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慢性腎臓病患者におけるBaclofenと脳症の関連性。
慢性腎臓病患者におけるBaclofenと脳症の関連性。
Association of Baclofen With Encephalopathy in Patients With Chronic Kidney Disease JAMA 2019 ;322 (20):1987 -1995. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】少なくとも30の症例報告が、慢性腎臓病(CKD)患者における筋弛緩薬バクロフェンと脳症の関連性を示している。 【目的】CKD患者で、バクロフェンを1日20mg以上と1日20mg未満で新規処方した場合の30日間の脳症リスクを比較することである。副次的目的は,バクロフェン使用者と非使用者の脳症リスクを比較することであった。 デザイン・設定・参加者】カナダ・オンタリオ州(2007~2018年)における,リンクした医療データを用いたレトロスペクティブな人口ベースコホート研究であった。参加者は,CKD(推定糸球体濾過量[eGFR]<60 mL/min/1.73 m2で透析を受けていないと定義)を有する高齢者(66歳以上)15 942名であった。一次コホートは、バクロフェンを新たに処方された患者に限定し、二次コホートの参加者は新規使用者と非使用者とした。 【 暴露】経口バクロフェン20mg/日以上 vs 20mg/日未満の処方。 【主要アウトカムと測定】バクロフェン開始後30日以内にせん妄、意識障害、一過性意識変化、一過性脳虚血発作、特定できない認知症と主病名を定義した脳症の入退院。ベースラインの健康状態の指標で比較群のバランスをとるために、傾向性スコアに治療の逆確率加重を用いた。加重リスク比(RR)は修正ポアソン回帰で、加重リスク差(RD)は二項回帰で求めた。事前に規定したサブグループ解析をeGFRカテゴリー別に実施した。 【結果】主要コホートはCKD患者15 942例(女性9699例[61%],年齢中央値77歳[四分位範囲71~82],バクロフェン開始量20 mg/日以上9707例[61%],<20 mg/日6235例[39%])より構成された。主要転帰である脳症による入院は,バクロフェンを 1 日 20 mg 以上で開始した患者 108/9707 例(1.11%),バクロフェンを 1 日 20 mg 未満で開始した患者 26/6235 例(0.42%)で発生した;重み付け RR,3.54(95% CI,2.24~5.59),重み付け RD,0.80%(95% CI,0.55%~1.04%).サブグループ解析では,絶対リスクはeGFRが低いほど徐々に増加した(重み付けRD eGFR 45~59,0.42%[95% CI,0.19%-0.64%];eGFR 30~44,1.23%[95% CI,0.62%-1.84%];eGFR <30,2.90%[95% CI,1.30%-4.49%],P for interaction,<.001]).非使用者284 263人との二次比較では、バクロフェン使用者の両群で脳症のリスクが高かった(<20 mg/d加重RR, 5.90 [95% CI, 3.59 to 9.70] および≥20 mg/d加重RR, 19.8 [95% CI, 14.0 to 28.0] )。 【結論と関連性】バクロフェンを新規処方されたCKD高齢者において、30日の脳症発生率は低用量と比べ高用量処方者において増加した。検証された場合、これらのリスクはバクロフェン使用の利益と釣り合うものでなければならない。 第一人者の医師による解説 腎排泄型のバクロフェン 脳症発症機序は不明だが臨床上重要な問題を提起 中嶋 秀人 日本大学医学部内科学系神経内科学分野教授 MMJ.April 2020;16(2) バクロフェンは中枢作用型γ -アミノ酪酸受容体 アゴニストであり、筋弛緩薬として脳血管障害、変性疾患、脊椎疾患などによる痙縮の治療に用いられるほか、三叉神経痛や胃食道逆流症にも使用されることがある。またアルコール依存症においては腹側線条体で上昇しているドパミンをバクロフェンが抑制的に調節すると考えられ、その治療効果を示唆する報告もある。 他の多くの筋弛緩薬が肝代謝型であるのに対して、バクロフェンは腎排泄 型のため腎機能低下に伴い排泄半減期が延長する。これまでバクロフェンの使用により脳症を発症した慢性腎臓病(CKD)症例が報告されていることより、腎機能の低下する高齢者においてバクロフェン関連脳症のリスクが上昇することが危惧される。 本論文は、カナダ・オンタリオ州の患者情報を登録したデータベースを利用し、新規にバクロフェンを 処方した66歳以上 のCKD(推算糸球体濾過 量[eGFR] 60 mL/分 /1.73 m2未満であるが透析を受けていないものと定義)患者15,942人を対象に、バクロフェン投与量20mg/日以上群と 20mg/日未満群に分け、バクロフェン投与開始から30日以内の脳症入院リスクを比較した後ろ向きコホート研究の報告である。なお、脳症は、せん妄、見当識障害、一過性の意識の変化、一過性脳虚 血発作、分類不能な認知症の診断として規定された。 その結果、主要評価項目であるバクロフェン開始後 30日以内の脳症による入院は20mg/日以上群で 1.11%、20mg/日未満群では0.42%に発生し、高用量群で脳症入院リスクが上昇した(重み付けリスク比[RR], 3.54[95% CI, 2.24~5.59];重み付けリスク差[RD], 0.80%[0.55~1.04%])。 また、バクロフェン開始から入院までの期間の中央値 は、20mg/日以上群では3日間( 四分位範囲 [IQR], 2~5)、20mg/日未満群 では8日間(3 ~12)であった。さらに、バクロフェン非使用者 284,263人の脳症発症率は0.06%であり、バクロフェン 20mg/日未満群、20mg/日以上群とも脳症入院リスクが高かった(重み付けRRはそれぞれ5.90[95 % CI, 3.59~9.70]、19.8[14.0 ~28.0])。 バクロフェンには眠気、めまい、ふらつきなどの副作用があるが、過剰な血中バクロフェンが脳症を起こす機序については不明な点も多い。しかし、新規にバクロフェンが開始された高齢 CKD患者において、低用量群に比べて高用量群では、より高頻度かつより早期に脳症が発症することから、臨床上重要な問題を提起しており、興味深い研究結果と考えられる。