「亜鉛」の記事一覧

男性への葉酸と亜鉛の補給が不妊治療を受けているカップルの精液の質と生児に及ぼす影響。A Randomized Clinical Trial.
男性への葉酸と亜鉛の補給が不妊治療を受けているカップルの精液の質と生児に及ぼす影響。A Randomized Clinical Trial.
Effect of Folic Acid and Zinc Supplementation in Men on Semen Quality and Live Birth Among Couples Undergoing Infertility Treatment: A Randomized Clinical Trial JAMA 2020 Jan 7;323(1):35-48. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】男性不妊治療のために販売されている栄養補助食品は、精液の質を改善するという限られた先行エビデンスに基づいて、葉酸と亜鉛を含むのが一般的である。 【目的】毎日の葉酸と亜鉛の補給が、精液の質と出生に及ぼす影響を明らかにする。不妊治療を計画しているカップル(n=2370,男性は18歳以上,女性は18~45歳)を,2013年6月~2017年12月に米国の生殖内分泌学・不妊治療研究センター4施設に登録した。精液採取のための最後の6カ月間の研究訪問は2018年8月中に行われ、ライブバースおよび妊娠情報のチャート抽出は2019年4月中に完了した。 【介入】男性は、研究センターと計画している不妊治療(体外受精、研究サイトでのその他の治療、外部クリニックでのその他の治療)によってブロック無作為化され、葉酸5mgおよび元素亜鉛30mg(n=1185)またはプラセボ(n=1185)のいずれかを6カ月間毎日投与された。 【結果】無作為化された2370人の男性(平均年齢33歳)のうち、1773人(75%)が6カ月後の最終診察に参加した。すべてのカップルの出生成績が得られ、1629人(69%)の男性が無作為化後6カ月の時点で分析用の精液を入手していた。生児出生数は治療群間で有意な差はなかった(葉酸・亜鉛群404[34%],プラセボ群416[35%],リスク差-0.9%[95%CI,-4.7%~2.8%])。無作為化後6カ月の時点で,ほとんどの精液品質パラメータ(精子濃度,運動性,形態,体積,総運動精子数)は治療群間で有意な差はなかった。葉酸と亜鉛の補給により,統計的に有意なDNA断片化の増加が認められた(DNA断片化の割合の平均は,葉酸と亜鉛群で29.7%,プラセボ群で27.2%,平均差は2.4%[95%CI,0.5~4.4%])。消化器症状は、葉酸および亜鉛の補給により、プラセボと比較してより多く見られた(腹部の不快感または痛み:それぞれ66[6%]対40[3%]、吐き気:50[4%]対24[2%]。50[4%]対24[2%]、および嘔吐。 【結論と関連性】不妊治療を受けようとしている一般的なカップルにおいて、男性パートナーが葉酸と亜鉛のサプリメントを使用しても、プラセボと比較して、精液の質やカップルの生児率を有意に改善することはできませんでした。これらの知見は、不妊治療における男性パートナーによる葉酸と亜鉛の補給の使用を支持するものではありません。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01857310。 第一人者の医師による解説 結果の解釈は慎重に 適応を絞れば効果がある可能性も 岩月 正一郎(助教)/安井 孝周(教授) 名古屋市立大学大学院医学研究科腎・泌尿器科学分野 MMJ.June 2020;16(3) 近年、不妊症に対するサプリメントへの関心が高まっており、男性不妊を対象としたサプリメントの多くは葉酸と亜鉛が含まれている。最近のメタアナリシスにおいて、亜鉛と葉酸は男性不妊症患者の精子濃度や精子正常形態率を改善することが示された(1)。しかしこの報告で参照された論文は、結果のばらつきが大きく、大規模な研究が望まれてきた。 本論文では、米国内の不妊治療中カップル 2,370 組を対象とし、男性に1日に葉酸 5 mgと亜鉛 30 mgもしくはプラセボを6カ月間服用する群に無作為に割り付け、6カ月後の精液所見の変化およびその間の不妊治療の成績を比較した。 その結果、精液検査所見に変化はないばかりか、葉酸と亜鉛を投与すると、精子のDNA断片化率がプラセボ群 の27.2%に対して29.7%に上昇していた(精子 DNA断片化は精子への障害を表す指標で、30%以 下が正常範囲内である)。さらに、出産率にも変化はなく、むしろ葉酸と亜鉛を投与すると、プラセボ群に比べ、早産率が1.49倍に上昇していたという。 副作用についても、葉酸・亜鉛群で主に悪心・嘔吐 といった消化器症状が増加していた。 しかし本論文にはいくつかの制限がある。特に今回の知見が男性不妊症患者一般に当てはまるか どうかは慎重に吟味する必要があり、その理由として大きな問題点が3つ挙げられる。1つ目は対象の偏りである。確かに本研究は多数の男性を対象としたランダム化比較試験である。しかし参加した夫婦には男性不妊、女性不妊が混在しており、対象集団の8割近くの男性の精液検査所見は正常であった。2つ目は葉酸・亜鉛群でDNA断片化率と早期産の割合が有意に上昇したとあるが、プラセボ 群との差はわずかで、いずれも正常範囲内であることから臨床的意義は不明である。3つ目は、対象男性の投薬開始前(ベースライン)の葉酸と亜鉛の 血中濃度に関する情報がないことである。 2019 年の1年間に筆者らの施設を受診した男性不妊症 患者114人の血中亜鉛濃度を測定したところ、潜在性亜鉛欠乏(60μg/dL以上80μg/dL未満)は 36人(31.6%)、亜鉛欠乏(60μg/dL未満)は4 人(3.5%)であり、予想していた以上に亜鉛欠乏の患者の存在が明らかになった。亜鉛に限って言えば、対象を限定した亜鉛補充の有効性はさらに検証されるべきで、葉酸についても同様のことが予想される。 本研究は、エビデンスの乏しい不妊症に対する補助療法についての大規模なランダム比較試験として意義のある報告である。しかし、その結果の解釈は慎重に行うべきであると考えられる。 1.Irani M et al. Urol J. 2017;14(5):4069-4078.