「感染症対策」の記事一覧

#12 「コスタ・アトランチカ」乗組員への緊急医療支援活動
#12 「コスタ・アトランチカ」乗組員への緊急医療支援活動
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 長期ボランティア医師(活動地:日本) 「長崎にて、コスタ・アトランチカ号の医療支援第二陣に参加しています」 4月末から始まったジャパンハートの医療支援活動も2週目に入りました。クルーズ船のそばの陸地に設置されたプレハブ小屋で、自衛隊・長崎医療センター・Peace Winds・国境なき医師団と一緒に医療活動を行っています。 日々の業務内容としては、下船患者の状態確認や誘導・濃厚接触者へのPCR検査・状態悪化した患者のCT撮影や救急搬送の対応を行ったり、現場のマニュアル作りや物品管理のフローチャート作成をしたりしています。また、各医療チームが入れ替わるごとに、PPE(個人用防護服)の着脱方法を教え合ったり、船内で状態が悪化した患者が発生した時のシミュレーションを行ったりすることで、コロナ診療の経験が豊富なチームが後から新しく参加したチームに「ここでのコロナ対策」を伝達しています。 僕が普段活動しているミャンマーでもコロナ対策はしていましたが、実際のコロナ診療の現場に立ち会ってみて感じたのは、感染症診療の原則を踏まえつつ、同時にその現場ごとの環境に合わせた「ここでのコロナ対策」を作り上げていく必要があるということです。 今回のコスタ・アトランチカ号は、ダイヤモンド・プリンセス号での経験を踏まえて極めて冷静に対応されており、現場は予想していた以上に落ち着いています。自分たちの安全を第一として、安心して患者対応できるシステムが整っています。 そして、コスタ・アトランチカ号の現場に関わってみて、2月時点でのダイヤモンド・プリンセス号での混乱した現場の対応の難しさを実感しています。まだコロナ肺炎の自然経過も、一部の患者が急速に重症化するコロナ特有の経過も、優先すべき搬送順も分からない状況で、クルーズ船オペレーションの大きな方針から細かいマニュアル作りまでを決定し、刻々と変化する状況や情報に合わせて適宜修正を加えていくのは、どれほど困難だったでしょうか。あの現場で働かれた方々に心から敬意を表します。 また、ここに来てよかったのは他の医療支援チームとの出逢いです。Peace Windsの坂田大三先生は、ミャンマーの隣国バングラデシュで途上国医療をされていたり、僕の地元福山で地域医療をされていたりと、僕にとっては今後にも繋りそうな良い出逢いになりました。 最終的に全ての乗員が下船できるまでは、もうしばらく時間がかかりそうです。チーム内外でコミュニケーションをしっかり取りながら、乗員の皆が安心して帰国できるようにお手伝いしようと思います。 ミャンマーでの医療支援活動の様子 (ジャパンハート 2020年5月12日掲載) ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
クラスター発生施設の支援活動を行った看護師がみたリアル
クラスター発生施設の支援活動を行った看護師がみたリアル
発展途上国、日本のへき地離島、大規模災害の被災地……。世の中には「医療の届かないところ」があります。NPOジャパンハートはそんなところに、無償で医療支援を行っています。ボランティアとして参加した医療従事者が、現地での活動内容などを報告します。 日本国内で日々発表される新型コロナの新たな感染者数は減少傾向にあります。しかし、全国各地の医療施設では患者と職員を巻き込んだクラスター(感染者集団)が今も発生しており、医療従事者の手が足りない状況が続いています。クラスターが起こった施設の人手不足を緩和しようと、発展途上国や災害被災地で医療活動を行うNPO法人「ジャパンハート」(東京)は2020年5月から、全国の病院や介護老人福祉施設などに看護師を派遣しています。現地での活動を終えた看護師に、現場の実情や感じたことついて話を聞きました。 (ヒポクラ × マイナビ編集部・金子省吾) 海外支援に参加予定が一転 国内のクラスター発生施設へ 看護師歴20年超の前田百合子さん(大阪府)。これまで内科、脳外科、ICU、外科を経験してきました。長年の夢だった海外での医療活動を実現するために、ジャパンハートが主催している「国際看護師研修」のプログラムに応募。2020年11月に 6人のチームでカンボジアへ渡る予定でした。しかし、新型コロナの流行により状況は一変しました。2班に分かれ、時期をずらして現地へ向かうことになったのです。後発組はクラスターが発生した全国各地の医療施設などで支援活動をした後に渡航することに。「国内が大変なことになっている状況で自分の夢を優先させていいのだろうか。渡航は延期して現場の手助けに回ろう」と自ら志願し、支援に参加することを決めました。 20年10月末~21年2月上旬にかけて、沖縄県、青森県、北海道、大阪府の医療・福祉施設6カ所に派遣され、それぞれ5~14日間、活動しました。最初に訪れたのは沖縄県石垣市のかりゆし病院。看護師としての経験は豊富ですが、新型コロナ患者に関わる現場は初めてだったため、緊張を感じながら臨んだといいます。その後に訪れた病院を含め、主な業務は、入院した感染患者の食事の手伝いや定期的な検温、点滴や床ずれの処置などで、派遣先の施設が管理するシフトに従い、夜勤にも入りました。新型コロナで入院する患者のほとんどは高齢者で、普通に話したり歌を歌っていたりした人が、翌日急激に悪化するという特徴があったといいます。 ギリギリのスタッフ数で、かろうじて運営している施設も多かったそう。そのため、体を拭いたり着替えさせたりといった身の回りの世話までは手が回らなかったといいます。「最小限の仕事」しかできず、「クラスターが発生するとこんなにもいっぱいいっぱいになってしまうのかと、深刻さを実感した」と振り返ります。 看護師がさらされる恐怖と、人手不足の原因 患者と密に接する看護師は特に感染リスクが高いといえます。前田さんも「自分の身は自分で守る」という自覚を持って対策を取っていましたが、感染の恐れを常に感じながらの活動だったといいます。実際に体調を崩したこともあり、検査結果は陰性でしたが、肝を冷やしたそうです。 感染リスクとは別に看護師が恐れているのが、「差別」や「風評被害」だといいます。クラスターが発生した施設で働いていると知られると、あからさまに周囲からの風当たりが強くなるとのことで、人手不足の原因の一端はそこにあるそうです。とある病院では、欠勤している看護師40人のうち20人は自身の感染が理由で、残りの20人は自己都合による欠勤でした。家族や自分の生活を守るために、職場に出てくることができないのです。 「自分の家だけ回覧板を飛ばされた」「家族が職場の人から、出てこないでくれと言われた」「幼稚園の職員から、子どもを預けないでくれと言われた」という話を聞いたといいます。クラスターが発生した病院にはタクシーを呼んでも来てくれない、その病院の関係者だと乗車拒否されるということもあるそう。家を出てホテルで暮らしながら働いている人も多くいるといい、「辞めたい」と嘆く看護師も目にしました。「悪いことをしているわけではないのに、どうしてこんなに働きにくくなってしまうのか。なんでうまくいかないんだろう……」。今までに経験したことのないジレンマでした。 状況は徐々に緩和傾向にあるが… 看護師として感じたもどかしさ 5カ所での支援活動を経て最後に訪れたのは、高齢者福祉施設。ここでも看護師として初めて抱く葛藤があったといいます。訪れた施設では、症状が急変した場合に積極的治療をしないという条件で入所している人も少なくなかったそうです。看護師としては、支援に入る以上どうにかして治療してあげたいと思うのが当然。しかし、重症患者を泣く泣くみとることしかできないこともあったといいます。 また、一つの施設に対する支援活動には期限があります。そのため、酸素投与や点滴などの処置ができるのは、その限られた期間だけ。福祉施設のスタッフだけでは医療行為を行えません。患者を残したまま去ることになった場合、後のことを考えるとやり切れませんでした。さらに、どんなに助けたいという思いがあったとしても、地域の病院にベッドの空きがなくて入院させられず、満足な治療ができないということもあったといいます。そんな状況に歯がゆさを覚えたまま、支援活動は終わりました。 昨年10月末から今年2月まで、新型コロナの対応に苦しむ医療現場で働いてきました。地域差はあるにせよ、一時期のどうしようもないほどにひっ迫した状況は収まりつつあるのではないかと感じているそうです。しかし、クラスターが終息した医療施設には、その後も大きな課題が残ると指摘します。差別や風評被害から心に傷を負って働けなくなった人や、家族や自分の生活を守るために職場を変えざるを得なかった人など、かなりの数の看護師が離職しており、人員不足は続いているそうです。これから途上国の支援に参加する前田さん。日本国内であっても、地域や施設による格差から助けられない患者がいることや、最前線で戦う看護師たちの嘆きや葛藤が、胸に深く刻まれました。 ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで長期ボランティアとして活動してくれる医師を募集しています。 オンライン相談会を実施中です。「医療の届かないところに医療を届ける」活動に関心のある方は、ちょっとのぞいてみてください。 〉ジャパンハート オンライン相談会ページ
インフルエンザ~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月11日号)
インフルエンザ~BIBGRAPH SEARCH(2022年10月11日号)
過去2年間、国内での流行がなかったインフルエンザですが、今シーズンはどうなるのでしょうか。日本感染症学会からの提言においても「2022-2023年シーズンは、インフルエンザの流行の可能性が大きい」とされています。そこで今回は、インフルエンザを取り上げました。インフルエンザ流行による日本の医療リソース利用状況やワクチン接種を促す方法、ワクチン効果を高める方法など注目の論文をご紹介します。(エクスメディオ 鷹野 敦夫) 『BIBGRAPH SEARCH』では、エクスメディオが提供する文献検索サービス「Bibgraph」より、注目キーワードで検索された最新論文をまとめてご紹介しています。 日本人高齢者の季節性インフルエンザによる医療リソース利用はどの程度か~レトロスペクティブ研究 Hagiwara Y, et al. PLoS One. 2022; 17: e0272795. ≫Bibgraphを読む インフルエンザワクチン接種を繰り返すとその効果が薄れるのか~メタ分析 Jones-Gray E, et al. Lancet Respir Med. 2022 Sep 21. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む プライマリケア医がインフルエンザワクチン接種患者を増やすための効果的な方法は? Patel MS, et al. Am J Health Promot. 2022 Oct 4. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 毎日より多くの光を浴びるとインフルエンザワクチン接種の効果が高まる~認知症高齢者を対象とした研究 Munch M, et al. Brain Behav Immun Health. 2022; 26: 100515. ≫Bibgraphを読む インフルエンザ菌の抗生物質薬剤耐性~フランス急性中耳炎患者調査 Taha A, et al. J Glob Antimicrob Resist. 2022 Oct 1. [Online ahead of print] ≫Bibgraphを読む 参考:一般社団法人日本感染症学会 提言 2022-2023年シーズンのインフルエンザ対策について(医療機関の方々へ) 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら