「抗凝固療法」の記事一覧

米国の新型コロナウイルス感染症入院患者の死亡予防に用いる予防的抗凝固療法の早期開始:コホート研究
米国の新型コロナウイルス感染症入院患者の死亡予防に用いる予防的抗凝固療法の早期開始:コホート研究
Early initiation of prophylactic anticoagulation for prevention of coronavirus disease 2019 mortality in patients admitted to hospital in the United States: cohort study BMJ. 2021 Feb 11;372:n311. doi: 10.1136/bmj.n311. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】予防的抗凝固療法の早期開始によって、米国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のため入院した患者の死亡リスクが低下するかを評価すること。 【デザイン】観察コホート研究。 【設定】大規模な全国統合保健制度、退役軍人省の下で治療を受けている患者の全国コホート。 【参加者】2020年3月1日から7月31日までの間に検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が確定し、抗凝固薬服用歴がない全入院患者4,297例。 【主要評価項目】主要評価項目は30日死亡率とした。死亡率、抗凝固薬による治療開始(血栓塞栓事象などの臨床的悪化の代用)および輸血を要する出血を副次評価項目とした。 【結果】COVID-19で入院した患者4,297例のうち3,627例(84.4%)が入院から24時間以内に予防的抗凝固療法を受けた。治療した患者の99%以上(3,600例)にヘパリンまたはエノキサパリンを皮下投与していた。入院から30日以内に622例が死亡し、そのうち513例が予防的抗凝固療法を受けていた。死亡のほとんど(622例中510例、82%)が入院中に発生した。逆確率重み付け解析を用いると、30日時の累積死亡率は、予防的抗凝固療法を受けた患者で14.3%(95%CI 13.1~15.5%)、予防的抗凝固療法を受けなかった患者で18.7%(15.1~22.9%)であった。予防的抗凝固療法を受けなかった患者と比べると、予防的抗凝固療法を受けた患者は30日死亡リスクが27%低かった(ハザード比0.73、95%CI 0.66~0.81)。入院中の死亡および抗凝固薬による治療開始にも同じ関連が認められた。予防的抗凝固療法に輸血を要する出血リスク上昇との関連は見られなかった(ハザード比0.87、0.71~1.05)。定量的バイアス解析から、結果が未測定の交絡に対しても頑強であることが示された(30日死亡率の95%CI下限のe-value 1.77)。感度解析の結果も一致していた。 【結論】COVID-19入院患者に対して早期に予防的抗凝固療法を開始すると、抗凝固薬を投与しなかった患者と比べて30日死亡率が低下し、重篤な出血事象リスクの上昇も見られなかった。この結果は、COVID-19入院患者の初期治療に予防的抗凝固療法を推奨するガイドラインを支持する実臨床の強力な科学的根拠を示すものである。 第一人者の医師による解説 軽症入院例では血栓症の合併は少ない 使用される薬剤や人種差にも注意 射場 敏明 順天堂大学大学院医学研究科救急・災害医学教授 MMJ. October 2021;17(5):139 本論文で報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者を集積した米国のコホート研究によれば、入院24時間以内に予防量ヘパリンによる抗凝固療法を開始した場合、抗凝固療法を実施しない場合に比べ、30日死亡率が絶対差で4.4%低かった(14.3%[実施群]対18.7%[非実施群];ハザード比、 0.73;95%信頼区間、 0.66?0.81)。一方、出血性有害事象に関しては有意差が認められなかった。今回の研究では患者全体の84.4%に入院24時間以内に抗凝固療法が開始され、使用された抗凝固薬の99.3%がヘパリン製剤(エノキサパリン 69.1%、ヘパリン 30.2%)*であった。死亡の大多数は院内死亡であった。 本研究は退役軍人を対象として実施された全国規模の後方視的コホート研究で、集積 COVID-19患者数は総計11万人を超え、この中からマッチングで選ばれた4,297人において比較が行われている。このような観点からは、実臨床に基づいた研究結果とすることができるが、やはり観察研究であるため治療による転帰の改善という因果関係を検証したものではない。しかし米国では予防的抗凝固療法が8割以上の患者に実施されていることを考えると、非治療群を設定した無作為化対照試験の実施はいまさら困難であることも理解できる。この背景としては、COVID-19では高率に血栓症の合併がみられること、また肺微小循環における血栓形成が呼吸機能の悪化に関わっていることが以前から指摘され(1)、国際血栓止血学会(ISTH)をはじめとして主要な国際機関が早々に予防的抗凝固療法の重要性を啓蒙してきたことなどが挙げられる(2)。よってCOVID-19入院患者に対するヘパリン療法は、基本的に実施が前提であり、研究に関してはすでに予防量と治療量の比較に視点が移っていることは否めない。ちなみに、治療量の有用性は複数の無作為化対照試験で評価されているが、今のところ予防量に比べ明らかな有用性はみられないとする結果が多いようである(3)。一方、今回の研究結果を本邦で解釈するにあたっては、使用される薬剤の種類や人種差などいくつかの点に注意する必要があるが、特に気をつける必要があるのは、海外においては入院の対象になるのは基本的に中等症以上であり、日本のように軽症例が入院することはないという点である。軽症入院例では血栓症の合併は少なく、抗凝固療法のメリットは少ないことは念頭に置いておく必要があるだろう。 * 予防量として、ヘパリン 5,000 ユニット、1 日 2 回または 3 回皮下投与、エノキサパリン 40mg1 日 1 回または 30mg1 日 2 回皮下投与 1. Iba T, et al. J Thromb Haemost. 2020;18(9):2103-2109. 2. achil J, et al. J Thromb Haemost. 2020;18(5):1023-1026. 3. Leentjens J, et al. Lancet Haematol. 2021;8(7):e524-e533.
心房細動に対する抗凝固療法の臨床的純益に及ぼす脳卒中発症率のばらつきの影響
心房細動に対する抗凝固療法の臨床的純益に及ぼす脳卒中発症率のばらつきの影響
Effect of Variation in Published Stroke Rates on the Net Clinical Benefit of Anticoagulation for Atrial Fibrillation Ann Intern Med. 2018 Oct 16 ;169 (8 ):517 -527 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】抗凝固療法を受けていない非弁膜症性心房細動(AF)患者の脳卒中発症率は、発表された研究によって大きく異なり、その結果、AFにおける抗凝固療法の正味の臨床的利益に与える影響は不明である。 【目的】発表されたAFの脳卒中発症率のばらつきが、抗凝固療法の正味の臨床的利益に与える影響を明らかにする。ワルファリンをベースケースとし,非ビタミンK拮抗薬の経口抗凝固薬(NOAC)を二次解析でモデル化した。 【設定】地域在住の成人。【対象】心房細動を発症した成人33 434人。 【測定】質調整生命年(QALYs)。 【結果】33 434人のうち,CHA2DS2-VASc(うっ血性心不全,高血圧,年齢,糖尿病,脳卒中,血管疾患)のスコアが2以上であったのは27 179人であった。これらの患者に対するワルファリンによる抗凝固療法の人口利益は,ATRIA(AnTicoagulation and Risk Factors In Atrial Fibrillation)試験の脳卒中発生率を用いた場合に最も少なく,Danish National Patient Registryの脳卒中発生率を用いた場合に最も多かった(6290QALYs[95%CI,±2.3%] vs. 24 110QALYs[CI,±1.9%],P<0.001)。抗凝固療法の最適なCHA2DS2-VAScスコアの閾値は、ATRIAの脳卒中率を用いて3以上、スウェーデンのAFコホート研究の脳卒中率を用いて2以上、SPORTIF(Stroke Prevention using ORal Thrombin Inhibitor in atrial Fibrillation)研究の脳卒中率を用いて1以上、デンマークのNational Patient Registryの脳卒中率を用いて0以上であった。NOACによる頭蓋内出血の割合が低いことを考慮すると、CHA2DS2-VAScスコアの最適な閾値は減少したが、これらの閾値はまだ大きく異なっていた。 【Limitation】測定された利益は他の集団に一般化しない可能性がある。 【結論】抗凝固療法を受けていない患者の心房細動による脳卒中発生率の公表値のばらつきは、抗凝固療法の正味の臨床的利益に何倍ものばらつきをもたらしている。ガイドラインは、抗凝固療法を推奨するための現在の脳卒中リスクスコアの閾値の不確実性をよりよく反映すべきである。[主要な資金源]なし。 第一人者の医師による解説 抗凝固療法のNCBを勘案したスコアの日本版推奨閾値の検討必要 矢坂 正弘 国立病院機構九州医療センター脳血管センター部長 MMJ.April 2019;15(2) 抗凝固療法未施行の非弁膜症性心房細動(AF)患者における公表されている脳卒中発症率は研究ごとに大きく異なるが、その変動が抗凝固療法のnet clinical benefit(NCB)に及ぼす影響は明らかにされていない。そこで、著者らは代表的な4つの研究(ATRIA、SPORTIF、Swedish AFコホート研究、 Danish National Patient Registry)から抗凝固療法未施行の非弁膜症性 AF患者における公表されているCHA2DS2 -VAScスコアごとの脳梗塞発症率を調べ、既報の脳梗塞、頭蓋内出血、頭蓋外大出血の発症率などを用い、マルコフモデルを作成し、 質調整生存年(QALY)を指標としたNCBをAF患者33,434人で算出した。4研究間でQALYが異なるか否かを明らかにするとともに、抗凝固療法で最大の益が得られるCHA2DS2 -VAScスコア閾値を求めた(1)。 その結果、CHA2 DS2 -VAScスコア 2以上に 27,179人が該当し、ワルファリンを用いた抗凝固療法のQALYは、ATRIAデータを用いた場合が最も小さく(6,290 QALY;95% CI, ±2.3%)、 Danish National Patient Registryデータを用いた場合が最も大きく(24,110 QALY;95% CI, ±1.9%)、両者で約4倍の差があった(P< 0.001)。ワルファリンによる抗凝固療法のため最適 CHA2DS2 -VAScスコア閾値は、ATRIAを用いると3以上、Swedish AFコホートでは2以上、 SPORTIFで は1以上、Danish National Patient Registryで は0以上であった。直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を 用いた抗凝固療法 のQALYは ATRIAデータを用いた場合が最も小さく(7,080 QALY;95 % CI, ±1.5 %)、Danish National Patient Registryデータを用いた場合が最も大きく(24,770 QALY;95% CI, ±2.0%)、両者 で約4倍の差があった。抗凝固療法のための最適 CHA2DS2 -VAScスコア閾値は、ATRIAを用いる と2以上、Swedish AFコホートやSPORTIFでは 1以上、Danish National Patient Registryでは0 以上となった。著者らは、抗凝固療法未施行の非弁膜症性 AF患者における脳卒中発症率の変動は、抗凝固療法のNCBに影響を及ぼすので、ガイドラインではこの脳梗塞発症率の不確実性をリスク閾値の設定に反映させるべきであると結んでいる。 日本ではAF有病率が米国 の3分の2程度(2)で、 同等のリスクスコアでも脳梗塞発症率は低いと報告されている(3)ことから、日本でもワルファリンやDOACのNCBを勘案したCHADS2スコアや CHA2DS2 -VAScスコアの至適推奨閾値の検討が望まれる。 1. Shah SJ, et al. Ann Intern Med. 2018;169(8):517-527. 2. 日本循環器学会「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013 年改訂版)」 委員会:http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf(2019 年 3 月 4 日閲覧) 3. Suzuki S, et al. Circ J. 2015;79(2):432-438.
ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.13(2022年8月18日号)
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運動後の摂取はゆで卵、生卵どちらの摂取が有用か? 卵タンパク質は、運動後の筋タンパク質合成率の上昇を促進するため、運動からの回復期に摂取することにより、運動トレーニングに対する骨格筋の適応反応をサポートする。これまで、運動後の筋タンパク質合成に対する卵タンパク質の調理の影響は不明であった。本研究では、運動後の回復期にゆで卵または生卵を摂取した場合の食後の筋原線維タンパク質合成率への影響を比較した。The Journal of Nutrition誌オンライン版2022年8月9日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む COVID-19疾患感受性遺伝子DOCK2の重症化機序とは~日本人集団大規模ゲノム分析 COVID-19の重症化の要因を宿主遺伝学的に明らかにすることは、新たな課題の1つである。「コロナ制圧タスクフォース」は、日本全国100以上の医療機関が参加し、2022年7月末時点で6,000人以上のCOVID-19患者の協力を得て、日本人集団大規模ゲノム分析を実施した。Nature誌オンライン版2022年8月8日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む なぜ、若年層での脳卒中発症率が上昇しているのか いくつかの研究では,若年層(55歳未満)での脳卒中発症率の増加が報告されているが、多くの場合、行政データにのみ依存しており、詳細な検討が不十分であった。2002年4月~2018年3月に英国オックスフォードシャー(平均人口:9万4,567人)を対象に、前向き人口ベースの発症率調査が実施された。JAMA誌2022年8月9日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 身体活動が変形性膝関節症に及ぼす影響 2005年~20年に英語で発表された原著論文(レビュー論文)に限定し、身体活動が変形性膝関節症の構造的進行にどのように関連するかについての一次エビデンスをまとめたナラティブレビュー、システマティックレビューおよびメタ解析が行われ、その概要が報告された。European Journal of Rheumatology誌オンライン版2022年8月9日号の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 抗血栓療法の周術期管理~米国胸部疾患学会臨床実践ガイドライン 抗血栓療法の周術期管理に関する米国胸部疾患学会の臨床実践ガイドラインは、長期経口抗凝固療法または抗血小板療法を受けている患者で、選択的手術/処置を必要とする患者の周術期管理に関する43項目の患者・介入・比較対象・結果(PICO)の質問に対処するために作成されている。本ガイドラインの概要が紹介された。Chest誌オンライン版2022年8月10日の報告。 ≫Bibgraphで続きを読む 知見共有へ アンケート:ご意見箱 ※新規会員登録はこちら ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.12(2022年8月11日号) 慢性腰痛を軽減する最良の運動オプションとは~RCTのネットワークメタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.11(2022年8月4日号) サル痘の臨床的特徴~最新症例報告 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.10(2022年7月28日号) 小児におけるオミクロンに対するファイザー社製COVID-19ワクチンの有効性 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.9(2022年7月21日号) 慢性便秘症に効果的な食物繊維摂取量は?:RCTの系統的レビュー&メタ解析 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.8(2022年7月14日号) COVID-19後遺症の有病率、その危険因子とは ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.7(2022年7月7日号) 糖尿病の有無が影響するか、心不全に対するエンパグリフロジンの臨床転帰 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.6(2022年6月30日号) 老化をあざむく方法は? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.5(2022年6月23日号) 座位時間と死亡率および心血管イベントとの関連性:低~高所得国での違いはあるか? ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.4(2022年6月16日号) 乳製品やカルシウム摂取量と前立腺がんの発症リスクの関連性:前向きコホート研究 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.3(2022年6月9日号) 運動は脳内RNAメチル化を改善し、ストレス誘発性不安を予防する ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.2(2022年6月2日号) 6〜11歳の子供におけるmRNA-1273Covid-19ワクチンの評価 ≫その他4本 ヒポクラ × マイナビ Journal Check Vol.1(2022年5月26日号) SARS-CoV-2オミクロンBA.2株の特性評価と抗ウイルス感受性 ≫その他4本