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薬剤耐性結核菌の伝播性と病勢進行の可能性:前向きコホート研究
薬剤耐性結核菌の伝播性と病勢進行の可能性:前向きコホート研究
Transmissibility and potential for disease progression of drug resistant Mycobacterium tuberculosis: prospective cohort study BMJ 2019 ;367 :l5894 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【目的】肺結核患者の家庭内接触者における表現型薬剤耐性と結核感染・発病リスクとの関連を測定すること 【設定】2009年9月から2012年9月までのペルー、リマの106地区の保健所 【デザイン】前向きコホート研究。 【参加者】結核の指標患者3339人の家庭内接触者10 160人を、患者の薬剤耐性プロファイルに基づいて分類した:6189人がMycobacterium tuberculosisの薬剤感受性株に、1659人がイソニアジドまたはリファンピシンに耐性の株に、1541人が多剤耐性(イソニアジドとリファンピシンに耐性)株に暴露されていた。 【結果】多剤耐性結核患者の家庭内接触者は、薬剤感受性結核患者の家庭内接触者と比較して、フォローアップ終了時までに感染するリスクが8%(95%信頼区間4%~13%)高くなることが示された。結核疾患発症の相対ハザードは、多剤耐性結核に曝露した家庭内連絡者と薬剤感受性結核に曝露した家庭内連絡者で差がなかった(調整ハザード比 1.28、95%信頼区間 0.9~1.83) 【結論】多剤耐性結核患者の家庭内連絡者は、薬剤感受性結核に曝露した連絡者と比較して結核感染リスクが高かった。結核疾患の発症リスクは、両群の接触者の間で差はなかった。このエビデンスは、ガイドライン作成者に、薬剤耐性結核と薬剤感受性結核を対象として、感染と疾患の早期発見と効果的な治療などの行動をとるように促すものである。 【TRIAL REGISTRATION】ClinicalTrials. gov NCT00676754. 第一人者の医師による解説 多剤耐性結核の制圧 耐性獲得防止だけでなく早期診断・治療戦略の開発が必要 加藤 誠也 公益財団法人結核予防会結核研究所所長 MMJ.February 2020;16(1) 薬剤耐性(AMR)対策は世界的に大きな問題とされており、結核がAMRの3分の1を占めているとされている。結核に関しては抗結核薬のイドニア ジドとリファンピシンの両剤に耐性の結核を多剤耐性結核という。薬剤耐性結核の発生原因は細胞分裂の過程で発生する耐性菌が、不適切な治療や治療中断によって選択的に増殖することによる。したがって、対策は適正な治療を確実に行うことによって耐性菌の増殖を防ぐこととされてきた。 この考え方の背景には、耐性菌は変異によって感染性や病原性が損なわれているために、感染や発病は感受性菌に比べ大きな問題でないという前提がある。本研究は感受性菌と多剤耐性菌の患者家族を12カ月間追跡することによって、感染状況(ツベルクリン反応結果)と発病者を算出し、この前提の妥当性を検証した。 その結果、多剤耐性菌は感受性菌よりも感染のリスクが8%高く、発病可能性は耐性菌と感受性菌で差がなかった。なお、結核菌の耐性 変異による発育適合性(fitness)の影響については諸説がある。本研究では家族内感染者に菌陽性に なりにくい小児が多かったため、分子疫学的な検証 が十分にされなかったが、Yangらは上海における分子疫学研究によって、多剤耐性結核患者の73% が感染によることを示した(1) 。 これらの結果から多剤耐性結核対策として、耐性菌の増殖を防ぐための適正治療と服薬遵守の推進のみならず、感染防止のため薬剤耐性菌の早期診断と効果的な治療の必要性が示唆された。しかし、薬剤感受性検査は診断後2~3カ月かかり、その間は適切な治療が行われないため、多剤耐性結核患者の感染性低下は感受性菌感染者に比べ遅いことになる。したがって、対策として既存のツールのみならず、薬剤耐性の早期診断・治療の戦略を開発する 必要がある。 診断のためには、結核菌の全ゲノム解析の活用が考えられるが、そのためには薬剤耐性 遺伝子の知見を集積して解析ツールの精度を十分に高くすること、および結核菌遺伝子を簡便に高濃度に抽出する技術が必要である。また、治療のためには従来の薬剤と異なる作用機序を持つ新薬とそれを組み合わせた安全かつ効果的な治療レジメンの開発が必要である。 1. Yang C et al. Lancet Infect Dis. 2017;17(3):275-284.