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乳児に用いるビデオ喉頭鏡の初回成功率(VISI) 多施設共同無作為化対照試験
乳児に用いるビデオ喉頭鏡の初回成功率(VISI) 多施設共同無作為化対照試験
First-attempt success rate of video laryngoscopy in small infants (VISI): a multicentre, randomised controlled trial Lancet. 2020 Dec 12;396(10266):1905-1913. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32532-0. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】乳児に対する直接喉頭鏡を用いた気管挿管は困難である。今回、麻酔科医による標準ブレード型ビデオ喉頭鏡によって、直接喉頭鏡と比較して気管挿管初回成功率が改善し、合併症リスクが低下するかを明らかにすることを目的とした。著者らは、ビデオ喉頭鏡による初回成功率は直接喉頭鏡よりも高いという仮説を立てた。 【方法】この多施設共同並行群間無作為化対照試験では、米国の小児病院4施設とオーストラリアの小児病院1施設の手術室で気管挿管を要するが気道確保が困難でない乳児を組み入れた。ブロック数2、4、6の置換ブロック法を用いて、患児をビデオ喉頭鏡と直接喉頭鏡に(1対1の比率で)無作為に割り付け、施設と医師の役割で層別化した。保護者に処置の割り付けを伏せた。主要評価項目は、気管挿管時に初回で成功した乳児の割合とした。解析(修正intention-to-treat[mITT]集団およびper-protocol)に一般化推定方程式モデルを用いて、在胎期間、米国麻酔学会の術前全身状態分類、体重、医師の役割および施設で層別化した。試験は、ClinicalTrials.govにNCT03396432で登録されている。 【結果】2018年6月4日から2019年8月19日の間に乳児564例を組み入れ、282例(50%)をビデオ喉頭鏡、282例(50%)を直接喉頭鏡に割り付けた。乳児の平均年齢は5.5カ月(SD 3.3)であった。ビデオ喉頭鏡群の274例と直接喉頭鏡群の278群をmITT解析の対象とした。ビデオ喉頭鏡群では254例(93%)、直接喉頭鏡では244例(88%)が初回挿管に成功した(調整絶対リスク差5.5%[95%CI 0.7~10.3]、P=0.024])。ビデオ喉頭鏡群の4例(2%)、直接喉頭鏡群の15例(5%)に重度合併症が発生した(-3.7%[-6.5~-0.9]、P=0.0087)。ビデオ喉頭鏡群(1例[1%未満])の方が直接喉頭鏡群(7例[3%])よりも食道挿管が少なかった(同-2.3[-4.3~-0.3]、P=0.028)。 【解釈】麻酔下の乳児で、標準ブレード型ビデオ喉頭鏡を用いると初回成功率が改善し、合併症も減少した。 第一人者の医師による解説 乳児に対する気管挿管はビデオ喉頭鏡の使用が望ましい 大原 卓哉(助教)/清野 由輩(講師)/山下 拓(教授) 北里大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 MMJ. June 2021;17(3):90 毎年、多くの乳児が気管挿管を必要とする全身麻酔手術を受けている。乳児は成人に比べ気管挿管時のリスクが高く、初回での気管挿管成功は重要であり、複数回の気管挿管は生命を脅かす合併症につながる可能性がある。ビデオ喉頭鏡は、気道確保が困難な乳児に対して直接喉頭鏡よりも初回成功率が高いことが報告されているが、構造的に正常な気道を持つ乳児におけるビデオ喉頭鏡の有用性については議論の余地があった。 本論文は、全身麻酔手術を受ける乳児に対する標準ブレード型ビデオ喉頭鏡を使用した気管挿管の有効性と安全性を検討した米国とオーストラリアの小児病院における多施設共同並行群間ランダム化比較試験の報告である。対象は、年齢12カ月齢未満、全身麻酔手術(30分以上の非心臓手術)、麻酔科医による気管挿管を受ける患者とされた。除外基準は、挿管困難の病歴、頭蓋顔面異常の病歴、または身体検査に基づく挿管困難が予測された患者であった。麻酔科医は、標準ブレード型ビデオ喉頭鏡(Storz C-Mac Miller Video Laryngoscope)または直接喉頭鏡のいずれかをランダムに割り当てられ、乳児に気管挿管を行った。気管チューブのサイズはガイドラインに基づいて選択され、気管挿管後24時間までの挿管関連有害事象が検討された。 最終的に274人(50%)がビデオ喉頭鏡、278人(50%)が直接喉頭鏡に割り付けられ、結果が解析された。ビデオ喉頭鏡の93%、直接喉頭鏡の88%で気管挿管に初回で成功し、特に体重6.5kg以下の乳児では、ビデオ喉頭鏡の初回成功率が直接喉頭鏡に比べ有意に高かった(92%対81%;P=0.003)。挿管試行回数も、ビデオ喉頭鏡の方が少なかった。重篤でない合併症(軽度喘鳴、喉頭痙攣[薬物 投与の必要性、緊急気管挿管を伴う]、気管支痙攣 、軽度気道外傷 、気道過敏化)の発生率は2群間で差はなかったが、ビデオ喉頭鏡では、重篤な合併症(中等度〜重度低酸素血症、食道挿管、心停止、咽頭出血)の発生が少なかった。特に、食道挿管は直接喉頭鏡では3%であったのに対し、ビデオ喉頭鏡では1%未満であった。また、ビデオ喉頭鏡では輪状軟骨圧迫の必要性が減少した。 毎年乳児への気管挿管が多く行われているが、 気管挿管中は重篤な有害事象が発生するリスクがあるため、初回成功率が5%向上することは非常に意味があると考えられる。費用的な課題はあるが、より高い初回成功率およびより少ない合併症のため標準ブレード型ビデオ喉頭鏡が広く使用されることが望まれる。
持続する咽喉頭異常感の治療に対するプロトンポンプ阻害薬の使用 多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験
持続する咽喉頭異常感の治療に対するプロトンポンプ阻害薬の使用 多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験
Use of proton pump inhibitors to treat persistent throat symptoms: multicentre, double blind, randomised, placebo controlled trial BMJ. 2021 Jan 7;372:m4903. doi: 10.1136/bmj.m4903. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【目的】持続する咽喉頭異常感の治療に対するプロトンポンプ阻害薬(PPI)使用を評価すること。 【デザイン】実用的二重盲検プラセボ対照無作為化試験。 【設定】英国の耳鼻咽喉科外来クリニック8施設。 【参加者】持続する咽喉頭異常感がある18歳以上の患者346例。登録施設とベースラインの症状重症度(軽度または重度)によって、172例をランソプラゾール、174例をプラセボに割り付けた。 【介入】ランソプラゾール30mg 1日2回投与とマッチさせたプラセボ1日2回投与に二重盲検下で(1対1の割合で)割り付け、16週間投与。 【主要評価項目】16週時の症状に対する効果を主要評価項目とし、逆流症状指数(reflux symptom index:RSI)総スコアで測定することとした。12カ月時の症状に対する効果、生活の質および喉の外観を副次評価項目とした。 【結果】初めに適格基準を検討した患者1427例のうち346例を組み入れた。被験者の平均年齢は52.2(SD 13.7)歳、196例(57%)が女性であり、受診時、162例(74%)に重度の症状があった。この患者背景は両治療群で均衡がとれていた。主要解析は、14-20週間の期間内に主要評価項目の評価が完了した220例を対象とした。ベースラインの両治療群の平均RSIスコアがほぼ同じであり、ランソプラゾール群22.0点(95%CI 20.4~23.6)、プラセボ群21.7点(同20.5~23.0)であった。16週時、両群のスコアに改善(RSIスコアの低下)が見られ、ランソプラゾール群17.4点(95%CI 15.5~19.4)、プラセボ群15.6点(同13.8~17.3)であった。治療群間に統計的に有意な差は認められず、施設およびベースラインの症状重症度で調整した推定差が1.9点であった(同-0.3~4.2点、P=0.96)。いずれの副次評価項目でもランソプラゾールにプラセボを上回る便益は見られず、12カ月時のRSIスコアはランソプラゾール群16.0点(同13.6~18.4)、プラセボ群13.6点(同11.7~15.5)、推定差が2.4点(-0.6~5.4点)であった。 【結論】持続する咽喉頭異常感に対するPPIを用いた治療の便益に根拠は認められなかった。16週間の治療後および12カ月時の経過観察時のRSIスコアがランソプラゾール群とプラセボ群でほぼ同じであった。 第一人者の医師による解説 咽喉頭異常感の原因はさまざまであるため PPIの効果は限られる 川見 典之(講師)/岩切 勝彦(主任教授) 日本医科大学消化器内科学 MMJ. August 2021;17(4):113 咽喉頭異常感は耳鼻科や消化器内科、またプライマリケアでもしばしば遭遇する患者の訴えの1つである。咽喉頭異常感の原因はさまざまであり、喉頭内視鏡検査や上部消化管内視鏡検査で器質的な異常所見を認めない場合、咽喉頭逆流(LPR)を含めた胃食道逆流症(GERD)、喉頭アレルギー、甲状腺疾患、globusと呼ばれる咽喉頭の異常感などが鑑別として挙げられる(1)。この中で最も多い原因がGERDとの報告もあり、治療としてプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使用することが多いが症状が改善する患者は一部で、咽喉頭異常感に対するPPIの効果に関して一定の見解は得られていない。 本論文は持続する咽喉頭症状(嗄声、咽頭痛、globus、後鼻漏、咳、閉塞感など)に対するPPIの症状改善効果を評価するために、英国8施設の耳鼻咽喉科外来で実施されたランダム化試験の報告である。持続する咽喉頭症状を有し、喉頭内視鏡検査にて声帯ポリープや腫瘍などを認めなかった患者346人に対しランソプラゾール 30mgまたはプラセボを1日2回16週間投与し症状を評価した。主要評価項目はreflux symptom index(RSI)質問票で測定した16週時点の総 RSIスコアのベースラインからの変化量とした。副次評価項目は12カ月時点の症状、生活の質(QOL)、咽喉頭所見とした。その結果、6週時点のRSIスコアはランソプラゾール群とプラセボ群ともにベースラインより低下したが、両群間に有意差はなかった。12カ月時点のRSIスコアに関しても、両群間で有意差はなかった。結論として、今回の試験では持続する咽喉頭症状に対するPPIの症状改善効果を示すことはできなかった。 日本の「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021改訂第3版」では、胃食道逆流は咽喉頭炎、咽喉頭症状、咳嗽の原因となることがあるが、PPIや外科的逆流防止手術の効果は確定していないと記載されている。また、機能性消化管障害の国際分類であるRome IVの中で、機能性食道疾患の1つとしてglobusが挙げられており、薬物療法の有用性は低いと記載されている(2)。咽喉頭異常感を有する患者の中でPPIの効果が期待できるのは酸逆流が原因の場合であり、近年多チャンネルインピーダンス pH(MII-pH)検査を用いたLPRの評価が報告されているが、十分な検討は行われていない。今後は咽喉頭異常感の病態を明らかにするとともに、病態に則した治療法が求められる。 1. 折舘伸彦 他 . 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 . 2020;92 (5) :213-217. 2. Aziz Q et al. Gastroenterology. 2016;150 (6):1368-1379.
反復性急性中耳炎に用いる鼓膜換気チューブ留置術と薬物療法の比較
反復性急性中耳炎に用いる鼓膜換気チューブ留置術と薬物療法の比較
Tympanostomy Tubes or Medical Management for Recurrent Acute Otitis Media N Engl J Med. 2021 May 13;384(19):1789-1799. doi: 10.1056/NEJMoa2027278. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】反復性急性中耳炎の小児に用いる鼓膜換気チューブ留置について、公式な推奨事項が一致していない。 【方法】6カ月以内に3回以上急性中耳炎を発症したか、12カ月以内に4回以上急性中耳炎を発症し、そのうち1回以上が6カ月以内の発症であった6~35カ月齢の小児を鼓膜換気チューブ留置術群と発症時に抗菌薬を投与する薬物療法群に無作為化により割り付けた。主要評価項目は、2年間の1人年当たりの急性中耳炎平均発症回数(発症率)とした。 【結果】主解析のintention-to-treat解析の結果、2年間の1人年当たりの急性中耳炎発症率(±SE)は、鼓膜チューブ群1.48±0.08、薬物療法群1.56±0.08であった(P=0.66)。鼓膜換気チューブ群の10%が鼓膜換気チューブ留置術を受けず、薬物療法群の16%が親の要望で鼓膜換気チューブ留置術を受けたため、per-protocol解析を実施すると、対応する発症率はそれぞれ1.47±0.08、1.72±0.11となった。主解析の副次評価項目で、結果にばらつきが見られた。急性中耳炎初回発症までの期間、発症に伴う臨床所見、事前に定めた治療失敗の基準を満たす患児の割合は、鼓膜換気チューブの方が良好であった。耳漏が見られた日数の累積は、薬物治療の方が良好であった。大きな差が認められなかった項目に、急性中耳炎発症頻度の分布、重症と考えられた急性中耳炎の割合、呼吸器分離菌の抗菌薬耐性があった。試験関連の有害事象は、試験の副次評価項目に含まれるもののみであった。 【結論】反復性急性中耳炎がある6~35カ月齢の小児で、2年間の急性中耳炎発症率は、鼓膜換気チューブ留置術と薬物療法で有意な差がなかった。 第一人者の医師による解説 耳鼻咽喉科医と小児科医で推奨度の違う鼓膜チューブ留置術 適応については再度見直しが必要 神崎 晶 慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科専任講師 MMJ. October 2021;17(5):158 鼓膜チューブ留置術は、新生児期以降の小児では頻繁に行われる手術であり、全身麻酔のリスク、留置チューブの閉塞、体外への逸脱、中耳腔への落下、鼓膜構造的変化穿孔残存や軽度伝音難聴の可能性がある。 米国では反復性(再発性)急性中耳炎の小児に対する鼓膜チューブ留置術に関する推奨が耳鼻咽喉科医向けと小児科医向けで異なっており(耳鼻咽喉科医の方が本施術に積極的である)、確実なエビデンスに乏しいことから、著者らは本試験により鼓膜チューブ留置術の有効性を検討した。対象は年齢が生後6〜35カ月で、(1)6カ月以内に急性中耳炎のエピソードが3回以上、または(2)12カ月以内に急性中耳炎のエピソードが4回以上あり、そのうち少なくとも1回は6か月以内に発生していた小児であった。対象児を鼓膜チューブ留置術もしくは抗菌薬による薬物療法群にランダムに割り付けた。その結果、2年の経過観察期間における人・年あたりの急性中耳炎の平均エピソード数(率)(±SE)は、鼓膜チューブ留置群1.48±0.08、薬物療法群1.56±0.08であり(P=0.66)、有意差はなかった。 小児の反復性急性中耳炎に対する鼓膜チューブ留置術の適応は、米国の耳鼻咽喉科ガイドラインでは「中耳の滲出液が少なくとも片耳に存在する場合」としているが、小児科ガイドラインでは「臨床医が提供しても良い選択肢の1つ」としており、推奨度に差がある。日本の「小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版(金原出版)」のCQ3-9(P73-75)では、有効とする論文と生活の質(QOL)に寄与しないとする論文もあり、限定的な効果としている。このように、これまであいまいな点が多かったが、今回の論文で、鼓膜チューブ留置術の適応については再度見直しを要することとなる。 なお、小児では、鼻と耳をつなぐ耳管が太くて短いことから反復性急性中耳炎や滲出性中耳炎の原因として、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの鼻疾患との関連性が指摘されている。本報告では、各群におけるアレルギー性鼻炎を含む割合については触れられておらず、この点について検討の余地がある。また、鼓膜チューブ留置術は反復性急性中耳炎以外に、滲出液が中耳に貯留して難聴をきたす滲出性中耳炎に対して行う場合の方が多いが、本結論が滲出性中耳炎に対しても同様に当てはまるのかどうかは今後の研究が待たれる。