「脳梗塞」の記事一覧

脳卒中の予防を目的とした心臓手術中の左心耳閉鎖術
脳卒中の予防を目的とした心臓手術中の左心耳閉鎖術
Left Atrial Appendage Occlusion during Cardiac Surgery to Prevent Stroke N Engl J Med. 2021 Jun 3;384(22):2081-2091. doi: 10.1056/NEJMoa2101897. Epub 2021 May 15. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】手術による左心耳の閉鎖は、心房細動患者の虚血性脳卒中を予防すると言われているが、証明されていない。この手技は、別の理由による心臓手術中に施行することが可能である。 【方法】別の理由による心臓手術を予定しており、CHA2DS2-VAScスコア(0~9、スコアが高いほど脳卒中リスクが高いことを示す)が2点以上の心房細動を有する患者を対象に、多施設共同無作為化試験を実施した。患者を無作為化により、手術中に左心耳閉鎖術を施行するグループと左心耳閉鎖術を施行しないグループに割り付けた。全患者に追跡期間中、経口抗凝固薬など通常の治療を実施する予定とした。主要評価項目は、虚血性脳卒中(神経画像検査で所見がみられる一過性脳虚血発作を含む)または全身性塞栓症の発生とした。患者、試験担当者および(外科医を除く)プライマリケア医に試験群の割り付けを伏せた。 【結果】主解析は、閉鎖群2,379例、非閉鎖群2,391例を対象とした。平均年齢は71歳、CHA2DS2-VASc平均スコアは4.2点だった。参加者を平均3.8年間追跡した。92.1%が割り付けた手術を受け、76.8%が3年時点で経口抗凝固薬服用を継続していた。閉鎖群の114例(4.8%)、非閉鎖群の168例(7.0%)が脳卒中または全身性塞栓症を発症した(ハザード比、0.67;95%CI、0.53~0.85;P=0.001)。周術期出血、心不全または死亡の発生率には両試験群間に有意差は認められなかった。 【結論】心臓手術を施行した心房細動患者で、ほとんどが経口抗凝固薬の服用を継続しており、虚血性脳卒中または全身性塞栓症のリスクは心臓手術中に左心耳閉鎖術を同時に施行した方が左心耳を閉鎖しないよりも低かった。 第一人者の医師による解説 左心耳閉鎖術は抗凝固療法の脳梗塞予防効果を増強 さらなる研究を期待 浅井 徹 順天堂大学医学部心臓血管外科学教授 MMJ. February 2022;18(1):9 心房細動は高齢者によくみられ、脳梗塞の原因のうち約25%を占めている。心原性脳塞栓症の多くは心房細動に起因し、左心房にある左心耳が血栓塞栓物の発生部位と考えられている(1)。経口抗凝固薬は左心耳内の血栓形成抑制効果を有する安全な薬剤であり、心房細動のある患者で脳梗塞発症率をおよそ3分の2に低下させることが明らかになっている。しかし実際には、投薬の中断や用量のコントロールが不十分であるといった問題がある。これに対し、左心耳閉鎖術は心房細動合併患者の脳梗塞発症リスクを半永久に低下させる効果が期待されているが、ランダム化試験ではまだ証明されていない。 本論文は、心臓手術を受ける患者のうち心房細動を有するCHA2DS2-VAScスコア2以上の患者を対象に追加手技として左心耳閉鎖術の実施群(2,379人)と非実施群(2,391人)で術後遠隔期までの脳梗塞発症を比較した多施設ランダム化試験(LAAOS III試験)の報告である。左心耳閉鎖術の方法は、切除閉鎖(推奨)、ステイプラーによる切除、デバイスによる閉鎖、または左心房内からの閉鎖が用いられ、術中経食道心エコーによる確認が推奨された。手術後の患者は経口抗凝固薬を含めた通常の薬物療法を受けた。平均追跡期間は3.8年、術後3年の時点で全体の76.8%の患者が経口抗凝固療法を継続していた。その結果、主要評価項目である脳梗塞または他臓器の塞栓症の発症率は、左心耳閉鎖術実施群4.8%、非実施群7.0%であった(ハザード比 , 0.67;95%信頼区間 , 0.53~0.85;P=0.001)。また、周術期の出血合併症、心不全、死亡率で両群間に有意差はなかった。著者らは、心房細動を有する患者が心臓手術を受ける際に左心耳閉鎖術を併施した場合、併施しない場合と比較して、術後の脳梗塞または他臓器の塞栓症の発症リスクが低くなると結論づけている。 左心耳は心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の産生部位であり、左心耳の切除によって腎における塩と水の排出が損なわれ心不全が増悪する懸念があるが、今回の試験では術後早期も遠隔期も心不全による入院や死亡率に関して両群間で差を認めなかった。LAAOS III試験は、左心耳閉鎖術自体と経口抗凝固療法を比較した研究ではないため、左心耳閉鎖術が経口抗凝固療法の代用となりうるとは解釈できないが、左心耳閉鎖術が経口抗凝固療法の脳梗塞発症率をさらに3分の2ほどに低下させる効果があることを示しており、今後のさらなる研究結果が待たれるところである。 1. Blackshear JL, et al. Ann Thorac Surg. 1996;61(2):755-759.
アナルトリーを有する麻痺患者の発話を読み取るための神経補綴
アナルトリーを有する麻痺患者の発話を読み取るための神経補綴
Neuroprosthesis for Decoding Speech in a Paralyzed Person with Anarthria N Engl J Med. 2021 Jul 15;385(3):217-227. doi: 10.1056/NEJMoa2027540. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】発話不能の麻痺患者のコミュニケーション能力を回復させる技術により、自律性と生活の質が向上する可能性がある。このような患者の大脳皮質活動から単語や文章を直接読み取るアプローチにより、従来のコミュニケーション補助方法から進歩を遂げる。 【方法】脳幹梗塞によりアナルトリー(明瞭に発話する能力の喪失)および痙性四肢不全麻痺を有する患者1例を対象に、発話を制御する感覚運動皮質領域の硬膜下に高密度のマルチ電極アレイを埋め込んだ。48回のセッションで、患者が50語の語彙の中から選んだ単語を個別に発話しようとする際の皮質活動を22時間分記録した。深層学習アルゴリズムを用いて、記録した皮質活動のパターンから単語を検出し、分類する計算モデルを作成した。この計算モデルに加え、先行する一連の単語から次の単語の確率を算出する自然言語モデルを用いて、患者が発話しようとしている文の完成形を解読した。 【結果】患者の皮質活動から、1分間に中央値で15.2語、リアルタイムで文章を解読し、誤り率が中央値で25.6%であった。事後解析で、患者が個々の単語を発話しようとした試みの98%を検出していた。皮質シグナルを用いて47.1%の正確性で単語を分類し、皮質シグナルは81週間の試験期間を通じて安定していた。 【結論】脳幹梗塞によるアナルトリーおよび痙性四肢不全麻痺を有する患者1例で、深層学習モデルと自然言語モデルを用いて、発話しようとする際の皮質活動から直接、単語と文章を読み取った。 第一人者の医師による解説 単語数の制限や精度の改良が必要だがリアルタイムでコミュニケーション可能な社会の実現を期待 井口 はるひ 東京大学医学部附属病院リハビリテーション科助教 MMJ. February 2022;18(1):23 近年、機械の発達により、発話でコミュニケーションが困難な患者に対してさまざまなコミュニケーション代替装置を提案できるようになってきた。しかし、四肢麻痺などの身体機能障害を有すると、機械操作が困難となるため、コミュニケーションに苦慮することがある。一方、四肢の機能が障害された患者に対して機能を代替するbrain machine interfaceが数多く開発され、商品化もされている。本論文の著者らが所属するサンフランシスコ大学で開発されたspeech neuroprosthesis(会話のための神経代替装置)は、脳に埋め込んだ電極を通じて文字変換・出力し、ディスプレイ画面に表示するbrain-computer interfaceである。 本研究では、16年前に脳幹梗塞のためにアナルトリー(anarthria)と痙性四肢麻痺を生じた男性患者に対して、皮質感覚野周辺の硬膜下に多数の高密度皮質脳波電極を外科的に埋め込み、発語課題を行った際の脳活動から単語と文章を再構築することを試みたものである。アナルトリーとは、発語障害のうち、構音の歪み(音が不明瞭化し、母語の表記方法では表現できない音になること)と語を構成する音と音のつながりに障害(「まいにち」というところを「ま、いーにっち」などになる現象)を持つ状態である(1)。81週間かけて50回のセッションを行い、データ収集することで再構築の精度を上げようとした。患者は提示された①単語と②文章を音読し、その際の脳活動を記録した。データ収集の際、著者らは深層学習モデルを使用し、脳活動から予測して発話検出および単語分類モデルを作成した。また、前の単語から次の単語を予測する自然言語モデルを作成した。その結果、脳活動から、文章をリアルタイムで1分間に中央値15.2語の頻度で読み取り、間違いの割合は自然言語モデルを使わない場合の60.5%に対し、使った場合は25.6%であった。事後解析では、単語レベルでも、発語のタイミングを98%検出でき、単語分類の予測は47.1%の精度で可能であった。 本研究の結果から、発語が困難になっても言語機能の障害がなく脳活動が維持されていれば、言語の抽出が脳波から可能であることが示された。単語については、50単語のみを使用しているため、現時点では状況を限定しての使用になる。今後、電極設置の侵襲の低下、多言語での正確性の確認などが必要と思われる。研究が進み、構音・発声障害に加え、運動機能障害でコミュニケーションが困難となっている患者がリアルタイムでコミュニケーション可能になる社会が現実化することが期待される。 1. 大槻美佳 . 臨床神経学 . 2008;48(11):853-856.
無症候性頸動脈高度狭窄症へのCEAとCAS 有用性に差はない
無症候性頸動脈高度狭窄症へのCEAとCAS 有用性に差はない
Second asymptomatic carotid surgery trial (ACST-2): a randomised comparison of carotid artery stenting versus carotid endarterectomy Lancet. 2021 Sep 18;398(10305):1065-1073. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01910-3. Epub 2021 Aug 29. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】重度の頸動脈狭窄を有し、最近脳卒中や一過性脳虚血を発症していない無症状の患者においては、頸動脈ステント留置術(CAS)や頸動脈内膜剥離術(CEA)は、開存性を回復し長期脳卒中リスクを軽減することができる。しかし、最近の全国的な登録データでは、いずれの治療法も約1%の脳卒中や死亡のリスクをもたらすとされている。ACST-2はインターベンションが必要と考えられる重度の狭窄を有する無症候性患者を対象に,CASとCEAを比較する国際多施設共同無作為化試験であり,他のすべての関連試験と比較して解釈されたものである。対象は、片側または両側の重度の頸動脈狭窄があり、医師と患者の両方が頸動脈の処置を行うべきであることに同意しているが、どちらを選択するかはかなり不確かな患者であった。患者はCASとCEAに無作為に割り付けられ、1ヵ月後とその後毎年、平均5年間フォローアップされた。手続き上のイベントは、手術後30日以内のものを対象とした。Intention-to-treatの解析が行われた。手技の危険性を含む解析は表形式を使用。非手術的な脳卒中の解析およびメタ解析にはKaplan-Meier法およびlog-rank法を用いた。本試験はISRCTNレジストリ、ISRCTN21144362に登録されている。 【所見】2008年1月15日から2020年12月31日までに、130施設で3625例がランダムに割り付けられ、CASに1811例、CEAに1814例、コンプライアンスも良好、内科治療も良好で平均5年の追跡調査である。全体として、手術中に障害を伴う脳卒中または死亡が1%(CAS群15例、CEA群18例)、手術中に障害を伴わない脳卒中が2%(CAS群48例、CEA群29例)であった。5年間の非手術的脳卒中のKaplan-Meier推定値は、致死的脳卒中と障害性脳卒中が各群2~5%、あらゆる脳卒中がCASで5~3%、CEAで4~5%(率比[RR]1~16、95%CI 0-86~1-57、p=0~33)であった。CASとCEAのすべての試験で、あらゆる非手術的脳卒中のRRを合わせると、症状のある患者と症状のない患者でRRは同等であった(全体RR 1-11, 95% CI 0-91-1-32; p=0-21)。 【解釈】能力のあるCASとCEAでは重大な合併症は同様に少なく、これら二つの頸動脈手術が致命的または障害のある脳卒中に及ぼす長期効果は同等である【FUNDING】英国医学研究評議会と健康技術評価計画.頸動脈の手術は、頸動脈の手術と同様に、頸動脈の手術と同様に致命的または障害のある脳卒中を引き起こす。 第一人者の医師による解説 患者ごとのリスク評価の重要性は揺るがない 髙橋 淳 近畿大学医学部脳神経外科主任教授 MMJ. April 2022;18(2):38 頚部頚動脈狭窄症は脳梗塞の原因の1つである。これに対する頚動脈内膜剥離術(CEA)は複数のランダム化試験(1991 ~ 95年)を経て、症候性、無症候性のいずれも単独内科的治療に対する優位性が確立された。一方、1990年代以降普及した頚動脈ステント留置術(CAS)については、CEAを対照とする非劣性試験が実施されてきた。SAPPHIRE(北米、2004年、症候性 + 無症候性)はCEA高リスク群でCASの非劣性を証明したが、CEA低リスク群では欧州の2試験でこれを証明できず、CREST(北米、2010年、症候性 + 無症候性)でようやく非劣性が示された。無症候性限定の試験としては、ACT-1(米国、2016年)がCEA低リスク群におけるCASの非劣性を示した(1)。 本論文は、「無症候性高度狭窄に対するCEAとCASの効果を十分な症例数で比較すること」を目的とした、英国を拠点とする多施設共同ランダム化試験(ASCT-2)の報告である。「頚動脈高度狭窄に対して介入の適応がありCEAとCASの選択に迷う例」を対象とした。33カ国130施設から患者3,625人を登録、CASまたはCEAにランダムに割り付け、平均5年間観察した。主要評価項目は①30日以内の手術関連死 +脳卒中、②その後の手術非関連脳卒中である。 その結果、術後30日以内の手術関連死 +重度脳卒中(6カ月後 modified Rankin Scale[mRS]スコア 3〜5)はCAS群0.9%、CEA群1.0%(P=0.77)、手術関連死 +全脳卒中 はCAS群3.7 %、CEA群2.7%(P=0.12)で、いずれも有意差なし。観察期間中(手術非関連)においては、致死的 / 重度脳卒中が両群ともに2.5%、全脳卒中がCAS群5.3%、CEA群4.5%(P=0.33)で有意差なし。手術非関連脳卒中について過去の比較研究と合算しても、CASのリスク比は1.11でCEAと差がなかった。 重篤な術後合併症は両群ともに僅少で、長期の脳卒中発生率にも差がなく、有用性は同等とされた。しかし本試験は最新・最良の内科的治療との比較試験ではない。医療経済学的検討もなされていない(CASは材料費が高額)。また何よりも、「患者状態や病変特性から見て、明らかにどちらかに適する例は対象に含まない」ことに注意が必要であり、個々の患者におけるリスク評価の重要性が軽視されてはならない。今回の結果は、「どちらを選択するかが同等の局面において、自由な選択に一定のお墨付きを与える」と言うべきものである。 1. Rosenfield K, et al. N Engl J Med. 2016;374(11):1011-1020.
血栓回収術前のアルテプラーゼ静注療法併用 血栓回収単独療法に対し優越性、非劣性とも示されず
血栓回収術前のアルテプラーゼ静注療法併用 血栓回収単独療法に対し優越性、非劣性とも示されず
A Randomized Trial of Intravenous Alteplase before Endovascular Treatment for Stroke N Engl J Med. 2021 Nov 11;385(20):1833-1844. doi: 10.1056/NEJMoa2107727. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 急性虚血性脳卒中に対する血管内治療(EVT)の前にアルテプラーゼを静注することの価値については、特にアジア以外の地域では広く研究されていません。患者は、EVTのみを行う群と、アルテプラーゼ静注後にEVTを行う群(標準治療)に、1対1の割合で無作為に割り付けられました。主要評価項目は,90 日後の修正 Rankin スケールによる機能的転帰(範囲,0[障害なし]~6[死亡])であった.アルテプラーゼ+EVTに対するEVT単独の優越性を評価するとともに、両試験群のオッズ比の95%信頼区間の下限を0.8とするマージンで非劣性を評価した。安全性の主要評価項目は,あらゆる原因による死亡と症候性脳内出血であった。 【結果】解析対象は539例であった。90日後のmodified Rankin scaleのスコアの中央値は,EVT単独群で3(四分位範囲,2~5),アルテプラーゼ+EVT群で2(四分位範囲,2~5)であった。調整後の共通オッズ比は0.84(95%信頼区間[CI],0.62~1.15,P=0.28)で,EVT単独の優越性も非劣性も認められなかった。死亡率は,EVT 単独で 20.5%,アルテプラーゼ+EVT で 15.8%であった(調整オッズ比,1.39;95%信頼区間,0.84~2.30).症候性脳内出血は,それぞれの群で5.9%と5.3%に発生した(調整オッズ比1.30,95%CI,0.60~2.81)。 【結論】ヨーロッパの患者を対象とした無作為化試験において,脳卒中発症後90日目の障害の転帰に関して,EVT単独はアルテプラーゼ静注後にEVTを行う場合と比較して優越性も非劣性もなかった。症候性脳内出血の発生率は,両群で同等であった。(Collaboration for New Treatments of Acute Stroke コンソーシアムなどの助成を受け、MR CLEAN-NO IV ISRCTN 番号、ISRCTN80619088)。 第一人者の医師による解説 アルテプラーゼ静注併用の是非は決着せず 日本の実臨床ではアルテプラーゼ静注先行が標準 鶴田 和太郎 虎の門病院脳神経血管内治療科部長 MMJ. April 2022;18(2):37 急性期脳梗塞に対する再開通療法として、アルテプラーゼ静注療法は迅速に施行可能であり、高いエビデンスを持った治療法であるが、血管径の太い近位主幹動脈に対する効果は限定的である。一方、カテーテルを用いて行う血栓回収術は、治療設備や専門医が必要であるため施行可能な施設が限定され、治療開始までに時間を要するが、再開通率は高い。これまでアルテプラーゼ静注併用を前提とした血栓回収術の有効性・安全性のエビデンスが集積されてきた。アルテプラーゼ静注の併用は、血栓回収率を上げるという報告がある一方、血栓回収術開始までの時間が長くなることや出血性合併症のリスクが高くなるといったデメリットも考えられており、現在これら併用の是非についての検証が進行中である。 本論文は欧州人を対象とした血栓回収単独とアルテプラーゼ併用のランダム化対照試験(MR CLEAN–NO IV)の報告である。対象はアルテプラーゼ静注と血栓回収の両者が適応となる近位脳主幹動脈閉塞による脳梗塞急性期の患者で、血栓回収単独群またはアルテプラーゼ併用群(アルテプラーゼ静注 +血栓回収)に割り付けられた。主要評価項目は90日後の日常生活自立度(modified Rankin Scale;mRS)、主な安全性評価項目は全死亡、症候性頭蓋内出血とされた。対象患者539人の解析において、90日後のmRSスコア中央値は、血栓回収単独群で3(四分位範囲[IQR], 2〜5)、アルテプラーゼ併用群で2(IQR, 2〜5)であり、アルテプラーゼ併用群の優越性、非劣性とも示されなかった。全死亡、症候性頭蓋内出血の発生率についても両群でおおむね同程度であった。 脳梗塞急性期の血栓回収単独とアルテプラーゼ併用のランダム化対照試験としては、これまでに日本で行われたSKIP(1)と中国で行われたDIRECTMT(2)およびDEVT(3)の結果が報告されている。SKIPでは血栓回収単独のアルテプラーゼ併用に対する非劣性は示されなかったのに対し、DIRECTMTおよびDEVTでは非劣性が示された。 血栓回収前のアルテプラーゼ静注併用の是非については、未だ決着しておらず、進行中の他の研究結果が待たれる。日本の実臨床において、脳梗塞急性期の患者が必ずしも血栓回収を実施できる施設に搬送されるとは限らず、病院間転送が必要な患者にはアルテプラーゼ静注を先行すべきである。血栓回収単独の効率的な提供には、血栓回収適応患者を適切に血栓回収対応可能な施設に搬送するための脳卒中医療のセンター化と搬送システムの構築が喫緊の課題といえる。 1. Suzuki K, et al. JAMA. 2021;325(3):244-253. 2. Yang P, et al. N Engl J Med. 2020;382(21):1981-1993. 3. Zi W, et al. JAMA. 2021;325(3):234-243.
非心臓手術を受ける患者における周術期のcovert stroke(NeuroVISION):前向きコホート研究。
非心臓手術を受ける患者における周術期のcovert stroke(NeuroVISION):前向きコホート研究。
Perioperative covert stroke in patients undergoing non-cardiac surgery (NeuroVISION): a prospective cohort study Lancet 2019 ;394 (10203):1022 -1029. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】手術以外の環境では、covert strokeはovert strokeよりも一般的であり、認知機能の低下と関連している。顕性脳卒中は非心臓手術後の成人の1%未満に発生し、かなりの罹患率と関連しているが、周術期の隠性脳卒中についてはほとんどわかっていない。したがって,我々の主な目的は,周術期のcovert stroke(すなわち,臨床的な脳卒中症状を持たない患者の非心臓手術後のMRIで検出された急性脳梗塞)と術後1年の認知機能低下の関係を調べることである。 【方法】NeuroVISIONは9か国12の学術施設で行われた前向きコホート研究で,入院で非心臓手術を受けた65歳以上の患者で,術後に脳のMRIが得られた患者の評価を行うものであった。臨床データをマスクした独立した2人の神経放射線学の専門家が、それぞれのMRIについて急性脳梗塞の有無を評価した。多変量回帰法を用いて,covert stroke と主要転帰である認知機能低下(術前ベースラインから 1 年後のフォローアップまで,モントリオール認知機能評価で 2 ポイント以上の低下と定義)との関連を検討した.患者,医療従事者,アウトカム判定者はMRIの結果をマスキングした。 【FINDINGS】2014年3月24日から2017年7月21日の間に,本研究に募集した1114名のうち,78名(7%;95%CI 6-9)が周術期の隠微な脳卒中を発症していた。1年間の追跡調査を完了した患者のうち,術後1年の認知機能低下は,周術期のcovert strokeがあった69名中29名(42%),周術期のcovert strokeがなかった932名中274名(29%)で生じた(調整オッズ比1-98,95%CI 1-22-3-20,絶対リスク増加13%;p=0-0055)。また,covert strokeは周術期せん妄のリスク上昇(ハザード比[HR]2-24,95%CI 1-06-4-73,絶対リスク上昇6%;p=0-030),1年フォローアップ時のovert strokeまたは一過性虚血発作(HR 4-13,1-14-14-99, 絶対リスク上昇3%;p=0-019)にも関連していた. 【解釈】周術期のcovert strokeは、非心臓手術の1年後の認知機能低下のリスク上昇と関連しており、周術期のcovert strokeは非心臓手術を受けた65歳以上の患者の14人に1人で発生していた。周術期のcovert strokeの予防・管理戦略を確立するための研究が必要である。 【FUNDING】Canadian Institutes of Health Research; The Ontario Strategy for Patient Oriented Research support unit; The Ontario Ministry of Health and Long-Term Care; Health and Medical Research Fund, Government of Hong Kong Special Administrative Region, China; and The Neurological Foundation of New Zealand. 第一人者の医師による解説 周術期の潜在性脳梗塞 原因の特定と病態の解明が喫緊の課題 田中 亮太 自治医科大学附属病院脳卒中センター・センター長 教授 MMJ.February 2020;16(1) 非心臓手術例の周術期における症状の明らかな脳梗塞の発症率は0.1~1%程度と報告されており、その後の機能障害や生命予後に大きく影響する(1)。 一方、症状は明らかでないが頭部 MRI拡散強調画 像などで初めて診断される潜在性脳梗塞は実臨床でしばしば観察され、その後の認知機能低下、認知症発症、精神運動速度の低下、そして新たな脳卒中発症のリスクになる。 全身麻酔を要する手術では、 術後の脳障害や記憶障害などが最も懸念される要 因であることが患者調査でも報告されている(2)。このような背景から、非心臓手術後に診断される潜在性脳梗塞(無症状だが、頭部 MRIで診断される急性期脳梗塞)と術後1年時の認知機能低下の関係を調べる多施設共同前向きコホート研究が実施され、 その結果が本論文で報告された。 アジアを含む9カ国、12施設から65歳以上の定 時非心臓手術症例1,116人が登録され、1,114人 が解析対象とされた。平均年齢は73歳、56%が男 性、術前の既往症は高血圧64%、糖尿病27%、心房細動6%、脳卒中5%などであった。整形外科、泌尿器科、婦人科、一般外科の手術症例が多かった。 MRI検査は術後中央値5日に実施され、そのうち 78人(7%)に潜在性脳梗塞が認められた。 潜在性脳梗塞は術後1年時の認知機能低下のリスクを 1.98倍(95% CI, 1.22~3.20)有意に上昇させ たが、麻酔の種類や施設間の影響はなかった。また潜在性脳梗塞は術後3日以内のせん妄(HR, 2.24; 95% CI, 1.06~4.73)、1年以内の有症候性脳梗 塞または一過性脳虚血発作の発症(HR, 4.13;1.14 ~14.99)に有意に影響した。死亡は潜在性脳梗塞群の8%、非脳梗塞群の5%に認められたが、統計学的有意差はなかった(HR, 1.66;95%CI, 0.71 ~3.88)。 本研究から、高齢者(65歳以上)の定時非心臓手術周術期において14人に1人が潜在性脳梗塞を合併し、1年後の認知機能低下の危険因子になることが示された。潜在性脳梗塞の45%は皮質梗塞、 13%は多発性梗塞であり、卵円孔開存や心房細動などの塞栓性の機序が疑われるが、大多数の脳梗塞の原因は不明である。 一方、脳梗塞の原因として悪性腫瘍に伴う過凝固状態、周術期の発作性心房細 動、大量出血に伴う血栓形成傾向などの影響は不明である。また、認知機能低下に影響する因子として術前からある認知機能低下やうつ状態などについても明らかにされていない。手術を受ける高齢者の増加が予想される中で、非心臓手術後の認知機能 低下の予防や長期的予後改善のためには、潜在性脳梗塞の原因、病態、そして関連する要因の解明が喫緊の課題である。 1. Mashour GA et al. Anesthesiology. 2011 Jun;114(6):1289-1296. 2. Matthey P et al. Can J Anaesth. 2001 Apr;48(4):333-339.
急性期脳梗塞治療に用いるnerinetideの有効性および安全性(ESCAPE-NA1試験) 多施設共同二重盲検無作為化対照試験
急性期脳梗塞治療に用いるnerinetideの有効性および安全性(ESCAPE-NA1試験) 多施設共同二重盲検無作為化対照試験
Efficacy and safety of nerinetide for the treatment of acute ischaemic stroke (ESCAPE-NA1): a multicentre, double-blind, randomised controlled trial Lancet. 2020 Mar 14;395(10227):878-887. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30258-0. Epub 2020 Feb 20. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】nerinetideは、シナプス後肥厚タンパク質95を阻害するエイコサペプチドで、前臨床の脳梗塞モデルで有効性が確認されている神経保護薬である。この試験では、急性期脳梗塞患者の急速な血管内血栓除去に伴って起きるヒトの虚血・再灌流に用いるnerinetideの有効性および安全性を評価した。 【方法】8カ国の急性期病院48施設で実施された多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験では、大血管閉塞による急性期脳梗塞発症12時間以内の患者を組み入れた。無作為化時点で後遺症を伴う18歳以上の脳梗塞があり、発症前は地域で自立した生活を送っており、Alberta Stroke Program Early CTスコア(ASPECTS)5点以上で、側副血行路の充満度が中等度ないし良好な(多相CT血管造影で判定) 患者を適格とした。インターネットを用いたリアルタイムの動的、層別、最小化法を用いて、被験者をnerinetide 2.6mg/kg、推定または(分かれば)実際の体重を基に最大用量270mgを静脈内単回投与するグループと生理食塩水のプラセボを投与するグループに1体1の割合で無作為に割り付けた。アルテプラーゼ静脈内投与と申告された血管内デバイスの選択で被験者を層別化した。全試験担当者と被験者には順序と割り付けを伏せておいた。全例に血管内血栓除去を実施し、適応があれば標準治療としてアルテプラーゼを投与した。主要転帰は無作為化90日後の良好な機能的転帰とし、修正ランキン尺度(mRS)スコア0~2点と定義した。神経学的障害、日常生活行動の機能的自立、きわめて良好な機能的転帰(mRS 0~1点)および死亡を副次評価項目とした。解析は、intention-to-treat集団で実施し、年齢、性別、試験開始時のNational Institutes of Health Stroke Scaleスコア、ASPECTS、閉塞部位、施設、アルテプラーゼ投与の有無および申告された最初のデバイスで調整した。安全性評価集団は、被験薬を投与した全例を対象とした。この試験は、ClinicalTrials.govにNCT02930018番で登録されている。 【結果】2017年3月1日から2019年8月12日にかけて、1105例をnerinetide(549例)とプラセボ(556例)に無作為に割り付けた。nerinetide群549例中337例(61.4%)およびプラセボ群556例中329例(59.2%)が90日時にmRSスコア0~2点を達成した(調整後リスク比1.04、95%CI 0.96~1.14、P=0.35)。副次転帰は両群でほぼ同じだった。治療効果の修飾の根拠が認められ、アルテプラーゼを投与した患者で治療効果が阻害された。重度有害事象が両群でほぼ同じ割合で発現した。 【解釈】nerinetideによって、血管内血栓除去後に良好な臨床的転帰を得た患者の割合がプラセボと比較して、改善することがなかった。 第一人者の医師による解説 アルテプラーゼ非使用例で機能予後改善と脳梗塞容積減少 今後の研究に期待 上坂義和 虎の門病院脳卒中センターセンター長 MMJ. October 2020; 16 (5):136 再潅流療法が現在の脳梗塞急性期治療の大きな柱である。しかし、虚血や再潅流障害からの脳保護を目指した脳保護薬の開発も種々試みられてきた。ネリネチド(nerinetide)は興奮毒性をもたらすシグナル伝達を抑制することで神経保護作用を有することが動物実験で示されている。  今回報告されたESCAPE-NA1試験は、前方循環大血管閉塞に血栓回収療法を実施した患者におけるネリネチドの有効性を検討するために、欧米6カ国、オーストラリア、韓国で実施された多施設共同二重盲検ランダム化試験である。対象は、発症前に障害はなく、National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア6点以上、18歳以上、発症後12時間以内でCT血管造影法にて頭蓋内頸動脈か中大脳動脈水平部に閉塞が確認された脳梗塞急性期患者である。Alberta Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)スコア5点以上で軟膜動脈経由の側副血行が中大脳動脈領域の50%以上にみられる比較的側副血行良好な1,105人が組み入れられた。全例で血管内治療による血栓回収療法(EVT)が行われた。アルテプラーゼ静注療法は臨床的判断に基づき実施された。患者はネリネチド群とプラセボ(生食)群にアルテプラーゼ投与有無も均等化されるようランダムに割り付けられた。主要評価項目は発症90日後の修正 Rankin Scale(mRS)0~2の 割合で、2次評価項目としてmRS 0~1の割合、死亡、3次評価項目として脳梗塞容積が解析された。その結果、mRS 0~2はネリネチド群で61.4%、プラセボ群で59.2%、mRS 0~1はそれぞれ40.4%、40.6%、死亡率は12.2%、14.4%、平均脳梗塞容積は71.1mL、73.1mLといずれも有意差を認めなかった。しかしながら、アルテプラーゼ非投与患者446人の解析では、mRS 0~2はネリネチド群で59.3%、プラセボ群で49.8%、死亡率はそれぞれ12.8%、20.3%、平均脳梗塞容積は67.8mL、87.2mLといずれも有意差を認めた。  ネリネチドはアルテプラーゼの作用に影響を与えないが、アルテプラーゼ投与で生じるプラスミンによって開裂されるアミノ酸配列を有する。本研究でもネリネチドの血中ピーク濃度はアルテプラーゼ投与患者で非投与患者の40%程度に低下しており結果に影響を与えた可能性がある。発症から割り付けまでの時間はアルテプラーゼの適応を反映して非投与群で平均270~275分、投与群で152~161分と非投与群では114~118分遅くなっている。発症からやや時間が経過した患者などのアルテプラーゼ非適応患者におけるネリネチドの脳保護作用を期待させるものであり、今後の研究が待たれる。
急性期脳梗塞での血栓回収療法後の積極降圧は機能的転帰を悪化させる
急性期脳梗塞での血栓回収療法後の積極降圧は機能的転帰を悪化させる
Intensive vs Conventional Blood Pressure Lowering After Endovascular Thrombectomy in Acute Ischemic Stroke: The OPTIMAL-BP Randomized Clinical Trial JAMA. 2023 Sep 5;330(9):832-842. doi: 10.1001/jama.2023.14590. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】急性虚血性脳卒中患者の血管内血栓切除術(EVT)による成功した再灌流後の最適血圧(BP)制御は不明です。 【目的】再灌流が成功した最初の24時間後の集中的なBP管理が、EVTを受けた患者の従来のBP管理よりも優れた臨床結果につながるかどうかを判断する。 【設計、設定、および参加者】2022年6月から2022年11月まで韓国の19のストロークセンターで行われた盲検化エンドポイント評価を伴う多施設、無作為化、非盲検試験(2023年3月8日)。EVTで治療された大血管閉塞急性虚血性脳卒中を有する306人の患者が含まれ、2B以上の脳梗塞スコアで修正された血栓溶解(部分的または完全な再灌流)が含まれていました。 【介入】参加者は、集中的なBP管理(収縮期BPターゲット<140 mm Hg; n = 155)または従来の管理(収縮期BPターゲット140-180 mm Hg; n = 150)を登録後24時間受け取るようにランダムに割り当てられました。 【曝露】主な結果は、3か月での機能的独立性でした(0-2のランキンスケールスコアを変更しました)。主な安全性の結果は、36時間以内の症候性脳内出血と、3か月以内のインデックス脳卒中に関連する死亡でした。 【結果】安全性の懸念に注目したデータと安全監視委員会の推奨に基づいて、試験は早期に終了しました。306人の無作為化患者のうち、305人が適格であることが確認され、302人(99.0%)が試験を完了しました(平均年齢、73.0歳、122人の女性[40.4%])。集中的な管理グループは、従来の管理グループ(54.4%)よりも機能的独立性(39.4%)を達成する割合が低く、有意なリスク差(-15.1%[95%CI、-26.2%から-3.9%))および調整オッズ比(0.56 [95%CI、0.33-0.96]; p = .03)。症候性脳内出血率は、集中群で9.0%、従来のグループで8.1%でした(リスク差、1.0%[95%CI、-5.3%〜7.3%];調整済みオッズ比、1.10 [95%CI、0.48–2.53]; p = .82)。3か月以内のインデックスストロークに関連する死亡は、集中群の7.7%と従来のグループの5.4%で発生しました(リスク差、2.3%[95%CI、-3.3%から7.9%];調整済みオッズ比、1.73 [95%CI、0.61-4.92]; p = .31)。 【結論と関連性】大きな血管閉塞を伴う急性虚血性脳卒中のEVTとの成功した再灌流を達成した患者の間で、24時間の集中的なBP管理により、従来のBP管理と比較して3か月での機能的独立の可能性が低くなりました。これらの結果は、急性虚血性脳卒中でEVTが成功した後、集中的なBP管理を避けるべきであることを示唆しています。 【試験登録】ClinicalTrials.gov識別子:NCT04205305。 第一人者の医師による解説 急性期脳梗塞では有効な再灌流が得られても 血圧を下げ過ぎない方が良い 山上 宏 筑波大学医学医療系脳卒中予防・治療学教授 MMJ.April 2024;20(1):9 急性期脳梗塞では血圧を下げると脳血流量が減少し梗塞巣の拡大を来すため、降圧療法は勧められていない。一方、大血管閉塞による急性期脳梗塞に対する血栓回収療法後では、血圧高値の持続が頭蓋内出血や脳浮腫の発生を介して機能的転帰の悪化と関係することが報告されている(1)。血栓回収療法により有効な再灌流が得られれば、降圧しても脳血流量の減少は軽度である可能性もあり、積極降圧療法が患者の転帰を改善させることが期待されていた。 OPTIMAL-BP(Outcome in Patients Treated With Intra-Arterial Thrombectomy-Optimal Blood Pressure Control)試験は、大血管閉塞による急性期脳梗塞に対して血栓回収療法により有効再開通が得られ、治療後2時間以内に収縮期血圧(SBP)140mmHg以上である患者を、積極降圧群(目標 SBP 140mmHg未満)と標準降圧群(目標SBP 140~180mmHg)に割り付けたランダム化比較試験である。降圧療法は主にニカルジピンが用いられ、割り付けから1時間以内に目標血圧を達成し24時間維持することとされた。主要有効性評価項目は、3カ月後に日常生活が自立した患者の割合、主要安全性評価項目は36時間以内の症候性頭蓋内出血および3カ月以内の脳梗塞関連死の発生とした。本試験は、安全性の懸念などから早期に中止され、ランダム化された306人のうち302人が解析対象となった。積極降圧群では標準降圧群に比べ、日常生活自立を達成した患者が有意に少なく(39.4% 対 54.4%)、症候性頭蓋内出血の発生に差はなかった(9.0% 対 8.1%)。また、悪性脳浮腫の発生は積極降圧群で有意に多かった(7.7% 対1.3%)。 先行研究であるENCHANTED2/MT試験(2)においても、血栓回収療法後の積極降圧(目標 SBP 120mmHg未満)は標準降圧(目標 SBP 140~180mmHg)に比べ90日後の機能的転帰を悪化させており、本試験の結果と一致していた。有効な再灌流が得られても、すでに虚血が進行している領域では降圧療法によって脳血流量が減少して細胞障害が悪化する可能性や、脳微小循環への悪影響によって脳浮腫が進行する可能性がある。また、積極降圧が症候性頭蓋内出血の発生を抑制できなかったことも共通した結果であり、この点でも積極降圧のメリットはないと言えるであろう。急性期脳梗塞では、再灌流が得られてもSBPを140~180mmHgに維持すべきと考えられる。 1. Goyal N, et al. Neurology. 2017;89(6):540-547. 2. Yang P, et al. Lancet. 2022;400(10363):1585-1596