ライブラリー 重症急性腎障害に用いる2通りの腎代替療法開始遅延戦略の比較(AKIKI 2試験):多施設共同非盲検無作為化対照試験
Comparison of two delayed strategies for renal replacement therapy initiation for severe acute kidney injury (AKIKI 2): a multicentre, open-label, randomised, controlled trial
Lancet. 2021 Apr 3;397(10281):1293-1300. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00350-0.
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上記論文の日本語要約
【背景】重度の合併症がない重症急性腎障害で腎代替療法(RRT)開始をある程度遅らせることは安全であり、医療機器の使用が最適化できる。リスクがなくRRTを延期できる期間についてはいまだに明らかになっていない。本試験の目的は、開始をさらに遅らせることでRRTを受けない日数が長くなるという仮説を検証することであった。
【方法】本試験は、フランスの39の集中治療室で実施された多施設共同非遮蔽前向き非盲検無作為化対照試験であった。重症急性腎障害(Kidney Disease: Improving Global Outcomesステージ3と定義)の重篤患者を乏尿が72時間を超えるまで、または血中尿素窒素濃度が112mg/dLを超えるまでモニタリングした。その後、患者を直後にRRTを開始する戦略(遅延戦略)と長期遅延戦略に(1対1の割合で)割り付けた。長期遅延戦略では、必須の適応症(顕著な高カリウム血症、代謝性アシドーシスまたは肺水腫)が生じるか血中尿素窒素濃度が140mg/dLに達するまでRRTの開始を延期した。主要評価項目は、無作為化から第28日まで生存しRRTを受けなかった日数とし、intention-to-treat集団で評価した。本試験はClinicalTrial.govに登録され(NCT03396757)、終了している。
【結果】2018年5月7日から2019年10月11日までの間に、評価した5,336例のうち278例を無作為化し、137例を遅延群、141例を長期遅延群に割り付けれた。急性腎障害またはRRT関連の可能性がある合併症数は、両群同等であった。RRTを受けなかった日数中央値は、遅延群では12日(IQR 0~25)、長期遅延群では10日(IQR 0~24)であった(P=0.93)。多変量解析で、遅延群に対する長期遅延群の60日時の死亡のハザード比は1.65(95% CI 1.09~2.50、P=0.018)であった。急性腎障害またはRRTに関連する可能性のある合併症の数には両群間で差がなかった。
【解釈】乏尿が72時間を超えるか血中尿素窒素濃度が112mg/dLを超える重症急性腎障害患者で、即時RRTを要する重度合併症がない場合、RRT開始を長く延期しても便益は得られず、有害となる可能性がある。
第一人者の医師による解説
エビデンスの蓄積で透析開始基準のより明確化を期待
根本佳和(助教)/寺脇博之(教授) 帝京大学ちば総合医療センター第三内科(腎臓内科)
MMJ. October 2021;17(5):147
急性腎障害(AKI)における緊急透析の適応基準は存在するものの、それに該当しない重症患者に対する腎代替療法(RRT)開始タイミングについては議論が分かれる。「透析はまだ待てる」、逆に「もう少し早くに連絡して欲しかった」とコンサルテーションを依頼した専門医に言われ、一体どのタイミングが正解だったのかと思い悩んだ医師も多いのではないだろうか。本論文はこの、「透析はどこまで待つか」というシンプルだがいまだ答えが曖昧な疑問に対する重要なエビデンスである。
著者らはフランスの39施設の集中治療室(ICU)において多施設共同ランダム化対照試験を実施した。重症 AKI(Kidney Disease: Improving Global Outcomes[KDIGO]分類のstage3)患者を、72時間以上の乏尿または尿素窒素(BUN)112 mg/dL超になるまでモニターした後、遅延群(delayed strategy:ランダム化直後にRRTを開始)と長期遅延群(more-delayed strategy:いわゆる緊急導入徴候[高カリウム血症・代謝性アシドーシス・肺水腫]の出現、またはBUN140mg/dL超でRRTを開始)の2群にランダムに割り付けた。評価対象となった患者は5,336人であり、そのうち278人がランダム化を受け、137人が遅延群、141人が長期遅延群に割り付けられた。主要評価項目のRRT-free daysは生存とRRTの期間の複合アウトカムであり、ランダム化から28日目までの期間において生存患者でRRTを実施しなかった日数がカウントされた。結果、RRT-free days中央値に関して遅延群と長期遅延群で有意差はなかった(12日対10日;P=0.93)。また、副次評価項目の1つである60日後の死亡率は、遅延群44%、長期遅延群55%と有意差はなかったが(P=0.071)、長期遅延群は60日後の死亡に関する有意な危険因子であることが多変量解析で示された(ハザード比,1.65;95%信頼区間,1.09〜2.50;P=0.018)。すなわち、透析開始を必要以上に遅延させることの有益性はなく、むしろ有害性と関連している、と著者らは結論づけている。
日本の臨床では、本試験の長期遅延群に該当するまでRRT開始を延期することは少ないと思われる。遅延群もしくはそれ以前の段階において緊急導入徴候が出現した際にRRTを開始することが多いのではないだろうか。著者のGaudryらは、AKIにおけるRRTの早期導入と晩期導入に関するメタ解析で、28日全死亡率に有意差がなかったとも報告している(1)。RRT開始は『早すぎず遅すぎず』のスタンスで良いことはわかってきたが、本論文のようなエビデンスがさらに蓄積されることで開始基準がより明確化されることに期待したい。
1. Gaudry S, et al. Lancet. 2020;395(10235):1506-1515. (MMJ 2020年12月号で紹介)