳卒中がCAS群5.3%、CEA群4.5%(P=0.33)で有意差なし。手術非関連脳卒中について過去の比較研究と合算しても、CASのリスク比は1.11でCEAと差がなかった。 重篤な術後合併症は両群ともに僅少で、長期の脳卒中発生率にも差がなく、有用性は同等とされた。しかし本試験は最新・最良の内科的治療との比較試験ではない。医療経済学的検討もなされていない(CASは材料費が高額)。また何よりも、「患者状態や病変特性から見て、明らかにどちらかに適する例は対象に含まない」ことに注意が必要であり、個々の患者におけるリスク評価の重要性が軽視されてはならない。今回の結果は、「どちらを選択するかが同等の局面において、自由な選択に一定のお墨付きを与える」と言うべきものである。 1. Rosenfield K, et al. N Engl J Med. 2016;374(11):1011-1020.
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号)
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号)
サル痘の臨床的特徴~最新症例報告 南ロンドンのプライマリケアおよびセカンダリケアからの紹介を伴う地域の重篤な感染症センターおよび関連する性的健康センターにおける、2022年5月~7月に確認されたサル痘患者197症例について、その臨床的特徴と症状についてのケースレポートは発表された。 BMJ誌2022年7月28日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 2型糖尿病患者に対する最適な運動タイミングは? 運動の代謝効果は、運動が行われる時間帯に依存する可能性があるといわれている。運動のタイミングは、2 型糖尿病男性の多組織メタボロームおよび骨格筋プロテオーム プロファイルに影響を及ぼすという仮説について検証が行われた。Metabolism誌オンライン版2022年7月28日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 老齢マウスの血液を若齢マウスに投与すると… 加齢は多くの慢性疾患における最大のリスク因子である。本研究では、雄マウスによる単一異時性血液交換法を用いて、老化マウスの血液が若齢マウスの細胞・組織の老化を誘導するか観察した。Nature Metabolism誌オンライン版2022年7月28日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む ”超加工食品”は認知症リスクを上げるか? 超加工食品(Ultra-Processed Foods:糖分や塩分、脂肪を多く含む加工済みの食品。 保存料などを添加し、常温で保存できたり、日持ちを良くしてある食品)の消費と、うつ病、心血管疾患、全死亡などの健康上の有害な転帰とを関連付ける証拠が増えつつある。しかし、超加工食品と認知症との関連については、これまでよくわかっていなかった。英国バイオバンクにおいて超加工食品と認知症発症との関連が調査された。Neurology誌オンライン版2022年7月27日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 睡眠と高血圧・虚血性脳卒中との関連 英国バイオバンクに登録された高血圧症または脳卒中のない35万8,451名を対象に、日中の仮眠頻度と本態性高血圧症または脳卒中の発症率との関連を調査するとともに、この因果関係を検証するため、前向きコホート研究が実施された。Hypertension誌オンライン版2022年7月25日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.10(2022年7月28日号) 小児におけるオミクロンに対するファイザー社製COVID-19ワクチンの有効性 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.9(2022年7月21日号) 慢性便秘症に効果的な食物繊維摂取量は?:RCTの系統的レビュー&メタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.8(2022年7月14日号) COVID-19後遺症の有病率、その危険因子とは ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.7(2022年7月7日号) 糖尿病の有無が影響するか、心不全に対するエンパグリフロジンの臨床転帰 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号) 老化をあざむく方法は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.5(2022年6月23日号) 座位時間と死亡率および心血管イベントとの関連性:低~高所得国での違いはあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.4(2022年6月16日号) 乳製品やカルシウム摂取量と前立腺がんの発症リスクの関連性:前向きコホート研究 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.3(2022年6月9日号) 運動は脳内RNAメチル化を改善し、ストレス誘発性不安を予防する ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号) 6〜11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本
尿中Na排泄、血圧、心血管疾患、死亡:地域単位の前向き疫学的コホート研究
尿中Na排泄、血圧、心血管疾患、死亡:地域単位の前向き疫学的コホート研究
Urinary sodium excretion, blood pressure, cardiovascular disease, and mortality: a community-level prospective epidemiological cohort study LANCET 2018 Aug 11;392(10146):496-506. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】WHOは、心血管疾患の予防対策として、国民のナトリウム摂取量を2g/日未満とすることを推奨しているが、この目標はどの国でも達成されていない。この勧告は主に血圧(BP)の短期試験による個人レベルのデータに基づいており、無作為化試験や観察研究による低ナトリウム摂取と心血管イベントの減少との関連データはない。我々は、地域レベルの平均ナトリウムおよびカリウム摂取量と心血管疾患および死亡率との関連を調査した。 【方法】Prospective Urban Rural Epidemiology研究は、21カ国で進行中である。ここでは、18カ国で行われた臨床転帰のデータを用いた解析を報告する。対象者は、一般住民から抽出された35~70歳の心血管疾患のない成人である。摂取量の代用として、朝の空腹時尿を用いて24時間のナトリウムとカリウムの排泄量を推定した。369地域(すべて50人以上)でナトリウムとカリウムの摂取量と血圧との地域レベルの関連を,255地域(すべて100人以上)で心血管疾患と死亡率との関連を評価し,個人レベルのデータを用いて既知の交絡因子について調整した。 【所見】369地域の95 767人が血圧について,255地域の82 544人が心血管予後の評価を行い,中央値は8~1年間フォローアップされた。中国では103地域中82地域(80%)が平均ナトリウム摂取量が5g/日を超えていたが,その他の国では266地域中224地域(84%)が平均3~5g/日であった。全体として、平均収縮期血圧は平均ナトリウム摂取量が1g増加するごとに2~86mmHg上昇したが、正の関連はナトリウム摂取量の最高三分位の地域でのみ見られた(異質性についてはp<0-0001)。平均ナトリウム摂取量と主要な心血管イベントとの関連は、ナトリウム摂取量の最低三分位で有意な逆相関が見られ(最低三分位<4-43 g/日、平均摂取量4-04 g/日、範囲3-42-4-43;1000年当たりの変化-1-00イベント、95%CI -2-00~-0-01, p=0497)、中間三分位では関連がなく(中三分位 4-43-5-08 g/日、平均取得4-70 g/日, 4-44-5.05;1000年当たりの変化0-24イベント、-2-12〜2-61、p=0-8391)、最高三分位では正の関連があるが有意ではない(最高三分位>5-08g/日、平均摂取量5-75g/日、>5-08〜7-49;1000年当たりの変化0-37イベント、-0-03〜0-78、p=0-0712)。中国(平均ナトリウム摂取量5-58 g/日,1000年当たり0-42イベント,95%CI 0-16~0-67,p=0-0020) では,他の国(4-49 g/日,-0-26イベント,-0-46~-0-06,p=0-0124;異質性についてはp<0-0001) に比べ脳卒中に強い関連が見られた.すべての主要な心血管アウトカムは,すべての国でカリウム摂取量の増加とともに減少した。 【解釈】ナトリウム摂取は,平均摂取量が5 g/日を超える地域でのみ心血管疾患および脳卒中と関連していた。これらの地域や国ではナトリウムを減らすが、他の地域では減らさないという戦略が適切かもしれない。 【FUNDING】人口健康研究所、カナダ保健研究所、カナダ保健省患者指向研究戦略、オンタリオ保健長期ケア省、オンタリオ心臓・脳卒中財団、欧州研究評議会。 第一人者の医師による解説 厳格な減塩と心血管疾患の関連 ランダム化試験での検証が必要 桑島 巖 NPO 法人臨床研究適正評価教育機構理事長 MMJ.February 2019;15(1):13 本論文は21カ国を対象として8.1年間追跡した大 規模疫学コホート研究 PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology)研究の結果報告である。Na摂取量が1日摂取量5g(食塩12.7g)を超える地域(おもに中国)では、食塩摂取量増加につれて心血管イベントが上昇するが、摂取量平均4.04g(食塩10.3g)以下の低摂取群でもリスクが上昇する、いわゆる“Jカーブ現象”がみられたというのが趣旨である。厚生労働省や健康日本21が目標とする食塩摂取量1日 8g未満ではむしろリスクが上昇するということになる。本論文の特徴は、中国の地域社会でのデータが約40%を占め、そのうち80%の地域でNa摂取量 が1日5g(食塩12.7g)以上であり、平均摂取量が他の地域よりも際だって高い点である(Na 5.58g 対 4.45g;食塩14.2g 対 11.3g)。すなわち食塩摂取量とリスクの関係には地域性(community-based)が関連していることを示している。地域差が大きいことは人種による食塩感受性の違いも関連している可能性もあり、このcommunity-basedの結果を日本人 一般社会に適用することには慎重でなければならない。食塩摂取量と心血管イベントのJカーブ現象の報告は2011年のEPOCH研究(1)やO’Donnellらの観 察研究(2)でも報告されており、疫学的には真実なのかもしれない。しかし重要なことは、このような疫学観察研究の結果は、リスクと食塩摂取の因果関係を示すものではなく、減塩によるリスク低減効果の有無は高血圧や心血管疾患既往の有無といった個人的背景でも異なることを理解しておく必要があろう。食塩の低摂取群で心血管合併症が多い理由の1 つとして減塩によるレニン-アンジオテンシン系の亢進が心血管イベントを増やす可能性は否定できない。さらに低Na血症自体が慢性疾患や栄養障害を反映した結果である可能性もある。ただしK摂取と心血管イベントは逆相関するとの結果は、世界のガイドラインと一致する。 食塩摂取量と血圧あるいは心血管イベントとの関連の研究間で異なった結果がでる要因の1つは、尿中Na排泄量の測定方法である。24時間蓄尿から測定するのが標準であるが、PURE研究では早朝スポット尿を用いて1日Na排泄量を推定しているが、 信頼性の限界がある。 2013年に発表されたランダム化試験のメタアナリシス結果(3)では人種、高血圧の有無にかかわらず 食塩摂取量と血圧の関連は直線的であり、1日6g未満の減塩で収縮期血圧5.8mmHgが低下すると報告しており、やはり世界基準と矛盾しない結果を示している。しかしこの論文は、心血管イベントとの関係を示したメタアナリシスではない。日本人は食塩 摂取が過度な人種であり、減塩が心血管イベントや死亡を増やすか否かに関してはより高いエビデンスによる検証に期待したい。 1. Stolarz-Skrzypek K, et al., JAMA. 2011;305(17):1777-1785. 2. O'Donnell MJ, et al., JAMA. 2011;306(20):2229-2238. 3. He FJ, et al., BMJ. 2013;346:f1325.