「心疾患」の記事一覧

心エコーから見る病態と治療方針
心エコーから見る病態と治療方針
Point EFが40%を切る場合は「HFrEF(ヘフレフ)」であり、ACE阻害薬やMRA(スピロノラクトン等)の追加適応となる HFrEFはペースメーカー心の影響や高血圧性心臓病などが関係している 肺エコーのBラインの線が5本位見られたら、肺水腫を疑うが、息切れ・浮腫・体重増加・肺うっ血等が重なってきた場合に、総合的に心不全を判断する 以下のような自覚症状がある場合に、利尿薬の増量が必要 ・平地歩行でも息が上がる(NYHA Ⅲ) ・体重が日に日に増えていく ・浮腫が悪化していく 結論 ペースメーカを長期留置している人は心機能が低下することがあり、息切れなど心不全症状があれば精査・治療を行う 参考 従来はLVEFの測定にMモード法が用いられてきましたが、局所の二点間からの情報で左室全体の心機能を推定するため,局所壁運動異常や左室伝導障害を認める症例では 測定誤差を生じ、正確性に劣ると考えられるようになっています 現在最も推奨されるLVEFの測定方法は,2D断層心エコー法を用い、左室容積をベースとした disk summation法(modified Simpson法)です。その際には,心尖部四腔像と二腔像の二断面から左室容積を求めてLVEFを算出します 日本で発売されているポケットサイズのエコーでは2点間測定しかできないものが多く、正確な判断を行うにはより高性能なエコーが必要です 2021年改訂版 循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Ohte.pdf ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
脳卒中の予防を目的とした心臓手術中の左心耳閉鎖術
脳卒中の予防を目的とした心臓手術中の左心耳閉鎖術
Left Atrial Appendage Occlusion during Cardiac Surgery to Prevent Stroke N Engl J Med. 2021 Jun 3;384(22):2081-2091. doi: 10.1056/NEJMoa2101897. Epub 2021 May 15. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】手術による左心耳の閉鎖は、心房細動患者の虚血性脳卒中を予防すると言われているが、証明されていない。この手技は、別の理由による心臓手術中に施行することが可能である。 【方法】別の理由による心臓手術を予定しており、CHA2DS2-VAScスコア(0~9、スコアが高いほど脳卒中リスクが高いことを示す)が2点以上の心房細動を有する患者を対象に、多施設共同無作為化試験を実施した。患者を無作為化により、手術中に左心耳閉鎖術を施行するグループと左心耳閉鎖術を施行しないグループに割り付けた。全患者に追跡期間中、経口抗凝固薬など通常の治療を実施する予定とした。主要評価項目は、虚血性脳卒中(神経画像検査で所見がみられる一過性脳虚血発作を含む)または全身性塞栓症の発生とした。患者、試験担当者および(外科医を除く)プライマリケア医に試験群の割り付けを伏せた。 【結果】主解析は、閉鎖群2,379例、非閉鎖群2,391例を対象とした。平均年齢は71歳、CHA2DS2-VASc平均スコアは4.2点だった。参加者を平均3.8年間追跡した。92.1%が割り付けた手術を受け、76.8%が3年時点で経口抗凝固薬服用を継続していた。閉鎖群の114例(4.8%)、非閉鎖群の168例(7.0%)が脳卒中または全身性塞栓症を発症した(ハザード比、0.67;95%CI、0.53~0.85;P=0.001)。周術期出血、心不全または死亡の発生率には両試験群間に有意差は認められなかった。 【結論】心臓手術を施行した心房細動患者で、ほとんどが経口抗凝固薬の服用を継続しており、虚血性脳卒中または全身性塞栓症のリスクは心臓手術中に左心耳閉鎖術を同時に施行した方が左心耳を閉鎖しないよりも低かった。 第一人者の医師による解説 左心耳閉鎖術は抗凝固療法の脳梗塞予防効果を増強 さらなる研究を期待 浅井 徹 順天堂大学医学部心臓血管外科学教授 MMJ. February 2022;18(1):9 心房細動は高齢者によくみられ、脳梗塞の原因のうち約25%を占めている。心原性脳塞栓症の多くは心房細動に起因し、左心房にある左心耳が血栓塞栓物の発生部位と考えられている(1)。経口抗凝固薬は左心耳内の血栓形成抑制効果を有する安全な薬剤であり、心房細動のある患者で脳梗塞発症率をおよそ3分の2に低下させることが明らかになっている。しかし実際には、投薬の中断や用量のコントロールが不十分であるといった問題がある。これに対し、左心耳閉鎖術は心房細動合併患者の脳梗塞発症リスクを半永久に低下させる効果が期待されているが、ランダム化試験ではまだ証明されていない。 本論文は、心臓手術を受ける患者のうち心房細動を有するCHA2DS2-VAScスコア2以上の患者を対象に追加手技として左心耳閉鎖術の実施群(2,379人)と非実施群(2,391人)で術後遠隔期までの脳梗塞発症を比較した多施設ランダム化試験(LAAOS III試験)の報告である。左心耳閉鎖術の方法は、切除閉鎖(推奨)、ステイプラーによる切除、デバイスによる閉鎖、または左心房内からの閉鎖が用いられ、術中経食道心エコーによる確認が推奨された。手術後の患者は経口抗凝固薬を含めた通常の薬物療法を受けた。平均追跡期間は3.8年、術後3年の時点で全体の76.8%の患者が経口抗凝固療法を継続していた。その結果、主要評価項目である脳梗塞または他臓器の塞栓症の発症率は、左心耳閉鎖術実施群4.8%、非実施群7.0%であった(ハザード比 , 0.67;95%信頼区間 , 0.53~0.85;P=0.001)。また、周術期の出血合併症、心不全、死亡率で両群間に有意差はなかった。著者らは、心房細動を有する患者が心臓手術を受ける際に左心耳閉鎖術を併施した場合、併施しない場合と比較して、術後の脳梗塞または他臓器の塞栓症の発症リスクが低くなると結論づけている。 左心耳は心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の産生部位であり、左心耳の切除によって腎における塩と水の排出が損なわれ心不全が増悪する懸念があるが、今回の試験では術後早期も遠隔期も心不全による入院や死亡率に関して両群間で差を認めなかった。LAAOS III試験は、左心耳閉鎖術自体と経口抗凝固療法を比較した研究ではないため、左心耳閉鎖術が経口抗凝固療法の代用となりうるとは解釈できないが、左心耳閉鎖術が経口抗凝固療法の脳梗塞発症率をさらに3分の2ほどに低下させる効果があることを示しており、今後のさらなる研究結果が待たれるところである。 1. Blackshear JL, et al. Ann Thorac Surg. 1996;61(2):755-759.
動脈血栓塞栓症のリスクが高い患者に用いる低分子ヘパリンによる術後橋渡し療法(PERIOP2試験):二重盲検無作為化比較試験
動脈血栓塞栓症のリスクが高い患者に用いる低分子ヘパリンによる術後橋渡し療法(PERIOP2試験):二重盲検無作為化比較試験
Postoperative low molecular weight heparin bridging treatment for patients at high risk of arterial thromboembolism (PERIOP2): double blind randomised controlled trial BMJ. 2021 Jun 9;373:n1205. doi: 10.1136/bmj.n1205. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心房細動患者および機械弁を留置した患者を対象に、待期手術のためにワルファリン投与を一時的に中止した場合のダルテパリンによる術後橋渡し療法について、プラセボと比較した有効性および安全性を明らかにすること。 【デザイン】前向き二重盲検無作為化比較試験。 【設定】2007年2月から2016年3月までのカナダおよびインドの血栓症研究機関10施設。 【参加者】手術前にワルファリンを一時中止する必要がある18歳以上の心房細動患者および機械弁を留置した患者計1,471例。 【介入】手術後、無作為化によりダルテパリン群(821例;1例が無作為化直後に同意撤回)またはプラセボ群(650例)に割り付けた。 【主要評価項目】術後90日以内の主要な血栓塞栓症(脳卒中、一過性脳虚血発作、近位深部静脈血栓症、肺塞栓症、心筋梗塞、末梢血管塞栓症または血管死)およびInternational Society on Thrombosis and Haemostasis基準に基づく大出血。 【結果】術後90日以内の主要な血栓塞栓症発生率は、プラセボが1.2%(650例中8件)、ダルテパリン群が1.0%(820例中8件)であった(P=0.64、リスク差-0.3%、95%CI -1.3~0.8)。大出血発生率は、プラセボ群が2.0%(650例中13件)、ダルテパリン群が1.3%(820例中11件)であった(P=0.32、同-0.7%、-2.0~0.7)。結果は、心房細動群および機械弁群で一致したものであった。 【結論】手術のためワルファリンを一時的に中止した心房細動患者および機械弁留置患者に術後のダルテパリンによる橋渡し療法を実施しても主要な血栓塞栓症予防に対して有意な便益は認められなかった。 第一人者の医師による解説 術前にヘパリン置換を行った場合機械弁患者群でも術後ヘパリン置換は血栓塞栓症予防に必要ないことを示唆 松下 正 名古屋大学医学部附属病院輸血部教授 MMJ. February 2022;18(1):20 心房細動や機械式心臓弁を有し、観血的手技のためにワルファリンの中断が必要な場合、ヘパリンによるブリッジング(いわゆるヘパリン置換)が有益であるかどうかは議論が続いている。2015年発表のBRIDGE試験では、低分子ヘパリン(LMWH)によるブリッジングは必要ないとの結論に至ったが(1)、同試験の対象者として機械弁や最近の血栓症、大出血既往や高出血リスク手技、腎機能障害など複雑なケアを受ける患者は除外されていた。本論文の著者らは、今回報告されたPERIOP2試験に先立つ単群多施設共同パイロット試験(2)において、LMWH(ダルテパリン;日本ではフラグミン®として発売。ただし保険適用は体外循環時血液凝固防止[透析]と播種性血管内凝固症[DIC]のみ)によるブリッジングを検討し、手技後の血栓症発生(発生率3.1%)の75%は手技後の出血事象により抗凝固療法を中止した患者に発生しており、一方で術前の投与は安全であると考えられたことから、今回術前にLMWHを投与し、術後のLMWHもしくはプラセボ投与による、出血イベントおよび血栓塞栓症の発生率を比較する無作為化対照試験を実施した。なおこの試験の対象者には、BRIDGE試験で除外された機械弁患者は含まれていたが、複数の機械弁、機械弁ありで脳卒中または一過性虚血発作歴のある患者は除外された。そのほか、活動性出血、血小板数10万未満、脊椎や脳外科手術、腎機能障害患者は本試験でも除外された。 対象は心房細動または機械式心臓弁を有する18歳以上の患者1,471人で、CHADS2スコアの平均は2.42、患者の41.2%が3.0以上であった。アスピリンは24.5%の患者が服用していた。手術後90日以内の国際血栓止血学会(ISTH)基準による重大な血栓塞栓症の発生率はプラセボ群1.2%(8/650)、ダルテパリン群1.0%(8/820)で有意差はなく(リスク差-0.3%;95%信頼区間[CI],-1.3 ~ 0.8;P=0.64)、大出血の発生率もプラセボ群2.0%(13/650)、ダルテパリン群1.3%(11/820)と有意差がなかった(リスク差-.7;95% CI,-2.0~0.7;P=0.32)。この結果は心房細動群と機械式心臓弁群でも一貫していた。機械弁患者には依然としてビタミン K拮抗薬が抗凝固薬として選択されており、この患者群でも重大な血栓塞栓症の予防に術後ブリッジングが必要ないことが示された。 1. Douketis JD, et al. N Engl J Med. 2015;373(9):823-833. 2. Kovacs MJ, et al. Circulation. 2004;110(12):1658-1663.
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症の負担、治療および転帰:観察コホート試験
Burden, treatment use, and outcome of secondary mitral regurgitation across the spectrum of heart failure: observational cohort study BMJ. 2021 Jun 30;373:n1421. doi: 10.1136/bmj.n1421. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心不全にみられる2次性僧帽弁逆流症(sMR)の有病率、長期転帰および治療基準を定義すること。 【デザイン】大規模コホート試験。 【設定】2010年から2020年までのオーストリア・ウィーン地域病院ネットワークのデータを用いた観察的コホート試験。 【参加者】心不全のサブタイプを問わないsMR患者13,223例。 【主要評価項目】sMRと死亡率の相関。ガイドライン診断基準により、心不全を駆出率低下、中間範囲の駆出率、駆出率維持の3つのサブタイプに分類し、患者を評価した。 【結果】1,317例(10%)が重症sMRの診断を受け、年齢上昇との相関が認められた(P<0.001)。この相関は、心不全のさまざまの重症度に認められ、駆出率が低下した患者が2,619例中656例(25%)と最も多かった。同一地域の同年齢および同性の集団と比較した重症sMR患者の死亡率が予想よりも高かった(ハザード比7.53;95%信頼区間 6.83~8.30;P<0.001)。軽症sMRやsMRがない心不全と比較すると、中等症sMRや重症sMRの死亡率が段階的に増加し、ハザード比が中等症sMRで1.29(95%信頼区間 1.20~1.38;P<0.001)、重症sMRで1.82(同1.64~2.02;P<0.001)であった。重症sMRと超過死亡率の相関は多変量解析後も変わらず、心不全の全サブグループに認められた(中間範囲の駆出率:ハザード比2.53(同2.00~3.19;P<0.001)、駆出率低下:1.70(同1.43~2.03;P<0.001)、駆出率維持:1.52(同1.25~1.85;P<0.001))。最先端の医療が利用でき、心不全の症例数も多く、弁膜疾患プログラムがあったが、重度sMRに対して弁形成術(7%)も弁置換術(5%)もほとんど施行されていなかった。低リスクの経カテーテル弁形成術(4%)もほぼ同じで、ほとんど施行されていなかった。 【結論】2次性僧帽弁逆流は全体的に頻度が高く、年齢とともに増加し、超過死亡率との相関が認められた。有害転帰との相関は心不全全体に認められたが、駆出率が中間範囲の患者と駆出率が低下している患者に特に顕著であった。このように転帰が不良であるが、外科的な弁形成術や弁置換術がほとんど施行されていない。同じく低リスクの経皮的弁形成も、治療による最も大きな便益が期待できる心不全サブタイプにさえほとんど施行されていない。今回のデータは、特に高齢化社会で心不全の増加が予想されることを踏まえて、治療に対する需要が高まっていることを示唆するものである。 第一人者の医師による解説 患者利益に資するにはエビデンス不十分 質の高い無作為化試験が望まれる 児玉 隆秀 虎の門病院循環器センター内科部長 MMJ. February 2022;18(1):11 2次性僧帽弁閉鎖不全症(sMR)は心不全患者に多くみられ、生活の質(QOL)低下や予後悪化につながる。しかし、sMRは罹患頻度が低く、先行研究の主な対象は疾患特異性や疫学的特徴の違う原発性 MRであったため、転帰や標準的治療に関する知見は不十分であった。 本論文は、心不全に合併するsMRの疫学的特徴、心不全サブタイプと予後との関連、最先端施設での治療の現状を明らかにすべく、ウィーン医科大学の医療記録と超音波データベースを用いたコホート研究の報告である。心不全とsMRを合併する患者13,223人を対象とし、心不全はHFpEF(左室駆出率[LVEF]50%以上)、HFmrEF(LVEF 40~49%)、HFrEF(LVEF 40%未満)に分類された。全死亡を主要評価項目とし、sMR重症度別に解析した。中等度以上のsMRは心不全患者の40%を占め、LVEF低下や加齢とともに重症度が増加した。重度 sMRはsMRなし/軽度に比べ、すべての心不全サブタイプで死亡率上昇と関連し、特にHFmrEFで顕著であった。重度 sMRに対する弁形成術、弁置換術または経カテーテル弁形成術の実施率は15.2%にとどまっていた。 心不全患者の予後と直結するsMRに対する介入はもっと行われて然るべきであるが、実際には十分に行われていない理由として高齢患者の併存疾患数の多さが挙げられよう。手術リスク評価において年齢、併存疾患、心不全既往、収縮機能障害は重要な要素であり、ほとんどのsMR患者は手術適応外となる。また、外科的な弁の修復・置換がsMR患者の生存率改善につながるという確かなエビデンスはなく、ガイドラインでも内科的治療の重要性が強調されている。しかし、本研究は内科的治療の恩恵があまり明確でないHFmrEF患者においてsMRの死亡リスクが最も高いことを示し、低侵襲な経カテーテル僧帽弁形成術が可能となっている今日では、このような患者群に対して僧帽弁への介入がもっと行われるべきであることを指摘している。 sMRは心不全の原因ではなく、心不全の原因疾患に起因する心臓の構造的変化により2次的に生じてくるものである。また、体液量や内科的治療によりダイナミックに変化しうる。したがって、sMRへの介入のみでは不十分であり、「弁膜症治療のガイドライン 2020年改訂版」では第1に内科的治療の重要性が明記されている。一方、僧帽弁への介入は十分なエビデンスの蓄積がないことを理由に、虚血性 sMRを除いて推奨度は高くない。今回の結果からsMRに対する僧帽弁インターベンションの無作為化試験の必要性が認識され、最適な治療の方向性が見いだされれば、意義深い研究と思われる。
心血管疾患1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関:系統的レビューとペアワイズネットワーク用量反応メタ解析
心血管疾患1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関:系統的レビューとペアワイズネットワーク用量反応メタ解析
Associations between statins and adverse events in primary prevention of cardiovascular disease: systematic review with pairwise, network, and dose-response meta-analyses BMJ. 2021 Jul 14;374:n1537. doi: 10.1136/bmj.n1537. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】心血管疾患の1次予防に用いるスタチンと有害事象の相関を評価し、その相関はスタチンの種類や投与量によってどのように変化するかを検討すること。 【デザイン】系統的レビューとメタ解析。 【データ入手元】既報の系統的レビューおよび2020年8月までのMedline、EmbaseおよびCochrane Central Register of Controlled Trialsを検索して試験を特定した。 【レビュー方法】心血管疾患歴のない成人を対象に、スタチンとスタチン以外の対照または他の種類のスタチンを比較した無作為化比較試験およびスタチンの投与量別に比較した無作為化比較試験を対象とした。 【主要評価項目】自己報告による筋症状、臨床的に確認した筋疾患、肝機能障害、腎機能不全、糖尿病、眼症状などのよくみられる有害事象を主要評価項目とした。心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡などを有効性の副次評価項目とした。 【データ統合】ペアワイズメタ解析を実施し、スタチンとスタチン以外の対照の間で各転帰のオッズ比および95%信頼区間を算出し、1年間投与した患者1万人当たりの事象発生件数の絶対リスク差を推定した。ネットワークメタ解析を実施し、スタチンの種類別に副作用を比較した。Emaxモデルを用いたメタ解析により各スタチンによる副作用の用量反応関係を評価した。 【結果】計62の試験を対象とし、参加者が計120,456例、平均追跡期間が3.9年であった。スタチンにより自己報告による筋症状(21報、オッズ比1.06(95%CI 1.01~1.13);絶対リスク差15(95%CI 1~29)、肝機能障害(21報、オッズ比1.33(1.12~1.58);絶対リスク差8(3~14))、腎機能不全(8報、オッズ比1.14(1.01~1.28);絶対リスク差12(1~24))および眼症状(6報、オッズ比1.23(1.04~1.47);絶対リスク差14(2~29))のリスクが上昇したが、臨床的に確認した筋疾患および糖尿病のリスクの上昇はみられなかった。このリスクの上昇は、主要心血管事象のリスク低下の価値を上回ることはなかった。アトルバスタチン、lovastatin、ロスバスタチンにそれぞれ一部の有害事象との相関が認められたが、スタチンの種類に有意差がほとんど認められなかった。Emaxで用量反応関係によりアトルバスタチンが肝機能障害に及ぼす影響が認められたが、他のスタチンと副作用の用量反応関係については結論に至らなかった。 【結論】心血管疾患の1次予防に用いるスタチンに起因する有害事象のリスクは低く、心血管疾患予防の有効性を上回るものではなかった。この結果は、スタチンのリスクと便益の比が一般的に良好であることを示唆している。安全性に関する懸念事項を考慮に入れ、治療開始前にスタチンの種類や投与量を調整することを支持する科学的根拠は少なかった。 第一人者の医師による解説 1次予防におけるスタチンより長期での安全性は今後の課題 岡﨑 啓明 自治医科大学内分泌代謝学部門准教授 MMJ. February 2022;18(1):12 コレステロール管理に関する現在のガイドラインでは、心血管リスクが高い人ほど、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)をしっかりと下げることが基本理念となっている。心血管リスクが高く再発予防を目的とした場合、スタチン服用の意義は医者にも患者にも受け止めやすいであろう。しかし、1次予防では、心血管リスクが実感しづらいこともあり、スタチンの有益性(benefit)が本当に有害性(harm)を上回るのか、悩ましく感じる局面もある。2次予防目的のスタチン使用については、これまで多くの臨床試験から、有害性よりも有益性の方が大きいことが明らかとなっている。一方、1次予防では、もともと心血管リスクが低く、スタチンの有益性は2次予防に比べれば小さくなるため、有害性についてより慎重な検討が必要となる。例えば、スタチンを服用しているためになんとなく筋肉が痛いと思ってしまう“ノセボ効果”によって、有害性が過大評価される可能性もあり(1)、有害事象の定義を明確にしながら、正しい結論を得る必要がある。 そこで本論文では、1次予防でのスタチンと有益性・有害性の関連についてメタ解析を行った。筋障害については、定義を明確にし、自覚的筋症状と、他覚的筋疾患に分けて解析した。その結果、スタチンに関連して、自覚的筋症状、肝障害、腎障害、眼障害が有意に増加したが、リスク上昇はいずれもわずかであった。他覚的筋疾患については有意な増加を認めなかった。スタチンの種別検討では、有害事象の発現率に明らかな違いは認めず、またスタチンの用量別の検討では、有害事象の用量依存性は明らかではなかった(これについては異なる試験の結果の比較という方法論的問題もあるかもしれないが)。以上から、著者らは、心血管疾患の1次予防で、スタチンの有益性は有害性を上回る、と結論している。 コレステロールは、コレステロールの高さx年数の積算値的に心血管リスクとなる(cholesterol x years risk)(2)。心血管リスクの高い人ほどコレステロールを低くする、“the lower, the better”という基本理念に加えて、生まれつきのコレステロール値が高い人(例えば家族性高コレステロール血症)ほど若いころから治療した方がよいという理念、“the lower, the earlier, the better”が確立されてきている(3)。では、何歳から処方を開始すべきかとなると、有益性 /有害性のバランスに悩んでしまうこともあるが、そのような場合にも、今回のような研究は参考となるだろう。ただし、より長期間で安全かどうかは、今回の研究からは明確ではない。古くからの治療薬だが、臨床的に重要な課題が残されている。 1. Herrett E, et al. BMJ. 2021;372:n135.(MMJ 2021 年 8 月号 ) 2. Cohen JC, et al. N Engl J Med. 2006;354(12):1264-1272. 3. Khera AV, et al. J Am Coll Cardiol. 2016;67(22):2578-2589.
Ⅰ度房室ブロック・右脚ブロック・左軸変異をみたら?
Ⅰ度房室ブロック・右脚ブロック・左軸変異をみたら?
Point ①レントゲンで肺野と心臓の状況をチェックしましょう ・肺尖部は問題なし ・肺過膨張気味 ・心拡大なし ・肺門中心性の肺血管陰影はやや増強気味 ・左の2・3弓が突出=左房拡大が疑われる ②心電図では肢誘導と胸部誘導を分けてチェックしましょう 【肢誘導】 ・Ⅰ誘導:上向き、Ⅱ誘導:下向き = 異常左軸 ⇒左脚のヘミブロックの可能性が高い 【胸部誘導】 ・P派~QRSの立ち上がりが200ms ⇒Ⅰ度房室ブロックだと考えられる ・小さなQ波が出てRSパターンが出現 ⇒ 右脚ブロック型だと考えられる ①右脚ブロック型、②左脚ヘミブロック、③Ⅰ度房室ブロック ⇒もう一本切れると、「3束ブロック(3肢ブロック)」の可能性がある ⇒全部切れてしまうと、「完全房室ブロック」・「高度房室ブロック」への進展リスクが非常に高い 結論 一度房室ブロック、右脚ブロック、左軸変異をみたら三枝ブロックを疑い、失神に注意する ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
心電図の読み方:これって心房細動?
心電図の読み方:これって心房細動?
Point ①レントゲンでは肺野と心臓の状況をチェックしましょう ・肺野:辺縁、CP angle、横隔膜の高さ、肺の過膨張、気管の変異、骨折の有無 ・心臓:縦隔の拡大、右の1・2弓、左の1・2・3・4弓の腫脹の有無 ⇒ 今回はどちらも異常は無いが、だからといって、心房細動を否定することにはならない ②心電図では肢誘導・胸部誘導に分けてチェックしましょう 【肢誘導】1) Ⅱ・Ⅲ誘導のP派 ⇒ P派が見えづらく、洞停止または心房細動が疑われる  さらにR-R間隔が不正の場合は、心房細動の可能性が高い 2) Ⅰ,Ⅱ誘導の電位の向き ⇒ どちらも上向きの電位の方が高いので、軸は正常 3) Ⅲ誘導・aVF誘導のT派 ⇒ 増高不良があり、心筋障害を疑う 【胸部誘導】1) V2誘導のP派(心房レート) ⇒ 心房レート300程度であり、心房細動(心房レート400-600程度)ではなさそう 2) 300を”R-R間隔の目盛り数”で割り、心拍数の算出 ⇒ 心拍数75~100であり、何らかの不整脈が起こっている 結論 高齢+心房レート200〜300回/分の不整脈をみたら心房頻拍を疑う。心房細動の合併があるかもしれず、ホルター心電図やエコーで評価をしよう ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
DDIRペースメーカー挿入患者の心電図の読み方
DDIRペースメーカー挿入患者の心電図の読み方
Point ①レントゲンでは肺野と心臓の状況をチェックしましょう ・肺野は肺門中心性の肺血管陰影増強しており、うっ血の可能性あり ・心拡大 ・ペースメーカーリードは「心房」「心尖部」にあり ②心電図の肢誘導・胸部誘導を分けてチェックしましょう 【肢誘導】・心尖部ペーシングは下から上に電気が流れる=Ⅱ誘導・Ⅲ誘導が下向きの波形になる ・PQR=120ms以上は、心拍は「心室」から出ている 【胸部誘導】・V2誘導で「M字型」なら右脚ブロック型であり、左室起源のPVC(心室期外収縮)や補充調律を疑う。起源は僧帽弁弁論、または心外膜側と予想。 今回のケースは、ペースメーカー電位発生→ PVCを繰り返しているように見える二段脈とは断定できないが、補充調律にしては変なリズムを刻んでいる⇒PVCが日常的に出ているのか、一度ホルター心電図を用いて精査しましょうPVCと診断する場合は、βブロッカーを追加した上で、ペーシングレートを設定する 結論 波形が一心拍ごとに変わる場合は二段脈が疑わしいが、ペースメーカー埋め込み時の場合はセンス不良も鑑別になる ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
若年男性・不完全右脚ブロック・ST上昇をみたら?
若年男性・不完全右脚ブロック・ST上昇をみたら?
Point ①P派の向き ・Ⅱ誘導、V1・V2誘導で上向き = 洞調律 ②P-R間隔 ・200ms未満のため、Ⅰ度房室ブロックなし ③QRS幅 ・100~120ms未満のため、不完全脚ブロック ④M字型の有無 ・ⅠⅡ誘導でM字型であり、右脚ブロック ⇒「若い男性」×「不完全右脚ブロック」を見たら、「ST」を見る! Brugada型心電図:V1~V3に起こる不完全右脚ブロック+STの有意な上昇のある場合・STが平坦な場合=Saddle back型⇒V2,3において2mV以上の上昇がなく、リスク因子無ければ経過観察・STが下向き(down slope型)の場合=Coved型⇒不整脈のリスクが高く、精査をしたほうが良いBrugada型心電図では、Brugada症候群(若年男性がVT(心室頻拍)や心室細動を起こす突然死症候群で、「ぽっくり病」とも呼ばれる。)のリスクがある 微妙なケースの場合は、以下の順で心電図波形を確認する1. 肋間を上げる2. ピルジカイニド投与 or 運動負荷(安息時)3. EPS(心臓電気生理学的検査)⇒ST部分の変化や、Coved型になるか、容易に不整脈が誘発されるか、失神歴がある場合等、Brugada型症候群が考えやすい場合には、ICD(埋込み型除細動器)の埋め込みを検討する 結論 若年男性・不完全右脚ブロック・ST上昇をみたらBrugada症候群を疑う 参考 日本循環器学会発刊のガイドライン https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/ ハトミルさんへの相談はこちら » 心不全の診断や治療法について悩みを抱える医師を循環器専門医がサポートします。 匿名かつ非公開で、専門医と直接やりとりできるので、「こんなこと聞いてもいいの?」という質問でも構わず、なんでも気軽に相談してください。 このチャンネルでは、心不全に関するお悩みを循環器専門医が解決します。医用の診療相談サービス「心不全相談 ハトミルさん」に寄せられた質問を基に、専門医が解説を行っています。ハトミルさんは、医師のための臨床互助ツール「ヒポクラ × マイナビ」を管理する株式会社エクスメディオが運営しています。医師免許をお持ちの方であれば、「ヒポクラ × マイナビ」に会員登録いただくと、無料で使うことができます。 「ヒポクラ × マイナビ」についてはこちら 「株式会社エクスメディオ」についてはこちら
植込み型ループレコーダーによる心房細動スクリーニングは予後を改善せず
植込み型ループレコーダーによる心房細動スクリーニングは予後を改善せず
Implantable loop recorder detection of atrial fibrillation to prevent stroke (The LOOP Study): a randomised controlled trial Lancet. 2021 Oct 23;398(10310):1507-1516. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01698-6. Epub 2021 Aug 29. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 心房細動のスクリーニングと、心房細動が検出された場合のその後の抗凝固剤による治療が、脳卒中を予防できるかどうかは不明である。植え込み型ループレコーダー(ILR)を用いて心電図を継続的に監視することで,無症状の心房細動エピソードの検出が容易になる。我々は,心房細動のスクリーニングと抗凝固薬の使用が,高リスクの人の脳卒中を予防できるかどうかを調べることを目的とした。 【方法】我々は,デンマークの4施設で無作為化対照試験を行った。対象は心房細動のない70~90歳の人で,少なくとも1つの脳卒中リスク因子(すなわち,高血圧,糖尿病,脳卒中の既往,心不全)を追加した人であった。参加者は、オンラインシステムを介して、ILRモニタリング群と通常のケア(コントロール)群に1:3の割合で無作為に割り付けられ、センターに応じて4人または8人のブロックサイズで層別された順列ブロックで行われた。ILR群では、心房細動が6分以上続いた場合、抗凝固療法が推奨された。主要評価項目は,最初の脳卒中または全身性動脈塞栓症を発症するまでの時間であった。本試験はClinicalTrials. gov, NCT02036450に登録されている。 【結果】2014年1月31日から2016年5月17日までに、6205人が対象としてスクリーニングされ、そのうち6004人が対象となり、無作為に割り付けられた。1501人(25-0%)をILRモニタリングに、4503人(75-0%)を通常ケアに割り付けた。平均年齢は74~7歳(SD 4~1)、2837人(47~3%)が女性で、5444人(90~7%)が高血圧症だった。追跡調査で失われた参加者はいなかった。中央値64-5カ月(IQR 59-3-69-8)の追跡期間中、1027人の参加者に心房細動が診断された。ILR群1501人中477人(31-8%)に対し,対照群4503人中550人(12-2%)であった(ハザード比[HR]3-17[95%CI 2-81-3-59],p<0-0001)。経口抗凝固療法が開始されたのは1036名であった。経口抗凝固療法が開始されたのは1036名で,ILR群445名(29-7%)対対照群591名(13-1%)(HR 2-72 [95%CI 2-41-3-08]; p<0-0001),主要転帰が発生したのは318名(脳卒中315名,全身性動脈塞栓症3名)で,ILR群67名(4-5%)対対照群251名(5-6%)(HR 0-80 [95%CI 0-61-1-05]; p=0-11)であった。大出血は221名に発生しました。脳卒中の危険因子を有する人において,ILRスクリーニングにより心房細動の検出および抗凝固療法の開始が3倍に増加したが,脳卒中および全身性動脈塞栓症のリスクは有意に減少しなかった。これらの知見は,すべての心房細動がスクリーニングに値するわけではなく,また,スクリーニングで検出されたすべての心房細動が抗凝固療法に値するわけではないことを示唆しているかもしれない。 【FUNDING】Innovation Fund Denmark,The Research Foundation for the Capital Region of Denmark,The Danish Heart Foundation,Aalborg University Talent Management Program,Arvid Nilssons Fond,Skibsreder Per Henriksen,R og Hustrus Fond,The AFFECT-EU Consortium (EU Horizon 2020),Lage Sophus Carl Emil Friis og hustru Olga Doris Friis’ Legat,Medtronic。 第一人者の医師による解説 短時間の心房細動発作に対する抗凝固療法の意義は再検討が必要 香坂 俊 慶應義塾大学医学部循環器内科専任講師 MMJ. April 2022;18(2):39 本論文は、脳卒中危険因子(いわゆるCHADSスコアでカウントされる項目のうち心不全、高血圧、糖尿病、脳卒中の既往のいずれか1つ以上)を有するが、心房細動(AF)とは診断されていない70〜90歳の患者を対象に行われたランダム化対照試験(LOOP試験)の報告である。登録患者は植込み型ループレコーダー(ILR)群もしくは通常ケア(対照)群に割り付けられ、ILR群でAFが検出され、発作が6分以上持続する場合には抗凝固療法が推奨された。 両群の患者は中央値で64.5カ月間追跡され、その期間内にILR群の31.8%、対照群の12.2%がAFと診断された(ハザード比[HR], 3.17;95%信頼区間[CI], 2.81〜3.59;P<0.0001)。そして、各群の29.7%と13.1%に経口抗凝固薬が開始された(HR, 2.72;95% CI, 2.41〜3.08;P<0.0001)。しかし、主要評価項目である脳卒中または全身性動脈塞栓症の発生率は、ILR群が4.5%、対照群が5.6%(HR, 0.80;95% CI, 0.61〜1.05;P=0.11)と有意な差は認めなかった。さらに、ILR群の4.3%、対照群の3.5%に出血イベントが発生していた(HR, 1.26;95% CI, 0.95〜1.69;P=0.11)。 AF発作が「6分以上持続した場合に抗凝固療法を推奨する」という規定の時間枠が緩すぎたのではないかとの批判がなされているが、おそらくは的を射ているように感じられる。実際、このLOOP試験と同じ時期に発表された、高齢者を対象とした14日間にわたる心電図スクリーニング検査の効果を検討したランダム化対照試験(STOPSTROKE試験)では、介入に関して比較的有利な結果が得られている(HR, 0.96;95% CI, 0.92〜1.00;P=0.045)(1)。このほかに周術期のAFに関しては、診療ガイドラインなどでは「30分」というカットオフが用いられ、それ以下であれば一過性の可逆的なAF、それ以上ならばその後も抗凝固療法などのケアが必要なAF、といった形で線引きがなされることが多いようである。 今後 Apple Watchなどのスマートデバイスを用いたAFの検出が広く行われていくようになることが予想される(2)。本研究の結果に鑑みても、こうしたスマートデバイスを用いたAFの診断を行う際にも、時間的なAF burden(負荷)を考慮することが大切であると考えられる。抗凝固療法は高リスク AF患者において塞栓系のイベントを抑制するために極めて有効な治療法であるが、そのリスクに対する考え方は診断の進歩と共に変化していくものと予想される。 1. Svennberg E, et al. Lancet. 2021;398(10310):1498-1506. 2. Perez MV, et al. N Engl J Med. 2019;381(20):1909-1917.