ライブラリー 子癇前症と後年認知症になるリスク:全国規模のコホート研究
Pre-eclampsia and risk of dementia later in life: nationwide cohort study
BMJ 2018 Oct 17 ;363 :k4109 .
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【目的】子癇前症とその後の認知症との関連を、全体および認知症のサブタイプや発症時期別に検討する。
【デザイン】全国規模の登録に基づくコホート研究
【対象】デンマーク、1978年から2015年の間に少なくとも1回の生児または死産をした全女性。
【主要評価項目】Cox回帰を用いて推定した、子癇前症の既往がある女性とない女性の認知症発症率を比較したハザード比。
【結果】コホートは1,178人の女性からなり、追跡期間は20 352 695人年であった。子癇前症の既往のある女性は、子癇前症の既往のない女性と比較して、後年、血管性認知症のリスクが3倍以上(ハザード比3.46、95%信頼区間1.97~6.10)であった。血管性痴呆との関連は、早期発症(2.32、1.06〜5.06)よりも晩期発症(ハザード比6.53、2.82〜15.1)の方が強いようだ(P=0.08)。糖尿病、高血圧、心血管疾患の調整により、ハザード比は中程度にしか減少しなかった。感度分析により、肥満度が血管性痴呆との関連を説明することはないことが示唆された。一方、アルツハイマー病(ハザード比1.45、1.05~1.99)およびその他/特定不能の認知症(1.40、1.08~1.83)については、緩やかな関連しか認められなかった。心血管疾患、高血圧、および糖尿病は、関連性を実質的に媒介する可能性は低く、子癇前症および血管性認知症は、根本的なメカニズムまたは感受性経路を共有している可能性が示唆された。子癇前症の既往を問うことは、医師が疾患の初期徴候をスクリーニングすることで有益な女性を特定し、早期の臨床介入を可能にするのに役立つ可能性がある。
第一人者の医師による解説
認知症予防の観点で大きな意義 妊娠高血圧腎症の既往に留意必要
宮川 統爾 Department of Neurology, Mayo Clinic /岩坪 威 東京大学大学院医学系研究科神経病理学分野教授
MMJ.April 2019;15(2)
妊娠高血圧腎症(π)の既往は、将来の認知症、特に65歳以上の血管性認知症の強いリスクとなることが、デンマークの全国データベースを活用した 今回のコホート研究によって示された。
妊娠高血圧腎症は全妊娠の3~5%に生じる血管内皮障害を機序とする病態で、既往歴のある女性では将来の心血管合併症リスクが高いことが知られてきた。一方、妊娠高血圧腎症と将来の認知症との関連については、数十年に及ぶ発症時期のギャップから、疫学研究データは限定的である(1),(2)。
本研究は、デンマーク全国民を登録したデータベースをもとに、1978~2015年に出産または 死産を経験した117万8,005人の女性を母集団 として中央値21.1年、2035万2,695人・年の追跡を行い、妊娠高血圧腎症既往の有無と将来の認知症との関連を解析した。妊娠高血圧腎症既往を有する女性は既往のない女性と比較し、血管性認知症発症リスクが3倍以上高かった(ハザード比[HR], 3.46;95%信頼区間[CI], 1.97~6.10)。さら に、発症年齢を65歳以上の老年期発症と65歳未満の若年期発症に分類すると、HRが前者では6.53 (95% CI, 2.82~15.1)、後者では2.32(1.06 ~5.06)と老年期発症例でリスク上昇が大きかった。高血圧や冠動脈疾患、脳梗塞、慢性腎臓病、糖尿病などの心血管合併症因子による補正後もリスクの減弱はわずかで、両病態間の強い関連性は残存した。血管性認知症以外の認知症との関連は相対的に小さく、アルツハイマー病で45%、その他 /未特定の認知症で40%のリスク上昇を認めたものの、 アルツハイマー病ではデータが不十分で補正できない交絡因子として肥満の影響が示唆された。
妊娠高血圧腎症罹患から認知症発症には数十年のギャップが存在することが大半で、本研究でも約90%の女性は解析時に65歳未満であり、追跡期間中に認知症と診断された者は0.1%にすぎない。しかしながら、母集団の大きさや追跡期間の長さから、本研究が明らかにした妊娠高血圧腎症既往と将来の認知症、特に老年期の血管性認知症リスクの強い関連性は、認知症予防の観点で大きな意義がある。疾患修飾薬による認知症予防は未だ道半 ばであり、妊娠高血圧腎症既往のある女性に対しての早期からの血圧・脂質・糖などの心血管危険因子 への介入は、血管性認知症予防に有用かもしれない。 また、両病態での共通メカニズムの探索が、血管性認知症の疾患修飾薬開発につながる可能性がある。本研究からの知見の再現性が他研究によって得られることが望まれる
1. Nelander M, et al. BMJ Open 2016 Jan 21;6(1):e009880. doi: 10.1136/ bmjopen-2015-009880.
2. Andolf EG, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2017;96(4):464-471. doi: 10.1111/aogs.13096.