「冠動脈疾患」の記事一覧

大腿部脂肪分布と腹部脂肪分布に関連する遺伝子変異と2型糖尿病、冠動脈疾患および心血管危険因子との関連性。
大腿部脂肪分布と腹部脂肪分布に関連する遺伝子変異と2型糖尿病、冠動脈疾患および心血管危険因子との関連性。
Association of Genetic Variants Related to Gluteofemoral vs Abdominal Fat Distribution With Type 2 Diabetes, Coronary Disease, and Cardiovascular Risk Factors JAMA 2018 Dec 25 ;320 (24):2553 -2563. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】体脂肪分布は、通常、ウエスト・ヒップ比(WHR)を用いて測定され、肥満度(BMI)とは無関係に、心代謝性疾患に重要な寄与をするものである。)低い臀部(股関節)を介して,あるいは高い腹部(腰部)脂肪分布を介してWHRを増加させるメカニズムが,心代謝リスクに影響するかどうかは不明である。 【目的】低い臀部または高い腹部脂肪分布を介して特に高いWHRと関連する遺伝子変異を特定し,心代謝リスクとの関連を推定する。 デザイン,設定,参加者]WHRに関するゲノム幅関連研究(GWAS)は,英国バイオバンクコホートのデータと過去のGWASからの要約統計(データ収集:2006~2018)を組み合わせたものである。股関節またはウエスト周囲径との特異的な関連を示すWHR関連遺伝子変異を用いて,低臀部大腿部経由または高腹部脂肪分布経由の高WHRに対する特異的な多遺伝子スコアを導出した。3つの人口ベースコホート、ケースコホート研究、6つのGWASの要約統計で、多遺伝子スコアとアウトカムとの関連を推定した(データ収集:1991~2018)。 【曝露】240万以上の共通遺伝バリアント(GWAS)、高いWHRに対する多因子スコア(フォローアップ解析)。 【主要評および測定法】BMI調整WHRと未調整WHR(GWAS);二重エネルギーX線吸収法で測定したコンパートメント脂肪量、収縮期・拡張期血圧、低密度リポタンパク質コレステロール、トリグリセリド、空腹時グルコース、空腹時インスリン、2型糖尿病、冠疾患リスク(フォローアップ分析)。 【結果】ヨーロッパ系祖先を持つUK Biobank参加者452名302名の平均(SD)年齢は57(8)歳、平均(SD)WHRは0.87(0.09)であった。)ゲノムワイド解析では、202の独立した遺伝子変異が、より高いBMI調整WHR(n = 660 648)および未調整WHR(n = 663 598)と関連していた。二重エネルギーX線吸収測定法解析(n = 18 330)では、高いWHRに対する股関節および腰部特異的多因子スコアは、それぞれ低い臀部脂肪および高い腹部脂肪と特異的に関連していた。追跡解析(n = 636 607)では、両方の多遺伝子スコアが、より高い血圧およびトリグリセリド値、ならびにより高い糖尿病リスクと関連していた(ウエスト特異的スコア:オッズ比[OR]、1.57[95%CI、1.34-1.83]、参加1000年当たりの絶対リスク増加[ARI]、4.4[95%CI、2.7-6.5]、P < .001;hip-specific score;ウエスト特異的スコア:オッズ比[OR]、1.57[95%CI]、3.5[95%CI、3.5]、P < 0.001)。OR, 2.54 [95% CI, 2.17-2.96], ARI, 12.0 [95% CI, 9.1-15.3], P < .001) および冠動脈疾患(腰部特異的スコア:OR, 1.60 [95% CI, 1.39-1.84], ARI, 2.3 [95% CI, 1.5-3.3], P < .001; hip-specific score: 【結論と関連性】WHRの算出の基礎となる臀部および腹部脂肪の分布には、異なる遺伝的機序が関連している可能性がある。これらの知見は、糖尿病や冠動脈疾患のリスク評価や治療を改善する可能性がある。 第一人者の医師による解説 ウエスト・ヒップ比の計測に臨床的意義 細江 隼(特任研究員)1)/門脇 孝(特任教授)1,2) 1) 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科, 2) 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・生活習慣病予防講座 MMJ.August 2019;15(4) 体脂肪分布は、通常ウエスト・ヒップ比(WHR)を用いて評価され、WHRの構成要素は腹部と臀大腿部の脂肪分布である。近年、体格指数(BMI)補正 WHRと関連する遺伝子領域に注目して重み付けしたリスクアレルの総和を用いて算出される多因子遺伝リスクスコア(polygenic risk score;PRS) について、2型糖尿病および冠動脈疾患と関連する ことが報告された(1)。このような研究から、WHRは BMIとは無関係に心血管代謝疾患と関連し、腹部脂肪蓄積が同疾患のリスクであることが示唆されていた。 本論文では、腹部脂肪増加を介してWHR上昇と関連する遺伝因子から構成されるPRSに加えて、 臀大腿部脂肪の減少を介してWHR上昇と関連する遺伝因子から構成されるPRSも構築し、合計63万 人以上の参加者について各 PRSと心血管代謝疾患 のリスクの関連を検討した。 ゲノムワイド関連解析のサマリーデータセットとUK Biobankの個別横断データを対象に解析を行ったところ、各 PRS について、血圧高値および中性脂肪高値、2型糖尿 病および冠動脈疾患のリスク上昇との関連を認めた。臀大腿部脂肪の減少を介したWHR上昇に関するPRSがこれらの心血管代謝疾患と関連したことについては、臀大腿部脂肪・皮下脂肪の蓄積能が低いと、肝臓や骨格筋などの異所性脂肪蓄積をきたし、心血管代謝疾患と関連する可能性は考えられる。 このような病態は、より重症の臨床像を示す脂肪 萎縮症の疾患メカニズムとも共通点を有することが示唆される。 これらの結果は、本論文の著者らのグループが以前ゲノム関連解析の統合解析を行い、 末梢脂肪組織における脂肪蓄積能の低下とインスリン抵抗性に伴う心血管代謝疾患との関連性が示唆されていたこととも矛盾しない(2)。 本研究の限界(limitation)として、観察研究のため因果関係を証明することはできないことが 挙げられる。また、本研究は 欧州系(European ancestry)の人種を対象としているが、今後欧州系以外の人種を対象とした解析を行うことも重要と考えられる。本研究で得られた知見から、心血管代謝疾患のリスクを正確に評価するために、腹部脂肪に加えて臀大腿部脂肪の蓄積についても測定することの重要性が考えられた。臨床現場においては、ウエスト・ヒップの計測を行うことの臨床的意義が示唆される。 1. Emdin CA, et al. JAMA. 2017;317(6):626-634. 2. Lotta LA et al. Nat. Genet. 2017;49(1):17-26.
集団ベースの心血管系リスク層別化に対する非HDLコレステロールの適用:Multinational Cardiovascular Risk Consortiumの結果。
集団ベースの心血管系リスク層別化に対する非HDLコレステロールの適用:Multinational Cardiovascular Risk Consortiumの結果。
Application of non-HDL cholesterol for population-based cardiovascular risk stratification: results from the Multinational Cardiovascular Risk Consortium Lancet 2019 ;394 (10215):2173 -2183. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】血中脂質濃度と心血管疾患の長期発症との関連性,および脂質低下療法と心血管疾患の転帰との関連性は不明である。我々は,血中非HDLコレステロール濃度の全領域に関連する心血管疾患リスクについて調査した。また,non-HDLコレステロールに関連する心血管疾患イベントの長期確率を推定する使いやすいツールを作成し,脂質低下治療によるリスク低減をモデル化した。 【方法】このリスク評価およびリスクモデル化研究では,欧州,オーストラリア,北米の19か国から得たMultinational Cardiovascular Risk Consortiumのデータを使用した。ベースライン時に心血管疾患の有病率がなく,心血管疾患の転帰に関する確実なデータが利用可能な個人を対象とした。動脈硬化性心血管病の主要複合エンドポイントは、冠動脈性心疾患イベントまたは虚血性脳卒中の発生と定義された。欧州ガイドラインの閾値に従った非HDLコレステロールのカテゴリーを用いて、年齢、性別、コホート、古典的な修正可能な心血管危険因子で調整した性特異的多変量解析が計算された。導出と検証のデザインにおいて,年齢,性,危険因子に依存する75歳までに心血管疾患イベントが発生する確率と,非HDLコレステロールが50%減少すると仮定した場合の関連するモデルリスク減少を推定するツールを作成した。 【調査結果】コンソーシアムのデータベースにおける44コホートの524 444人のうち,38コホートに属する398 846人(184 055 [48-7%] 女性;年齢の中央値 51-0 歳 [IQR 40-7-59-7] )が同定された。派生コホートには199 415人(女性91 786人[48-4%])、検証コホートには199 431人(女性92 269人[49-1%])が含まれた。最大43~6年の追跡期間(中央値13~5年,IQR7~0~20~1)において,54 542件の心血管エンドポイントが発生した.発生率曲線解析では、非HDLコレステロールのカテゴリーが増えるにつれて、30年間の心血管疾患イベント率が徐々に高くなることが示された(女性では非HDLコレステロール<2〜6mmol/Lの7〜7%から≧5〜7mmol/Lの33〜7%、男性では12〜8%から43〜6%、p<0〜0001)。非HDLコレステロールが2-6 mmol/L未満を基準とした多変量調整Coxモデルでは、男女ともに非HDLコレステロール濃度と心血管疾患の関連性が増加した(非HDLコレステロール2-6~<3-7 mmol/Lのハザード比1-1、95% CI 1-0-1-3から、女性では5-7 mmol/L 以上の1-9、 1-6-2-2 、男性では 1-1, 1-0-1-3 から 2-3, 2-0-2-5 )。このツールにより,non-HDLコレステロールに特異的な心血管疾患イベント確率の推定が可能となり,滑らかなキャリブレーション曲線解析と心血管疾患推定確率の二乗平均誤差が1%未満であることから,派生集団と検証集団の間の高い比較可能性が反映されていることが示された.非HDLコレステロール濃度の50%低下は、75歳までの心血管疾患イベントのリスク低下と関連し、このリスク低下は、コレステロール濃度の低下が早ければ早いほど大きくなった。我々は、個人の長期的なリスク評価と、早期の脂質低下介入の潜在的な利益のための簡単なツールを提供する。これらのデータは,一次予防戦略に関する医師と患者のコミュニケーションに有用であると考えられる。 【FUNDING】EU Framework Programme,UK Medical Research Council,German Centre for Cardiovascular Research. 第一人者の医師による解説 臨床医として高リスクの患者の素早い把握につながる指標を期待 山田 悟 北里大学北里研究所病院糖尿病センター長 MMJ.April 2020;16(2) 日本の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017 年版」では、LDLコレステロール(LDL-C)および中性脂肪(TG)が高いほど、またHDLコレステロール(HDL-C)が低いほど冠動脈疾患の発症頻度は高いとされ、non-HDL-Cについては、「食後採血の場合やTGが400mg/dL以上の時にはFriedwald式でLDL-Cを求めることができないため、LDL-Cの 代用として用いる」という扱いである。 一方、欧米のガイドラインでは、LDL-Cのほかに non-HDL-C測定がすでに推奨されていると著者らは本論文の緒言で述べている。本文では、そこまで明確にnon-HDL-CとLDL-Cの心血管リスクとして の意義を比較していないが、論文 appendixには両者の心血管疾患に対するハザード比が記載されている。全体ではほとんど差はないが、45歳未満で は若干 non-HDL-Cの方が優れているようであった(男性ハザード比:non-HDL-C ①100mg/dL未 満;1基準、②100~145mg/dL;1.4、③145 ~185mg/dL;1.9、④185~220mg/dL;3.0、 ⑤220mg/dL以上;4.2:LDL-C ①70mg/dL未 満;1基準、②70~115mg/dL;1.1、③115~ 155mg/dL;1.5、④155~190mg/dL;2.3、 ⑤190mg/dL以上;3.6)。 既存 の 研究も、冠動脈疾患 の予測因子 と し て LDL-Cよりnon-HDL-Cの方が優れる(1)。しかし、この既報が1番良い予測因子として推しているのはApoB(HDL以外のすべてのリポタンパク質に包含されるアポ蛋白)である。実際に欧州心臓病学会(ESC)/欧州動脈硬化学会(EAS)ガイドライン 2019をみると、やはりnon-HDL-CはLDL-Cの 代替とされている(2)。さらに、ガイドライン 2016 年版との新旧比較表は、ApoBもLDL-Cの代替として測定可能で、高 TG、糖尿病、肥満などの人では、non-HDL-Cより優先されるかもしれないと記載されている(2)。よって、今後、すぐにnon-HDL-Cが LDL-Cに取って代わるということはなかろう。 ただ、30年間の脂質異常症 による動脈硬化症の影響は10年間の脂質異常症の3倍ではないことから(3)、45歳未満での薬物療法の適応を検討するの にnon-HDL-Cが 有用 で ある可能性はある。 Friedwald式でLDLコレステロールを測定している施設では、新たな測定が不要となる点は、ApoB を越えたnon-HDL-Cのメリットであろう。 いずれにせよ、LDL-C、non-HDL-C、ApoBの心 血管リスクとしての差異は小さかろう。Lp(a)、 small dense LDLも含め、どれが最善の指標であるかはその道の研究者に委ね、いずれの指標を用いてもよいので高リスクの患者をいかに早く把握し、いかに早く(薬物)治療するかに臨床医はこだ わるべきだと私は思う。 1. Pischon T et al. Circulation. 2005;112(22):3375-3383. 2. Mach F et al. Eur Heart J. 2020;41(1):111-188. 3. Pencina MJ et al. Circulation. 2009;119(24):3078-3084.