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フランス・パリのCOVID-19大流行下に見られる小児の川崎病様多臓器系炎症性疾患 前向き観察研究
フランス・パリのCOVID-19大流行下に見られる小児の川崎病様多臓器系炎症性疾患 前向き観察研究
Kawasaki-like multisystem inflammatory syndrome in children during the covid-19 pandemic in Paris, France: prospective observational study BMJ . 2020 Jun 3;369:m2094. doi: 10.1136/bmj.m2094. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】川崎病様多臓器系炎症性疾患の集団発生に見舞われた小児および青少年の特徴を明らかにし、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)との一時的な関連の可能性を評価すること。 【デザイン】前向き観察研究。 【設定】フランス・パリの大学病院一般小児病棟。 【参加者】2020年4月27日から5月11日の間に入院し、同年5月15日までに退院するまで経過観察した川崎病の特徴を有する小児および青少年21例(18歳以下)。 【主要評価項目】主要評価項目は、臨床的・生物学的データ、画像および心エコーの所見、治療および転帰とした。RT-PCRを用いて鼻咽頭ぬぐい液のSARS-CoV-2の有無を調べる検査を前向きに実施し、血液検体でウイルスに対するIgG抗体を調べた。 【結果】15日間の間に、小児および青少年21例(年齢中央値7.9[範囲3.7-16.6]歳)が川崎病の症状を呈し、入院した。12例(57%)がアフリカ系であった。12例(57%)が川崎病ショック症候群、16例(76%)が心筋炎を来した。17例(81%)が集中治療を要した。全21例に疾患早期の顕著な消化器症状と炎症マーカー高値が見られた。19例(90%)に、SARS-CoV-2に感染して間もない根拠があった(21例のうち8例がRT-PCR検査陽性、19例からIgG抗体検出)。全21例に免疫グロブリン製剤を静注し、10例(48%)にはステロイド薬も投与した。臨床転帰は全例が良好だった。入院中、5例(24%)に中等度の冠動脈拡張が見られた。5月15日までに、8(5-17)日間の入院後、全例が退院した。 【結論】パリの小児および青少年の間で現在も続く川崎病様多臓器系炎症性疾患の集団発生には、SARS-CoV-2との関連があると思われる。この研究では、この症状が見られる小児および青少年の間で消化器症状、川崎病ショック症候群の割合が非常に高く、その多くがアフリカ系であった。 第一人者の医師による解説 小児ではCOVID-19感染後1 ~ 2カ月間は 川崎病の症状に注意すべき 三浦 大 東京都立小児総合医療センター副院長 MMJ. December 2020;16(6):164 本論文は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染症(COVID-19)流行時に、川崎病類似の多臓器系炎症症候群の小児が多数発生したというフランスからの報告である。COVID-19に伴う多臓器系炎症症候群は、日本では皆無だが欧米で報告が相次ぎ、欧州ではPIMS-TS、米国ではMIS-Cと略され、一部は川崎病ショック症候群(KDSS)とオーバーラップする。  著者らは、パリの 大学病院小児科に2020年4~5月に中央値8日間入院し、川崎病の診断基準を満たした小児21人を調査した。年齢は中央値7.9歳、12人は女児で、12人(57%)はアフリカ系であった。12人(57%)はKDSS、16人(76%)は心筋炎を伴い、17人(81%)が集中治療を要した。21人全例が顕著な胃腸症状と高度の炎症反応を示し、免疫グロブリン静脈療法(IVIG)を受け、10人(48%)はステロイドも投与された。全例が良好に回復したが、中等度冠動脈瘤が5人(24%)に検出された。  SARS-CoV-2に関して、PCR陽性8人、IgG抗体陽性19人と計19人(90%)で最近の感染が証明された。川崎病発症と咳・鼻汁・発熱などウイルス感染症状との間隔は中央値で45日間(9人)、SARS-CoV-2疑い症状のあった家族との接触との間隔は36日間であった(5人)。SARS-CoV-2感染の1~2カ月後に発症するという時間的経過はPIMS-TSの報告と一致し、ウイルス感染後の免疫反応が川崎病様の症状を引き起こしたと推測される。  本報告例では、アフリカ系、年長児、女児に好発し、胃腸症状、ショック、心機能低下、炎症反応異常高値を多く認め、IVIG不応率、冠動脈瘤合併率、集中治療を要した割合が高かった。このような特徴はPIMS-TSやKDSSと同様で、アジア人、乳幼児、男児に多い典型的な川崎病と異なる。その理由は不明であるが、人種による遺伝的免疫応答の相違である可能性があり、今後の研究テーマである。  当院で調査した日本の小児のデータを紹介する(1)。2020年3 ~ 5月に入院した川崎病患児14人における抗SARS-CoV-2抗体検査でIgG陽性は1人のみであった。この陽性例は1歳の男児で(2)、母親からのCOVID-19に感染後60日目に再入院し、川崎病の診断でIVIG+ステロイド併用療法を受け、冠動脈瘤なく軽快した。KDSSの症状はなかったが、SARS-CoV-2と川崎病との関連が示唆され、調べ得た範囲では日本初の症例である。  世界的にはCOVID-19流行は収まっておらず、アフリカ系の住民が多い地域では、胃腸症状や血行動態が不安定な川崎病様の症状を呈する小児に注意が必要である、と著者らは述べている。日本ではまれであるが、COVID-19感染後、1~2カ月間は発熱など川崎病の症状に気をつけるべきと考える。 1. Iio K, et al. Acta Paediatr. 2020 Aug 16:10.1111/apa.15535. 2. Uda K, et al. Pediatr Intern. 2020 (in press). # #編集部対応:最新状況を反映する