「帝王切開」の記事一覧

カリフォルニア州の病院の質改善介入、州の政策イニシアティブおよび初産正期産単胎頭位分娩の帝王切開率
カリフォルニア州の病院の質改善介入、州の政策イニシアティブおよび初産正期産単胎頭位分娩の帝王切開率
Hospital Quality Improvement Interventions, Statewide Policy Initiatives, and Rates of Cesarean Delivery for Nulliparous, Term, Singleton, Vertex Births in California JAMA. 2021 Apr 27;325(16):1631-1639. doi: 10.1001/jama.2021.3816. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】帝王切開率の安全な低下が国家の優先事項である。 【目的】帝王切開率低下を目的とした多角的介入策を実施するカリフォルニア州の初産正期産単胎頭位(NTSV)分娩の帝王切開率 【デザイン、設定および参加者】2014~2019年の米国およびカリフォルニア州産院施設238箇所のNTSV分娩757万4,889件の帝王切開率を検討した観察研究。2016~2019年にかけて、California Maternal Quality Care CollaborativeがSmart Care Californiaと協同して、帝王切開率を下げるため多数の対策を導入した。NTSV分娩の帝王切開率が23.9%を超える病院に対して、2016年7月から2019年6月までの18カ月間にわたる質改善プログラムへの参加を呼びかけ、3つのコホートに振り分けた。 【曝露】この共同研究では、集学的チームがメンター制度、知識の共有および迅速なデータのフィードバックなどで支援する多数の戦略を導入した。非営利団体、州政府機関、購買者および医療制度間の協力関係によって、透明性、報奨プログラムおよび報酬を通じて外部環境に対処した。 【主要評価項目】主要評価項目は、カリフォルニア州のNTSV分娩の帝王切開率に見られる変化とし、差の差分析でカリフォルニア州の帝王切開率を米国のその他の州と比較した。このほか、患者別、病院別の交絡因子で調節したmixed multivariable logistic regression modelを用いて、共同研究および外部の州全体の取り組みを評価した。共同研究参加病院のNTSV分娩の帝王切開率は、非参加病院の帝王切開率および参加病院の共同研究参加前の帝王切開率と比較した。 【結果】2014年から2019年までの間に、米国でNTSV分娩757万4,889件が発生し、そのうち91万4,283件がカリフォルニア州の病院238施設で発生したものであった。カリフォルニア州の全病院は、NTSV分娩の帝王切開率が23.9%を超える149施設を含め、帝王切開率低下を目標とする州の取り組みの影響下にあり、そのうち91施設(61%)が質改善共同研究に参加した。カリフォルニア州のNTSV分娩の帝王切開率は、2014年の26.0%(95%CI、25.8%~26.2%)から2019には22.8%(95%CI、22.6%~23.1%)に低下した(相対リスク、0.88;95%CI、0.87~0.89)。(カリフォルニア州を除く)米国のNTSV分娩の帝王切開率は、2014年、2019年ともに26.0%であった(相対リスク、1.00、95%CI、0.996~1.005)。差の差分析からは、カリフォルニア州のNTSV分娩の帝王切開率低下度は(カリフォルニア州を除く)米国より3.2%(95%CI、1.7~3.5%)高いことが明らかになった。病院間や共同研究参加前の期間と比較すると、modified stepped-wedg解析を用いて患者データや期間で補正後、共同研究活動への曝露にNTSV分娩の帝王切開率オッズ低下との関連が認められた(24.4% vs 24.6%;調整オッズ比、0.87[95%CI、0.85~0.89])。 【結論および意義】2014~2019年のカリフォルニア州のNTSV分娩を検討したこの観察研究では、病院全体で取り組む共同研究の導入および経腟分娩を支援する州のイニシアティブによって、時間の経過と共に帝王切開率が低下した。 第一人者の医師による解説 初産低リスクの帝王切開率データのない日本 同様の取り組みの是非は不明 板橋 家頭夫 愛正会記念茨城福祉医療センターセンター長・昭和大学名誉教授 MMJ. October 2021;17(5):154 帝王切開(CS)は、リスクの高い分娩において母子の救命に寄与してきた。一方で、安易なCSの導入が母子にリスクを負わせていることも事実である。CSは経腟分娩に比べ母体の死亡率や合併症発症率が高く、さらに回数に応じて以後の分娩で子宮破裂、胎盤異常、子宮外妊娠、死産、早産などのリスクを高める(1)。CSによって娩出された児は、ホルモン環境や細菌学的環境、物理的環境などが経腟分娩の児とは異なっており、これが新生児の生理機能を変化させる可能性が高いと考えられている(1)。短期的な影響として、免疫系の発達の変化によるアレルギー疾患(アトピー、気管支喘息、食物アレルギーなど)、肥満のリスク、腸内細菌叢の多様性の低下などが挙げられている(1)。加えてエピゲノムの変化による将来的な健康への影響も懸念されている(1)。したがって、いかに不必要なCSを回避するかが世界的な課題となっており、世界保健機関(WHO)はCS率の目標を10~15%としている。 本論文は、米国カリフォルニア州においてステークホルダー組織 California Maternal Quality Care Collaborative(CMQCC)主導による介入がCS率に与えた影響に関する観察研究の報告である。本研究では、2016~19年に、初産、正期産、単胎、頭位(nulliparous、term、singleton、vertex;NTSV)の4条件を満たす分娩(NTSV分娩)のCS率が23.9%以上の施設に対しコホート研究の参加を呼びかけ、メンターシップや学習の共有、迅速なデータフィードバックなど複数の戦略を州政府の政策のもとで実施し、NTSV分娩におけるCS率低下の有無を評価した。その結果、同州におけるNTSV分娩のCS率は、2014年の26.0%から19年には22.8%に低下した(相対リスク,0.88;95%信頼区間[CI], 0.87~0.89)。一方、カリフォルニア州を除いた米国におけるNTSV分娩のCS率は、2014年、19年ともに26.0%で、同州よりも絶対差で3.2%(95% CI, 1.7~3.5%)高かった。また、CMQCCの取り組みに参加した施設は、参加しなかった施設に比べCS率が有意に低下した。以上より、著者らは、カリフォルニア州の政策の下に実施されたこのような取り組みがNTSV分娩のCS率低下に寄与したと結論付けている。日本では2013年の特定健診や保険レセプトのデータからは、国内全体のCS率が18.5%と推測されており(2)、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均28%に比べ明らかに低い。しかしながら、NTSV分娩のCS率のデータはなく、カリフォルニア州のような取り組みの是非については明らかでない。 1. Sandall J, et al. Lancet. 2018 ;392(10155):1349-1357. 2. Maeda E, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2018;44(2):208-216.
帝王切開術を受ける肥満女性に用いる局所陰圧閉鎖療法と標準的創傷被覆の比較:多施設共同並行群間無作為化対照試験
帝王切開術を受ける肥満女性に用いる局所陰圧閉鎖療法と標準的創傷被覆の比較:多施設共同並行群間無作為化対照試験
Closed incision negative pressure wound therapy versus standard dressings in obese women undergoing caesarean section: multicentre parallel group randomised controlled trial BMJ. 2021 May 5;373:n893. doi: 10.1136/bmj.n893. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】帝王切開術を受ける肥満女性で、創部陰圧療法(NPWT)の手術部位感染(SSI)予防効果を標準的創傷被覆と比較すること。 【デザイン】多施設共同、実用的、無作為化、並行群間対照、優越性試験。 【設定】2015年10月から2019年11月、オーストラリアの三次病院4施設。 【参加者】妊娠前のBMIが30以上で、選択的または準緊急の帝王切開術を受けて出産した女性を適格とした。 【介入】同意を得た女性2035例を帝王切開術施行前に閉鎖切開創NPWT群(1,017例)と標準的ドレッシング群(1,018例)に無作為化により割り付けた。皮膚が閉鎖するまで割り付けを秘匿した。 【主要評価項目】主要評価項目はSSIの累積発生率とした。SSIの深度(表層、深部、臓器・体腔)、創部合併症(離開、血腫、漿液種、出血、皮下出血)発現率、入院期間、被覆関連の有害事象発現率を副次評価項目とした。参加女性と医師は盲検化しなかったが、評価者と統計家には治療の割り付けを盲検化した。事前に定めたintention to treat主解析は、データが欠落している症例(28例)にSSIが発生しなかったとする保守的な仮定に基づくこととした。事後感度分析に最良症例分析と完全症例分析を用いた。 【結果】主解析では、NPWT群の75例(7.4%)、標準的創傷被覆群の99例(9.7%)にSSIが発生した(リスク比0.76、95%CI 0.57~1.01;P=0.06)。欠落データの影響を探索する事後感度分析で、同方向の効果(NPWTによるSSIの予防効果)が統計的有意性をもって認められた。NPWT群996例中40例(4.0%)、標準的創傷被覆群983例中23例(2.3%)に皮膚水疱形成が見られた(リスク比1.72、1.04~2.85;P=0.03)。 【結論】帝王切開術後の肥満女性に用いる予防的閉鎖切開創NPWTで、標準的創傷被覆よりもSSIリスクが24%低下した(絶対リスク3%低下)。この差は統計的有意性には届かなかったが、この集団でのNPWTの有効性を過小評価していると思われる。保守的な主解析、多変量調整解析および事後感度分析の結果を検討する際は、閉鎖切開創NPWTの便益に関する科学的根拠が蓄積されつつあることや、世界で帝王切開術を受ける肥満女性の数を考慮に入れる必要がある。NPWTの使用は、皮膚水疱形成の増加や経済的配慮との兼ね合いも考え、患者との共有意思決定に基づき決定しなければならない。 第一人者の医師による解説 帝王切開後の予防的局所陰圧閉鎖療法 経済的効果と併せて有害事象も検討する必要あり 渡邉 学 東邦大学医学部医学科外科学講座 一般・消化器外科学分野教授 MMJ. October 2021;17(5):153 手術部位感染(surgical site infection;SSI)とは手術操作が直接及ぶ部位の感染症であり、一旦発症すると患者の予後に影響を及ぼすだけでなく、入院期間の延長や経済的負担の増加をもたらす。日本外科感染症学会による調査研究(1)では、腹部手術におけるSSI発症患者では術後平均在院日数が18日延長し、術後平均医療費は658,801円高額になることが報告され、SSI対策の医療経済的な重要性が示された。 一方、世界における帝王切開実施率は地域によって大きく異なり、北欧諸国と比較し、オーストラリア、カナダ、英国、米国などの西側諸国では実施率が高いと報告されている(15~17% 対 25~32%)(2)。また、オーストラリアでは女性の50%以上が妊娠に入ると肥満になると報告されている。 本論文は、オーストラリアの4つの病院で実施された多施設ランダム化対照試験の報告である。2015年10月~19年11月に、世界保健機関(WHO)の定義による体格指数(BMI)30.0以上の肥満患者で帝王切開にて出産した女性2,035人を対象とし、創閉鎖後の創処置としてランダムに割り付けた局所陰圧閉鎖療法(NPWT)群(n = 1,017)と対照群(n = 1,018)の間でSSI発生率の比較を行った。NPWT群は80 mmHgの連続的な負圧を適用し、対照群は通常使用している標準的創傷被覆(ドレッシング)材を使用し、両群とも5?7日間そのままとした。その結果、手術後30日までのSSI発生率は、全体で8.6%、NPWT群7.4%、対照群9.7%であった。対照群と比較し、NPWT群のSSI発生の相対リスクは24%低下し、統計学的に有意ではなかったが絶対リスクは3%低下することが示された。一方、ドレッシング関連の有害事象として、NPWT群では対照群と比較し皮膚水疱発生の相対リスクが72%上昇し、絶対リスクは有意に2%上昇していた。 本研究にて、帝王切開後の予防的 NPWTはSSI発生低減に効果的である可能性が示された。しかし、世界で約2,970万人の出生が帝王切開であることを考えると、この有害事象発生結果は臨床的に重要であり、予防的 NPWTの実施については経済的効果と併せて検討する必要がある。 日本でも帝王切開を含む腹部手術創に対する予防的 NPWTが保険収載されたが、集中治療室(ICU)管理が必要である切開創 SSI高リスク患者で、BMI30 以上の肥満患者や糖尿病などの全身疾患を有する患者などが対象であり、現状では適応症例は限定されている。 1. 草地信也ら . 日本外科感染症学会雑誌 . 2010;7: 185-190. 2. OECD (2019), Health at a Glance 2019: OECD Indicators, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/4dd50c09-en.