「アスピリン」の記事一覧

心臓血管疾患の一次予防のためのアスピリン使用の指針となる出血リスクの予測。コホート研究
心臓血管疾患の一次予防のためのアスピリン使用の指針となる出血リスクの予測。コホート研究
Predicting Bleeding Risk to Guide Aspirin Use for the Primary Prevention of Cardiovascular Disease: A Cohort Study Ann Intern Med 2019 Mar 19 ;170 (6):357 -368. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】アスピリンの絶対的ベネフィットを推定するために多くの心血管リスクの予後モデルを用いることができるが、その可能性が高いハームを推定するための出血リスクモデルはほとんどない。 【目的】心血管疾患(CVD)の一次予防のためにアスピリンを考慮する可能性がある人たちの予後出血リスクモデルを開発する。 【デザイン】前向きコホート研究 【設定】ニュージーランドのプライマリケア 【対象】2007年から2016年までにCVDリスクを評価した30歳から79歳の385 191名で、研究コホートとした。アスピリンの適応または禁忌のある者、および既に抗血小板療法または抗凝固療法を受けている者は除外した。 測定】各性について、大出血リスクを予測するためにCox比例ハザードモデルを開発し、参加者は初めて除外基準を満たした日、死亡日、研究終了日のうち最も早い時点で打ち切られた(2017年6月30日)。主なモデルには、以下の予測因子が含まれていた。人口統計学的特性(年齢,民族,社会経済的剥奪),臨床測定値(収縮期血圧,総高密度リポ蛋白コレステロール比),早期CVDの家族歴,病歴(喫煙,糖尿病,出血,消化性潰瘍疾患,癌,慢性肝疾患,慢性膵炎,アルコール関連),薬剤使用(非ステロイド抗炎症薬,コルチコステロイド,選択性セロトニン再取込阻害薬)である。 【結果】1 619 846人年の追跡期間中に,4442人が大出血イベントを起こした(うち313人[7%]が致死的であった)。主要モデルは,5年出血リスクの中央値を女性で1.0%(四分位範囲,0.8%~1.5%),男性で1.1%(四分位範囲,0.7%~1.6%)と予言した。限界】ヘモグロビン値、血小板数、肥満度は、欠損値が多いため主要モデルから除外され、ニュージーランド以外の集団でのモデルの外部検証は行われていない。 【結論】CVDの一次予防のためにアスピリンを検討している人において、アスピリンの絶対的な出血の害を推定するために使用できる予後出血リスクモデルを開発した【Primary funding source】The Health Research Council of New Zealand. 第一人者の医師による解説 アスピリンによる心血管疾患1次予防の最適化を支援する重要な報告 高下 純平/豊田 一則(副院長) 国立循環器病研究センター脳血管内科 MMJ.August 2019;15(4) 2016年、米国予防医学特別作業部会(USPSTF) は、今後10年間の心血管疾患発症リスクが10% 以上で、高い出血リスクを持たない50~59歳の 成人に対し、心血管疾患と大腸がんの両疾患への1次予防として、アスピリンの低用量使用を推奨した(1)。しかし、心血管疾患に対するアスピリン投与のベネフィットやリスクは、年齢、性別、併存する血管疾患の危険因子によって大きく異なるため、利益と危険性を勘案して慎重に判断する必要があり、 予測モデルを使用したネットクリニカルベネフィッ トの推定が有用である。 心血管疾患の予防におけるアスピリン投与の有益性についての予測モデルは、数多く報告されているものの、出血性合併症の 予測モデルはあまり報告されていなかった。そこで、 著者らは 心血管疾患がなく、抗凝固・抗血小板療法を受けていない集団における出血性合併症の予 測モデルを作成し検証を行った。 2007~16年に心血管疾患の危険因子を評価された30~79歳の 385,191人を対象とした前向きコホート研究である。性別ごとに年齢、人種、社会経済的特性などの背景因子や、収縮期血圧、コレステロール値、心 血管疾患の家族歴、喫煙、糖尿病、出血の既往、潰瘍 性病変、悪性腫瘍の有無や服用薬(非ステロイド系 抗炎症薬、ステロイド、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)をもとにCox比例ハザードモデルを作成した。 結果は、1,619,846人・年の追跡期間中に、 4,442人が大出血イベントを発症し、作成したモ デルでは、5年間の出血率の中央値は、女性で1.0% (四分位範囲[IQR], 0.8~1.5%)、男性で1.1% (0.7~1.6%)と算出された。また、過去の報告と同様、高齢、喫煙、糖尿病などの既知の危険因子が出血性合併症のリスクともなることが明らかにされた。 このモデルを使用して算出された出血性合併症 のリスクを、Antithrombotic Trialists’ Collaborationのメタ解析で報告された心血管疾患 イベントの発症率(2)と比較することで、心血管疾患 の1次予防としてのアスピリン導入を最適化することができるのではないかと結んでいる。心血管疾患の既往がなく、また抗凝固・抗血小板療法を受けていない集団が、アスピリン服用を始めることで起こりうる出血性合併症の推定発症率は低い。これは大変貴重な知見であるとともに、心血管疾患の1次予防におけるアスピリン投与の意思決定を 支援する重要な報告と考える。 1. Bibbins-Domingo K, et al. Ann Intern Med. 2016;164(12):836-845. 2. Baigent C, et al. Lancet. 2009;373(9678):1849-1860.
一次予防のためのアスピリンによる心血管系の利益と出血の害の個別化された予測。有益性-有害性分析。
一次予防のためのアスピリンによる心血管系の利益と出血の害の個別化された予測。有益性-有害性分析。
Personalized Prediction of Cardiovascular Benefits and Bleeding Harms From Aspirin for Primary Prevention: A Benefit-Harm Analysis Ann Intern Med 2019;171:529-539. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】一部の患者において、心血管疾患(CVD)の一次予防のためのアスピリンのベネフィットが出血の害を上回るかは不明である。 【目的】アスピリンが純ベネフィットをもたらすと考えられるCVDを持たない人を特定することである。 【デザイン】性別リスクスコアと2019年のメタアナリシスによるCVDと大出血に対するアスピリンの比例効果の推定値に基づく個別ベネフィット・ハーム分析 【設定】ニュージーランドのプライマリケア 【参加者】2012年から2016年にCVDリスク評価を受けた30~79歳のCVDが確立されていない245 028人(女性43.6%)。 【測定】各参加者について、5年間の大出血を引き起こしそうな数(大出血リスクスコア×大出血リスクに対するアスピリンの比例効果)から、予防できそうなCVDイベント数(CVDリスクスコア×CVDリスクに対するアスピリンの比例効果)を差し引き、アスピリンのネット効果を算出した。 【結果】1回のCVDイベントが1回の大出血と同等の重症度と仮定した場合、5年間のアスピリン治療による純益は女性の2.5%、男性の12.1%となり、1回のCVDイベントが2回の大出血と同等と仮定した場合は女性の21.4%、男性の40.7%に増加する可能性があることがわかった。純益サブグループは純害サブグループに比べ、ベースラインのCVDリスクが高く、ほとんどの確立したCVDリスク因子のレベルが高く、出血特異的リスク因子のレベルが低かった 【Limitation】リスクスコアと効果推定値は不確実であった。アスピリンのがん転帰への影響は検討されていない。 【結論】CVDを持たない一部の人にとって、アスピリンは正味の利益をもたらす可能性が高い。 【Primary funding source】ニュージーランド保健研究評議会。 第一人者の医師による解説 リスク予測モデル活用で 個別化した1次予防戦略立案の可能性 邑井 洸太 国立循環器病研究センター心臓血管内科冠疾患科/安田 聡 国立循環器病研究センター心臓血管内科部門長・副院長 MMJ.April 2020;16(2) アスピリンは心筋梗塞、脳梗塞、心不全入院といった心血管イベントを抑制する一方で、消化管や頭蓋内などにおける出血のリスクを上昇させる。すでに心血管疾患を有する患者に対する2次予防を目的とした場合、一般的にアスピリンのメリットは デメリットを上回るとされているが、1次予防での有用性は不明である(1)。近年、リスクモデルによる予測が実用化されている(2)。本研究では、心血管疾患の既往のない集団においてアスピリン服用によって享受できる利益(心血管イベント抑制)は害(出血)を上回るかどうかをリスク予測モデルで検証した。 本研究では、ニュージーランドのプライマリケア領域で広く使用されているウエブベースの意思決定支援プログラム「PREDICT」が用いられた。解析対象は2012 ~ 16年にPREDICTを利用して心血管イベントリスクが算出された患者245,028 人(女性106,902人、男性138,126人)。算出時 の入力データに加えて、ナショナルデータベースとも紐付けされて心血管リスクなどの患者情報が抽出された。各患者から得られた情報をリスク予測 モデルに落とし込み、5年間アスピリンを服用した場合に予測される心血管イベント(虚血性心疾患による緊急入院または死亡、脳梗塞、脳出血、末梢血管障害、うっ血性心不全)予防効果と大出血(出血による入院、出血による死亡)リスクを算出した。 その結果、1つの心血管イベントと1つの大出血イベントを対等とした場合、女性では2.5%、男性では12.1%においてアスピリンは大出血リスクを上回る心血管イベント抑制効果をもたらした。さらに1つの心血管イベントと2つの大出血イベントを対等とした場合、女性では21.4%、男性では40.7%の患者においてアスピリンの利益が勝る結果となった。なお、今回の対象集団では、高齢、ベースラインの動脈硬化危険因子が多い、降圧薬や脂質低下薬を服用している、がんや出血の既往が少ないなどの特徴がみられた。 本研究の結果から、1次予防目的のアスピリン服用によって利益を享受できる集団は一定数存在 しうることが示唆された。こういった解析対象は ニュージーランドの住民に限定されており、各イベントの重み付けが均一であるという制限はあるものの、将来的には予後予測ツールを用いて個別化した1次予防戦略を立案できる可能性が示された。 1. Hennekens CH et al. Nat Rev Cardiol. 2012;9(5):262-263. 2. Go DC Jr et al. Circulation. 2014;129(25 Suppl 2):S49-73.