「ドラベ症候群」の記事一覧

ドラベ症候群の発作治療に用いる塩酸フェンフルラミン 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
ドラベ症候群の発作治療に用いる塩酸フェンフルラミン 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
Fenfluramine hydrochloride for the treatment of seizures in Dravet syndrome: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial Lancet. 2019 Dec 21;394(10216):2243-2254. doi: 10.1016/S0140-6736(19)32500-0. Epub 2019 Dec 17. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】ドラベ症候群は、まれな治療抵抗性の発達性てんかん性脳症であり、さまざまな種類の発作が頻繁に起こるのが特徴である。フェンフルラミンは、光過敏性発作とドラベ症候群の観察研究で抗発作作用が報告されている。この試験の目的は、ドラベ症候群患者に用いるフェンフルラミンの有効性および安全性を評価することであった。 【方法】この無作為化二重盲検プラセボ対照試験は、若年成人および小児のドラベ症候群患者を対象とした。試験開始時の1カ月のけいれん発作頻度(MCSF;明らかな運動徴候がある半側間代発作、強直発作、間代発作、強直・脱力発作、全般性強直・間代発作、焦点発作をけいれん発作と定義)を確かめる6週間の観察期間の後、ウェブ自動応答システムを用いて、患者を抗てんかん薬に上乗せしてプラセボ、フェンフルラミン1日0.2mg/kg、同薬剤1日0.7mg/kgのいずれかを14週間投与するグループに1対1対1の割合で無作為に割り付けた。主要評価項目は、プラセボ群と比較した1日0.7mg/kg投与群の試験開始時と比較した治療期間中の1カ月の平均痙攣発作頻度とした。プラセボ群と比較した1日0.2mg/kg投与群の1カ月の平均けいれん発作頻度を副次評価項目とした。修正intention-to-treat集団で解析を実施した。被験薬を1回以上投与した全例を安全性解析の対象とした。この試験は、ClinicalTrials.govに2通りのプロトコールNCT02682927とNCT02826863に登録されている。 【結果】2016年1月15日から2017年8月14日の間に173例を評価し、そのうち119例(平均年齢9.0歳、54%が男児)をフェンフルラミン1日0.2mg/kg群(39例)、同薬剤1日0.7mg/kg群(40例)、プラセボ群(40例)に無作為に割り付けた。治療期間中、発作頻度の低下率中央値はフェンフルラミン0.7mg/kg群で74.9%(28日当たりの中央値20.7回から4.7回に低下)、同薬0.2mg/kg群で42.3%(同17.5回から12.6回に低下)、プラセボ群で19.2%(同27.3回から22.0回に低下)だった。試験は主要有効性評価を達成し、プラセボと比較すると、平均MCSFがフェンフルラミン1日0.7mg/kgで62.3%(95%CI 47.7-72.8、P<0.0001)、同薬0.2mg/kgで32.4%(同6.2-52.3、P=0.0209)低下した。最も頻度の高かった有害事象(被験者の10%以上に発現し、フェンフルラミン群で頻度が高かった)は食欲減退、下痢、疲労、無気力、傾眠および体重減少であった。試験期間中の心エコー検査で、全例に生理学的正常範囲内の弁機能を確認し、肺高血圧症の徴候は見られなかった。 【解釈】ドラベ症候群で、フェンフルラミンは、プラセボよりもけいれん発作頻度を有意に抑制し、忍容性も良好で、心臓弁膜症や肺高血圧症は認められなかった。フェンフルラミンはドラベ症候群の新たな治療選択肢になると思われる。 第一人者の医師による解説 ドラベ症候群治療薬として期待も 効果・有害事象とも長期評価が必要 今井 克美 国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター副院長・小児科 MMJ. October 2020; 16 (5):137 ドラベ症候群は1歳未満で発症し、発熱や入浴で誘発されやすい全身・半身けいれんを反復し、5分以上持続するけいれん重積状態が起こりやすく、1歳以降に発達の伸びが鈍化する難治性てんかんで、約80%の患者はNaチャネル遺伝子 SCN1Aの変異を有し、約4万人に1人が罹患するとされる。バルプロ酸、臭化物、トピラマート、スチリペントール、クロバザムなどの抗てんかん薬がよく使われるが効果不十分な場合が多く、より有効な治療法の開発が喫緊の課題である(1)。  本論文は、ドラベ症候群のけいれん発作に対するフェンフルラミンの有効性と安全性を北米、欧州西部、オーストラリアで検討した無作為化二重盲検プラセボ対照試験の報告である。臨床的に診断された2~18歳のドラベ症候群患者を対象に、服用中の抗てんかん薬は継続し、119人(平均年齢9.0歳、男性54%)がフェンフルラミン低用量0.2mg/kg、高用量0.7mg/kg、プラセボの3群に割り付けられた。前観察期間6週間に対する、割り付け後14週間におけるけいれん頻度の低下率は、高用量群74.9%、低用量群42.3%、プラセボ群19.2%で、高・低用量群ともにプラセボ群に比べ有意にけいれんが減少した。有害事象は食欲低下、下痢、易疲労性、倦怠、眠気、体重減少が10%以上にみられ、有害事象による中止は9人(高用量群6人、プラセボ群3人)であった。心エコー検査では心臓弁膜症や肺高血圧などの重篤な合併症は認められなかった。  フェンフルラミンはセロトニン作動薬で、食欲抑制目的の健康食品で使用されていた時に用量や誘導体含有などの問題に関連する心臓弁膜症、肺高血圧、肝障害が報告され、それ以降使用されなくなったが、ドラベ症候群を含む難治性てんかんにおいて著効例がベルギーから複数報告されたことから、本試験が実施された。用量を減らし品質管理を徹底して実施された本試験において、けいれんの有意な減少が示され、最長8カ月の長期安全性試験でも重篤な有害事象はなく、日本でもドラベ症候群への適応承認が期待される。今回の試験ではドラベ症候群にのみ保険適応のあるスチリペントールは併用禁忌であったが、スチリペントールとの併用でも同等の有効性と安全性が報告されている(2)。今後の課題として、けいれん抑制効果が年余にわたって継続するか、けいれん重積の頻度も低下するのか、年単位の長期服用でも心臓弁膜症、肺高血圧、著明な体重減少、肝障害を生じないか、などの検討が必要である。 1. Takayama R, et al. Epilepsia. 2014;55(4):528-538. 2. Nabbout R, et al. JAMA Neurol. 2019;77(3):300-308.