「大動脈弁置換術」の記事一覧

症候性重症大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル大動脈弁置換術における自己拡張型人工弁とバルーン拡張型人工弁の安全性と有効性:無作為化非劣性試験。
症候性重症大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル大動脈弁置換術における自己拡張型人工弁とバルーン拡張型人工弁の安全性と有効性:無作為化非劣性試験。
Safety and efficacy of a self-expanding versus a balloon-expandable bioprosthesis for transcatheter aortic valve replacement in patients with symptomatic severe aortic stenosis: a randomised non-inferiority trial Lancet 2019 ;394 (10209):1619 -1628. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、症候性重症大動脈弁狭窄症の高齢患者に対する好ましい治療選択肢である。利用可能なTAVRシステムの特性の違いは、臨床転帰に影響を与える可能性がある。TAVRを受ける患者において,自己拡張型ACURATE neo TAVRシステムとバルーン拡張型SAPIEN 3 TAVRシステムを,初期の安全性と有効性について比較した。 【方法】この無作為化非劣性試験において,症候性の高度大動脈狭窄症の治療で経大腿TAVRを受けており,手術リスクが高いと考えられる患者(75歳以上)をドイツ,オランダ,スイス,イギリスの20の三次心臓弁センターで募集した。参加者は、コンピュータベースの無作為並べ替えブロック方式により、ACURATE neoまたはSAPIEN 3による治療を受ける群に1対1で無作為に割り付けられ、試験施設と胸部外科学会予測死亡リスク(STS-PROM)カテゴリーにより層別化された。安全性と有効性の主要複合エンドポイントは、全死亡、あらゆる脳卒中、生命を脅かすまたは障害をもたらす出血、主要血管合併症、治療を必要とする冠動脈閉塞、急性腎障害(ステージ2または3)、弁関連症状または鬱血性心不全による再入院、再手術を必要とする弁関連機能不全、中程度または重度の人工弁逆流、手術後30日以内の人工弁狭窄で構成されました。エンドポイント評価者は治療割り付けに対してマスクされていた。ACURATE neo の SAPIEN 3 に対する非劣性は intention-to-treat 集団において、主要複合エンドポイントのリスク差マージンを 7-7% とし、片側 α を 0-05 とすることで評価されました。本試験はClinicalTrials. govに登録されており(番号NCT03011346)、継続中ですが募集はしていません。 【所見】2017年2月8日から2019年2月2日までに、最大5132人の患者をスクリーニングし、739人(平均年齢82-8歳[SD 4-1]、STS-PROMスコア中央値3-5%[IQR 2-6-5-0])が登録されました。ACURATE neo群に割り付けられた372例中367例(99%)、SAPIEN 3群に割り付けられた367例中364例(99%)で30日の追跡調査が可能であった。30日以内に主要評価項目はACURATE neo群87例(24%)、SAPIEN 3群60例(16%)で発生し、ACURATE neoの非劣性は満たされなかった(絶対リスク差7-1%[95%信頼限界上12-0%]、P=0-42)。主要評価項目の二次解析では、SAPIEN 3デバイスのACURATE neoデバイスに対する優越性が示唆された(リスク差の95%CI:-1-3~-12-9、p=0-0156)。ACURATE neo群とSAPIEN 3群では,全死亡(9例[2%] vs 3例[1%]),脳卒中(7例[2%] vs 11例[3%])の発生率は変わらなかったが,急性腎障害(11例[3%] vs 3例[1%]),中度または重度の人工大動脈逆流(34例[9%] vs 10例[3%])はACURATE neo群に多く見られた.【解説】自己拡張型ACURATE neoを用いたTAVRは、バルーン拡張型SAPIEN 3デバイスと比較して、初期の安全性と臨床効果のアウトカムにおいて非劣性を満たさないことが示された。早期の安全性と有効性の複合エンドポイントは、異なるTAVRシステムの性能を識別するのに有用であった。 【FUNDING】Boston Scientific(アメリカ)。 第一人者の医師による解説 SAPIEN 3の安定性とACURATE neoの課題が明確に 小山 裕 岐阜ハートセンター心臓血管外科部長 MMJ.April 2020;16(2) 経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)は、大動脈弁狭窄症に対する治療として、日本でも大きな役割を果たしている。バルーン拡張型弁である SAPIENは、外科手術不能・高リスク患者を無作為化したPARTNER Ⅰ試験から、その改良とともに手術低リスク患者に適応拡大したPARTNER III試験により外科手術に対する優位性が示されるまでになった。バルーン拡張型弁と自己拡張型弁の比較に関しては、バルーン拡張型弁の方が良好なデバ イス成功率を示したCHOICE試験、複合エンドポイントで同等な早期成績を示したSOLVE-TAVI試験がある。 本研究(SCOPE Ⅰ試験)は、欧州4カ国20施設 で75歳以上の手術リスクのある症候性大動脈弁狭 窄症患者739人( 平均年齢82.8歳、STS-PROM スコア中央値3.5%)を経大腿動脈アプローチによるTAVRにおいて、新しい自己拡張型弁である ACURATE neo(日本未承認)群とバルーン拡張型弁であるSAPIEN 3群に無作為化し、早期安全性と臨床的有効性の非劣性を検証した。 治療目標比較 (intention to treat)において、ACURATE neo群 はSAPIEN 3群と比較し、1次安全性・有効性複合 エンドポイント(全死亡、脳卒中、重篤な出血、血管 合併症、治療を要する冠動脈閉塞、急性腎障害など)で非劣性を示せなかった(エンドポイント発生率: 24% 対 16%;Pnoninferiority=0.42)。また2次解 析で、急性腎障害、弁機能不全においてSAPIEN 3 の優位性が示唆された(Psuperiority=0.0156)。心臓超音波評価 では、ACURATE neo群 はSAPIEN 3群と比較し、中等度以上の弁周囲逆流が多かったが(9.4% 対 2.8%;P<0.0001)、弁平均圧 較差は低く(中央値7 mmHg 対 11 mmHg;P< 0.0001)、有効弁口面積は大きかった(中央値1.73 cm2 対 1.47 cm2:P<0.0001)。両群ともに全死亡、脳卒中、新規ペースメーカー植え込みの頻度は低く、良好な成績であった。 本研究では、日本未導入のACURATE neoが SAPIEN 3に対する非劣性を示せず、SAPIEN 3の安定した成績が示された一方で、ACURATE neo の課題も明らかになった。急性腎障害の発生は造影剤使用量や手技時間の影響を受けると考えられることから、手技や症例選択による改善の余地があり、 弁周囲逆流もデバイスの改良で軽減されうる。今回の結果では自己拡張型弁の方がより大きい有効弁口面積を得られることが示されており、体格の小さい日本人や狭小弁輪には、さらに改良された ACURATE neoの導入が期待される