「高血圧」の記事一覧

2017年米国心臓病学会/米国心臓協会血圧ガイドラインを用いた若年成人における血圧分類とその後の心血管イベントとの関連性
2017年米国心臓病学会/米国心臓協会血圧ガイドラインを用いた若年成人における血圧分類とその後の心血管イベントとの関連性
Association of Blood Pressure Classification in Young Adults Using the 2017 American College of Cardiology/American Heart Association Blood Pressure Guideline With Cardiovascular Events Later in Life JAMA 2018 Nov 6 ;320 (17 ):1774 -1782. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】若年成人期の血圧(BP)レベルと中年期までの心血管疾患(CVD)イベントとの関連についてはほとんど知られていない。 【目的】2017年米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)BPガイドラインで定義された高血圧を40歳前に発症した若年成人は、正常血圧維持者と比較してCVDイベントリスクが高くなるかどうかを評価することである。 【デザイン、設定および参加者】1985年3月に開始された前向きコホート研究Coronary Artery Risk Development in Young Adults(CARDIA)研究において解析を実施した。CARDIAでは,米国の4つのフィールドセンター(アラバマ州バーミンガム,イリノイ州シカゴ,ミネソタ州ミネアポリス,カリフォルニア州オークランド)から18~30歳のアフリカ系米国人と白人5115人が登録された。アウトカムは2015年8月まで入手可能であった。 【曝露】初診から40歳以降に最も近い検査までに測定された最高血圧を用いて,各参加者を正常血圧(未治療収縮期血圧[SBP]<120mmHg,拡張期血圧[DBP]<80mmHg:n=2574)に分類した。)BP上昇(未治療のSBP 120-129 mm HgおよびDBP <80 mm Hg;n = 445)、ステージ1高血圧(未治療のSBP 130-139 mm HgまたはDBP 80-89 mm Hg;n = 1194)、またはステージ2高血圧(SBP ≥140 mm Hg, DBP≥90 mm Hg, または降圧剤を服用;n = 638)であった。 【主要評および測定法】CVDイベント:致死性および非致死性の冠動脈性心疾患(CHD),心不全,脳卒中,一過性脳虚血発作,末梢動脈疾患(PAD)への介入。 【結果】最終コホートには成人4851人(アウトカム追跡開始時の平均年齢,35.7歳[SD,3.6];女性2657人[55%];アフリカ系アメリカ人2441人[50%];降圧剤服用206人[4%])を含める。中央値18.8年の追跡期間中に,228件のCVDイベントが発生した(CHD,109件,脳卒中,63件,心不全,48件,PAD,8件)。正常血圧,血圧上昇,ステージ1高血圧,ステージ2高血圧のCVD発生率は,それぞれ1000人年当たり1.37(95%CI,1.07-1.75),2.74(95%CI,1.78-4.20),3.15(95%CI, 2.47-4.02),8.04(95% CI,6.45-10.03 )であった。多変量調整後,BP上昇,ステージ1高血圧,ステージ2高血圧のCVDイベントのハザード比は,正常BPに対してそれぞれ1.67(95%CI,1.01-2.77),1.75(95%CI,1.22-2.53)および3.49(95%CI,2.42-5.05)であった。 【結論と関連性】若年成人において,2017年米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)ガイドラインの血圧分類で定義された40歳前の血圧上昇,ステージ1高血圧,ステージ2高血圧の者は,40歳前の血圧が正常の者と比較してその後の心血管疾患イベントリスクが有意に高かった。ACC/AHA血圧分類システムは、心血管疾患イベントのリスクが高い若年成人を特定するのに役立つ可能性があります。 第一人者の医師による解説 若年成人の血圧異常への介入と、さらに若い年齢層での研究が必要 粟津 緑 慶應義塾大学医学部小児科非常勤講師 MMJ.April 2019;15(2) 2017年に発表された米国高血圧ガイドラインは、従来の高血圧前症(prehypertension、収縮期血圧 120 ~ 139 /拡張期血圧 80 ~ 89 mmHg) という分類を廃止し、120~129/80mmHg未満を 血圧上昇(elevated blood pressure)、130 ~ 139 /80 ~ 89 mmHgをstage 1 高血圧、 140/90mmHg以上をstage 2高血圧とした。 高血圧の基準が下がったため若年成人の患者数は 2~3倍に増加した。しかしすぐ薬物療法を行うのではなく、まず生活習慣の改善を指導し、その後も改善しなければ、心血管疾患の既往があるか、10 年間の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクスコアが10%以上である場合に薬物療法を行うよう推奨されている。これにより降圧薬が必要な患者数はわずかな増加にとどまる。一方、ASCVDリスクスコアは40~79歳を対象に設定されたものであるため、若年成人(40歳未満)の多くはリスクが低く薬物療法の適応にならないという問題がある。 本研究は登録時18~30歳の米国人を対象としたCARDIA研究データに2017年基準を適用し検討した。血圧上昇群およびstage 1高血圧群の心 血管疾患発症リスクは 正常血圧群(120mmHg未 満 /80mmHg未満)に比べて有意にそれぞれ1.67、 1.75倍高かった。 本研究と同様の研究が韓国でも行われ、血圧異常者(血圧上昇と高血圧)の正常血圧者に対するハザード比は米国と同様に有意に上昇していた(1)。中年・老年層における同様の研究は多いがこの2研究は若年成人を対象とした初めての研究である。 両研究に共通した点がいくつかある。まず対象の半数以上が血圧異常に分類された。この理由として血圧測定法が適切でなかった可能性が考えられる。信頼性のある24時間血圧測定は行われていない。若年者では高血圧のレッテルを貼る前に真の高血圧であるか否かを確認することがより望ましい。また血圧上昇群とstage 1高血圧群は正常血圧群に比べBMIが大きく、糖・脂質代謝異常合併も多かった。したがってこれらが心血管疾患発症へ関与した可能性もある。若年血圧異常者には生活習慣の改善指導、糖・脂質代謝異常の是正も重要である。 今後、以上の点を考慮した介入研究が必要である。 また本研究の対象は18~30歳であるが、結果を外挿すると小児・思春期の軽度血圧上昇が将来の心血管リスクになる可能性もある。血圧はトラッキングするからである。小児の血圧基準はパーセ ンタイル値で定義されている。心血管疾患との関係が不明であるため便宜的に定義しているのであるが、本研究を発展させ、臓器障害マーカー(左室 肥大など)を盛り込みつつ成人のように心血管リスクとなる血圧値を設定することが望まれる。 1. Son JS1, et al. JAMA. 2018 Nov 6;320(17):1783-1792.
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.46(2023年4月20日号)
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.46(2023年4月20日号)
理想的な陰嚢のサイズは? 美容整形は拡大傾向にあり、今や性器領域まで広がっている。豊胸、小陰唇縮小、陰茎増大は、長年にわたって確立された介入であり、その動機については数々の研究がなされてきた。一方、陰嚢縮小は新しいトレンドであるが、陰嚢の美的嗜好に関する研究はまだない。著者らは、さまざまなサイズの陰嚢について、性別・年齢・外向性・経験への開放性・ポルノ消費量によって好みが変化するのかを調べた。Journal of Cosmetic Dermatology誌オンライン版2023年4月10日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 個別化医療の実施で、高血圧はどこまで改善する? 高血圧は、世界的に見ても早期死亡の主要な危険因子である。複数の降圧薬があるが、薬物クラスを個別化して選択することで降圧効果が最大化するかは不明である。著者らは、4つの異なるクラスの降圧薬(リシノプリル[ACE阻害薬])、カンデサルタン[ARB]、ヒドロクロロチアジド 、アムロジピン[Ca拮抗薬]) について、無作為化二重盲検反復クロスオーバー試験を行った。JAMA誌2023年4月11日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 低炭水化物ダイエットは筋トレに是か非か? 低炭水化物ダイエットは、脂肪の酸化を増加させ、脂肪量を減少させるが、筋肉量と無酸素運動の細胞内制御にはどのような影響を及ぼすのか。最新のエビデンスについて考察した。Current Opinion in Clinical Nutrition and Metabolic Care誌オンライン版2023年4月14日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む アブラナ科の野菜摂取が、膀胱がんの再発と進行を防ぐ? 筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)では、高い再発率と進行率が大きな臨床的課題である。主にアブラナ科の野菜に含まれるイソチオシアネート(ITC)は、前臨床BCモデルで強力な抗がん作用を示したが、NMIBCの予後への影響は不明である。著者らは、食事からのITC暴露とNMIBCの再発および進行との関連を調査した。The American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2023年4月10日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む クマが冬眠中にVTEを起こさないのは何故か? 短期間の不動状態は、静脈血栓塞栓症(VTE)発症の主要な危険因子だが、冬眠中のヒグマや脊髄損傷で麻痺が生じた患者は、VTEとは無縁である。著者らは、冬眠中のヒグマを対象に、質量分析に基づくプロテオミクス解析を行い、その理由を探った。Science誌2023年4月14日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.45(2023年4月13日号) 砂糖の1日の摂取目安は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.44(2023年4月6日号) グルコサミンの定期服用で、認知症リスクが下がる!? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.43(2023年3月30日号) コーヒーの心臓への影響は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.42(2023年3月23日号) 雄マウスのiPS細胞から卵子作製!?子も誕生!? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.41(2023年3月16日号) アルツハイマー病のリスク低減・進行を防ぐ食事とは? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.40(2023年3月9日号) 地上とトレッドミルでのランニング、効果に差はあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.39(2023年3月2日号) 筋トレには、動物性タンパク質?植物性タンパク質は効果あり? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.38(2023年2月23日号) 過去30年間で男性器サイズが大きく変化!? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.37(2023年2月16日号) 話題の不老長寿薬NMNは、過体重/肥満の中高年の健康を取り戻すか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.36(2023年2月9日号) 低炭水化物ダイエットで、EDは改善するか? ≫その他4本
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.26(2022年11月17日号)
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.26(2022年11月17日号)
マスクは本当に効果があるのか?:学校における検証 2022年2月、マサチューセッツ州は公立学校におけるマスク着用義務を撤回し、多くの学区はその後数週間でマスク着用義務を解除した。ボストン大都市圏では、2022年6月までマスク着用を継続していたのは、ボストン地区と近隣のチェルシー地区の2つの学区のみであった。著者らは、この段階的なマスク着用義務の緩和について、差分の差分分析を用いて、新型コロナウイルス感染者の発生率に対するマスク着用の影響を検討した。The New England Journal of Medicine誌オンライン版2022年11月9日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 人工呼吸器下における最適な酸素飽和度は? 侵襲的人工呼吸器下の重篤な成人患者における酸素飽和度(SpO2)の目標は、依然として不明である。著者らは、侵襲的人工呼吸器下の成人患者を、SpO2の低い目標(90%;:目標範囲88~92%)、中間目標(94%:目標範囲92~96%)、より高い目標(98%:目標範囲96~100%)の3つのグループに分け、いずれのグループが臨床転帰が良いかを検討した。The New England Journal of Medicine誌2022年11月10日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 妊娠中のハードトレーニングは、産後の健康に影響を及ぼすか? 重量挙げ、バルサルバ法、急激なまたは長時間の仰臥位ウェイトリフティングについて、妊娠中の実施は警告されているが、これらは経験的証拠ではなく専門家の意見に基づいたものである。そこで、妊娠中にハードトレーニングを行った679名を対象に、トレーニングと健康アウトカムの調査が行われた。International Urogynecology Journal誌オンライン版2022年11月4日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 高血圧治療のレビュー 高血圧は、130/80mmHg以上と定義され、米国では約1億1,600万人、全世界では10億人以上の成人が罹患している。また、高血圧は、心血管疾患イベント(冠動脈疾患、心不全、脳卒中)および死亡のリスク増加と関連している。本論文では、高血圧治療についてのレビュー結果が報告された。JAMA誌2022年11月8日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 動脈瘤性くも膜下出血に対する抗線溶療法の是非 動脈瘤性くも膜下出血における再出血は、患者の死亡および身体障害の重要な原因であり、動脈瘤破裂部位の線溶活性と関連していると考えられている。2,717名の患者が参加した合計11試験について、動脈瘤性くも膜下出血患者における抗線溶薬投与の効果を評価した、コクランレビュー更新版が公開された。Cochrane Database of Systematic Reviews誌2022年11月9日号の報告。 ≫ヒポクラ論文検索で続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.25(2022年11月10日号) キツい筋トレは筋肥大に効果があるのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.24(2022年11月3日号) AIによる膵臓がん予後予測は有用か? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.23(2022年10月27日号) 蚊を寄せ付ける体臭は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.22(2022年10月20日号) 片頭痛には有酸素運動、筋トレどちらが有効か? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.21(2022年10月13日号) 妊婦の"超加工食品"摂取は子供の神経心理学的発達に影響を及ぼすか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.20(2022年10月6日号) CRPはがんのバイオマーカーになるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.19(2022年9月29日号) 免疫チェックポイント阻害剤の奏効率は、食事によって変わるのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.18(2022年9月22日号) メタボを防ぐ腸内細菌に対して、最も悪影響を及ぼす食事は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.17(2022年9月15日号) セレブからも注目されているプチ断食は、ダイエットや心血管代謝に良い影響を及ぼすのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.16(2022年9月8日号) 長生きできる紅茶の摂取量は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.15(2022年9月1日号) 顔が似ていると、遺伝情報も似ている!? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.14(2022年8月25日号) ゼロカロリー甘味料は、耐糖能に影響を及ぼさないのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.13(2022年8月18日号) 運動後の摂取はゆで卵、生卵どちらの摂取が有用か? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.12(2022年8月11日号) 慢性腰痛を軽減する最良の運動オプションとは~RCTのネットワークメタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号) サル痘の臨床的特徴~最新症例報告 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.10(2022年7月28日号) 小児におけるオミクロンに対するファイザー社製COVID-19ワクチンの有効性 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.9(2022年7月21日号) 慢性便秘症に効果的な食物繊維摂取量は?:RCTの系統的レビュー&メタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.8(2022年7月14日号) COVID-19後遺症の有病率、その危険因子とは ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.7(2022年7月7日号) 糖尿病の有無が影響するか、心不全に対するエンパグリフロジンの臨床転帰 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号) 老化をあざむく方法は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.5(2022年6月23日号) 座位時間と死亡率および心血管イベントとの関連性:低~高所得国での違いはあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.4(2022年6月16日号) 乳製品やカルシウム摂取量と前立腺がんの発症リスクの関連性:前向きコホート研究 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.3(2022年6月9日号) 運動は脳内RNAメチル化を改善し、ストレス誘発性不安を予防する ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号) 6?11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本
認知症~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月18日号)
認知症~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月18日号)
2025年には日本人高齢者の700万人以上が認知症となると予測されており、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症という時代がすぐそこに迫っている。現時点で認知症は完治困難な疾患であるため、予防やリスク低減が求められる。そこで今回は認知症リスクや予防に関連する最新論文をピックアップしました。認知症リスクと血圧、脂質、腎障害との関係や、降圧薬や抗生物質の使用に関する情報をお届けします。また「日本人高齢者の歯科受診が認知症予防につながる可能性」にも注目です。(エクスメディオ 鷹野 敦夫) 『BIBGRAPH SEARCH』では、エクスメディオが提供する文献検索サービス「Bibgraph」より、注目キーワードで検索された最新論文をまとめてご紹介しています。 アルツハイマー病発症リスクを軽減させる降圧薬は Pan X, et al. Drugs Aging. 2022 Oct 17. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 脂質特性は認知症リスクに影響するのか~英国バイオバンクのコホート研究 Gong J, et al. EClinicalMedicine. 2022; 54: 101695. ≫Bibgraphを読む 日本人高齢者の歯科受診が認知症予防につながる可能性~日本人高齢者コホート縦断的研究 Saito M, et al. Dement Geriatr Cogn Disord. 2022 Oct 12. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 腎機能と認知症リスクとの関連~英国バイオバンクのコホート研究 Wu XR, et al. J Alzheimers Dis. 2022 Oct 8. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 抗生物質の長期使用が認知症リスクに及ぼす影響 Kim M, et al. Front Pharmacol. 2022; 13: 888333. ≫Bibgraphを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.19(2022年9月29日号)
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.19(2022年9月29日号)
免疫チェックポイント阻害剤の奏効率は、食事によって変わるのか? 特定の腸内細菌叢は、がんにおける免疫チェックポイント阻害剤(ICI)に対する反応を増強するが、食事や地域性の影響については、十分に研究されていない。著者らは、オーストラリア、オランダ、アメリカでICIを投与した黒色腫患者の、腸(糞便)微生物叢の特徴と食事パターンについて前向きに観察研究を行い、奏功率や副作用との関連性を分析した。Nature Medicine誌2022年9月22日号オンライン版の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 糖尿病患者に、メトホルミンと何を併用処方すれば良いか:血糖値編 2型糖尿病患者において、目標HbA1c値維持のためにどの血糖降下薬をメトホルミンと併用すべきか、よくわかっていない。そこで、10年未満の間メトホルミンによる治療を受けHbA1c値が6.8~8.5%の2型糖尿病患者5,047名を対象に、①持効型のインスリングラルギン、②SU薬のグリメピリド、③GLP-1受容体作動薬のリラグルチド、④DPP-4阻害薬のシタグリプチン、の4群間で有効性について比較検討された。The New England Journal of Medicine誌2022年9月22日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む スピロノラクトンは、アルコール使用障害(AUD)の新たな治療選択肢となるか? 非選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬であるスピロノラクトンは、アルコール摂取を調節することが示唆されており、アルコール使用障害(AUD)に対する新しい薬物療法となる可能性がある。本研究では、マウス・ラットモデルに対するスピロノラクトンの効果検証を行い、また、米国最大の統合医療システムにおける薬剤疫学的コホート研究において、スピロノラクトンとアルコール摂取量の関連性が調査された。Molecular Psychiatry誌オンライン版2022年9月20日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 高血圧の診断に推奨される血圧カットポイントの違い:米国と欧州のガイドライン比較 2017年の米国心臓病学会/米国心臓協会、および2018年の欧州心臓病学会/欧州高血圧学会による「高血圧/高血圧の管理に関する臨床診療ガイドライン」は、影響力のある文書である。2つのガイドライン間では、「高血圧の診断に推奨される血圧カットポイント」や「治療のタイミングと強度」にも違いがある。今後、2つのガイドラインの一致度が高まり、世界中で高血圧の予防、認識、治療、管理の改善につながることが期待される。Journal of the American College of Cardiology誌2022年9月20日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 脳のインスリン感受性は高められるか? 脳のインスリン抵抗性は,体重や体脂肪に悪影響を与える可能性がある。ヒトにおいて脳のインスリン感受性は回復可能なのか、どのように回復させることができるかは、ほとんど知られていない。座りがちな過体重および肥満の成人を対象に、8週間の指導付き有酸素運動トレーニング介入が行われ、その効果が評価された。JCI Insight誌2022年9月22日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.18(2022年9月22日号) メタボを防ぐ腸内細菌に対して、最も悪影響を及ぼす食事は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.17(2022年9月15日号) セレブからも注目されているプチ断食は、ダイエットや心血管代謝に良い影響を及ぼすのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.16(2022年9月8日号) 長生きできる紅茶の摂取量は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.15(2022年9月1日号) 顔が似ていると、遺伝情報も似ている!? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.14(2022年8月25日号) ゼロカロリー甘味料は、耐糖能に影響を及ぼさないのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.13(2022年8月18日号) 運動後の摂取はゆで卵、生卵どちらの摂取が有用か? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.12(2022年8月11日号) 慢性腰痛を軽減する最良の運動オプションとは~RCTのネットワークメタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号) サル痘の臨床的特徴~最新症例報告 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.10(2022年7月28日号) 小児におけるオミクロンに対するファイザー社製COVID-19ワクチンの有効性 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.9(2022年7月21日号) 慢性便秘症に効果的な食物繊維摂取量は?:RCTの系統的レビュー&メタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.8(2022年7月14日号) COVID-19後遺症の有病率、その危険因子とは ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.7(2022年7月7日号) 糖尿病の有無が影響するか、心不全に対するエンパグリフロジンの臨床転帰 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号) 老化をあざむく方法は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.5(2022年6月23日号) 座位時間と死亡率および心血管イベントとの関連性:低~高所得国での違いはあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.4(2022年6月16日号) 乳製品やカルシウム摂取量と前立腺がんの発症リスクの関連性:前向きコホート研究 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.3(2022年6月9日号) 運動は脳内RNAメチル化を改善し、ストレス誘発性不安を予防する ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号) 6〜11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.18(2022年9月22日号)
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.18(2022年9月22日号)
メタボを防ぐ腸内細菌に対して、最も悪影響を及ぼす食事は? 腸内細菌がメタボリックシンドロームを調節する仕組みは、完全には解明されていない。著者らは、腸内細菌が常在菌特異的なTh17細胞を誘導することにより、肥満、メタボリックシンドローム、および糖尿病予備軍の発症を防ぐことを示し、メタボリックシンドロームのリスクとなる食事と細菌叢、そのメカニズムを明らかにした。Cell誌2022年9月15日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 高齢者におけるオピオイド処方は、認知機能に影響を及ぼすのか オピオイドは高齢者の疼痛緩和のために頻繁に処方されているが、長期的な認知機能との関係はよくわかっていない。高齢者の集団ベースコホート研究Mayo Clinic Study of Agingに参加した、2004年11月1日から2019年4月1日の間にオピオイド処方を受けた2,977人の分析において、処方オピオイド、全般的認知機能およびドメイン特異的認知機能、軽度認知障害間の関連性が評価された。Journal of the American Geriatrics Society誌オンライン版2022年9月18日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 生後6ヶ月から6歳未満の小児に対するデュピルマブの投与の有効性と安全性 局所療法でコントロール不良な、中等度から重度のアトピー性皮膚炎と診断された生後6か月から6歳未満の小児を対象に、低力価の局所ステロイドクリームを併用したデュピルマブの有効性と安全性を評価するための、無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験が実施された。Lancet誌2022年9月17日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 心血管疾患の二次予防に、ポリピルは有効か? 心筋梗塞後の心血管死や合併症の二次予防の簡便なアプローチとして、予後改善に関連する主要薬剤(アスピリン、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、スタチン)の多剤併用(ポリピル)が提案されている。 ポリピル群と通常治療群の主要な有害心血管イベントリスクを比較した試験結果が報告された。The New England Journal of Medicine誌2022年9月15日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 超低用量4剤併用療法は、高血圧治療の新たな選択肢となるか?〜QUARTET USA 高血圧患者の半数以上は、血圧コントロールのために多剤併用療法を必要としているが、単剤療法と比較してアドヒアランスが低く、副作用が多くなる可能性がある。そこで、通常用量の1/4量の4剤(カンデサルタン2mg、アムロジピン1.25mg、インダパミド0.625mg、およびビソプロロール2.5mg)を合剤とした併用療法と、標準用量の単剤療法の効果・健康関連QOLを比較するためのQUARTET USA試験の研究デザインが公表された。American Heart Journal誌オンライン版2022年9月15日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.17(2022年9月15日号) セレブからも注目されているプチ断食は、ダイエットや心血管代謝に良い影響を及ぼすのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.16(2022年9月8日号) 長生きできる紅茶の摂取量は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.15(2022年9月1日号) 顔が似ていると、遺伝情報も似ている!? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.14(2022年8月25日号) ゼロカロリー甘味料は、耐糖能に影響を及ぼさないのか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.13(2022年8月18日号) 運動後の摂取はゆで卵、生卵どちらの摂取が有用か? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.12(2022年8月11日号) 慢性腰痛を軽減する最良の運動オプションとは~RCTのネットワークメタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号) サル痘の臨床的特徴~最新症例報告 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.10(2022年7月28日号) 小児におけるオミクロンに対するファイザー社製COVID-19ワクチンの有効性 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.9(2022年7月21日号) 慢性便秘症に効果的な食物繊維摂取量は?:RCTの系統的レビュー&メタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.8(2022年7月14日号) COVID-19後遺症の有病率、その危険因子とは ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.7(2022年7月7日号) 糖尿病の有無が影響するか、心不全に対するエンパグリフロジンの臨床転帰 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号) 老化をあざむく方法は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.5(2022年6月23日号) 座位時間と死亡率および心血管イベントとの関連性:低~高所得国での違いはあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.4(2022年6月16日号) 乳製品やカルシウム摂取量と前立腺がんの発症リスクの関連性:前向きコホート研究 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.3(2022年6月9日号) 運動は脳内RNAメチル化を改善し、ストレス誘発性不安を予防する ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号) 6〜11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本
食事摂取によるナトリウムの減量と減量期間が血圧レベルに及ぼす影響:システマティックレビューとランダム化試験のメタアナリシス
食事摂取によるナトリウムの減量と減量期間が血圧レベルに及ぼす影響:システマティックレビューとランダム化試験のメタアナリシス
Effect of dose and duration of reduction in dietary sodium on blood pressure levels: systematic review and meta-analysis of randomised trials BMJ. 2020 Feb 24;368:m315. doi: 10.1136/bmj.m315. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 目的: 食事で摂るナトリウムの減量と血圧変化の用量反応関係を調べ、介入期間の影響を調査することを目的としました。 デザイン: PRISMAガイドラインに基づいてシステマティックレビューとメタ分析を行うデザインとしました。 データソース: Ovid MEDLINE(R)、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled Trials(Wiley)、そして2019年1月21日までの関連記事の参照リストをデータソースとしました。 試験選択の適格基準: 24時間尿中ナトリウム排泄量で評価したナトリウム摂取量を成人集団間で比較したランダム化試験を組み入れました。 データの抽出と分析: 3人のレビューアのうち2人が、個々にデータの適格性に関するスクリーニングを行いました。1人のレビューアが全てのデータを抽出し、他の2人がデータの正確性をレビューしました。レビューアは、ランダム効果メタ分析、サブグループ分析、およびメタ回帰分析を実行しました。 結果: 12,197人の対象者を含む133の研究が組み入れられました。24時間尿中ナトリウム排泄量、収縮期血圧(SBP)、および拡張期血圧(DBP)の平均低下(ナトリウム低下群 vs. ナトリウム通常量群)は130mmol(95%CI:115〜145、P<0.001)、 4.26mmHg(3.62〜4.89、P<0.001)、および2.07mmHg(1.67〜2.48、P<0.001)でした。24時間尿中ナトリウム排泄量が50mmol低下するごとに、SBPは1.10mmHg(0.66〜1.54; P<0.001)低下し、DBPは0.33mmHg(0.04〜0.63; P=0.03)低下しました。 血圧の低下は、高血圧および非高血圧にかかわらず、調査対象となった多様な集団で観察されました。24時間尿中ナトリウム排泄量の低下が同一の集団間で比較したところ、高齢者、非白人、そしてベースラインSBPレベルが高い集団でより大きなSBP低下が認められました。15日未満の試験では、24時間尿中ナトリウム排泄量が50mmol低下するごとに、1.05mmHg(0.40〜1.70; P=0.002)のSBP低下が見られ、より長い期間の研究で観察された血圧低下の半分未満でした(2.13 mmHg; 0.85〜3.40; P=0.002)。それ以外については、試験期間とSBP低下の間に関連性は認められませんでした。 結論: ナトリウム減量によって達成された血圧低下の程度は、用量反応関係を示し、高齢者、非白人、ベースライン時に高い血圧を示した集団でより顕著でした。短期間の研究では、ナトリウム減量が血圧に及ぼす影響は過小評価されていました。 システマティックレビュー登録: PROSPEROCRD42019140812 出版はBMJ Publishing Group Limitedです。使用許可については(ライセンス未取得の場合)、http://group.bmj.com/group/rights-licensing/permissions へアクセスしてください。 利益相反: すべての著者は、www.icmje.org /coi_disclosure.pdfにあるICMJE統一開示フォームに記入し、以下を宣言します:提出された研究に対していかなる組織からの助成を受けていません。本研究以外では、BNは中国のSalt ManufacturingCompanyとNutekから試験の塩の補充を受けています。MWは、オーストラリア国立健康医学研究財団のグラント(1080206および1149987)によってサポートされており、アムジェン、キリンから謝金を受けています。NRCCは、World Action on Salt and Healthの無償メンバーであり、多くの政府/非政府組織におけるナトリウム接種と高血圧管理に関するコンサルタントを行っています。AALは、Hypertension Canada New InvestigatorAwardによって資金提供されています。FJHは、塩と健康に関するコンセンサスアクション(CASH)および塩と健康に関する世界アクション(WASH)のメンバーです。 CASHとWASHはどちらも非営利の慈善団体であり、FJHはCASHまたはWASHからの財政的支援を受けていません。GAMは、Blood Pressure UK (BPUK)の議長、Consensus Action on Salt and Health (CASH) の議長、およびWorld Action on Salt and Health (WASH)の議長を務めています。 BPUK、CASH、WASHは非営利の慈善団体であり、GAMはこれらの団体から財政的支援を受けていません。 第一人者の医師による解説 これまでの研究のメタ解析 降圧に国民的減塩政策の有用性を示唆 平田 恭信 東京逓信病院・名誉院長 MMJ. October 2020; 16 (5):132 食塩の過剰摂取が素因のある人では高血圧を招来することは周知である。同時に食塩摂取量の減少が血圧を低下させることも多くの研究で示されてきた。しかしこれをもってすべての人に減塩を勧めることに対してはいまだ異論も少なくない。それは減塩による降圧効果が高血圧者あるいは食塩の多量摂取者だけに認められるとの最近の報告に代表される(1)。  本研究ではこれまでの減塩と血圧変化との関係を調べた研究のメタ解析によって、減塩による降圧効果はどのような人に認められるのか、減塩の程度や期間と降圧効果の大きさについて検討している。いつも問題になるのは減塩の評価法である。主流は食事内容から算出する方法と尿中ナトリウム排泄量を測定する方法である。最近は簡便性のためスポット尿でクレアチニン補正をすることが多くなったが、それは誤差が多いとして今回は24時間尿中ナトリウム排泄量を測定した論文だけを解析している。その結果、減塩により老若男女、高血圧の有無を問わず一定の血圧低下が認められた。解析した133論文の平均値では、130mmol/日のナトリウム摂取量減少によって収縮期 /拡張期血圧は4.26/2.07mmHg低下したという。必ずしも大きな降圧値ではないが、拡張期血圧がわずか2mmHg下がると心血管イベントの発症は10~20%も減少することが知られている(2)。  また、その効果は血圧値が高いほど、減塩量が多いほど、高齢者、非白人で大きかった。ここまでの結果は予想の範囲内であったが、減塩期間が2週間以内では降圧効果が十分に発揮されず、さらなる期間の延長によって降圧値が倍加したというのは新知見であろう。DASH研究でも4週目の降圧がそれまでの週より大きかったという報告に合致する(3)。減塩効果を厳密に測定しようとすると入院下の観察あるいはそれに準じた監視が必要になる。それにはどうしても2週間くらいが限度と思われるからである。  我々日本人は食塩大好き国民であり、昔よりは改善したといっても依然11g/日以上の食塩を摂取していて世界保健機関(WHO)の勧めている5g/日未満とは隔たりがある。英国では減塩政策により遠大な計画のもと巧妙な食品メーカーの誘導が成功して食品中の減塩により、心血管病ならびに医療費が減少した。わが国でも国民をあげての減塩政策は高血圧の予防あるいは発症の遅延に有用であろう。 1. Mente A et al. Lancet. 2018;392:496-506. 2. Czernichow S et al. J Hypertens. 2011;29:4-16. 3. Juraschek SP et al. Hypertension. 2017;70:923-929.
2017 ACC/AHA血圧ガイドラインで定義した孤立性拡張期高血圧症と心血管転帰発症との関連
2017 ACC/AHA血圧ガイドラインで定義した孤立性拡張期高血圧症と心血管転帰発症との関連
Association of Isolated Diastolic Hypertension as Defined by the 2017 ACC/AHA Blood Pressure Guideline With Incident Cardiovascular Outcomes JAMA. 2020 Jan 28;323(4):329-338. doi: 10.1001/jama.2019.21402. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】2017年米国心臓病学会・米国心臓協会(ACC/AHA)ガイドラインでは、高血圧症の定義を血圧140/90mmHg以上から130/80mmHg以上に引き下げた。新たな拡張期血圧閾値80mmHgは、専門家の意見と孤立性拡張期高血圧症(IDH)の定義変更を基に推奨された。 【目的】米国のIDH有病率を2017 ACC/AHAと2003年米国合同委員会(JNC7)による定義で比較し、IDHと転帰の横断的および縦断的な関連を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】米国国民健康栄養調査(NHANES 2013~2016年)の横断的解析および動脈硬化症リスク(ARIC)試験(1990~1992年に調査開始、2017年12月31日まで追跡)の縦断的解析。縦断的結果を2つの外部コホート――(1)NHANES III(1988~1994年)とNHANES 1999~2014、(2)Give Us a Clue to Cancer and Heart Disease(CLUE)IIコホート(1989年に調査開始)――を用いて検証した。 【曝露】2017 ACC/AHA(収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧80mmHg以上)とJNC7(収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧90mmHg以上)で定義したIDH。 【主要転帰および評価項目】米国成人のIDH有病率および2017 ACC/AHAガイドラインによりIDHに対する薬物治療を推奨された米国成人の割合。ARIC試験では、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、心不全、慢性腎臓病(CKD)の発症リスク。 【結果】被験者集団はNHANESから9590例(調査開始時の平均年齢49.6歳、52.3%が女性)とARIC試験から8703例(調査開始時の平均年齢56.0歳、57.2%が女性)を対象とした。NHANESのIDH推定有病率は2017 ACC/AHAガイドライン定義で6.5%、JNC7定義で1.3%だった(絶対差5.2%、95%CI 4.7~5.7%)。新たにIDHに分類された被験者のうち推定0.6%(95%CI 0.5-0.6%)がガイドラインの降圧治療の基準を満たした。正常血圧のARIC試験参加者と比べると、2017 ACC/AHA定義によるIDHにASCVD(1386件、追跡期間中央値25.2年、HR 1.06、95%CI 0.89~1.26)、心不全(1396件、HR 0.91、95%CI 0.76~1.09)、CKD(2433件、HR 0.98、95%CI 0.65~1.11)の発症リスクとの有意な関連が認められなかった。2件の外部コホートでもまた、心血管死との関連が否定的であった[例:2017 ACC/AHA定義によるIDHのHRがNHANES(1012件)で1.17、95%CI 0.87~1.56、CLUE II(1497件)で1.02、95%CI 0.92~1.14]。 【結論および意義】米国成人を対象とした本解析では、IDHの推定有病率は2017 ACC/AHA血圧ガイドラインの定義の方がJNC7ガイドラインよりも高かった。しかし、IDHによる心血管転帰のリスクの有意な上昇は見られなかった。 第一人者の医師による解説 拡張期血圧がIDH基準の80mmHg以上なら経過観察を 下澤 達雄 国際医療福祉大学医学部臨床検査医学主任教授 MMJ. October 2020; 16 (5):130 数年に1度、高血圧診療ガイドラインは改訂されており、日本でも2019年に新しい版が発行された(1)。日本と米国のガイドラインで大きく異なる点は高血圧の定義となる血圧の臨床判断値であろう。日本は従来どおりの140/90mmHgを高血圧の臨床判断値としているが、米国は2017年のACC/AHAガイドラインで130/80mmHgへと変更した。これに伴い、2003年 のJoint National Committee(JNC7)において拡張期血圧90mmHg以上かつ収縮期血圧140mmHg未満としていた孤立型拡張期高血圧症(isolated diastolic hypertension; IDH)の定義が拡張期血圧80mmHg以上かつ収縮期血圧130mmHg未満に変更された。その結果、米国のデータベースを用いた今回の横断的調査によると、IDHの頻度 は1.3%(2003 JNC7)から6.5%(2017ACC/AHA)へと上昇し、治療介入対象者が増える結果となった。しかし、Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)試験参加者のデータを再解析したところ、新しいIDHの定義は心血管イベントや慢性腎臓病(CKD)発症リスク、死亡リスクとの関連において従来の定義より優れていることは示されなかった。  疫学調査では拡張期血圧が75mmHgを超えると徐々に心血管イベントが増加することから、ACC/AHAガイドラインでは高血圧の臨床判断値を80mmHgに引き下げた。しかし、IDHの収縮期血圧は130mmHg未満であり、平均血圧にすると拡張期、収縮期とも130/80mmHgを超える例より低くなる。また、介入試験においてHOT試験(2)のように拡張期血圧を90mmHgまたは80mmHgまで下げても心血管イベント抑制効果に差は認められないといった報告もある。つまり、観察研究と介入研究で差異がある。  さらに、今回の検討ではIDHの定義を満たす成人の年齢構成は55歳未満が多くなっている。また従来の定義で診断されるIDHに比べ、低比重リポ蛋白(LDL)-コレステロール値、トリグリセリド値が低く、脂質異常症に対する介入割合が高く、推算糸球体濾過量(eGFR)も高くなっている。ウィンドケッセルモデルからもわかるように若年高血圧患者では血管の弾力性が保たれているため拡張期血圧は高くなりやすい。そのため心血管リスクとしてのIDHの意義が薄れていた可能性も考えられる。  この結果から拡張期血圧は放置してよいということにはならず、米国のIDHの基準であれば経過観察を行い、収縮期血圧が上がってくるようであれば生活習慣の改善から介入を進めるべきであろう。 1. 高血圧診療ガイドライン 2019 年版(日本高血圧学会編) 2. Hansson L et al. Lancet. 1998;351(9118):1755‐1762.
中年期から晩年期の血圧パターンと認知症発症との関連性。
中年期から晩年期の血圧パターンと認知症発症との関連性。
Association of Midlife to Late-Life Blood Pressure Patterns With Incident Dementia JAMA 2019 ;322 (6):535 -545. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】後期血圧と認知の関連は、過去の高血圧の有無と慢性度に依存する可能性がある。長期間の高血圧に続く後期の血圧低下は,認知機能の低下と関連する可能性がある。 【目的】中年期から後期の血圧パターンとその後の認知症,軽度認知障害,認知機能の低下との関連を検討する。 【デザイン、設定および参加者】Atherosclerosis Risk in Communities前向き集団ベースコホート研究では,中年期に4761人が登録され(訪問1,1987~1989),2016~2017年に6回の訪問でフォローアップした(訪問6,)。血圧は、訪問1~5回目(2011~2013年)の間に5回の対面訪問で24年間にわたり調査された。訪問5と6では、参加者は詳細な神経認知評価を受けた。舞台は米国の4つの地域である。メリーランド州ワシントン郡、ノースカロライナ州フォーサイス郡、ミシシッピ州ジャクソン、ミネソタ州ミネアポリス。フォローアップは2017年12月31日に終了。 【曝露】訪問1~5回目の正常血圧、高血圧(140/90mmHg以上)、低血圧(90/60mmHg未満)の縦断パターンに基づく5群。 主要アウトカムと 【測定】主要アウトカムは、Ascertain Dementia-8の情報提供者アンケート、6項目スクリーナーの電話評価、病院退院と死亡診断書コード、訪問6回の神経認知評価に基づいて、訪問5日後の認知症発症となった。副次的アウトカムは、神経認知評価に基づく訪問6日目の軽度認知障害であった。 【結果】参加者4761名(女性2821名[59%]、黒人979名[21%]、訪問5の平均[SD]年齢、75[5]歳、訪問1の平均年齢範囲、44~66歳、訪問5の平均年齢範囲、66~90歳)において、訪問5から6までの間に516(11%)が入認識症例であった。中年期の正常血圧(n=833)と晩年期の参加者の認知症発生率は、100人年当たり1.31(95%CI、1.00-1.72)、中年期の正常血圧と晩年期の高血圧(n=1559)は、100人年当たり1.99(95%CI、1.69-2.32)、中年期の晩年期の高血圧(n=1030)については、2.83(95%CI、2.69-2.72)であった。83(95%CI、100人年当たり2.40-3.35);中年正常血圧および後年低血圧(n = 927)、2.07(95%CI、100人年当たり1.68-2.54);および中年高血圧および後年低血圧(n = 389)、4.26(95%CI、100人年当たり3.40-5.32)であった。中年期および後期高血圧群(ハザード比[HR]、1.49[95%CI、1.06-2.08])および中年期高血圧および後期低血圧群(HR、1.62[95%CI、1.11-2.37])では正常血圧を維持した人々と比較してその後の認知症のリスクが有意に増加した。後期血圧に関係なく、中年期の持続性高血圧は認知症リスクと関連していた(HR、1.41[95%CI、1.17-1.71])。中年期と晩年期に正常血圧であった人と比較して,中年期の高血圧と晩年期の低血圧を有する参加者のみが,軽度認知障害(37人の罹患者)のリスクが高かった(オッズ比,1.65[95%CI,1.01-2.69])。BPパターンと晩年の認知機能変化との有意な関連は認められなかった。 【結論と関連性】長期追跡を行ったこの地域ベースのコホートでは,中年から晩年にかけての持続的高血圧と,中年および晩年の正常血圧と比較して中年高血圧および晩年低血圧のパターンは,その後の認知症のリスク上昇と関連していた。 第一人者の医師による解説 中年期から高齢期の血圧変動管理 認知症発症促進因子として重要 松村 美由起 東京女子医科大学附属成人医学センター脳神経内科講師 MMJ.April 2020;16(2) 認知症危険因子の1つとして高血圧が指摘されている。中年期における高血圧は、高齢期の認知症や認知機能低下の危険因子とされ、積極的治療が推進されているが、高齢期の血圧が認知機能に及ぼす影響および認知症発症との関連について十分な エビデンスは確立されていない。本論文は、中年期から高齢期にかけての血圧値の経年的変化と高齢期の認知機能低下および認知症発症との関連を検討した米国の地域住民対象コホート研究の報告で ある。 平均年齢44~66歳(平均54歳)の住民15,792 人に対して24年間にわたり血圧測定と認知機能検査を実施した。高血圧は140/90 mmHg超、低血圧は90/60 mmHg未満と定義し、認知機能は包括的心理バッテリーにより記憶、処理速度、実行機能、言語機能を加えて情報提供者へのインタビュー により評価した。1987~89年を初回調査とし、以降3年ごとに4回の血圧を中年期、その15年後とさらにその3年後の2回の調査を高齢期の血圧 とした。 中年期と高齢期の血圧を①中年期から高齢期まで正常血圧②中年期正常血圧、高齢期高血圧③ 中年期から高齢期まで高血圧④中年期正常血圧、高齢期低血圧⑤中年期高血圧、高齢期低血圧の5つのパターンに分類した。最終的に516人(11%)が 認知症を発症した。100人・年あたりの認知症発症率は、①は1.31、②は1.99、③は2.83、④は 2.07、⑤は4.26であった。③のハザード比は1.49、 ⑤は1.62であり、中年期から高齢期まで正常血圧を維持した群に比べ、中年期・高齢期とも高血圧の群と中年期高血圧・高齢期低血圧の群において認知症発症リスクが有意に高まっていた。 慢性的な血圧高値は脳循環自動調節能の異常や脳の小血管障害などを生じることが知られており、本研究の結果から中年期高血圧に伴うこうした脳の異常が認知症リスクを高めた可能性が推察される。一方、高齢期の血圧低下は、心循環機能障害や自律神経シグナル伝達の異常、動脈硬化によると推測されるが、高齢者は降圧薬を服用している割合も高く、晩年期低血圧は降圧薬の過剰投与によりもたらされた可能性も考えられる。脳循環自動調節能の障害がある場合、全身の血圧低下が脳血流低下を来しやすく、結果として認知機能低下に至った可能性もある。 本研究では、中年期高血圧で認知症発症例の脱落数が多く、病型診断との関連性が評価されていないなどの課題が残り、今後さらなる検証が必要である。
血圧降下治療の4つの戦略の適格性とその後の心血管疾患の負担:レトロスペクティブ・コホート研究。
血圧降下治療の4つの戦略の適格性とその後の心血管疾患の負担:レトロスペクティブ・コホート研究。
Eligibility and subsequent burden of cardiovascular disease of four strategies for blood pressure-lowering treatment: a retrospective cohort study Lancet 2019 ;394 (10199):663 -671. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】血圧を下げるための世界的な治療勧告は,血圧の閾値によって主に導かれ続けているが,血圧を下げることの利点は血圧スペクトル全体にわたる患者に観察されるという強い証拠があるにもかかわらず,このようなことはない。本研究では,英国を例に,血圧治療の代替戦略の意味を検討することを目的とした。 【方法】心血管疾患を持たない30~79歳のプライマリケア患者を対象に,Hospital Episode StatisticsとOffice for National Statistics死亡率にリンクした英国のClinical Practice Research Datalinkからのデータを用いて,レトロスペクティブ・コホート研究を実施した。治療対象者を決定するための4つの異なる戦略を評価・比較した:2011年英国国立医療技術評価機構(NICE)ガイドライン、または2019年NICEガイドライン案、または血圧のみ(閾値≧140/90mmHg)、または10年予測心血管リスクのみ(QRISK2スコア≧10%)、を使用した。患者は、心血管疾患の診断、死亡、またはフォローアップ期間の終了(2016年3月31日)のうち最も早い発生までフォローアップされた。各戦略について、治療対象となる患者の割合と、治療により予防できる心血管イベント数を推定した。次に,英国の一般集団における10年間に発生するであろう適格性とイベント数を推定した。 【FINDINGS】2011年1月1日から2016年3月31日の間に,コホート内の1 222 670例が中央値4-3年(IQR 2-5-5-2)フォローアップされた。2011年のNICEガイドラインでは271 963例(22-2%)、2019年のNICEガイドライン案では327 429例(26-8%)、血圧閾値140/90mmHg以上基準では481 859例(39-4%)、QRISK2閾値10%以上基準では357 840例(29-3%)が治療対象であった。追跡期間中に32 183人の患者が心血管疾患と診断された(全体の割合:1000人年当たり7-1、95%CI:7-0-7-2)。各戦略の対象患者における心血管イベント発生率は、2011年NICEガイドラインでは1000人年当たり15-2(95%CI 15-0-15-5)、2019年NICEガイドライン案では14-9(14-7-15-1)、血圧閾値のみでは11-4(11-3-11-6)、QRISK2閾値のみでは16-9(16-7-17-1)であった。英国人口に換算すると、2011年NICEガイドラインでは233 152イベント(1イベントを回避するために10年間治療する必要がある患者は28人)、2019年NICEガイドラインでは270 233(29人)、血圧閾値を用いた場合は301 523(38人)、QRISK2閾値を用いた場合は322 921(27人)が回避できると推測されました。 【INTERPRETATION】心血管リスクに基づく戦略(QRISK2≧10%)は、2011年NICEガイドラインより3分の1以上、2019年NICEガイドラインより5分の1以上、イベント回避あたりの治療数に関して同様の効率で心血管疾患イベントを予防できる。 【FUNDING】National Institute for Health Research【FUNDING】国立健康研究所。 第一人者の医師による解説 高血圧ポピュレーション戦略において 絶対リスクは血圧値よりも重要な可能性 田中 正巳(特任講師)/伊藤 裕(教授) 慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科 MMJ.February 2020;16(1) 国民の脳心血管病リスクを低下させるためには、 国民全体の血圧を低い方向へシフトさせるポピュ レーション戦略と同時に、高リスク者に積極的に介入する高リスク戦略も重要である。降圧治療が必要な患者を選定する際の指標として、脳心血管病の絶対リスクと血圧値が一般に用いられ、英国の NICEガイドラインは両者を組み合わせている。 本論文は、英国 で 心血管疾患の 既往 が な い30 ~79歳 の 患者1,222,670人 を 中央値4.3年 間追跡した後ろ向きコホート研究の報告である。 2011年 と19年 のNICEガ イ ド ラ イ ン、血圧 の み(140/90 mmHg以上)、10年間の心血管リス ク(QRISK2スコア 10%以上)のみの4つの戦略 が、降圧治療の適格性、降圧治療で回避しうる心血 管イベント数、治療効率性の観点から比較された。 QRISK2スコアは、年齢、性、民族性、貧困度、BMI、 血圧、脂質、糖尿病、慢性腎臓病、心房細動、関節リ ウマチ、冠動脈疾患の家族歴、喫煙などの要素から算出される。治療効率性は、1件の心血管イベン トを防ぐために10年間治療する必要がある患者数(NNT)に基づいて評価した。その結果、英国全 体では2011NICE、2019NICE、血圧のみ、リス クのみの患者選定によって予防できるイベント数 は そ れ ぞ れ233,152、270,233、301,523、 322,921件、NNTは28、29、38、27と推定され た。したがって、絶対リスクのみによる患者選定は 効率が高く、最も多くの心血管イベントを予防で きると考えられた。 本研究は後ろ向き研究であるため、この結果をもって「絶対リスクのみに基づく戦略が、リスクと血圧を組み合わせた戦略よりも優れている」と結論づけるのは時期尚早であろう。絶対リスク評価 の重要性が新たな手法で示された、と解釈するのが現時点では妥当である。   日本 の 高血圧治療 ガ イ ド ラ イ ン 2019で は、 JALSおよび久山町研究に基づくリスクスコアを用いて脳心血管イベントの絶対リスクを算出し、 診察室血圧を組み合わせてリスク層別化を行った。 リスクの高低に応じて血圧再評価や薬物療法の開始時期を変えている。動脈硬化性疾患予防ガイドラ イン 2019では「吹田スコアによる冠動脈疾患発症予測モデル」から予測されたリスクの高低に応 じて、脂質の管理目標値を変えている。このように 個々の患者に合わせた治療が可能になるため、絶対リスクと血圧、脂質値を組み合わせた日本のガイドラインは高リスク戦略の点では優れている。 一方、ポピュレーション戦略の観点からは、絶対リスクのみに基づく戦略によって脳心血管イベントをどれだけ減らせるのか、本研究と同様の研究を日本で検討する必要もある。