「高血圧」の記事一覧

#06 長期ボランティア医師として活動に参加して感じたこと
#06 長期ボランティア医師として活動に参加して感じたこと
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 長期ボランティア医師(活動地:カンボジア) 私は医師になって1年目に初めてジャパンハートの手術活動に参加し、診療に使える機器が限られた環境での医療活動を見て以来、検査に頼らずに診療できるよう初期研修医として勉強を続けてきました。医師3年目になり、今回はカンボジアで長期ボランティア医師として活動に参加しました。医師としてはもちろん人としての気付きがありました。 初期研修病院での経験は力になっていた 私は北九州市の病院で初期研修を修了しました。ただ多忙のなかで十分に勉強できず自分自身が十分に成長できなかったのでは?と感じていました。しかし日々指導を受けたこと、検査が限られる環境での診療を想定して勉強してきたので、前回参加した時よりは患者さんを深く診ることができたと思います。個人で受講した院外勉強会の知識が役に立つこともありました。知識と経験が多いほど患者さんにより良いケアを提供できます。振り返ると1年目にジャパンハートに参加して現場を見ていたことが、モチベーションになったと感じています。 カンボジアで診た疾患は、基本的には日本で診る疾患と大きな違いはないと感じました。高血圧や糖尿病は多くの患者さんが罹患しているので詳しい知識を知っておくべきです。予防の観点から生活指導もできるとより良いと感じました。 医療とお金の問題は常に付き纏います。しかし本当に必要な検査を考えることは検査前確率を高めるため日頃から必要なので、日本でも重要視できたらと思います。またお金がない患者さんにも生活の中で治療を受けることを優先してもらうために、いかに説明して継続受診につなげるかも重要だと感じました。医学知識を説明することは誰でもできます。患者背景を鑑みた上で必要な治療を提案し患者さんに医療を受けてもらうことも医師の技量、つまり広い意味で患者さんを治療することなのだと考えています。 今回、院長のC先生に出会い、内科に限らず角膜異物除去や手術も行う姿をみて、私にとって海外で働く総合内科医のロールモデルとなりました。始めからお手上げではなく、私たち医師に経験と技術があれば患者さんに手間とお金の負担なく治療ができます。専門医でなくでも専門治療の知識をもつ、手技を経験することを積み重ねていけば一人でも多くの患者さんをこの病院で助けることができます。紹介状を書くことは簡単ですが、患者さんの負担を考えるとできるだけ自分で対応できる医師になりたいと思いました。 今後も、より多くの患者さんを安全に確実に治療できるように、勉強し成長してカンボジアにもどります。カンボジア人スタッフには本当に親切にしていただきました。皆とまた会いたいと強く思います。 (ジャパンハート 2020年5月18日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 オンライン相談会を実施中です。「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
さまざまな血圧値の患者に用いる心血管疾患の1次予防および2次予防を目的とした薬剤による降圧治療 個別患者データのメタ解析
さまざまな血圧値の患者に用いる心血管疾患の1次予防および2次予防を目的とした薬剤による降圧治療 個別患者データのメタ解析
Pharmacological blood pressure lowering for primary and secondary prevention of cardiovascular disease across different levels of blood pressure: an individual participant-level data meta-analysis Lancet. 2021 May 1;397(10285):1625-1636. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00590-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】心血管疾患の併存を問わない正常血圧または正常高値血圧の患者に用いる薬剤による血圧降下作用は明らかになっていない。著者らは、治療前の収縮期血圧値別に、降圧治療が主要心血管事象リスクにもたらす作用を明らかにすべく、無作為化試験の個別患者データを解析した。【方法】薬剤による降圧治療をプラセボまたは他のクラスの降圧薬と比較した無作為化試験または治療の強度別に比較した無作為化試験計48件(各群の追跡期間1,000人年以上)の個別患者データのメタ解析を実施した。心不全患者、急性心筋梗塞などの急性期疾患の短期治療を対象とした試験を除外した。Blood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration(英オックスフォード大学)から1972年から2013年までに発表された51試験のデータを取得した。データを統合し、心血管疾患併存(無作為化割り付け前の脳卒中、心筋梗塞、虚血性心疾患などの報告)の有無、収縮期血圧全体および7段階の収縮期血圧値分類(120 mmHg未満から170mmHg以上まで)別に降圧治療効果を層別化した。主要評価項目は、主要心血管事象(脳卒中、心筋梗塞または虚血性心疾患、致命的または入院を要する心不全の複合と定義)とし、intention-to-treatで解析した。【結果】この解析では、48試験の参加者計344,716例のデータを対象とした。無作為化前の平均収縮期血圧および拡張期血圧は、心血管疾患既往歴がある参加者(157,728例)が146/84 mm Hg、心血管疾患既往例がない参加者(186,988例)が157/89 mmHgであった。試験前の参加者の血圧に大きなばらつきを認め、心血管疾患既往歴がある参加者31,239例(19.8%)および心血管疾患既往例がない参加者14,928例(8.0%)の収縮期血圧が130mmHg未満であった。降圧治療の相対的効果は、収縮期血圧低下の程度と比例していた。中央値で4.15年の追跡後(Q1~Q3 2.97~4.96)、42,324例(12.3%)に主要心血管事象が発生した。試験前に心血管疾患既往歴がなかった参加者の1000人年当たりの主要心血管事象発症率は、比較対照群が31.9(95%CI 31.3~32.5)、介入群が25.9(25.4~26.4)であった。試験前に心血管疾患既往歴があった参加者の発症率は、比較対照群39.7(95%CI 39.0~40.5)および介入群36.0(95%CI 35.3~36.7)であった。収縮期血圧5mmHgの低下による主要心血管事象のハザード比(HR)は、心血管疾患既往がない参加者が0.91(95%CI 0.89~0.94)、心血管疾患既往がある参加者が0.89(0.86~0.92)であった。層別解析で、試験前の心血管疾患既往歴の有無や収縮期血圧分類別による主要心血管事象に対する治療効果の異質性について、信頼性の高い科学的根拠はなかった。【解釈】この無作為化試験の大規模解析では、収縮期血圧5mmHg低下により、心血管疾患既往歴の有無とは関係なく、正常血圧や正常高値血圧でさえ主要心血管事象リスクが約10%低下した。この結果は、現在治療の対象外となる血圧値でも、薬剤による一定の血圧降下が心血管疾患の1次予防および2次予防に等しく有効であることを示唆している。降圧治療の適応について患者と話し合う医師は、血圧を下げることよりも心血管リスク低下の重要性を重視すべきである。 第一人者の医師による解説 降圧療法は心血管病が存在し 血圧が低くても有用なことを確認 平田 恭信 東京逓信病院名誉院長 MMJ. December 2021;17(6):170 世界的に高血圧者の数はこの30年間で倍増しており、降圧療法の重要性が高まっている。高血圧の治療法については降圧薬の使用方法などにまだ改善の余地があるが、その恩恵については議論の余地は少ない。しかし未解決の重要な問題も残っており、そのうち(1)すでに心血管病を有する高血圧者と有さない高血圧者の間で降圧療法の効果は異なるのか否か(2)その効果は投与前の血圧値によって差があるのか、特に正常~正常高値の血圧レベルでどうか──という2つの疑問を本研究では解明しようとしている。それに答えるには相当数の対象者が必要である。というのは血圧レベルが正常に近いほど、降圧治療によるリスク低減効果は小さくなることが知られているからである。臨床上のエビデンスレベルとしては関連研究のメタアナリシスが最上位に置かれているのは周知のことであるが、メタアナリシスにも弱点はあり、どの論文を解析対象とするかの選択バイアスがありうること、対象者数が他より圧倒的に多い論文が含まれると結論がそれに引っ張られてしまうことである。その点、著者であるBloodPressureLoweringTrialists’Collaborationグループはあらかじめ質の保証された降圧療法に関する臨床研究を結果の出る前から組み入れることを表明しておき、それを徐々に積み上げてきた。このことによって少なくとも論文の選択バイアスは避けられる。さらに研究対象者の個々のデータ(individualparticipant-leveldata)も解析可能なシステムを構築した。これまでも同グループにより降圧療法による合併症の抑制効果は到達した血圧値に依存し、降圧薬の種類によらないことが示されてきた。本研究でも約34万人の解析により、収縮期血圧が5mmHg低下すると心血管合併症(イベント)の発生リスクが約10%低下し、この効果は投与前に心血管病のある場合(2次予防)、未罹患の場合(1次予防)のいずれでも同様に認められた。また心血管合併症の発症リスクも脳卒中で13%、心不全で13%ならびに虚血性心疾患で8%抑制された。さらにこの効果は投与前の血圧値を7段階に分けて解析しても各レベル間の差は明らかでなく、収縮期血圧が120mmHg未満や120~129mmHgであっても認められた。このことはいわゆる治療効果のJカーブ現象は一般的には心配はないことを示している。降圧療法の目的は心血管合併症の予防にあることより、心血管病が存在して、血圧が低めであっても治療が有用なことが確認された。
若年成人の高血圧と長期心血管イベントの関連 系統的レビューとメタ解析
若年成人の高血圧と長期心血管イベントの関連 系統的レビューとメタ解析
Association between high blood pressure and long term cardiovascular events in young adults: systematic review and meta-analysis BMJ. 2020 Sep 9;370:m3222. doi: 10.1136/bmj.m3222. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】高血圧がある若年成人の後の心血管イベントリスクを評価し、定量化すること。 【デザイン】系統的レビューとメタ解析。 【データ入手元】開始からの2020年3月6日までMedline、EmbaseおよびWeb of Scienceを検索した。ランダム効果モデルを用いて相対リスクを統合し、95%CIを推定した。絶対リスク差を計算した。制限3次スプラインモデルで血圧と個々の転帰の間の用量反応関係を評価した。 【試験の適格基準】血圧上昇が認められる18~45歳の成人患者の有害転帰を調査した試験を適格とした。主要転帰は、全心血管イベントの複合とした。副次転帰として、冠動脈疾患、脳卒中および全死因死亡を調べた。 【結果】若年成人約450万例から成る観察研究17件を解析の対象とした。平均追跡期間は14.7年であった。至適血圧の若年成人と比べると、正常血圧の若年成人の心血管イベントリスクが高かった(相対リスク1.19、95%CI 1.08~1.31、1000人年当たりのリスク差0.37、95%CI 0.16~0.61)。血圧分類と心血管イベントリスク上昇との間に、段階的かつ漸進的な関連が認められた(正常高値血圧:相対リスク、95%CI 1.22~1.49、1000人年当たりのリスク差0.69、95%CI 0.43~0.97、第1度高血圧:1.92、1.68~2.19、1.81、1.34~2.34、第2度高血圧:3.15、2.31~4.29、4.24、2.58~6.48)。冠動脈疾患および脳卒中でほぼ同じ結果が得られた。血圧上昇による心血管イベントの人口寄与割合は、全体で23.8%(95%CI 17.9~28.8%)であった。心血管イベント1件を予防するための1年間の必要治療数は、正常血圧で2672(95%CI 1639-6250)、正常高値血圧で1450(1031~2326)、第1度高血圧で552(427~746)、第2度高血圧で236(154~388)と推定された。 【結論】若年成人の血圧が上昇すると、後の心血管イベントリスクがわずかに上昇すると思われる。血圧低下療法の便益の根拠は少ないため、積極的な介入に慎重になるべきであり、さらに詳細な調査が求められる。 第一人者の医師による解説 治療必要数が多く介入には検討が必要 一般的な運動・生活指導が重要 山岸 敬幸 慶應義塾大学医学部小児科教授 MMJ. April 2021;17(2):48 高血圧と心血管イベントリスクの関連は以前から指摘されているが、先行研究の大多数は中高年以上を対象としている。若年成人の高血圧の有病率が上昇している昨今、高い血圧に経年的に曝されることにより、その後の人生における心血管イベントのリスクが上昇するかどうかを知るために、若年層を対象とした研究が必要である。 そこで本研究では、血圧上昇を有する18~45歳の若年成人の有害事象を調査した候補論文57,519編から17件の観察コホート研究が選択されメタ解析が行われた。対象人数は計4,533,292人(1研究あたり3,490人~2,488,101人)、男女の割合は17試験の平均でそれぞれ72.5%、27.5%(研究8件は対象が男性のみ)、平均追跡期間は14.7年(4.3~56.3年)だった。血圧は2018年の欧州ガイドラインを基準として、以下の5カテゴリーに層別化された:最適血圧(収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満)、正常血圧(120~129、80~84mmHg)、正常高めの血圧(130~139、85~89mmHg)、グレード1の高血圧(140~159、90~99mmHg)、グレード2の高血圧(160mmHg以上、100mmHg以上)。 本研究の成果として、第1に血圧の層別化と心血管イベントリスクの間に段階的・連続的な関連が観察された。すなわち、血圧の段階が上がるごとに、連続的に主要評価項目である心血管イベント、ならびに副次評価項目である冠動脈疾患と脳卒中、全死亡のリスクが上昇していた。地域差はなかったが、年齢は30歳超でより顕著だった。第2に高血圧の人口寄与危険割合は高く、若年成人の心血管イベント全体の約4分の1を占めていた。一方、解析された研究17件のデザインには無視できない異質性が認められ、血圧の測定方法も統一されていなかった。母集団の年齢層、治療の状態、高血糖、高尿酸血症、脂質異常症の有無などを含めて、層別化および感度分析では統計学的な異質性を減らすことはできなかった。また、対象がすべて男性の研究と男女混合の研究の結果を合わせて解析したため、偏りが生じたおそれもある。ただし、性別の層別分析により、血圧上昇と心血管イベントリスク上昇の関連に男女差がないことは確かめられた。 重要な点として、心血管イベントリスクは正常血圧でも上昇することが判明した。比較的低いリスクではあるが、最適血圧と比較すると正常血圧のリスクも無視することはできない。また、収縮期血圧と拡張期血圧は独立して心血管イベントリスクに関連するため、若年成人では両方に注意する必要がある。臨床的意義として介入の是非については、治療必要数(NNT)が中高年層に比べ多いことから、慎重に検討すべきであると結論している。一般的な運動・生活指導が重要と思われる。
年齢および民族別の高血圧1次薬物治療と血圧低下 英国プライマリケアのコホート研究
年齢および民族別の高血圧1次薬物治療と血圧低下 英国プライマリケアのコホート研究
First line drug treatment for hypertension and reductions in blood pressure according to age and ethnicity: cohort study in UK primary care BMJ. 2020 Nov 18;371:m4080. doi: 10.1136/bmj.m4080. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】英国(UK)高血圧臨床ガイドラインで年齢と民族性に基づき推奨される治療を現在日常診療で実施される降圧治療にそのまま置き換えることができるかを検討すること。 【デザイン】観察コホート研究。 【設定】2007年1月1日から2017年12月31日までの英国のプライマリケア。 【参加者】アンジオテンシン変換酵素阻害薬・アンジオテンシン受容体遮断薬(ACEI/ARB)、カルシウム拮抗薬(CCB)、チアジド系薬の新規使用者。 【主要評価項目】年齢(55歳未満と55歳以上)、民族性(黒人と非黒人)で層別化したACEI/ARBとCCBの新規使用者で、追跡12、26、52週時の拡張期血圧の変化量を比較。CCB新規使用者とチアジド系薬新規使用者の比較を副次的解析とした。負の転帰(帯状疱疹)を用いて残存交絡を検出し、一連の正の転帰(期待される薬剤の効果)を用いて、予想した関連がこの試験デザインで特定できるかを明らかにした。 【結果】追跡調査の最初の1年間で、ACEI/ARB新規使用者8万7440例、CCB新規使用者6万7274例、チアジド系薬新規使用者2万2040例を組み入れた(1例当たりの血圧測定回数中央値4回[四分位範囲2~6回])。糖尿病がない非黒人では、55歳未満で、CCB使用によって12週時の拡張期血圧がACEI/ARB使用よりも1.69mmHg低下し(99%信頼区間-2.52~-0.86)、55歳以上では0.40mmHg低下した(-0.98~0.18)。糖尿病がない非黒人の年齢をさらに細かく6つに分類した下位集団解析では、75歳以上でのみ、CCB使用による拡張期血圧低下度がACEI/ARB使用よりも大きかった。糖尿病がない患者のうち、黒人ではCCB使用による拡張期血圧低下度がACEI/ARB使用よりも大きく(低下量の差2.15mmHg[-6.17~1.87])、これに対応する非黒人の低下血圧値の差は0.98mmHg(-1.49~-0.47)だった。 【結論】糖尿病がない非黒人では55歳未満と55歳以上ともに、CCM新規使用とACEI/ARB新規使用で同等の血圧低下が得られた。糖尿病がない黒人では、CCB新規使用者の方がACEI/ARB新規使用者よりも数値的に血圧が大きく低下したが、両年齢群ともに信頼区間の重複が見られた。この結果から、現在英国で高血圧の1次治療に用いられているアルゴリズム法からは、十分な血圧低下が得られないと思われる。治療推奨に特定の適応を設けることを考慮できるであろう。 第一人者の医師による解説 生活習慣が血圧に大きく影響 降圧薬の選択に年齢や人種は重要視されなくなる 平和 伸仁 横浜市立大学附属市民総合医療センター腎臓・高血圧内科部長 MMJ. June 2021;17(3):82 高血圧は、脳心血管病死亡の最大の危険因子である。そこで、脳心血管病を予防するため高血圧治療ガイドラインが作成されているが、各国のエビデンスや重視するポイントにより、異なった推奨がなされる場合がある。英国のガイドラインでは、(2型)糖尿病でない高血圧患者の第1選択薬として、黒人では年齢に関係なくCa拮抗薬(CCB)を推奨している。一方、非黒人では55歳未満でアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬 (ACEI)またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を、55歳以上ではCCBを推奨している。 本研究は、英国のプライマリケアにおける新規に降圧薬(CCB、ACEI、ARB、サイアザイド系利尿薬 )を開始する高血圧患者を対象として、降圧薬による治療前、治療12、26、52週間後の収縮期血圧を確認し、英国ガイドラインによる第1選択薬の推奨が適切かどうかについて同国の臨床データベースを用いたコホート研究である。 87,440人のACEI/ARB、67,274人のCCB、22,040人のサイアザイド新規使用者が抽出され1年間観察された。降圧効果の比較は、傾向スコアマッチング法を用いて検討された。まず、年齢基準が妥当かについての検討がなされた。非糖尿病で55歳未満の患者では、治療12週でACEI/ARBよりもCCBによる治療の方が降圧効果が高く、収縮期血圧の低下が大きかった(―1.69 mmHg;95% CI, ―2.52~―0.86)。しかし、26週および52週後には、両群間で差を認めていない。55歳以上においても、ACEI/ARBとCCBの間で降圧効果の差を認めていない。年齢をカテゴリー化して検討すると、75歳以上の後期高齢者でのみ、CCBがACEI/ARBよりも全経過を通じて降圧効果が高かった。次いで、人種に関する検討がなされ、CCBとACEI/ARBの降圧度は、黒人において12週でCCBの方が大きかったが、その後は消失している。なお、黒人において、12週および26週でCCBの降圧効果はサイアザイドよりも高かったが、52週後には同等となっている。 2004年から英国のガイドラインでは55歳を年齢の「しきい値」としていたが、世界のガイドラインではあまり採用されていない考え方である。今回の研究結果もこの「しきい値」を支持しない結果であった。また、人種による差もあまり大きな影響を与えていないことが示された。現代ではさまざまな人種が混じり合っていること、そして、生活習慣が血圧に大きく影響を与えることから、降圧薬を選択する際に、年齢や人種はあまり重要視されなくなる可能性がある。日本における積極的適応疾患のない高血圧患者への第1選択薬は、CCB、ARB、ACEIに加えて、少量のサイアザイド系利尿薬であることを再確認しておいていただきたい。
制御不良の高血圧にデジタル介入を用いた家庭でのオンラインの血圧管理と評価(HOME BP) 無作為化対照試験
制御不良の高血圧にデジタル介入を用いた家庭でのオンラインの血圧管理と評価(HOME BP) 無作為化対照試験
Home and Online Management and Evaluation of Blood Pressure (HOME BP) using a digital intervention in poorly controlled hypertension: randomised controlled trial BMJ. 2021 Jan 19;372:m4858. doi: 10.1136/bmj.m4858. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】HOME BP(Home and Online Management and Evaluation of Blood Pressure)試験は、プライマリケアでの高血圧管理に用いる血圧の自己監視と自己管理指導を組み合わせたデジタル介入を検証することを目的とした。 【デザイン】主要評価項目の自動確認による非盲検無作為化対照試験 【設定】英国の一般診療所76施設。 【参加者】治療しても高血圧制御が不良(140/90mmHg超)でインターネットが利用できる患者622例。 【介入】最小化アルゴリズムを用いて、参加者をデジタル介入を併用した血圧の自己監視(305例)と標準治療(ルーチンの高血圧治療+受診と診療医の裁量による薬剤変更、317例)に割り付けた。デジタル介入によって、患者と医療従事者に血圧結果のフィードバックが送られ、任意で生活様式の助言と動機付けの支援が利用できるようにした。高血圧患者、糖尿病患者、80歳以上の患者の目標血圧値は英国ガイドラインに従った。 【主要評価項目】主要評価項目は、試験開始時の血圧、目標血圧値、年齢および診療所で調整した1年後の収縮期血圧の差(2回目と3回目の測定値の平均)とし、欠損値に多重代入法を用いた。 【結果】1年後、552例(88.6%)からデータが入手でき、残りの70例(11.4%)は補完した。介入群では平均血圧値が151.7/86.4mmHgから138.4/80.2mmHgに、標準治療群では151.7/86.4mmHgから138.4/80.2mmHgに低下し、収縮期血圧の平均差が-3.4mmHg(95%CI -6.1~-0.8mmHg)、拡張期血圧の平均差が-0.5mmHg(同-1.9~0.9mmHg)であった。完全ケース分析では結果が同等であり、両群間の有害事象がほぼ同じであった。試験期間中にかかった費用から、1mmHg低下当たり増分費用効果比が11ポンド(15ドル、12ユーロ、95%CI 6~29ポンド)となった。 【結論】血圧の自己監視を用いた高血圧管理のHOME BPデジタル介入は、標準治療よりも1年後の収縮期血圧制御が良好で、増分費用もわずかであった。プライマリケアで導入するには、臨床現場のワークフローへの統合およびインターネットを利用しない人々がいることを考慮する必要がある。 第一人者の医師による解説 リモート自己血圧モニタに基づく降圧薬治療の呈示で クリニカルイナーシャを改善 石光 俊彦 獨協医科大学腎臓・高血圧内科教授 MMJ. June 2021;17(3):81 高血圧治療において近年のガイドラインでは疾患や病態などに応じた厳格な降圧目標が推奨されているが、英国の成人の30%近く、65歳以上では50%以上が140/90mmHg以上である。一方、さまざまな分野で医療のデジタル化が進められており、高血圧診療においても、インターネットを利用した血圧モニター、生活習慣指導や服薬管理を普 及させることにより、治療成績の向上が期待される。 英国で行われた本論文の研究(HOME BP)では、一般の実地診療医師と血圧コントロール不良(140/90mmHg超)の高血圧患者を対象として、 通常診療とオンラインによるデジタル介入を行った診療による治療効果が比較された。介入群では、オンラインで収集した患者の家庭血圧のデータを アルゴリズムにより評価し、その情報を患者と担当医師にフィードバックするとともに、それに基づいた降圧薬治療の提案や食事、運動、適正体重などの生活指導や服薬指導がインターネットを介して行われた。 12カ月後、通常治療群では平均血圧が151.6/85.3から141.8/79.8mmHgに低下したのに対し、介入群では151.7/86.4から138.3/80.2mmHgと通常治療群に比べ、−3.4/−0.5mmHg降圧が大きかった。サブグループ解析では、デジタル介入による降圧は、67歳未満の群および糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、心血管病などの合併症がない群において大きかった。質問票によると副作用の発現、服薬アドヒアランス、生活の質(QOL)は両群で有意差がなかった。介入に要した費用は患者1人あたり平均38ポンドで、収縮期血圧1mmHgの降圧増加につき11ポンドになった。 日本でも高血圧患者の73%が血圧140/90mmHg以上であり、患者および医療スタッフにおけるクリニカルイナーシャを改善する必要性が認識されている。本研究で試みられた家庭血圧モニターを中心とするオンラインの介入は、特に世界的に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行している状況において医療サービスの提供を改善する方策として有用である可能性がある。本研究でも12カ月後の継続率は89%と高く、降圧効果の増強により脳卒中が10〜15%、冠動脈疾患は5〜10%の減少が期待されるとしているが、対象者の大多数が白人であったことや67歳以上の高齢者では有意な降圧効果の増強が認められなかったことなどが、介入の適応を拡大する際に課題となると思われる。今後は、公的データベースを利用した医療費の評価やより長期の検討を行い、ガイドラインや診療報酬の算定に取り入れる方向で進められることが期待される。
心不全と危険因子の年齢依存的な関連:統合集団ベースコホート研究
心不全と危険因子の年齢依存的な関連:統合集団ベースコホート研究
Age dependent associations of risk factors with heart failure: pooled population based cohort study BMJ. 2021 Mar 23;372:n461. doi: 10.1136/bmj.n461. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】一般集団には心不全発症の危険因子に年齢による差があるかを評価すること。 【デザイン】集団ベースの統合コホート研究。 【設定】Framingham Heart Study、Prevention of Renal and Vascular End-stage Disease StudyおよびMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis。 【参加者】若年者(55歳未満、1万1,599例)、中年者(55~64歳、5,587例)、前期高齢者(65~74歳、5,190例)、後期高齢者(75歳以上、2,299例)で層別化した心不全既往歴のない参加者計2万4,675例。 【主要評価項目】心不全発症率。 【結果】追跡調査期間中央値12.7年間にわたり、若年者138例(1%)、中年者293例(5%)、前期高齢者538例(10%)、後期高齢者412例(18%)が心不全を発症した。若年者では、心不全発症例の32%(44例)が駆出率が保たれた心不全に分類されたのに対して、後期高齢者では43%(179例)であった。若年者では高齢者と比べて、高血圧、糖尿病、現在の喫煙、心筋梗塞の既往歴などの危険因子があると相対リスクが高かった(全体の交互作用のP<0.05)。例えば、高血圧があると、若年者では心不全リスクが3倍になり(ハザード比3.02、95%CI 2.10~4.34;P<0.001)、それに対して後期高齢者ではリスクが1.4倍になった(1.43、1.13~1.81、P=0.003)。心不全発症の絶対リスクは、危険因子の有無に関係なく、若年者の方が高齢者よりも低かった。若年者の方が高齢者よりも危険因子の人口寄与危険割合が高く(75% v 53%)、モデル適合度も良好であった(C index 0.79 v 0.64)。同様に、肥満(21% v 13%)、高血圧(35% v 23%)、糖尿病(14% v 7%)、現在の喫煙(32% v 1%)の集団寄与危険割合は高齢者よりも若年者の方が高かった。 【結論】若年者の方が高齢者よりも心不全の発症率と絶対リスクが低いが、修正可能な危険因子との関連が強く寄与危険度が大きいことから、成人期にわたる予防努力の重要性が浮き彫りになった。 第一人者の医師による解説 心不全予防には生涯にわたるリスク管理が重要 ハザード比は診療に有用 諸井 雅男 東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野(大橋)教授 MMJ. October 2021;17(5):142 若年者は高齢者に比べ心不全発症率が低いことは知られているが、年齢別に心不全発症と肥満、高血圧および糖尿病などの危険因子との関係は検討されていなかった。先行研究では、電子健康記録を用いた研究で、若年者では心不全を含む心血管疾患発症や血圧上昇の相対リスク低下が認められたことや、心不全患者を対象とした研究で、若年患者は肥満、男性、糖尿病既往者で多くみられることは報告されていた(1),(2)。 本論文は、一般集団における心不全の年齢別危険因子を評価するため、米国のFramingham Heart Study、オランダのPrevention of Renal and Vascular End-stage Disease(PREVEND)研究、米国のMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis(MESA)のデータを統合解析したコホート研究の報告である。対象者は心不全歴のない24,675人で、若年者(55歳未満、11,599人)、中年者(55~64歳、5,587人)、前期高齢者(65~74歳、5,190人)、後期高齢者(75歳以上、2,299人)に層別化し、心不全の発症について追跡期間中央値12.7年において評価した。 その結果、高血圧、糖尿病、現在の喫煙、および心筋梗塞の既往といった危険因子は、高齢者と比較し、若年者でその相対的寄与が大きかった。例えば高血圧は、若年者の将来的心不全リスクを3倍上昇させたのに対し、後期高齢者では1.4倍の上昇であった。心不全発症の絶対リスクは、危険因子にかかわらず、高齢者より若年者のほうが低かった。 心不全患者が増加し続けている中で、その年齢に応じて具体的なリスクの数字を示したことは診療に有用である。50歳の男性が健診で高血圧を指摘されて受診した場合に、我々医療者は単に生活習慣の是正と降圧薬の服用を考慮するだけではなく、「高血圧者は正常血圧者に比べ12年後には3倍の心不全発症リスクがある」ことを患者に伝えることができる。一方、75歳ではそのリスクは1.4倍である。このことは、患者の価値観や希望と併せて、医療者はその介入の程度を考慮する際の1つの情報となり、その上での治療は生活の質(QOL)を高めることにつながる。人生100年時代を迎え、生命予後のみならず若年から年齢を重ねた時のQOLを考慮しそのリスク管理により心不全を予防することは、医療者には極めて重要と考える。 1. Rosengren A, et al. Eur Heart J. 2017;38(24):1926-1933. 2. Christiansen MN, et al. Circulation. 2017;135(13):1214-1223.
世界の高血圧有病率、治療率、コントロール率の傾向(地域住民研究1201件のプール解析 ; 1990-2019年)
世界の高血圧有病率、治療率、コントロール率の傾向(地域住民研究1201件のプール解析 ; 1990-2019年)
Worldwide trends in hypertension prevalence and progress in treatment and control from 1990 to 2019: a pooled analysis of 1201 population-representative studies with 104 million participants Lancet. 2021 Sep 11;398(10304):957-980. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01330-1. Epub 2021 Aug 24. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】高血圧はプライマリーヘルスケアレベルで発見することができ、低コストの治療で効果的に高血圧をコントロールすることができる。我々は,200の国と地域について,1990年から2019年までの高血圧の有病率とその発見,治療,コントロールの進展を測定することを目的とした。 【方法】我々は,血圧の測定と血圧治療に関するデータを有する人口代表研究からの30~79歳の人々に関する1990年から2019年のデータを使用した。収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上、または高血圧の薬を服用していることを高血圧と定義しました。ベイズ型階層モデルを適用して,高血圧の有病率と,高血圧の診断歴があり(検出),高血圧の治療を受けており(治療),高血圧が140/90 mm Hg未満にコントロールされている(コントロール)人の比率を推定した.モデルは,経時的な傾向が非線形であり,年齢によって異なることを許容した。 発 見】高血圧を有する30~79歳の人々の数は,世界の年齢標準化有病率が安定しているにもかかわらず,1990年の女性331(95%信頼区間306~359)万人と男性317(292~344)万人から2019年には女性626(584~668)万人と男性652(604~698)万人に倍加している。2019 年の年齢標準化高血圧有病率は,男女ともカナダとペルーで最も低く,女性は台湾,韓国,日本,スイス,スペイン,英国など西ヨーロッパの一部の国で,男性はエリトリア,バングラデシュ,エチオピア,ソロモン諸島などいくつかの低所得国および中所得国で低かった.高血圧の有病率は、女性では2カ国、男性では中・東欧、中央アジア、オセアニア、ラテンアメリカの9カ国で50%を超えています。世界的に見ると、2019年に高血圧の女性の59%(55~62人)と男性の49%(46~52人)が高血圧の診断歴を報告し、女性の47%(43~51人)と男性の38%(35~41人)が治療を受けていた。2019年の高血圧の人のコントロール率は、女性が23%(20-27)、男性が18%(16-21)でした。2019年の治療率およびコントロール率は、韓国、カナダ、アイスランドが最も高く(治療率70%以上、コントロール率50%以上)、米国、コスタリカ、ドイツ、ポルトガル、台湾がそれに続いていた。ネパール,インドネシア,サハラ以南のアフリカとオセアニアの一部の国では,治療率は女性で25%未満,男性で20%未満であった。これらの国の女性と男性、および北アフリカ、中央・南アジア、東ヨーロッパの一部の国の男性では、コントロール率が10%を下回っていました。1990年以降,ほとんどの国で治療率とコントロール率が向上しているが,サハラ以南のアフリカとオセアニアのほとんどの国では,ほとんど変化がないことがわかった.高所得国,中央ヨーロッパ,およびコスタリカ,台湾,カザフスタン,南アフリカ,ブラジル,チリ,トルコ,イランなどの一部の上位中所得国や最近の高所得国での改善が最も大きかった。 【解釈】高血圧の発見,治療,管理における改善は国によって大きく異なり,一部の中所得国は現在ほとんどの高所得国を凌駕している。一次予防による高血圧の有病率の低下と治療およびコントロールの強化という二重のアプローチは、高所得国だけでなく低所得国や中所得国の環境でも達成可能である。 第一人者の医師による解説 世界の高血圧人口はこの30年でほぼ倍増し、国ごとのばらつきが極めて大きい 苅尾 七臣 自治医科大学循環器内科学部門教授 MMJ. April 2022;18(2):41 本論文は、世界184カ国の地域住民データをプール解析したNCD Risk Factor Collaborationの報告である。今回の報告でまず驚くことは、高血圧人口(30 ~ 79歳)はこの30年でほぼ倍増したことである。次に、国ごとのばらつきが極めて大きい点である。人口増加の偏りもあり、2019年の高血圧人口の82%は低・中所得国の住民が占めていた。高血圧有病率も、低・中所得国で上昇、高所得国で低下する傾向にあるが、状況は国ごとにばらつきが大きく、高所得国でも有病率を抑制できていない国がある一方で、低・中所得国の中にも高血圧有病率の低い国がみられた。有病率に関与する因子としては、地域の風土、食文化、高血圧制圧に向けた国家の取り組みなどが考えられるが、これらを積極的に同定し、各国でいっそう取り組む必要がある。 また、高血圧コントロール率(降圧薬服用下 で140/90 mmHg未満)の上昇が高血圧人口の増加に追い付いていないことも明らかになった。2019年の世界のコントロール率は女性23%、男性18%であった。アジアでは韓国で治療率・コントロール率が高く、ネパールやインドネシアでは低かった。アジア・パシフィックで高所得国に分類される3カ国に比べ、その他の東アジア・東南アジア地域の国(低・中所得国)では血圧が高いにもかかわらず高血圧と診断されていない住民の割合が高く(29 ~ 34% vs 46 ~ 55%)、コントロール率は低かった(31 ~ 38% vs 13 ~ 17%)。これは南アジアでも同様であった(高血圧だが診断歴なし55 ~ 67%、コントロール率11 ~ 17%)。アジアの高血圧治療・コントロール状況を改善するには、まず血圧測定機会を増やし、高血圧を早期に発見し、適切に治療を行うことが重要である。ちなみに日本の高血圧有病率、治療率、コントロール率は女性でそれぞれ23、51、30%、男性でそれぞれ40、46、24%であり、アジア・パシフィック地域で高所得国に分類される3カ国中、治療率・コントロール率ともに最下位であり、決して優等生とは言い難い。 これまで、我々はアジア各国の高血圧専門家有志で作るHOPE Asia Networkで同一の家庭血圧計を用いて、アジア 11カ国・地域、15施設で家庭血圧コントロール状況を調査するAsiaBP@Home研究を行った。家庭血圧コントロール状況は36〜84%とばらつきが大きいものの、コントロール状況は比較的良好であった(1)。したがって、欧米と比較し、日本を含むアジアには早朝・夜間高血圧が多いという特徴があるが(2)、コントロール率は改善できると思われる。 1. Kario K, et al. J Clin Hypertens. 2018;20(12):1686-1695. 2. Kario K. Essential Manual of 24-Hour Blood Pressure Management: From Morning to Nocturnal Hypertension, 2nd Edition. pp. 1-384. 2022 (WileyBlackwell; ISBN 978-1-119-79936-8400)
メトホルミン内服が早産期の妊娠高血圧腎症に有効な可能性
メトホルミン内服が早産期の妊娠高血圧腎症に有効な可能性
Use of metformin to prolong gestation in preterm pre-eclampsia: randomised, double blind, placebo controlled trial BMJ. 2021 Sep 22;374:n2103. doi: 10.1136/bmj.n2103. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【デザイン】無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験 【設定】南アフリカ共和国、ケープタウンの紹介病院。 【参加者】妊娠26+0週から31+6週の妊娠早期の子癇の女性180人:90人がメトホルミン徐放型、90人がプラセボにランダムに割り付けられた。 【主要評価項目】主要アウトカムは妊娠期間の延長であった 【結果】180人中、1人が試験薬服用前に出産した。無作為化から出産までの期間の中央値は、メトホルミン群で17.7日(四分位範囲5.4-29.4日、n=89)、プラセボ群で10.1日(3.7-24.1、n=90)、中央値の違いは7.6日(幾何平均比1.39、95%信頼区間0.99-1.95、P=0.057)であった。試験薬を任意の用量で継続投与した群では、妊娠期間延長の中央値がメトホルミン群で17.5日(四分位範囲5.4~28.7、n=76)であるのに対し、プラセボ群では7.9日(3.0~22.2、n=74)と、9.6日(幾何平均値 1.67, 95%信頼区間 1.16~2.42 )差が生じました。また、全用量投与群における妊娠期間延長の中央値は、メトホルミン群16.3日(四分位範囲4.8-28.8、n=40)に対してプラセボ群4.8日(2.5-15.4、n=61)、その差11.5日(幾何平均値 1.85 信頼区間 1.14-2.88 )となりました。母体、胎児、新生児の複合アウトカムと可溶性fms様チロシンキナーゼ-1、胎盤成長因子、可溶性エンドグリンの循環血中濃度に差はなかった。メトホルミン群では、出生時体重は有意差なく増加し、新生児室での滞在期間は短縮した。メトホルミン群では下痢が多かったが、試験薬に関連する重篤な有害事象は認められなかった。 【結論】この試験は、さらなる試験が必要であるが、メトホルミン徐放製剤が早産性子癇前症の女性において妊娠期間を延長できることを示唆している。TRIAL REGISTRATION:Pan African Clinical Trial Registry PACTR201608001752102 https://pactr.samrc.ac.za/. 第一人者の医師による解説 血管内皮機能障害を引き起こす蛋白濃度に有意差なし 今後さらなる研究必要 後藤 美希 虎の門病院産婦人科 MMJ. April 2022;18(2):53 妊娠高血圧腎症(pre-eclampsia)とは、妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、かつ蛋白尿を伴う病態、または高血圧と妊娠高血圧症候群関連疾患(子癇やHELLP症候群など)の両方を伴う病態の総称である。日本では20人に1人の割合で発症する比較的よく遭遇する疾患であるが、根本的治療は妊娠の終結しかない(1)。実際の医療現場では母児の命を守るために妊娠の終結を選ぶことになるが、児の予後を考えると少しでも長く妊娠を継続したいというジレンマに遭遇する。特に妊娠32週未満では在胎日数を数日延長できるだけでも児の予後は変わってくる。 本論文は早産期の妊娠高血圧腎症に対してメトホルミンが妊娠期間の延長に寄与するか否かを調べる目的で南アフリカ共和国の病院で実施された、無作為化二重盲検プラセボ対照試験の報告である。妊娠26週から妊娠31週6日に妊娠高血圧腎症と診断された180人を、メトホルミン群とプラセボ群に1:1に割り付けて比較した。メトホルミン群では徐放性メトホルミン 3g/日を1日3回にわけて分娩まで服用を継続した。 メトホルミン 3g/日の服用を継続した群における服用開始から分娩(妊娠の終結)までの期間中央値は16.3日で、プラセボ群の4.8日に比べ延長していた(幾何平均比1.85;95%信頼区間[CI],1.14 ~ 2.88)。服用量を問わずメトホルミンを継続した群の場合、上記期間の中央値は17.5日で、プラセボ群の7.9日に比べ延長していた(幾何平均比1.67;95% CI, 1.16 ~ 2.42)。一方で、妊娠高血圧腎症の病因(2)と考えられている可溶性 fms様チロシンキナーゼ 1、胎盤成長因子(placental growth factor)、可溶性エンドグリンの値は両群間で有意差を認めなかった。児の出生時体重に関して両群間に有意差はなかったが、新生児集中治療室(NICU)入院期間はメトホルミン群で有意に短かった。有害事象はメトホルミン群で下痢が高頻度に発現したが(33% 対6%[プラセボ群])、治験薬に関連する重篤な有害事象は両群ともにみられなかった。著者らの結論としては、メトホルミンは早産期の妊娠高血圧腎症において、妊娠期間の延長に寄与する可能性があるとしている。 今回の報告は現時点では妊娠の終結しか主な治療法がない妊娠高血圧腎症に対して、治療の可能性があることを示唆している。一方で妊娠高血圧腎症に関連する、血管内皮機能障害を引き起こす蛋白の濃度は両群で有意差を認めておらず、今後さらなる研究が必要と思われる。 * HELLP=hemolysis, elevated liver enzymes, and low platelet count 1. 日本産科婦人科学会ウエブサイト:産科・婦人科の病気 / 妊娠高血圧症候群  (https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=6) 2. Levine RJ, et al. N Engl J Med. 2004;350(7):672-683.
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号)
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号)
サル痘の臨床的特徴~最新症例報告 南ロンドンのプライマリケアおよびセカンダリケアからの紹介を伴う地域の重篤な感染症センターおよび関連する性的健康センターにおける、2022年5月~7月に確認されたサル痘患者197症例について、その臨床的特徴と症状についてのケースレポートは発表された。 BMJ誌2022年7月28日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 2型糖尿病患者に対する最適な運動タイミングは? 運動の代謝効果は、運動が行われる時間帯に依存する可能性があるといわれている。運動のタイミングは、2 型糖尿病男性の多組織メタボロームおよび骨格筋プロテオーム プロファイルに影響を及ぼすという仮説について検証が行われた。Metabolism誌オンライン版2022年7月28日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 老齢マウスの血液を若齢マウスに投与すると… 加齢は多くの慢性疾患における最大のリスク因子である。本研究では、雄マウスによる単一異時性血液交換法を用いて、老化マウスの血液が若齢マウスの細胞・組織の老化を誘導するか観察した。Nature Metabolism誌オンライン版2022年7月28日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む ”超加工食品”は認知症リスクを上げるか? 超加工食品(Ultra-Processed Foods:糖分や塩分、脂肪を多く含む加工済みの食品。 保存料などを添加し、常温で保存できたり、日持ちを良くしてある食品)の消費と、うつ病、心血管疾患、全死亡などの健康上の有害な転帰とを関連付ける証拠が増えつつある。しかし、超加工食品と認知症との関連については、これまでよくわかっていなかった。英国バイオバンクにおいて超加工食品と認知症発症との関連が調査された。Neurology誌オンライン版2022年7月27日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 睡眠と高血圧・虚血性脳卒中との関連 英国バイオバンクに登録された高血圧症または脳卒中のない35万8,451名を対象に、日中の仮眠頻度と本態性高血圧症または脳卒中の発症率との関連を調査するとともに、この因果関係を検証するため、前向きコホート研究が実施された。Hypertension誌オンライン版2022年7月25日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.10(2022年7月28日号) 小児におけるオミクロンに対するファイザー社製COVID-19ワクチンの有効性 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.9(2022年7月21日号) 慢性便秘症に効果的な食物繊維摂取量は?:RCTの系統的レビュー&メタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.8(2022年7月14日号) COVID-19後遺症の有病率、その危険因子とは ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.7(2022年7月7日号) 糖尿病の有無が影響するか、心不全に対するエンパグリフロジンの臨床転帰 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号) 老化をあざむく方法は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.5(2022年6月23日号) 座位時間と死亡率および心血管イベントとの関連性:低~高所得国での違いはあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.4(2022年6月16日号) 乳製品やカルシウム摂取量と前立腺がんの発症リスクの関連性:前向きコホート研究 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.3(2022年6月9日号) 運動は脳内RNAメチル化を改善し、ストレス誘発性不安を予防する ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号) 6〜11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本
2017年米国心臓病学会/米国心臓協会血圧ガイドラインを用いた若年成人における血圧分類とその後の心血管イベントとの関連性
2017年米国心臓病学会/米国心臓協会血圧ガイドラインを用いた若年成人における血圧分類とその後の心血管イベントとの関連性
Association of Blood Pressure Classification in Young Adults Using the 2017 American College of Cardiology/American Heart Association Blood Pressure Guideline With Cardiovascular Events Later in Life JAMA 2018 Nov 6 ;320 (17 ):1774 -1782. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】若年成人期の血圧(BP)レベルと中年期までの心血管疾患(CVD)イベントとの関連についてはほとんど知られていない。 【目的】2017年米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)BPガイドラインで定義された高血圧を40歳前に発症した若年成人は、正常血圧維持者と比較してCVDイベントリスクが高くなるかどうかを評価することである。 【デザイン、設定および参加者】1985年3月に開始された前向きコホート研究Coronary Artery Risk Development in Young Adults(CARDIA)研究において解析を実施した。CARDIAでは,米国の4つのフィールドセンター(アラバマ州バーミンガム,イリノイ州シカゴ,ミネソタ州ミネアポリス,カリフォルニア州オークランド)から18~30歳のアフリカ系米国人と白人5115人が登録された。アウトカムは2015年8月まで入手可能であった。 【曝露】初診から40歳以降に最も近い検査までに測定された最高血圧を用いて,各参加者を正常血圧(未治療収縮期血圧[SBP]<120mmHg,拡張期血圧[DBP]<80mmHg:n=2574)に分類した。)BP上昇(未治療のSBP 120-129 mm HgおよびDBP <80 mm Hg;n = 445)、ステージ1高血圧(未治療のSBP 130-139 mm HgまたはDBP 80-89 mm Hg;n = 1194)、またはステージ2高血圧(SBP ≥140 mm Hg, DBP≥90 mm Hg, または降圧剤を服用;n = 638)であった。 【主要評および測定法】CVDイベント:致死性および非致死性の冠動脈性心疾患(CHD),心不全,脳卒中,一過性脳虚血発作,末梢動脈疾患(PAD)への介入。 【結果】最終コホートには成人4851人(アウトカム追跡開始時の平均年齢,35.7歳[SD,3.6];女性2657人[55%];アフリカ系アメリカ人2441人[50%];降圧剤服用206人[4%])を含める。中央値18.8年の追跡期間中に,228件のCVDイベントが発生した(CHD,109件,脳卒中,63件,心不全,48件,PAD,8件)。正常血圧,血圧上昇,ステージ1高血圧,ステージ2高血圧のCVD発生率は,それぞれ1000人年当たり1.37(95%CI,1.07-1.75),2.74(95%CI,1.78-4.20),3.15(95%CI, 2.47-4.02),8.04(95% CI,6.45-10.03 )であった。多変量調整後,BP上昇,ステージ1高血圧,ステージ2高血圧のCVDイベントのハザード比は,正常BPに対してそれぞれ1.67(95%CI,1.01-2.77),1.75(95%CI,1.22-2.53)および3.49(95%CI,2.42-5.05)であった。 【結論と関連性】若年成人において,2017年米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)ガイドラインの血圧分類で定義された40歳前の血圧上昇,ステージ1高血圧,ステージ2高血圧の者は,40歳前の血圧が正常の者と比較してその後の心血管疾患イベントリスクが有意に高かった。ACC/AHA血圧分類システムは、心血管疾患イベントのリスクが高い若年成人を特定するのに役立つ可能性があります。 第一人者の医師による解説 若年成人の血圧異常への介入と、さらに若い年齢層での研究が必要 粟津 緑 慶應義塾大学医学部小児科非常勤講師 MMJ.April 2019;15(2) 2017年に発表された米国高血圧ガイドラインは、従来の高血圧前症(prehypertension、収縮期血圧 120 ~ 139 /拡張期血圧 80 ~ 89 mmHg) という分類を廃止し、120~129/80mmHg未満を 血圧上昇(elevated blood pressure)、130 ~ 139 /80 ~ 89 mmHgをstage 1 高血圧、 140/90mmHg以上をstage 2高血圧とした。 高血圧の基準が下がったため若年成人の患者数は 2~3倍に増加した。しかしすぐ薬物療法を行うのではなく、まず生活習慣の改善を指導し、その後も改善しなければ、心血管疾患の既往があるか、10 年間の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクスコアが10%以上である場合に薬物療法を行うよう推奨されている。これにより降圧薬が必要な患者数はわずかな増加にとどまる。一方、ASCVDリスクスコアは40~79歳を対象に設定されたものであるため、若年成人(40歳未満)の多くはリスクが低く薬物療法の適応にならないという問題がある。 本研究は登録時18~30歳の米国人を対象としたCARDIA研究データに2017年基準を適用し検討した。血圧上昇群およびstage 1高血圧群の心 血管疾患発症リスクは 正常血圧群(120mmHg未 満 /80mmHg未満)に比べて有意にそれぞれ1.67、 1.75倍高かった。 本研究と同様の研究が韓国でも行われ、血圧異常者(血圧上昇と高血圧)の正常血圧者に対するハザード比は米国と同様に有意に上昇していた(1)。中年・老年層における同様の研究は多いがこの2研究は若年成人を対象とした初めての研究である。 両研究に共通した点がいくつかある。まず対象の半数以上が血圧異常に分類された。この理由として血圧測定法が適切でなかった可能性が考えられる。信頼性のある24時間血圧測定は行われていない。若年者では高血圧のレッテルを貼る前に真の高血圧であるか否かを確認することがより望ましい。また血圧上昇群とstage 1高血圧群は正常血圧群に比べBMIが大きく、糖・脂質代謝異常合併も多かった。したがってこれらが心血管疾患発症へ関与した可能性もある。若年血圧異常者には生活習慣の改善指導、糖・脂質代謝異常の是正も重要である。 今後、以上の点を考慮した介入研究が必要である。 また本研究の対象は18~30歳であるが、結果を外挿すると小児・思春期の軽度血圧上昇が将来の心血管リスクになる可能性もある。血圧はトラッキングするからである。小児の血圧基準はパーセ ンタイル値で定義されている。心血管疾患との関係が不明であるため便宜的に定義しているのであるが、本研究を発展させ、臓器障害マーカー(左室 肥大など)を盛り込みつつ成人のように心血管リスクとなる血圧値を設定することが望まれる。 1. Son JS1, et al. JAMA. 2018 Nov 6;320(17):1783-1792.