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重症小児患者における多臓器不全症候群に対する新鮮赤血球輸血と標準発行赤血球輸血の効果。無作為化臨床試験
重症小児患者における多臓器不全症候群に対する新鮮赤血球輸血と標準発行赤血球輸血の効果。無作為化臨床試験
Effect of Fresh vs Standard-issue Red Blood Cell Transfusions on Multiple Organ Dysfunction Syndrome in Critically Ill Pediatric Patients: A Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Dec 10;322(22):2179-2190 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】重症小児患者に対する赤血球保存年齢の臨床的影響は、大規模な無作為化臨床試験で検討されていない。 【目的】重症小児において、新鮮赤血球(7日以下保存)の輸血が、標準発行赤血球の使用と比較して新規または進行性の多臓器不全症候群を減らすかどうかを判断することである。 【デザイン・設定・参加者】The Age of Transfused Blood in Critically-Ill Children試験は、2014年2月から2018年11月にかけて50の三次医療施設で行われた国際多施設共同盲検化無作為化臨床試験であった。集中治療室入室後7日以内に最初の赤血球輸血が行われた、生後3日~16歳の小児患者を対象とした。合計15568人の患者をスクリーニングし、13308人を除外した。 【介入】患者を新鮮赤血球または標準発行赤血球のいずれかを投与するよう無作為に割り付けた。合計1538人の患者が無作為化され、新鮮赤血球群768人、標準発行群770人となった。 法]主要アウトカム指標は、新規または進行性の多臓器不全症候群で、28日間または退院または死亡まで測定された。 【結果】無作為化された1538名のうち、1461名(95%)が一次解析に含まれ(年齢中央値1.8歳、女子47.3%)、そのうち新鮮赤血球群に728名、標準発行群に733名が無作為に割り付けられた。保存期間の中央値は,新鮮群 5 日(四分位範囲 [IQR], 4~6 日)に対して標準発行群 18 日(IQR, 12~25 日)であった(P < 0.001).新規または進行性の多臓器不全症候群については,新鮮赤血球群(728 例中 147 例[20.2%])と標準発行赤血球群(732 例中 133 例[18.2%])に有意差はなく,未調整絶対リスク差は 2.0%(95% CI,-2.0%~6.1%;P = .33)であった.敗血症の有病率は,新鮮群では 25.8%(619 例中 160 例),標準発行群では 25.3%(608 例中 154 例)であった.急性呼吸窮迫症候群の有病率は,新鮮群では 6.6%(619 例中 41 例),標準発行群では 4.8%(608 例中 29 例)であった.集中治療室での死亡率は新鮮群4.5%(728例中33例)に対して標準発行群3.5%(732例中26例)だった(P = .34)。 【結論と関連性】重症小児患者において、新鮮赤血球の使用は標準発行赤血球と比較して新規または進行性の多臓器不全症候群(死亡率を含む)の発生率を低減しなかった。 【試験登録】 ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01977547。 第一人者の医師による解説 血液製剤の保存期間 どの年齢でも予後悪化の因子でない可能性 寺田 類/岡崎 仁(教授) 東京大学医学部附属病院輸血部 MMJ.April 2020;16(2) 赤血球製剤の保存期間が長くなると、製剤中の赤血球のviabilityは低下し、赤血球の重要な役割である酸素運搬能が低下してくる。保存期間の長い赤血球製剤を重症患者に輸血すると臓器不全の発生率や死亡率が上昇するのではないかと危惧され、今までに多くの観察研究や無作為化試験が行われてきた。しかし、赤血球の保存期間と死亡率や多臓器 機能障害スコアの変化に有意な関係性は見いだされていない。 しかし、こうした研究のほとんどは成人を対象としたもので、新生児や心臓外科手術患者など重症小児患者では保存期間による違いが予後に影響するかどうかは不明である。また、重症小児患者に対してどの程度の保存期間の赤血球製剤を使用するかは、病院や血液製剤センターの方針などにより一律ではないのが現状である(1)。 そこで本論文で報告された多施設共同無作為化試験では、重症小児患者において、血液製剤の保存期間が死亡率や患者予後と強く相関する多臓器不全の新規発症・増悪に与える影響を調べている。対象は、米国、カナダ、フランスなど50施設の小児集中治療室(PICU)で輸血を受けた生後3日から16歳までの患者で、保存期間7日以内(中央値 , 5日)の赤血球を輸血した群728人と、標準的な 保存期間(中央値 , 18日)の赤血球を輸血した群 733人の転帰が比較された。 その結果、主要評価項目である多臓器不全の増悪に加え、副次評価項目の28、90日死亡率、敗血症や急性呼吸促迫症候群(ARDS)、院内感染の発生率に関して保存期間の違いによる有意差は認められなかった。また、年齢、施設、国、性別、合併症、疾患の重症度で調整した解析でも結果は変わらなかった。 日本における赤血球製剤の使用期限は採血後21 日で、世界的な使用期限42日の半分であり、元来保存期間の短い製剤が供給されている。しかし、献血者の減少や少子高齢化による血液製剤の不足が懸念されている昨今においては、いつでも重症小児患者に優先的に保存期間の短い新鮮な赤血球製剤を供給できるかは必ずしも定かではない。 今回の結果が日本人にも同様に当てはめられるのか、また死亡などの重要な因子以外に与える影響についての検討も今後必要ではあるが、血液製剤を運用する病院や血液センター、また治療を受ける側としても意味のある1つの結果と言えるだろう。 どの年齢においても、現状での保存期間による製剤の変化は臨床上、患者の予後に影響を与えるまでの変化ではないのかもしれない。 1. Spinella PC et al. Transfusion. 2010;50(11):2328-2335.