「慢性膵炎」の記事一覧

慢性膵炎患者の疼痛に対する早期手術と内視鏡ファーストアプローチの効果。The ESCAPE Randomized Clinical Trial.
慢性膵炎患者の疼痛に対する早期手術と内視鏡ファーストアプローチの効果。The ESCAPE Randomized Clinical Trial.
Effect of Early Surgery vs Endoscopy-First Approach on Pain in Patients With Chronic Pancreatitis: The ESCAPE Randomized Clinical Trial JAMA 2020 Jan 21;323(3):237-247. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】疼痛を伴う慢性膵炎の患者に対しては、内科的治療や内視鏡的治療が奏功しない限り、外科的治療は延期される。観察研究では、早期の手術が疾患の進行を緩和し、より良い疼痛コントロールを提供し、膵臓の機能を維持する可能性が示唆されている。 【目的】早期の手術が内視鏡優先のアプローチよりも臨床転帰の点で有効であるかどうかを明らかにする。 【デザイン・設定・参加者】ESCAPE試験は、Dutch Pancreatitis Study Groupに参加しているオランダの30の病院が参加した非盲検の多施設無作為化臨床優越試験である。2011年4月から2016年9月まで、慢性膵炎で主膵管が拡張しており、激しい痛みのために処方されたオピオイドを最近になって使用し始めた患者(強オピオイドを2カ月以下、弱オピオイドを6カ月以下)計88人を対象とした。18カ月の追跡期間は2018年3月に終了した。 【介入】無作為化後6週間以内に膵臓ドレナージ手術を受けた早期手術群に無作為化された44人と、内科的治療、必要に応じて砕石を含む内視鏡検査、必要に応じて手術を受けた内視鏡検査優先アプローチ群に無作為化された44人がいた。[法]主要アウトカムは痛みで、Izbicki疼痛スコアで測定し、18カ月間で積分した(範囲、0~100[スコアが上がると痛みの重症度が増す])。副次的評価項目は、追跡調査終了時の疼痛緩和、介入回数、合併症、入院回数、膵臓機能、QOL(36項目からなるショートフォーム健康調査[SF-36]で測定)、死亡率であった。 【結果】無作為に割り付けられた88名の患者(平均年齢52歳、女性21名(24%))のうち、85名(97%)が試験を完了した。18ヵ月間の追跡調査では、早期手術群の患者は、内視鏡による初回アプローチ群に無作為に割り付けられた群の患者よりもIzbicki疼痛スコアが低かった(37対49、群間差:-12ポイント[95%CI, -22~-2]、P =0.02)。フォローアップ終了時に完全または部分的な疼痛緩和が得られたのは、早期手術群では40例中23例(58%)であったのに対し、内視鏡的アプローチ優先群では41例中16例(39%)であった(P = 0.10)。介入の総数は早期手術群で少なかった(中央値、1対3、P < 0.001)。治療の合併症(27%対25%)、死亡率(0%対0%)、入院、膵臓の機能、およびQOLは、早期手術と内視鏡検査優先アプローチとの間に有意な差はなかった。 【結論と関連性】慢性膵炎患者において、早期手術と内視鏡検査優先アプローチとを比較した場合、18カ月間の統合では、痛みのスコアが低くなった。しかし、経時的な差の持続性を評価し、研究結果を再現するにはさらなる研究が必要である。 【臨床試験登録】ISRCTN Identifier:ISRCTN識別子:STRECTN45877994。 第一人者の医師による解説 内視鏡的治療が選択される患者群も想定 引き続き長期の検討評価を 宅間 健介(助教)/五十嵐 良典(主任教授) 東邦大学医療センター大森病院消化器内科 MMJ.August 2020;16(4) 慢性膵炎は持続する炎症と線維化が進行し、最終的に膵が荒廃する疾患であり、主要徴候の約80%は疼痛である。主膵管狭窄や膵石症を伴うことが多く、膵液うっ滞による膵管内や膵間質内圧の上昇などにより持続疼痛や急性膵炎をきたし、それがさらなる病態進行の原因となる。 疼痛は生活の質(QOL)を低下させ、特に欧米では多用される麻薬鎮痛薬の長期使用による依存などの副作用が懸念されており、疼痛コントロールは極めて重要である。膵切除術・膵管ドレナージ術などの手術療法や膵管ステントを用いた内視鏡的ドレナージ術は膵管内の減圧が得られ、疼痛緩和や外分泌機能改善などに有用な治療とされる。 本研究では主膵管拡張および疼痛を伴う慢性膵炎患者88人を対象に、薬物療法から内視鏡的治療を第1選択として行う群(44 人)と早期手術療法を第1選択とした群(44人)の疼痛コントロールが比較された。主要評価項目である疼痛はIzbicki pain scoreで評価された。 観察期間18カ月における疼痛スコアは早期手術療法群が内視鏡的治療群よりも低く、疼痛コントロールに優れていることを示した。観察終了時での完全・部分的疼痛緩和について統計学的有意差はなく、観察中の合併症発生率、死亡率、入院回数、膵機能変化、QOLも群間差はなかった。内視鏡的治療群では膵石や膵管狭窄の程度により体外式衝撃波結石破砕療法(ESWL= Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy)、膵管ステントが用いられ治療介入回数が多かった。また疼痛の持続する治療困難例が24例(62%)に認められ、19人は手術療法に移行・待機となった。 一方、早期手術療法群は単一の介入で明瞭な結果となり、鎮痛に対する早期手術療法の優位性を示した。過去の報告(1),(2)でも外科手術は、より早期の介入ほど鎮痛効果を示し、治療初期のオピオイド使用と内視鏡的治療は早期手術療法に比べ疼痛の軽減が低いことが示されており、今回の結果に一致している。 日本ではESWLによる膵石破砕術や膵管ステント留置術が保険診療として認可されたことにより、広く認知・普及している。患者も心情的に内科的治療を第1選択とする傾向にある。本研究において主膵管内膵石の完全除去例に関しては早期手術療法に近い鎮静効果を示しており、内視鏡的治療を第1と考慮する患者群も想定される。臨床症状や病態を含めた的確な選択と今後の膵管鏡やレーザー、ESWLなどの技術革新に期待しつつ、機能温存や悪性疾患合併などの長期にわたる治療効果評価が必要であろう。 1. Cahen DL et al. N Engl J Med. 2007;356(7):676-684. 2. Díte P et al. Endoscopy. 2003;35(7):553-558.