ライブラリー 非心臓手術を受ける患者における周術期のcovert stroke(NeuroVISION):前向きコホート研究。
Perioperative covert stroke in patients undergoing non-cardiac surgery (NeuroVISION): a prospective cohort study
Lancet 2019 ;394 (10203):1022 -1029.
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【背景】手術以外の環境では、covert strokeはovert strokeよりも一般的であり、認知機能の低下と関連している。顕性脳卒中は非心臓手術後の成人の1%未満に発生し、かなりの罹患率と関連しているが、周術期の隠性脳卒中についてはほとんどわかっていない。したがって,我々の主な目的は,周術期のcovert stroke(すなわち,臨床的な脳卒中症状を持たない患者の非心臓手術後のMRIで検出された急性脳梗塞)と術後1年の認知機能低下の関係を調べることである。
【方法】NeuroVISIONは9か国12の学術施設で行われた前向きコホート研究で,入院で非心臓手術を受けた65歳以上の患者で,術後に脳のMRIが得られた患者の評価を行うものであった。臨床データをマスクした独立した2人の神経放射線学の専門家が、それぞれのMRIについて急性脳梗塞の有無を評価した。多変量回帰法を用いて,covert stroke と主要転帰である認知機能低下(術前ベースラインから 1 年後のフォローアップまで,モントリオール認知機能評価で 2 ポイント以上の低下と定義)との関連を検討した.患者,医療従事者,アウトカム判定者はMRIの結果をマスキングした。
【FINDINGS】2014年3月24日から2017年7月21日の間に,本研究に募集した1114名のうち,78名(7%;95%CI 6-9)が周術期の隠微な脳卒中を発症していた。1年間の追跡調査を完了した患者のうち,術後1年の認知機能低下は,周術期のcovert strokeがあった69名中29名(42%),周術期のcovert strokeがなかった932名中274名(29%)で生じた(調整オッズ比1-98,95%CI 1-22-3-20,絶対リスク増加13%;p=0-0055)。また,covert strokeは周術期せん妄のリスク上昇(ハザード比[HR]2-24,95%CI 1-06-4-73,絶対リスク上昇6%;p=0-030),1年フォローアップ時のovert strokeまたは一過性虚血発作(HR 4-13,1-14-14-99, 絶対リスク上昇3%;p=0-019)にも関連していた.
【解釈】周術期のcovert strokeは、非心臓手術の1年後の認知機能低下のリスク上昇と関連しており、周術期のcovert strokeは非心臓手術を受けた65歳以上の患者の14人に1人で発生していた。周術期のcovert strokeの予防・管理戦略を確立するための研究が必要である。
【FUNDING】Canadian Institutes of Health Research; The Ontario Strategy for Patient Oriented Research support unit; The Ontario Ministry of Health and Long-Term Care; Health and Medical Research Fund, Government of Hong Kong Special Administrative Region, China; and The Neurological Foundation of New Zealand.
第一人者の医師による解説
周術期の潜在性脳梗塞 原因の特定と病態の解明が喫緊の課題
田中 亮太 自治医科大学附属病院脳卒中センター・センター長 教授
MMJ.February 2020;16(1)
非心臓手術例の周術期における症状の明らかな脳梗塞の発症率は0.1~1%程度と報告されており、その後の機能障害や生命予後に大きく影響する(1)。 一方、症状は明らかでないが頭部 MRI拡散強調画 像などで初めて診断される潜在性脳梗塞は実臨床でしばしば観察され、その後の認知機能低下、認知症発症、精神運動速度の低下、そして新たな脳卒中発症のリスクになる。
全身麻酔を要する手術では、 術後の脳障害や記憶障害などが最も懸念される要 因であることが患者調査でも報告されている(2)。このような背景から、非心臓手術後に診断される潜在性脳梗塞(無症状だが、頭部 MRIで診断される急性期脳梗塞)と術後1年時の認知機能低下の関係を調べる多施設共同前向きコホート研究が実施され、 その結果が本論文で報告された。
アジアを含む9カ国、12施設から65歳以上の定 時非心臓手術症例1,116人が登録され、1,114人 が解析対象とされた。平均年齢は73歳、56%が男 性、術前の既往症は高血圧64%、糖尿病27%、心房細動6%、脳卒中5%などであった。整形外科、泌尿器科、婦人科、一般外科の手術症例が多かった。 MRI検査は術後中央値5日に実施され、そのうち 78人(7%)に潜在性脳梗塞が認められた。
潜在性脳梗塞は術後1年時の認知機能低下のリスクを 1.98倍(95% CI, 1.22~3.20)有意に上昇させ たが、麻酔の種類や施設間の影響はなかった。また潜在性脳梗塞は術後3日以内のせん妄(HR, 2.24; 95% CI, 1.06~4.73)、1年以内の有症候性脳梗 塞または一過性脳虚血発作の発症(HR, 4.13;1.14 ~14.99)に有意に影響した。死亡は潜在性脳梗塞群の8%、非脳梗塞群の5%に認められたが、統計学的有意差はなかった(HR, 1.66;95%CI, 0.71 ~3.88)。
本研究から、高齢者(65歳以上)の定時非心臓手術周術期において14人に1人が潜在性脳梗塞を合併し、1年後の認知機能低下の危険因子になることが示された。潜在性脳梗塞の45%は皮質梗塞、 13%は多発性梗塞であり、卵円孔開存や心房細動などの塞栓性の機序が疑われるが、大多数の脳梗塞の原因は不明である。
一方、脳梗塞の原因として悪性腫瘍に伴う過凝固状態、周術期の発作性心房細 動、大量出血に伴う血栓形成傾向などの影響は不明である。また、認知機能低下に影響する因子として術前からある認知機能低下やうつ状態などについても明らかにされていない。手術を受ける高齢者の増加が予想される中で、非心臓手術後の認知機能 低下の予防や長期的予後改善のためには、潜在性脳梗塞の原因、病態、そして関連する要因の解明が喫緊の課題である。
1. Mashour GA et al. Anesthesiology. 2011 Jun;114(6):1289-1296.
2. Matthey P et al. Can J Anaesth. 2001 Apr;48(4):333-339.