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小児集中治療室での呼吸器離脱プロトコル 人工呼吸器装着日数の短縮はわずか
小児集中治療室での呼吸器離脱プロトコル 人工呼吸器装着日数の短縮はわずか
Effect of a Sedation and Ventilator Liberation Protocol vs Usual Care on Duration of Invasive Mechanical Ventilation in Pediatric Intensive Care Units: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Aug 3;326(5):401-410. doi: 10.1001/jama.2021.10296. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】小児集中治療室で乳幼児や小児を侵襲的な機械的人工呼吸から解放するための最適な戦略に関するエビデンスは限られている。 【目的】鎮静と人工呼吸器解放のプロトコルによる介入が、長期の機械的人工呼吸が必要と予想される乳幼児や小児の侵襲的機械的人工呼吸の期間を短縮するかどうかを明らかにする。 【デザイン、設定および参加者】英国の17の病院施設(18の小児集中治療室)を対象に、通常のケアからプロトコル介入まで順次無作為化した、実用的な多施設、ステップウェッジ、クラスター無作為化臨床試験を実施した。2018年2月から2019年10月にかけて、長期の機械的換気が必要と予想される重症の乳幼児と小児8843人を募集した。最終追跡日は2019年11月11日であった。 【介入】小児集中治療室では、通常のケア(n=4155人の乳幼児と小児)または鎮静と人工呼吸器解放のプロトコル介入(n=4688人の乳幼児と小児)が行われ、鎮静レベルの評価、人工呼吸器解放の可能性をテストするための自発呼吸試験を実施する準備ができているかどうかのスクリーニングを毎日行い、鎮静と準備のスクリーニングを見直し、患者に関連する目標を設定するための毎日のラウンドを行った。 【主要評および測定法】主要アウトカムは、人工呼吸を開始してから最初に抜管に成功するまでの侵襲的機械換気の期間であった。治療効果の主要な推定値は、長期の機械的人工呼吸が必要と予想される乳幼児と小児について、暦時間とクラスター(病院部位)を調整したハザード比(95%CI)であった。 【結果】本試験を完了した乳幼児と小児は8843人(年齢中央値、8カ月[四分位範囲、1~46カ月]、42%が女性)であった。抜管成功までの時間(中央値)は、通常のケアと比較してプロトコルによる介入のほうが有意に短かった(それぞれ64.8時間対66.2時間、調整後中央値の差:-6.1時間[四分位範囲:-8.2~-5.3時間]、調整後ハザード比1.11[95%CI、1.02~1.20]、P = 0.02)。重篤な有害事象である低酸素症は、通常のケアでは11人(0.3%)であったのに対し、プロトコルによる介入では9人(0.2%)で発生し、血管以外のデバイスの脱落はそれぞれ2人(0.04%)と7人(0.1%)で発生した。 【結論と関連性】長期の機械的換気が必要と予想される乳幼児と小児において、鎮静と人工呼吸器の解放のプロトコルによる介入は、通常のケアと比較して、最初の抜管成功までの時間を統計的に有意に短縮する結果となった。しかし、この効果の大きさの臨床的重要性は不明である。 【臨床試験登録】isrctn.org Identifier:ISRCTN16998143。 第一人者の医師による解説 小児では抜管前評価で呼吸器離脱が見送られる特殊な事情も理解を 秋山 類(大学院研究生)/清水 直樹(主任教授) 聖マリアンナ医科大学小児科学講座 MMJ. April 2022;18(2):48 小児集中治療室(PICU)に入室する患者は侵襲的人工呼吸(MV)が必要となる。MV管理は、これに関連した肺炎や肺障害などを併発する可能性があり、早期離脱が必要となる。成人ではABCDEバンドル(※)を導入し、院内死亡率が低下した(1)。小児ではMVからの離脱プロトコル化を検証した研究はエビデンス不足であった。 英国の18PICUが鎮痛鎮静とMV離脱のプロトコル化を目指してSedation AND Weaning In hildren(SANDWICH)に参加している。全施設が集中治療医により管理され、うち8割は年間入室患者数が500を超える。本研究では、まず各施設は従来群として診療を行った。各施設に決められた日程でプロトコル訓練を実施し、以後は介入群として診療した。プロトコル内容は鎮痛鎮静の評価と目標設定、自発呼吸トライアル(SBT)適否の選別、SBT実施、多職種の回診である。期間は2018年2月〜19年10月、24時間以上のMVが必要と想定される8,843人を対象とした。 結果、MV装着時間の中央値は介入群64.8、従来群66.2と1.4時間の短縮だった(各施設の症例数などの調節後では6.1時間)。またPICU入室日数の中央値は両群5日で差がなく、入院期間は有意に延長した(介入群9.6、従来群9.1日)。抜管成功、計画外抜管、再挿管のいずれも有意差はなかった。介入群では抜管後の非侵襲的陽圧換気の装着が有意に多かった。 研究計画時は、MV装着期間が1日短縮すると想定していたが、実際にはわずかだった。原因として、幅広い患者層(心疾患と呼吸器疾患が各3割、神経疾患は1割、内因性疾患による予定外入室が6割前後)、SBT実施が少ない、が挙げられる。プロトコルのうちSBT実施以外の遵守率は40〜90%だが、SBT実施の遵守率は15〜60%であった。SBT非実施の理由は、分泌物や気道浮腫により気道確保が必要、意識の覚醒が不十分、再手術を想定、血管作動薬の投与が多量、筋力低下などであった。 本研究では、抜管の前提を満たさない患者が含まれ、MV装着時間の短縮がわずかだったと考える。今後はSANDWICHプロトコルにSBT非実施となる患者の選別段階を組み込む必要があるかもしれない。本研究は集中治療医の管理する比較的大規模なPICUで実施されており、有害事象が抑制された可能性がある。日本では、集中治療医が24時間管理するのは半数、年間入院患者数が500を超えるのは18%である(2)。本研究結果を日本国内で適用する際には、これらの背景の差異も考慮する必要がある。 ※ ABCDE バンドル;A:毎日の覚醒トライアル、B:毎日の呼吸器離脱トライアル、C:鎮静・鎮痛薬の選択、D:せん妄のモニタリングと管理、E:早期離床をまとめて行う介入。バンドルとは bundle で束の意味。 1. Balas MC, et al. Crit Care Med. 2014;42(5):1024-1036. 2. 日本集中治療医学会小児集中治療委員会 . わが国における小児集中治療室の現状調査 . 日集中医誌 2019;26:217-225.