ライブラリー 成人期における体重の変化と全死因および特定原因による死亡率との関係:前向きコホート研究。
Weight change across adulthood in relation to all cause and cause specific mortality: prospective cohort study
BMJ 2019 Oct 16;367:l5584.
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【目的】成人期における体重変化と死亡率の関連を検討する。
【デザイン】前向きコホート研究。
【設定】米国国民健康・栄養調査(NHANES)1988~94年および1999~2014年。
【参加者】ベースラインで体重と身長を測定し、若年成人期(25歳)と中年成人期(ベースラインの10年前)の体重を思い出した40歳以上の36051人。
【主要アウトカム指標】ベースラインから2015年12月31日までの全死因および原因別死亡率。
【結果】平均12.3年の追跡期間に10500人が死亡している。標準体重のままの参加者と比較して,若年期から中年期にかけて非肥満から肥満のカテゴリーに移行した参加者は,全死因死亡率および心疾患死亡率のリスクがそれぞれ22%(ハザード比1.22,95%信頼区間1.11~1.33)および49%(1.49,1.21~1.83)高くなることが示された。この期間に肥満から非肥満の体格指数に変化しても、死亡リスクとの有意な関連はなかった。成人期中期から後期にかけての肥満から非肥満への体重変化パターンは、全死因死亡率(1.30、1.16から1.45)および心疾患死亡率(1.48、1.14から1.92)のリスク上昇と関連していたが、この期間に非肥満カテゴリーから肥満に移行しても死亡リスクとは有意な関連はなかった。成人期を通じて肥満を維持することは、一貫して全死因死亡リスクの増加と関連していた;ハザード比は、若年から中年期にかけては1.72(1.52から1.95)、若年から晩年期にかけては1.61(1.41から1.84)、中期から晩年期にかけては1.20(1.09から1.32)であった。最大過体重は、成人期を通じて死亡率との関連が非常に緩やかであるか、あるいは無効であった。様々な体重変化のパターンとがん死亡率との間に有意な関連は認められなかった。
【結論】成人期を通じて安定した肥満、若年期から成人期中期までの体重増加、および成人期中期から後期までの体重減少は、死亡率のリスク増加と関連していた。この知見は、成人期を通じて正常な体重を維持すること、特に成人期初期の体重増加を防ぐことが、その後の人生における早すぎる死亡を防ぐために重要であることを示唆している。
第一人者の医師による解説
成人期を通した正常体重の維持と成人早期での体重増加予防が重要
中神 朋子 東京女子医科大学糖尿病・代謝内科教授
MMJ.April 2020;16(2)
肥満は世界的に重要な公衆衛生問題であり、日本でもライフスタイルの多様化と食文化の欧米化により問題視されている。日本の平成30年の国民栄養調査によると、肥満者(BMI 25 kg/m2以上)の割合は男性32.2%、女性 21.9%で、この10年間で大きな変化はないが、その割合は低くない。
本論文は、1988~94年および1999~2014 年の米国民健康栄養調査(NHANES)の40歳以 上36,051人を対象に死亡リスクと成人期の体 格指数(BMI)の変化を検討した前向きコホート研 究の報告である。平均12.3年の追跡で、10,500 件 の 死亡 が 確認 さ れ た。「 成人早期(25歳時)」、 「成人中期(NHANES登録の10年前)」、「成人後期 (NHANES登録時)」の3時点のBMIを調査し、2時点間のBMI変化と全死亡、原因別死亡のリスクと の関連を解析した。
その結果、正常体重(BMI 25 kg/m2未満)維持群に比べ、成人早期から中期に肥 満(BMI 30.0 kg/m2以上)に移行した群では全 死亡および心疾患死のリスクが上昇したのに対し(それぞれハザード比[HR], 1.22、1.49)、同時期の非肥満(BMI 30.0 kg/m2未満)への移行と死亡 リスクに有意な関連は認められなかった。一方、正常体重維持群に比べ、成人中期から後期に非肥満へ移行した群では、全死亡および心疾患死のリスク は有意に上昇したが(それぞれHR, 1.30、1.48)、 同時期の肥満への移行と死亡リスクに有意な関連はなかった。成人期を通じて肥満維持群では全死亡および心疾患死のリスクに一貫した上昇がみられた。なお、BMI変化とがん死のリスクに関連は認められなかった。
本研究において成人中期から後期に非肥満へ移行した群で全死亡および心疾患死のリスクが上昇したことは印象的である。成人早期から中期への体重増加は主に脂肪量の蓄積を反映すると考えられるが、中期から後期への体重減少は、通常、併存疾患と除脂肪体重の減少および脂肪量の増加を伴うと考えられる(1), (2)。
本研究には、意図的な体重変化、併存疾患などによる意図的ではない体重変化を区別できていない点、人種差など考慮すべき余地があり、この結果が日本人に当てはまるかどうかはまだわからない。しかし、成人期を通じて正常体重を維持すること、特に成人早期の体重増加の予防がその後の早期死亡リスクの抑制において重要であることを示唆しており意義深い。
第39回日本肥満学会で「神戸宣言2018」が採択され、肥満症*対策を領域横断的に推進することが示された。肥満症の撲滅を目指した肥満に対する意識と取り組みは大きく変わりつつあり、目が離せない。
*肥満に起因・関連する健康障害を有する、または健康障害が予想される内臓脂肪が過剰に蓄積し、減量治療を必要とする状態。
1. Fontana L et al. Aging Cell. 2014;13(3):391-400.
2. Ferrucci L et al. Arch Intern Med. 2007;167(8):750-751.