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血圧低下時の腎臓障害バイオマーカーと慢性腎臓病の発症。ケースコントロール研究
血圧低下時の腎臓障害バイオマーカーと慢性腎臓病の発症。ケースコントロール研究
Kidney Damage Biomarkers and Incident Chronic Kidney Disease During Blood Pressure Reduction: A Case-Control Study Ann Intern Med 2018 Nov 6 ;169 (9 ):610 -618 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】収縮期血圧(SBP)の集中的な低下における慢性腎臓病(CKD)の発症率の上昇が、内在性の腎障害を伴うかどうかは不明である。 【目的】SPRINT(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)のSBP管理集中(120mmHg未満)群と標準(140mmHg未満)群のCKD発症例とマッチドコントロール例、および発症例間での腎障害バイオマーカーの変化を比較することである。 【デザイン】SPRINT内のネステッド症例対照研究 【設定】ベースラインで腎臓病のない成人高血圧患者 【参加者】試験のフォローアップ中にCKDを発症した症例参加者(n=162)(集中群128人、標準群34人)と、CKD発症のない対照者(n=162)で、年齢、性、人種、ベースラインの推定糸球体ろ過率、ランダム化群でマッチさせた 【測定法】腎障害の尿中バイオマーカー9項目をベースラインと1年後に測定した。線形混合効果モデルを用いて1年間のバイオマーカーの変化を推定した。 【結果】ベースライン時の尿中アルブミン、腎障害分子-1、単球性化学誘引蛋白-1の濃度が高いほど、CKD発症のオッズが高いことと有意に関連した(2倍当たりの調整オッズ比。それぞれ、1.50 [95% CI, 1.14 to 1.98], 1.51 [CI, 1.05 to 2.17], および 1.70 [CI, 1.13 to 2.56]).血圧介入1年後、集中治療群のCKD症例参加者は、マッチさせた対照参加者に比べ、アルブミン-クレアチニン比(ACR)、インターロイキン18、抗キチナーゼ3様タンパク質1(YKL-40)、ウロモジュリンが有意に減少していた。標準群の症例に比べ、集中治療群ではACR、β2-マイクログロブリン、α1-マイクログロブリン、YKL-40、ウロモジュリンの減少が有意に大きかった 【Limitation】バイオマーカーの測定はベースラインと1年のみであった。 【結論】SBPを集中的に低下させる設定におけるCKDの発症は、腎障害バイオマーカーのレベルの上昇よりもむしろ低下を伴っており、したがって本質的な障害よりも腎血流の良性変化を反映している可能性がある。 【Primary funding source】National Institute for Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所)、Philippines, Inc. 第一人者の医師による解説 厳格降圧による心血管イベント予防の方向性の正しさを支持 後藤 淳郎 日本赤十字社医療センター腎臓内科/中目黒クリニック院長 MMJ.April 2019;15(2) 最近の高血圧ガイドラインに大きな影響を及ぼしているSPRINT研究の主な成果は標準降圧(収縮 期血圧 SBP<140mmHg)に比べ厳格降圧(SBP <120)により心血管イベント・死亡とも約25% 減少することを示したことである。一方、厳格降圧は慢性腎臓病(CKD)リスクを3倍ほど高めることが示唆されていた。その論文については筆者がすでにコメントしている(1)。 今回の論文は開始時のCKD非該当症例で厳格降圧によって観察されたeGFR減少が実際の腎障害 を反映しているのかどうかを開始時と1年後で腎障害マーカー 9種類の尿中濃度を測定することで検討した。開始後にCKDを発症した162人(厳格 降圧群128人、標準降圧群34人)と年齢、性、人種、 開始時 eGFR、降圧群をマッチさせたCKD非発症 例162人を対象とした症例対照研究である。腎障害マーカーは主に糸球体障害を示す尿アルブミン /クレアチニン(ACR)、尿細管障害を示すインター ロイキン -18・kidney injury molecule 1(KIM-1)・ 好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)・ monocyte chemoattractant protein-1(MCP1)、尿細管障害・修復を示す抗キチナーゼ 3様蛋 白(YKL-40)、近位尿細管機能異常を示す β2 -ミ クログロブリン(β2M)・α1 -ミクログロブリン (α1M)およびヘンレループ蛋白産生を示すウロモジュリンである。 結果、開始時のACR、KIM-1、MCP-1が高値なほどCKD発症リスクが高く、厳格降圧群のCKD発症例ではCKD非発症例に比べて開始後にACR、YKL40、ウロモジュリンの低下が著明であり、標準降圧群 のCKD発症例 に比べてACR、β2M、α1M、 YKL-40、ウロモジュリンの低下が明らかであった。 以上の結果は厳格降圧で腎障害マーカーは上昇せず、むしろ低下していることを明瞭に示しており、厳格降圧で実際に腎障害が生じたとは考え難い。 厳格降圧でのeGFR減少は主に全身血圧低下に伴って腎血流量が減少したためであると考えるのが妥当である。通常、腎循環自己調節能の範囲内の降圧であれば腎血流量も維持されるが、高血圧患者では自己調節能が上方にシフトしているので、血圧低下に伴う腎血流量減少も目立ちやすい。   CKD発症例では降圧群を問わず開始時 SBPが高く、厳格降圧群のCKD発症例では開始後の必要 な降圧薬数が多かった。また厳格降圧群では降圧度 が大きいほどCKD発症率が高かった(2)。これらも 降圧に伴う血行動態の変化がeGFR減少に大きく関与していることを支持する。 以上から高血圧治療では厳格降圧によって心血管イベント・全死亡を予防・阻止する方向性が正しいことが支持されたと言える。 1. MMJ 2018;14(2):54-55. 2. Magriço R, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2018;13(1):73-80.