ライブラリー 敗血症および重症急性呼吸不全患者におけるビタミンC輸液の臓器不全および炎症・血管傷害のバイオマーカーに対する効果。CITRIS-ALI Randomized Clinical Trial(CITRIS-ALI無作為化臨床試験).
Effect of Vitamin C Infusion on Organ Failure and Biomarkers of Inflammation and Vascular Injury in Patients With Sepsis and Severe Acute Respiratory Failure: The CITRIS-ALI Randomized Clinical Trial
JAMA 2019 Oct 1;322(13):1261-1270.
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【重要性】ビタミンCの静脈内投与は、敗血症や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に伴う炎症と血管障害を抑制することが実験的に示唆されている。
【目的】敗血症およびARDS患者におけるビタミンC静脈内投与の臓器不全スコアおよび炎症と血管障害の生体マーカーに対する効果を明らかにすることである。
【デザイン・設定・参加者】CITRIS-ALI試験は、米国内の医療集中治療室7施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照多施設試験で、24時間以内に発症した敗血症およびARDSの患者(N=167)が登録された。試験実施期間は2014年9月から2017年11月、最終フォローアップは2018年1月。
【介入】患者をビタミンCの点滴静注(ブドウ糖5%水煮、N=84)またはプラセボ(ブドウ糖5%水煮のみ、N=83)に6時間おきに96時間無作為に割り付けました。
【主要評価項目】ベースラインから96時間後までのmodified Sequential Organ Failure Assessment score(範囲:0~20、スコアが高いほど機能障害が強い)により評価した臓器障害の変化、および0、48、96、168時間で測定した炎症(CRP値)と血管損傷(トロンボモデュリン値)の血漿バイオマーカーであった。
【結果】無作為化された167例(平均[SD]年齢:54.8歳[16.7],男性90例[54%])中,103例(62%)が60日目まで試験を完了した。主要評価項目であるベースラインから96時間後までの平均modified Sequential Organ Failure Assessment scoreの変化(ビタミンC群9.8から6.8[3点]、プラセボ群10.3から6.8[3.5点];差、-0.10;95%CI、-1.23から1.03;P = .86 )またはCRP値(54.1対46.1μg/ml;差、7.94。
【結論と関連性】敗血症とARDSの患者を対象としたこの予備的研究では、プラセボと比較したビタミンCの96時間点滴は、臓器機能障害のスコアまたは炎症と血管損傷のマーカーに有意な改善をもたらさなかった。敗血症とARDSの他の転帰に対するビタミンCの潜在的な役割を評価するために、さらなる研究が必要である。
【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier.NCT02106975:NCT02106975。
第一人者の医師による解説
全死亡率には有意な改善効果 今後の研究継続を期待
射場 敏明 順天堂大学大学院医学研究科救急・災害医学教授
MMJ.April 2020;16(2)
セプシスでは以前からビタミン C欠乏がみられることが知られており、またビタミン Cは抗炎 症作用や血管内皮保護作用を有することが報告されている(1)。そこで著者らは、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)合併セプシス患者に対するビタミン C静 脈投与の有用性をCITRIS-ALI試験で検討し、その結果を報告した。同試験は米国の7つの集中治療室で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。167人のARDS合併セプシス患者が登録され、介入群と対照群でそれぞれ6時間ごとに96 時間ビタミン C(50 mg/kg;n=84)もしくはプラセボ(n= 83)が静脈内投与された。主要評価項目として、治療開始から96時間までのSequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコアの改善、168時間までの炎症マーカー(CRP)の変動、 および血管障害マーカー(可溶性トロンボモジュリン)の変化が設定された。
その結果、SOFAスコアの改善に関して両群間に有意差はみられなかった(ビタミンC群:9.8→6.8; プラセボ群:10.3→6.8;変化の差 , -0.10)。 さらにCRP値(54.1 対 46.1μ g/mL;差 , 7.94 μ g/mL)、可溶性トロンボモジュリン値(14.5 対 13.8 ng/mL;差 , 0.69 ng/mL)についても有意差はなかった。したがって、ARDS合併セプシス患者においてビタミン Cの96時間注入による臓器障害、炎症反応、血管障害の改善効果は確認できなかった、と結論された。しかし、副次評価項目の全死亡率について統計学的に有意な改善効果が認められていることから(ハザード比 , 0.55;P= 0.01)、セプシスに対するビタミン Cの効果についてはさらなる検討が必要と考えられる。
CITRIS-ALI試験のベースは単施設後ろ向き研究におけるビタミン Cの劇的な予後改善効果である (オッズ比 , 0.13)(2)。この先行研究では院内死亡の改善以外にも昇圧薬使用期間の短縮やSOFAの改善が示されており、期待値が高まっていた。
本試験でやや奇異に感じられたのは、主要評価項目をセプシスの研究で伝統的に設定されてきた全死亡率の改善ではなく、SOFAスコアの改善、 CRPや可溶性トロンボモジュリンの低下としたことである。これは全死亡率の改善に関わる要因は多岐にわたるため、その達成が困難であると予想されることから、より直接的な指標を選択した結果であろうと考えられる。しかし結果としてそのことが裏目に出てしまったことについては、ただただ臨床試験デザインの難しさを感じる。今回の研究では目標は達成されなかったが、ビタミン C は安価で重篤な副作用もないと予想されることから、今後も研究が継続されることが期待される。
1. Wilson JXe et al. Subcell Biochem. 2012;56:67-83.
2. Marik PE et al. Chest. 2017;151(6):1229-1238. ビタミンC静注は急性呼吸窮迫症候群 合併セプシスの臓器障害を改善せず