ライブラリー 早産予防に用いるプロゲステロンを評価する国際共同研究(EPPPIC) 無作為化試験から抽出した個別患者データのメタ解析
Evaluating Progestogens for Preventing Preterm birth International Collaborative (EPPPIC): meta-analysis of individual participant data from randomised controlled trials
Lancet. 2021 Mar 27;397(10280):1183-1194. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00217-8.
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上記論文の日本語要約
【背景】早産は、優先して検討すべき世界的な健康問題である。早産リスクの高い妊娠中のプロゲステロン使用によって早産および新生児の有害転帰を抑制できると思われる。
【方法】早産リスクが高い無症候性の女性でプロゲステロン膣内投与、17-ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸(17-OHPC)筋肉注射、経口プロゲステロンを対照またはそれぞれと比較した無作為化試験の系統的レビューを実施した。MEDLINE、Embase、CINAHL、Maternity and Infant Care Databaseの検索およびデータベース開始から2019年7月30日までの関連試験登録から、公開の有無を問わず2016年6月30日までに主要データの収集が完了した試験(データ収集開始12カ月前)を特定した。早期流産または差し迫った早産の危険を予防するプロゲステロンの試験を除外した。適格試験の担当医師に個別患者データの提供を依頼した。早産、早期早産および妊娠中期の出産を転帰とした。重篤な新生児合併症の複合および個別で早産による新生児有害転帰を評価した。複合および個別に有害妊娠転帰を調査した。研究者2人が個別患者データを確認し、バイアスリスクを評価した。主要メタ解析に、ランダム効果を統合した1段階の一般化線形混合モデルを用いて、試験間の異質性を考慮に入れた。このメタ解析は、PROSPERO(CRD42017068299)に登録されている。
【結果】初回検索で適格試験47件を特定した。このうち30件の個別患者データが得られた。対象とした更新があり、後日追加試験1件を組み入れた。従って、計31試験のデータが得られた(女性1万1644例および児1万6185例)。単胎妊娠を検討した試験に組み入れたのは、ほとんどが自然早産歴がある女性および子宮頸管長が短い女性であった。プロゲステロン膣内投与(9試験、女性3769例、相対リスク[RR]0.78、95%CI 0.68~0.90)、17-OHPC(5試験、女性3053例、0.83、0.68~1.01)および経口プロゲステロン(2試験、女性181例、0.60、0.40~0.90)を投与した女性で、34週未満の早産が減少した。その他の出産および新生児転帰の結果は一貫して良好であったが、信頼性が低かった。妊娠合併症リスク上昇の可能性が示唆されたが、不確かであった。治療の相互作用と患者背景に一貫した根拠は認められなかったが、下位集団の解析から、子宮頸管長が短くない女性では有効性がないことが疑われた。多胎妊娠を検討した試験に組み入れたのは、他の危険因子がない女性であった。プロゲステロン膣内投与(8試験、2046試験、RR 1.01、95%CI 0.84~1.20)で双胎妊娠女性の34週未満での早産が減少せず、17-OHPC(8試験、女性2253例、1.04、0.92~1.18)でも双胎および三胎妊娠で34週未満での早産が減少しなかった。多胎妊娠では、17-OHPC曝露で前期破水が増加した(34週未満の破水のRR 1.59、95%CI 1.15~2.22)が、プロゲステロン膣内投与でも17-OHPCでもその他の転帰に見られる便益や有害性の一貫した根拠は認められなかった。
【解釈】高リスクの単胎妊娠で、プロゲステロン膣内投与および17-OHPCによって34週未満での出産が減少した。潜在的リスクの上昇を考慮に入れると、子宮頸管長の短い女性で絶対リスクの低下度が大きいことから、このような女性では治療が有益であると思われる。経口プロゲステロンの使用を支持する根拠は不十分であった。高リスクの単胎妊娠女性との共同意思決定で、個別のリスク、考えられる便益と有害性および介入の実用性を話し合うべきである。この根拠から、任意に抽出した多胎妊娠でプロゲステロンによる治療は支持されない。
第一人者の医師による解説
日本で使用できるプロゲステロン製剤が課題 求められる国内での臨床研究
細谷聡史、左合治彦(副院長・周産期・母性診療センター長) 国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター
MMJ. August 2021;17(4):123
早産(妊娠22週以降37週未満の分娩)は妊娠中の最も頻度が高い最も重要な合併症である。早産児は呼吸障害や長期的な神経発達障害などの合併症をきたしやすく、早産を予防することは周産期医療の重要な課題である。内因性プロゲステロンは妊娠維持に関与し、低下すると陣痛発来することにより、1960年代から早産予防薬としてプロゲステロン製剤が用いられてきた。プロゲステロン製剤には天然型プロゲステロンを用いた腟製剤(錠剤とゲル)(VP)と合成化合物であるヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル(17-OHPC)の筋肉注射製剤がある。2003年にはランダム化比較試験(RCT)で17-OHPCとVPの 早産予防効果が報告された(1),(2)。しかし、最近のOPPTIMUM試験とPROLONG試験という大規模 RCTでは、VPと17-OHPCの早産予防効果や児の予後改善効果は認められないと報告され(3),(4)、プロゲステロン製剤の効果に疑問が投げかけられた。
本論文は、早産リスクの高い妊婦(早産既往・子宮頸管長短縮)に対して早産予防効果を検証したRCTを対象とし、個別被験者データ(IPD)を集積してメタ解析を行い、VPと17-OHPCの早産予防効果を検証したものである。主要評価項目である単胎の34週未満の早産に関して、対照群と比較してVPは22%(相対リスク , 0.78;95%信頼区間 ,0.68~0.90)、17-OHPCは17%(0.83;0.68~1.01)のリスク低下を認め、早産予防効果の有効性を示した。ただし、頸管長が短縮していない(30mm超)妊婦では早産予防効果は認めなかった。母体合併症は増加する可能性が示唆された。また多胎妊娠に関して早産予防効果は認められなかった。以上の結果より、早産リスクが高く子宮頸管長短縮を認める単胎妊婦では、プロゲステロン製剤による早産予防効果が期待できるが、正確な情報を提供して個別のリスクとベネフィットを勘案した上での患者の意思決定に基づいて使用すべきとしている。
日本では17-OHPCは250mg/週筋注投与しているが、125mg/週のみが黄体機能不全に伴う切迫流早産を適応として保険収載されているだけである。またVPは生殖補助医療における黄体補充の適応で承認されているが薬価未収載で、切迫流早産は保険適応外である。日本ではVPの保険収載が大きな課題であり、そのための日本における質の高い臨床研究が求められている。
1. Meis PJ, et al. N Engl J Med. 2003;348(24):2379-2385.
2. da Fonseca EB, et al. Am J Obstet Gynecol 2003;188(2):419-424.
3. Norman JE, et al. Lancet. 2016;387(10033):2106-2116.
4. Blackwell SC, et al. Am J Perinatol. 2020;37(2):127-136.