ライブラリー 持続する咽喉頭異常感の治療に対するプロトンポンプ阻害薬の使用 多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験
Use of proton pump inhibitors to treat persistent throat symptoms: multicentre, double blind, randomised, placebo controlled trial
BMJ. 2021 Jan 7;372:m4903. doi: 10.1136/bmj.m4903.
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上記論文の日本語要約
【目的】持続する咽喉頭異常感の治療に対するプロトンポンプ阻害薬(PPI)使用を評価すること。
【デザイン】実用的二重盲検プラセボ対照無作為化試験。
【設定】英国の耳鼻咽喉科外来クリニック8施設。
【参加者】持続する咽喉頭異常感がある18歳以上の患者346例。登録施設とベースラインの症状重症度(軽度または重度)によって、172例をランソプラゾール、174例をプラセボに割り付けた。
【介入】ランソプラゾール30mg 1日2回投与とマッチさせたプラセボ1日2回投与に二重盲検下で(1対1の割合で)割り付け、16週間投与。
【主要評価項目】16週時の症状に対する効果を主要評価項目とし、逆流症状指数(reflux symptom index:RSI)総スコアで測定することとした。12カ月時の症状に対する効果、生活の質および喉の外観を副次評価項目とした。
【結果】初めに適格基準を検討した患者1427例のうち346例を組み入れた。被験者の平均年齢は52.2(SD 13.7)歳、196例(57%)が女性であり、受診時、162例(74%)に重度の症状があった。この患者背景は両治療群で均衡がとれていた。主要解析は、14-20週間の期間内に主要評価項目の評価が完了した220例を対象とした。ベースラインの両治療群の平均RSIスコアがほぼ同じであり、ランソプラゾール群22.0点(95%CI 20.4~23.6)、プラセボ群21.7点(同20.5~23.0)であった。16週時、両群のスコアに改善(RSIスコアの低下)が見られ、ランソプラゾール群17.4点(95%CI 15.5~19.4)、プラセボ群15.6点(同13.8~17.3)であった。治療群間に統計的に有意な差は認められず、施設およびベースラインの症状重症度で調整した推定差が1.9点であった(同-0.3~4.2点、P=0.96)。いずれの副次評価項目でもランソプラゾールにプラセボを上回る便益は見られず、12カ月時のRSIスコアはランソプラゾール群16.0点(同13.6~18.4)、プラセボ群13.6点(同11.7~15.5)、推定差が2.4点(-0.6~5.4点)であった。
【結論】持続する咽喉頭異常感に対するPPIを用いた治療の便益に根拠は認められなかった。16週間の治療後および12カ月時の経過観察時のRSIスコアがランソプラゾール群とプラセボ群でほぼ同じであった。
第一人者の医師による解説
咽喉頭異常感の原因はさまざまであるため PPIの効果は限られる
川見 典之(講師)/岩切 勝彦(主任教授) 日本医科大学消化器内科学
MMJ. August 2021;17(4):113
咽喉頭異常感は耳鼻科や消化器内科、またプライマリケアでもしばしば遭遇する患者の訴えの1つである。咽喉頭異常感の原因はさまざまであり、喉頭内視鏡検査や上部消化管内視鏡検査で器質的な異常所見を認めない場合、咽喉頭逆流(LPR)を含めた胃食道逆流症(GERD)、喉頭アレルギー、甲状腺疾患、globusと呼ばれる咽喉頭の異常感などが鑑別として挙げられる(1)。この中で最も多い原因がGERDとの報告もあり、治療としてプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使用することが多いが症状が改善する患者は一部で、咽喉頭異常感に対するPPIの効果に関して一定の見解は得られていない。
本論文は持続する咽喉頭症状(嗄声、咽頭痛、globus、後鼻漏、咳、閉塞感など)に対するPPIの症状改善効果を評価するために、英国8施設の耳鼻咽喉科外来で実施されたランダム化試験の報告である。持続する咽喉頭症状を有し、喉頭内視鏡検査にて声帯ポリープや腫瘍などを認めなかった患者346人に対しランソプラゾール 30mgまたはプラセボを1日2回16週間投与し症状を評価した。主要評価項目はreflux symptom index(RSI)質問票で測定した16週時点の総 RSIスコアのベースラインからの変化量とした。副次評価項目は12カ月時点の症状、生活の質(QOL)、咽喉頭所見とした。その結果、6週時点のRSIスコアはランソプラゾール群とプラセボ群ともにベースラインより低下したが、両群間に有意差はなかった。12カ月時点のRSIスコアに関しても、両群間で有意差はなかった。結論として、今回の試験では持続する咽喉頭症状に対するPPIの症状改善効果を示すことはできなかった。
日本の「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021改訂第3版」では、胃食道逆流は咽喉頭炎、咽喉頭症状、咳嗽の原因となることがあるが、PPIや外科的逆流防止手術の効果は確定していないと記載されている。また、機能性消化管障害の国際分類であるRome IVの中で、機能性食道疾患の1つとしてglobusが挙げられており、薬物療法の有用性は低いと記載されている(2)。咽喉頭異常感を有する患者の中でPPIの効果が期待できるのは酸逆流が原因の場合であり、近年多チャンネルインピーダンス pH(MII-pH)検査を用いたLPRの評価が報告されているが、十分な検討は行われていない。今後は咽喉頭異常感の病態を明らかにするとともに、病態に則した治療法が求められる。
1. 折舘伸彦 他 . 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 . 2020;92 (5) :213-217.
2. Aziz Q et al. Gastroenterology. 2016;150 (6):1368-1379.