ライブラリー 英国のプライマリーケアにおける検査利用の時間的傾向(2000-15年):2億5000万件の検査のレトロスペクティブ分析。
Temporal trends in use of tests in UK primary care, 2000-15: retrospective analysis of 250 million tests
BMJ 2018 Nov 28 ;363 :k4666 .
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【目的】英国のプライマリケアにおける検査使用の時間的変化を評価し、使用量が最も増加した検査を特定する。
【デザイン】英国のプライマリケア。
【参加者】Clinical Practice Research Datalinkの英国の一般診療所に登録された全患者、2000/1から2015/16。[主なアウトカム指標】検査使用の時間的傾向、総検査使用率および44の特定検査の粗・年齢・性別標準化率。
【結果】71 436 331人年にわたる262 974 099件の検査が解析された。年齢と性別で調整した使用量は毎年8.5%増加し(95%信頼区間7.6%~9.4%)、2000/1の1万人年当たり14869検査から2015/16年には49267検査と3.3倍に増加した。2015/16年の患者は年間平均5回の検査を受けたが、2000/1では1.5回であった。また,検査使用量は,男女ともに,すべての年齢層で,すべての検査タイプ(検査室,画像,雑多)で,特に調査した44検査のうち40検査で,統計的に有意に増加した。
【結論】総検査使用量は,男女ともに,すべての年齢層で,検査タイプ(検査室,画像,雑多),特に調査した44検査のうち40検査で,時とともに顕著な増加をしている。毎年少なくとも1回の検査を受けた患者のうち、2回以上の検査を受けた患者の割合は、時間の経過とともに有意に増加した。
第一人者の医師による解説
医師の負担と医療費の増加を示唆 日本でも大きな課題
村田 満 慶應義塾大学医学部臨床検査医学教授
MMJ.June 2019;15(3)
英国国民保健サービス(NHS)は今、予想を超える支出増加に直面している。これまで英国の一般開業医(GP)による検査のコストに関する統計報告はない。本研究は、GPによる検査利用数の動向を調査し、最も増加している検査を特定することを目的とし、英国人口の約7%をカバーする電子カルテデータであるClinical Practice Research Datalink (CPRD)に2000~16年に登録された情報を後 方視的に解析した。素検査数、年齢・性で補正した検 査数を検査全体と特定の44検査について集計した。
検査数 は2000年 の10,000人・ 年 あたり 14,869回から15年には49,267回と約3.3倍 (年率8.5%)増加した。この増加は年齢、性、検査 の種類(検体検査、画像検査、その他検査[消化管内 視鏡、心電図、呼吸機能、子宮頸部スメア等])にかかわらず、また44検査中解析された40検査で統 計学的に有意であった。特に85歳以上では4.6倍 増で、高齢者で増加率が顕著であった。検査種別の 年間増加率は検体検査8.7%、画像検査5.5%、その他検査6.3%であった。
検査数増加の背景は多様であるがGPからのコンサルテーション増加も一因と思われ、患者を安心させるため、コンサルテーションを終了するためなど非医学的理由も考えられる。また医療システムの変遷、例えば慢性疾患モニタリングに対するインセンティブなどの影響、さらに患者からの検査要望の増加も要因と思われる。
検査数増加の要因を問わず、今回の解析結果はプライマリケア医の労務負担の増加を示唆する。既報をもとに試算すれば、患者7,000人に対しGP 3人を想定した場合、医師は1日あたり1.5~2時間を検査結果解釈に費やすことになる。2015年を例にあげればNHS支出として直接経費のみで 28億ポンド(検体検査18億ポンド、画像診断4億 ポンド、その他6億ポンド)が費やされたことになる。 今回の結果はNHSの財政が逼迫する中、今後の医 療資源に関する1つの方向性を示していると思われる。
これらの結果を、医療制度がまったく異なる日本に当てはめることは困難であるが、少子高齢化の進行、生活習慣病の増加、複数医療機関の受診、医療技術の進歩に伴う医療費の高騰は日本でも最大の課題である。同様の問題に直面する米国でも頻回の受診、画像検査・処置の過剰利用など、約30% が「無駄」な医療費とする報告もある(1)。一方で、診断や治療追跡に加え、より「精密な」医療を求める社会的要請に対する検査の役割が増加していることも事実であり、効率的かつ安全・安心な医療提供のための検査のあり方について今後議論が活性化される必要があろう。
1. Yong PL, et al. Eds. The Healthcare Imperative:Lowering Costs and Improving Outcomes:Workshop Series Summary. National Academies Press (US);2010.