「関節リウマチ」の記事一覧

関節リウマチに用いる低用量グルココルチコイドの重篤な感染症リスク コホート研究
関節リウマチに用いる低用量グルココルチコイドの重篤な感染症リスク コホート研究
Risk for Serious Infection With Low-Dose Glucocorticoids in Patients With Rheumatoid Arthritis : A Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Dec 1;173(11):870-878. doi: 10.7326/M20-1594. Epub 2020 Sep 22. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】関節リウマチ(RA)やその他の慢性疾患の管理に低用量グルココルチコイドが頻繁に用いられているが、長期投与の安全性は明らかになっていないままである。 【目的】安定した疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)療法を実施しているRAに用いる低用量グルココルチコイド長期投与による入院を要する感染症リスクを定量化すること。 【デザイン】後ろ向きコホート研究。 【設定】2006年から2015年のメディケア請求データおよびOptumの匿名化したClinformatics Data Martデータベース。 【患者】6カ月以上にわたって安定したDMARDレジメンを受けている成人RA患者。 【評価項目】逆確率重み付け(IPTW)法を用いてグルココルチコイド用量(非投与、5mg/日以下、5-10mg/日、10mg/日超)と入院を要する感染症との関連を評価し、重み付けモデルで1年累積発症率を推定した。 【結果】メディケアから17万2041例で24万7297件、Optumから4万4118例で5万8279件のデータを特定した。6カ月間の安定したDMARD療法後、メディケア患者の47.1%とOptum患者の39.5%がグルココルチコイドの投与を受けていた。メディケア患者の入院を要する感染症の1年累積発症率は、グルココルチコイド非投与で8.6%であったのに対して、5mg/日以下11.0%(95%CI 10.6~11.5%)、5~10mg/日14.4%(同13.8~15.1%)、10mg/日超17.7%(同16.5~19.1%)だった(いずれも非投与との比較のP<0.001)。Optum患者の入院を要する感染症の1年累積発症率は、グルココルチコイド非投与で4.0%であったのに対して、5mg/日以下5.2%(同4.7~5.8%)、5~10mg/日8.1%(同7.0~9.3%)、10mg/日超10.6%(同8.5~13.2%)であった(いずれも非投与との比較のP<0.001)。 【欠点】残存交絡およびグルココルチコイド容量の誤分類の可能性がある点。 【結論】安定したDMARD療法を受けている患者で、グルココルチコイドによって重篤な感染症リスクが用量依存的に上昇し、5mg/日の用量でさえ、わずかではあるが有意なリスクが認められた。臨床医は、低用量グルココルチコイドの便益とこのリスクの可能性のバランスをとるべきである。 第一人者の医師による解説 欧米に比べて小さい日本人 ステロイドを中止可能とする治療を模索すべき 山岡 邦宏 北里大学医学部膠原病・感染内科学主任教授 MMJ. June 2021;17(3):73 低用量ステロイドは関節リウマチ(RA)を含めた慢性疾患の治療において多く用いられている。しかし、その長期使用における安全性は明確となっていない。そこで、著者らは一定量の抗リウマチ薬で治療中のRA患者で長期間の低用量ステロイド使用と入院を要する重篤感染症の危険因子について後方視的研究を行った。解析には米国で65歳以上の高齢者と障害者を対象とした公的医療保険であるメディケア(平均年齢68.7歳)と米国大規模医療請求および統合実験室データベース(平均年齢57.6歳)であるOptum Clinformaticsの2つの異なるデータが用いられた。ステロイド用量を0mg/日(非使用)、5mg/日以下、5超~10mg/日、10mg/日超に分けてそれぞれのデータベース別に解析が行われた。6カ月間の一定量の抗リウマチ薬の使用が確認された患者でステロイド投与が行われていた割合はメディケア47.1%、Optum39.5%であった。1年後における入院を要した感染症の割合は、メディケアの場合、ステロイド0mg/日群の8.6%に対して5mg/日以下群で11.0%、5超~10mg/日群で14.4%、10mg/日超群で17.7%であった。一方、Optumでは、ステロイド0mg/日群の4.0%に対して、5mg/日以下群で5.2%、5超~10 mg/日群で8.1%、10mg/日群で10.6%であった。これらの結果より、米国の異なる2つの大規模データベースにおいてステロイドは用量依存的に入院を要する重篤感染症のリスクとなることが明らかとなり、たとえステロイドの用量が5mg/日以下でも0mg/日と比較すると有意にリスクが高いことが示された。 日本でもRA治療の実臨床ではいまだ多くの患者でステロイド投与が行われている。特に、疼痛・腫脹の制御目的に少量投与が年余にわたり行われていることがある。欧米では5mg/日以下であればRA患者では安全性が担保されているとされることが多いが、本論文からは一概にそうとは言えない。また、体重、体格指数(BMI)が欧米に比べて小さい日本人における低用量ステロイドの危険性は本論文以上である可能性を考慮して、他剤を用いてステロイドを中止可能とする治療を模索すべきであることを示唆している。
寛解期の関節リウマチに用いる従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬の半用量と一定用量が再燃に及ぼす作用の比較:ARCTIC REWIND無作為化臨床試験
寛解期の関節リウマチに用いる従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬の半用量と一定用量が再燃に及ぼす作用の比較:ARCTIC REWIND無作為化臨床試験
Effect of Half-Dose vs Stable-Dose Conventional Synthetic Disease-Modifying Antirheumatic Drugs on Disease Flares in Patients With Rheumatoid Arthritis in Remission: The ARCTIC REWIND Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 May 4;325(17):1755-1764. doi: 10.1001/jama.2021.4542. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【重要性】従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(csDMARD)を投与している関節リウマチ(RA)患者で寛解維持が達成可能な治療目標となっているが、臨床的寛解患者をどう治療するのが最適であるかは明らかになっていない。【目的】寛解を維持しているRA患者を対象に、csDMARD漸減が再燃リスクに及ぼす影響をcsDMARD一定量継続と比較すること。【デザイン、設定および参加者】ARCTIC REWINDは、ノルウェーの病院内リウマチ診療所10施設で実施した多施設共同並行群間非盲検無作為化非劣性試験であった。2013年6月から2018年6月までの間に、csDMARD一定用量を投与し12カ月間寛解を維持しているRA患者160例を登録した。最終来院は2019年6月であった。【介入】患者をcsDMARD半用量群(80例)とcsDMARD一定用量群(80例)に無作為化により割り付けた。【主要評価項目】主要評価項目は、試験開始から12カ月後の追跡調査までに再燃を認めた患者の割合とし、Disease Activity Score(DAS)スコア1.6超(RA寛解の閾値)、DASスコア0.6以上増加、腫脹関節数2カ所以上を再燃と定義した。このほか、患者および医師がともに臨床的に重大な再燃が生じたことを合意した場合も疾患の再燃とした。リスク差20%を非劣性マージンと定義した。【結果】登録した患者160例(平均年齢55.1歳[SD 11.9];女性66%)のうち、156例に割り付けた治療を実施し、このうち重大なプロトコールの逸脱が認められなかった155例を主要解析集団とした(半用量群77例、一定用量群78例)。csDMARD半用量群の19例(25%)が再燃したのに対して、一定用量群では5例(6%)に再燃を認めた(リスク差18%、95%CI 7-29)。半用量群の34例(44%)および一定用量群の42例(54%)に有害事象が発現したが、試験中止に至る患者はいなかった。死亡は認められなかった。【結論および意義】csDMARDを投与している寛解期RA患者で、12カ月間で再燃した患者の割合について、半用量による治療の一定用量に対する非劣性が示されなかった。一定用量群の方が再燃した患者数が有意に少なかった。以上の結果から、半用量投与は支持されない。 第一人者の医師による解説 寛解維持でリウマチ薬減量を希望する患者は多く 医師の丁寧な説明が必要 伊藤 聡 新潟県立リウマチセンター副院長 MMJ. December 2021;17(6):181 欧州リウマチ学会(EULAR)の推奨では、関節リウマチ(RA)患者が従来型抗リウマチ薬(csDMARDs)を使用し寛解を維持していた場合、csDMARDsの減量を考慮することが示唆されている(1)。しかしその根拠となる確固としたエビデンスはない。本論文は、ノルウェーの病院リウマチ科10施設で行われた、36カ月間の多施設共同、無作為化、非盲検、並行群間比較、非劣性試験(ARCTICREWIND試験)の報告である。寛解を維持しているRA患者を、csDMARDsを半量に減量する群と、減量しない群に分けて、再燃のリスクについて検討した。主要評価項目は、ベースラインから12カ月後までの再燃である。再燃の定義は、(1)DiseaseActivityScore(DAS)が1.6を超える(2)DASが0.6以上増加する(3)腫脹関節が2カ所以上ある(4)患者と主治医の双方が臨床的に再燃したと判断した──の組み合わせとし、非劣性マージンは20%とした。減量群77人、非減量群78人が主要評価項目の解析対象とされた。両群ともに、メトトレキサート(MTX)の単剤療法が多く(減量群:経口52人、皮下注14人、非減量群:経口51人、皮下注10人)、その他スルファサラゾピリジンやヒドロキシクロロキンの併用、他のcsDMARDsの単剤あるいは併用療法が行われていた。MTX使用量は平均で19mg/週程度であった。結果、再燃は減量群の25%、非減量群の6%に認められた(リスク差18%)。有害事象は減量群で44%、非減量群で54%に発現し、主に上気道感染などの軽度の感染症であった。重篤な有害事象の発現率は減量群5%、非減量群3%で、治療中止例や死亡例はなかった。本試験は、寛解維持患者においてcsDMARDsの半量減量は、12カ月間の再燃率に関して非減量に対する非劣性を示すことができず、再燃は非減量群で有意に少なかった。このことは、寛解を維持していても、csDMARDsを半量に減量する戦略を支持しない結果となった。RA患者は臨床的寛解を導入し維持できると、治療費、副作用の懸念などから抗リウマチ薬の減量や中止を希望することが多い。当院では生物学的製剤を中止する、いわゆるバイオフリーを実践し維持しているが(2)、本研究の結果からは、csDMARDsの減量は行わない方がよいだろう。筆者は、患者には「再燃すると再び寛解に導入するのは難しいので、寝た子は起こさないようにしましょう」と説明している。 1. Smolen JS,et al.Ann Rheum Dis.2020;79(6):685-699.2. Ito S,et al.Mod Rheumatol.2021;31(4):919-923.
スウェーデンの関節リウマチ患者におけるTumor Necrosis Factor Inhibitorsと癌の再発。全国規模の人口に基づくコホート研究
スウェーデンの関節リウマチ患者におけるTumor Necrosis Factor Inhibitorsと癌の再発。全国規模の人口に基づくコホート研究
Tumor Necrosis Factor Inhibitors and Cancer Recurrence in Swedish Patients With Rheumatoid Arthritis: A Nationwide Population-Based Cohort Study Ann Intern Med. 2018 Sep 4;169(5):291-299. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】がん既往歴のある患者における腫瘍壊死因子阻害薬(TNFi)の使用は依然として臨床上のジレンマである 【目的】関節リウマチ(RA)におけるTNFi治療ががん再発リスクの増加と関連しているかどうかを検討すること 【デザイン】全国の登録簿のリンケージに基づいた人口ベースのコホート研究。設定]スウェーデン. 【参加者】がんと診断された後、2001年から2015年の間にTNFi治療を開始したRA患者と、生物学的製剤の投与を受けたことのないRAと同一がん歴の患者をマッチングさせた. 【測定法】主要アウトカムはがんの初発再発であった.ハザード比(HR)の推定には、時間、がんの種類、がんが浸潤性かin situか(一部の患者では腫瘍、リンパ節、転移(TNM)分類システムの病期)を考慮した調整済みCox比例ハザードモデルを使用した。 【結果】TNFi治療を開始した患者467人(がん診断後の平均期間、7.9年)のうち、がんの再発は42人(9.0%;追跡調査の平均期間、5.3年)であった;同じがん歴を有する2164人のマッチアップ患者のうち、155人(7.2%;追跡調査の平均期間、4.3年)で再発があった(HR、1.06[95%CI、0.73~1.54])。がんの病期で一致させた患者サブセット、または指標となるがんの診断からTNFi治療開始までの期間が類似している患者サブセットの解析、および一致させていない解析では、ハザード比は1に近かった。 【Limitation】アウトカムアルゴリズムは一部検証されておらず、指標がんの予後が良好な患者ほどTNFi治療を受ける可能性が高い場合、チャネリングバイアスが生じる可能性があった。 【結論】本知見は、TNFi治療がRA患者におけるがん再発リスクの増加とは関連していないことを示唆しているが、有意なリスク増加を完全に排除することはできなかった。主な資金源]ALF(ストックホルム郡議会における保健医療分野の医学教育・研究に関する協定)、スウェーデン癌協会、スウェーデン戦略研究財団、スウェーデン研究評議会。 第一人者の医師による解説 レジストリデータ使用の国家規模コホート研究 エビデンス構築に貢献 岩崎 基 国立がん研究センター社会と健康研究センター疫学研究部部長 MMJ.February 2019;15(1):20 関節リウマチ患者などに対するTNF阻害療法は、その作用機序により悪性腫瘍のリスクが上昇する 可能性が懸念されている。また悪性腫瘍の既往歴・ 治療歴を有する患者がTNF阻害薬を使用した場合の再発リスクへの影響も懸念されている。再発リスクや2次がん罹患リスクとの関連を調べた先行研究は少なく、リスク上昇の報告はない。先行研究 の課題として、TNF阻害療法を受ける患者は進行がん患者が少ないなど再発リスクの低い患者が対象になっていた可能性が指摘されている。そこで、本研究では病期、診断からTNF阻害療法開始までの期間を考慮した解析を実施したが、生物学的製剤非使用群に比べて、統計学的に有意な再発リスクの上昇は観察されなかった。 本研究の方法論上の最大の特徴は、レジストリデータを用いて研究目的に合致した国家規模のコ ホートを構築している点である。本研究では、患者登録、がん登録、処方薬登録などの公的レジストリとリウマチ分野のQuality Registryを用いて、対象者の特定、治療と交絡要因に関する情報の取得、 アウトカムであるがんの再発の把握がなされた。 異なるレジストリをリンケージするために国民に付与された個人識別番号(PIN)が利用された。また、このような登録情報を疫学研究に用いる際には、 その妥当性を明らかにしておくことが重要であるが、患者登録から把握した疾患の妥当性について はすでに数多くの報告がなされている(関節リウマチ患者の陽性反応的中度は約90%)(1)。 スウェーデンの豊富なレジストリを用いて構築されたコホートにおいて、再発リスクの関連要因 を丁寧に調整した結果を示すことができた点は、 本研究の大きな成果である。一方、この規模でも十 分なサンプルサイズとは言えず、リスク上昇の可 能性は否定できない。また、観察研究のため未観察の交絡要因の影響は否定できず、情報がなく考慮できていない要因(治療開始時の病勢、喫煙など)の影響についても留意が必要である。 このように解釈の上で留意が必要ではあるが、 レジストリデータの利活用は、臨床上の疑問に答えるエビデンスの創出という点で大きな可能性を有している。日本においても、このようなレジストリデータなど、いわゆるリアルワールドデータを用いて、質の高い疫学研究が実施できる環境が整備 され、エビデンス構築に貢献できることを期待したい。 1. Ludvigsson JF, et al. BMC Public Health. 2011;11:450. doi:10.1186/1471- 2458-11-450.