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集団ベースの心血管系リスク層別化に対する非HDLコレステロールの適用:Multinational Cardiovascular Risk Consortiumの結果。
集団ベースの心血管系リスク層別化に対する非HDLコレステロールの適用:Multinational Cardiovascular Risk Consortiumの結果。
Application of non-HDL cholesterol for population-based cardiovascular risk stratification: results from the Multinational Cardiovascular Risk Consortium Lancet 2019 ;394 (10215):2173 -2183. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】血中脂質濃度と心血管疾患の長期発症との関連性,および脂質低下療法と心血管疾患の転帰との関連性は不明である。我々は,血中非HDLコレステロール濃度の全領域に関連する心血管疾患リスクについて調査した。また,non-HDLコレステロールに関連する心血管疾患イベントの長期確率を推定する使いやすいツールを作成し,脂質低下治療によるリスク低減をモデル化した。 【方法】このリスク評価およびリスクモデル化研究では,欧州,オーストラリア,北米の19か国から得たMultinational Cardiovascular Risk Consortiumのデータを使用した。ベースライン時に心血管疾患の有病率がなく,心血管疾患の転帰に関する確実なデータが利用可能な個人を対象とした。動脈硬化性心血管病の主要複合エンドポイントは、冠動脈性心疾患イベントまたは虚血性脳卒中の発生と定義された。欧州ガイドラインの閾値に従った非HDLコレステロールのカテゴリーを用いて、年齢、性別、コホート、古典的な修正可能な心血管危険因子で調整した性特異的多変量解析が計算された。導出と検証のデザインにおいて,年齢,性,危険因子に依存する75歳までに心血管疾患イベントが発生する確率と,非HDLコレステロールが50%減少すると仮定した場合の関連するモデルリスク減少を推定するツールを作成した。 【調査結果】コンソーシアムのデータベースにおける44コホートの524 444人のうち,38コホートに属する398 846人(184 055 [48-7%] 女性;年齢の中央値 51-0 歳 [IQR 40-7-59-7] )が同定された。派生コホートには199 415人(女性91 786人[48-4%])、検証コホートには199 431人(女性92 269人[49-1%])が含まれた。最大43~6年の追跡期間(中央値13~5年,IQR7~0~20~1)において,54 542件の心血管エンドポイントが発生した.発生率曲線解析では、非HDLコレステロールのカテゴリーが増えるにつれて、30年間の心血管疾患イベント率が徐々に高くなることが示された(女性では非HDLコレステロール<2〜6mmol/Lの7〜7%から≧5〜7mmol/Lの33〜7%、男性では12〜8%から43〜6%、p<0〜0001)。非HDLコレステロールが2-6 mmol/L未満を基準とした多変量調整Coxモデルでは、男女ともに非HDLコレステロール濃度と心血管疾患の関連性が増加した(非HDLコレステロール2-6~<3-7 mmol/Lのハザード比1-1、95% CI 1-0-1-3から、女性では5-7 mmol/L 以上の1-9、 1-6-2-2 、男性では 1-1, 1-0-1-3 から 2-3, 2-0-2-5 )。このツールにより,non-HDLコレステロールに特異的な心血管疾患イベント確率の推定が可能となり,滑らかなキャリブレーション曲線解析と心血管疾患推定確率の二乗平均誤差が1%未満であることから,派生集団と検証集団の間の高い比較可能性が反映されていることが示された.非HDLコレステロール濃度の50%低下は、75歳までの心血管疾患イベントのリスク低下と関連し、このリスク低下は、コレステロール濃度の低下が早ければ早いほど大きくなった。我々は、個人の長期的なリスク評価と、早期の脂質低下介入の潜在的な利益のための簡単なツールを提供する。これらのデータは,一次予防戦略に関する医師と患者のコミュニケーションに有用であると考えられる。 【FUNDING】EU Framework Programme,UK Medical Research Council,German Centre for Cardiovascular Research. 第一人者の医師による解説 臨床医として高リスクの患者の素早い把握につながる指標を期待 山田 悟 北里大学北里研究所病院糖尿病センター長 MMJ.April 2020;16(2) 日本の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017 年版」では、LDLコレステロール(LDL-C)および中性脂肪(TG)が高いほど、またHDLコレステロール(HDL-C)が低いほど冠動脈疾患の発症頻度は高いとされ、non-HDL-Cについては、「食後採血の場合やTGが400mg/dL以上の時にはFriedwald式でLDL-Cを求めることができないため、LDL-Cの 代用として用いる」という扱いである。 一方、欧米のガイドラインでは、LDL-Cのほかに non-HDL-C測定がすでに推奨されていると著者らは本論文の緒言で述べている。本文では、そこまで明確にnon-HDL-CとLDL-Cの心血管リスクとして の意義を比較していないが、論文 appendixには両者の心血管疾患に対するハザード比が記載されている。全体ではほとんど差はないが、45歳未満で は若干 non-HDL-Cの方が優れているようであった(男性ハザード比:non-HDL-C ①100mg/dL未 満;1基準、②100~145mg/dL;1.4、③145 ~185mg/dL;1.9、④185~220mg/dL;3.0、 ⑤220mg/dL以上;4.2:LDL-C ①70mg/dL未 満;1基準、②70~115mg/dL;1.1、③115~ 155mg/dL;1.5、④155~190mg/dL;2.3、 ⑤190mg/dL以上;3.6)。 既存 の 研究も、冠動脈疾患 の予測因子 と し て LDL-Cよりnon-HDL-Cの方が優れる(1)。しかし、この既報が1番良い予測因子として推しているのはApoB(HDL以外のすべてのリポタンパク質に包含されるアポ蛋白)である。実際に欧州心臓病学会(ESC)/欧州動脈硬化学会(EAS)ガイドライン 2019をみると、やはりnon-HDL-CはLDL-Cの 代替とされている(2)。さらに、ガイドライン 2016 年版との新旧比較表は、ApoBもLDL-Cの代替として測定可能で、高 TG、糖尿病、肥満などの人では、non-HDL-Cより優先されるかもしれないと記載されている(2)。よって、今後、すぐにnon-HDL-Cが LDL-Cに取って代わるということはなかろう。 ただ、30年間の脂質異常症 による動脈硬化症の影響は10年間の脂質異常症の3倍ではないことから(3)、45歳未満での薬物療法の適応を検討するの にnon-HDL-Cが 有用 で ある可能性はある。 Friedwald式でLDLコレステロールを測定している施設では、新たな測定が不要となる点は、ApoB を越えたnon-HDL-Cのメリットであろう。 いずれにせよ、LDL-C、non-HDL-C、ApoBの心 血管リスクとしての差異は小さかろう。Lp(a)、 small dense LDLも含め、どれが最善の指標であるかはその道の研究者に委ね、いずれの指標を用いてもよいので高リスクの患者をいかに早く把握し、いかに早く(薬物)治療するかに臨床医はこだ わるべきだと私は思う。 1. Pischon T et al. Circulation. 2005;112(22):3375-3383. 2. Mach F et al. Eur Heart J. 2020;41(1):111-188. 3. Pencina MJ et al. Circulation. 2009;119(24):3078-3084.