ライブラリー 経口抗凝固薬およびプロトンポンプ阻害薬併用療法と上部消化管出血による入院の関連性。
Association of Oral Anticoagulants and Proton Pump Inhibitor Cotherapy With Hospitalization for Upper Gastrointestinal Tract Bleeding
JAMA 2018 Dec 4 ;320 (21 ):2221 -2230 .
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【重要性】抗凝固薬の選択とプロトンポンプ阻害薬(PPI)併用療法は、経口抗凝固薬治療の頻度が高く重篤な合併症となりうる上部消化管出血のリスクに影響する可能性がある。
【目的】個々の抗凝固薬使用患者における上部消化管出血による入院の発生率をPPIコセラピー有無で比較し、基礎的な消化管出血リスクによる変動を明らかにする。
【デザイン、設定および参加者】2011年1月1日から2015年9月30日までのメディケア受益者における後ろ向きコホート調査。
【曝露】アピキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバン、ワルファリンにPPIコセラピーを併用または併用しない。
【主要アウトカムと測定】上部消化管出血による入院:抗凝固剤治療1万人年当たりの調整済み発生率とリスク差(RD)、発生率比(IRR)。
【結果】コホートに含まれる経口抗凝固薬治療の新規エピソードは1,643 123例(平均[SD]年齢76.4[2.4]歳,追跡期間651 427人年[56.1%]は女性,適応は心房細動で870 330人年[74.9%])であった。)PPI共治療を行わない754 389治療人年の間、上部消化管出血による入院の調整後発生率(n = 7119)は、1万人年当たり115人(95%CI、112-118)であった。リバーロキサバン(n=1278)の発生率は1万人年当たり144人(95%CI、136-152)であり、アピキサバン(n=279、1万人年当たり73人、IRR、1.97[95%CI、1.73-2.25]、RD、70.9 [95% CI, 59.1-82.7] )、ダビガトラン(n = 629; 1万人年あたり120人; IRR, 1.19 [95% CI, 1.08-1.32]; RD, 23.4 [95% CI, 10.6-36.2] )、およびワルファリン(n = 4933; 1万人年あたり113人; IRR, 1.27 [95% CI, 1.19-1.35]; RD, 30.4 [95% CI, 20.3-40.6] )であった。アピキサバンの発生率は,ダビガトラン(IRR,0.61 [95% CI,0.52-0.70]; RD,-47.5 [95% CI,-60.6~34.3] )およびワルファリン(IRR,0.64 [95% CI,0.57-0.73]; RD,-40.5 [95% CI,-50.0~31.0] )のそれよりも著しく低率であった。PPIコセラピーを用いた抗凝固療法(264 447人年;1万人年あたり76人)をPPIコセラピーを用いない治療と比較すると,上部消化管出血による入院(n=2245)のリスクは,全体で低かった(IRR,0.66 [95% CI, 0.62-0.69] )、アピキサバン(IRR, 0.66 [95% CI, 0.52-0.85]; RD, -24 [95% CI, -38 to -11])、ダビガトラン(IRR, 0.49 [95% CI, 0.41-0.59]; RD, -61.1 [95% CI, -74.8 to -47.4]),リバーロキサバン(IRR,0.75 [95% CI,0.68-0.84]; RD,-35.5 [95% CI,-48.6 to -22.4]),およびワルファリン(IRR,0.65 [95% CI,0.62-0.69]; RD,-40.3 [95% CI,-44.5 to -34.2])であることがわかった。
【結論と関連性】経口抗凝固薬治療を開始した患者のうち,上部消化管出血による入院の発生率は,リバーロキサバンを処方された患者が最も高く,アピキサバンを処方された患者が最も低いことが示された。また、各抗凝固薬において、上部消化管出血による入院の発生率は、PPIコセラピーを受けている患者さんで低くなっていました。これらの知見は,抗凝固薬を選択する際のリスクとベネフィットの評価に役立つと考えられる。
第一人者の医師による解説
PPI併用は有効 経口抗凝固薬使用の指標になる成果
川邊 隆夫 かわべ内科クリニック院長
MMJ.June 2019;15(3)
直接経口抗凝固薬(DOAC)は出血のリスクを高めるが、薬剤の種類による差異は十分には検討されていない。本研究では、特に上部消化管出血について、3種類のDOACとワルファリンについて、リスクを比較検討し、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の 併用の有用性について検討している。
この研究は、メディケアの膨大なデータ(2011 年1月1日~15年9月30日)を用いた、後ろ向きコホート研究である。この期間1,643,123人の 患者が、のべ1,713,183回、新たに経口抗凝固薬の投与を開始しており、平均年齢は76.4歳、女性の割合は56.1%(人・年で計算)、原疾患は心房細動が74.9%(人・年で計算)であった。
PPI非併用754,389人・年で、上部消化管出血 による入院は7,119件、10,000人・年あたりの 調整発生率※は115(95% CI, 112~118)であった。経口抗凝固薬の薬剤別では、リバーロキサバンでは144(/10,000人・年)、アピキサバン 73、 ダビガトラン 120、ワルファリン 113であった。 リバーロキサバンは、アピキサバン(発生率比 1.97、 リスク差 70.9)、ダビガトラン(1.19、23.4)、ワ ルファリン(1.27、30.4)より有意に高かった。アピキサバンの入院発生率は、ダビガトラン(発生率比 0.61、リスク差 -47.5)、ワルファリン(0.64、 -40.5)よりも有意に低かった。
経口抗凝固薬 とPPIを 併用した264,447人・ 年では、上部消化管出血による入院が2,245件、 76/10,000人・年で、PPI非併用より有意に低頻度(発生率比 0.66、リスク差 -39.5)であった。 薬剤別の検討でも、上部消化管出血による入院は PPI併用例で低頻度であった。それぞれの発生率比、 リスク差は、リバーロキサバン(0.75、-35.5)、 アピキサバン(0.66、-24)、ダビガトラン(0.49、 -61.1)、ワルファリン(0.65、-39.3)であった。
また、上部消化管出血のリスクスコアで層別化した検討でも、各階層でPPI併用例の入院発生率は低値であった(リスク最小の層のみ有意差を認めていない)。
本研究で、アピキサバンが最も安全な薬剤であることが示された(これは、これまでの研究に一致する結果である)。また、PPIの併用は、経口抗凝固薬の種類によらず、リスクスコアの高低によらず、 上部消化管出血を減少できることも示された。
しかし、本研究は、米国の高齢者向け保険であるメディケアのデータを解析したコホート研究である。対象の90%が白人であり、アジア人はほとんど含まれていない。この研究の結論を日本でそのまま受け入れてよいかどうかは、もう少し検討する必要があるが、経口抗凝固薬を使用する際の指標となるであろうと思われる。
※:調整発生率はポアソン回帰から算出されており、件数÷人年とは少し異なる値となっている点に留意