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希少疾患
ムコ多糖症II型~知っておきたい希少疾患
ムコ多糖症は、細胞内でのムコ多糖の分解に必要なライソゾーム酵素の先天的な欠損により、全身の細胞にムコ多糖が蓄積する先天代謝異常症である。ムコ多糖症は症状の異なる7つの型に分類され、現在、本邦ではI型、II型、IV型、VI型に対する酵素製剤が使用可能となっている。今回は、ムコ多糖症II型およびその治療薬であるヒュンタラーゼ Ⓡ [一般名:イデュルスルファーゼ ベータ(遺伝子組換え)]についての取材内容を紹介する。 男児の約5万人に1人が発症するムコ多糖症II型 ムコ多糖症II型(ハンター症候群)はライソゾーム病の1つであり、日本においてはムコ多糖症の中で最も頻度の高い疾患である。ムコ多糖症の中でもII型は、X染色体連鎖潜性遺伝であり(その他の病型は常染色体)、ほとんどは男児のみに発症する。本邦では、男児53,000人に1人発症すると推測されている。岐阜大学の調査では国内症例数は255例と報告されているものの、診断に至っていない症例や定期受診をしていない症例もある 1)。そのため、ムコ多糖症II型の正確な患者数を把握することが困難とされている。 “言葉の遅れ”などの中枢神経症状が重症型のサイン ムコ多糖症II型は、ライソゾーム酵素の1つであるイズロン酸-2-スルファターゼの先天的な欠損により、細胞内に未分化のデルマタン硫酸やヘパラン硫酸といったムコ多糖が過剰に蓄積した結果、多臓器が同時に障害される進行性の疾患である。知的障害の有無によって重症型と軽症型に大別され、患者の約70%は中枢神経症状を伴うと言われている。乳児期によくみられる症状として、広範な蒙古斑・異所性蒙古斑、反復性の中耳炎、臍ヘルニア・鼠径ヘルニアが挙げられる。また、腰椎部の突背も重症型では早期からよくみられる所見である。重症型の場合、言葉の遅れなどの中枢神経症状に気づき来院されることが多く、6~7歳をピークに発達退行がみられ、徐々に進行する。幼児期には、過成長傾向を示す(3歳児Hunter病24例の平均身長98.0 cm、体重20.1 kg)ため、注意が必要である。 ムコ多糖症II型の主な臨床症状 2) 【皮膚症状】特徴的顔貌(ムクムクした顔貌、巨舌など) 【耳鼻科領域の症状】反復性中耳炎、難聴 【骨・関節症状】椎骨の変形、関節拘縮 【腹部の症状】ヘルニア(鼠径・臍)、肝腫大 【循環器症状】心雑音(心臓弁膜症) 【中枢神経症状】精神発達遅延(言葉の遅れなど) 小児神経科、耳鼻科、整形外科、外科の先生も遭遇する可能性があるムコ多糖症II型 ムコ多糖症II型の診療は、小児科の中でも、遺伝や代謝、施設によっては内分泌を専門とされる先生方が中心となっている。しかし、重症型では神経症状を呈することから、小児神経の専門医が診療に携わる場合や、蒙古斑、繰り返す中耳炎、臍ヘルニア・鼠径ヘルニア、骨・関節の異常などを機に、かかりつけ医の先生や耳鼻科、整形外科、外科などのさまざまな科の先生からの紹介で診断にいたるケースもある。診断は、欠損酵素の測定と蓄積物の有無によりなされる。 これまでは中枢神経症状に対する治療効果に課題も ムコ多糖症II型のこれまでの治療は、個々の症状に対応した対症療法と侵襲臓器にイズロン酸-2-スルファターゼを供給することを目的とした原因療法がおこなわれてきた。原因療法として本邦で保険収載されていた治療法は、静脈内投与の酵素補充療法と造血幹細胞移植であった。静脈内投与の酵素補充療法は、酵素製剤を週に1回点滴静注し、不足している酵素を補う治療であり、肝脾腫、呼吸機能、歩行障害、皮膚所見、関節拘縮などの症状改善が確認されている。一方、従来の静脈内投与の酵素補充療法は、血液脳関門(BBB)を通過しないため、約70%の患者さんに認められる精神発達遅滞や神経退行症状に対して、基本的に治療効果が期待できないことが課題であった。また、造血幹細胞移植に関しては、中枢神経症状の改善の報告はあるものの、その効果は明確になっておらず、ドナーの確保やGVHDの予防も課題となっていた。 中枢神経症状をターゲットとした 世界初のムコ多糖症II型に対する脳室内投与製剤ヒュンタラーゼ Ⓡ 2021年、ムコ多糖症II型に対する酵素補充療法に使用される世界で初めての脳室内投与製剤としてヒュンタラーゼ Ⓡ脳室内注射液15mg(製造販売元:クリニジェン株式会社)が承認された。ヒュンタラーゼは、頭にリザーバを留置し、そこから4週に1回、脳室に直接薬剤を送達させる新しい治療法を有する薬剤である。脳室内に直接投与することで、従来治療では効果不十分であった中枢神経症状に対する治療が可能となった 3)。 2021年4月の上市以来、重症型の患者さんに処方が開始され、2023年11月現在、国内35例の患者さんがヒュンタラーゼによる治療を行っている。 新生児スクリーニングの普及と専門医への早期紹介が望まれる ムコ多糖症は進行性の疾患であるため、早期診断・早期治療を開始した症例では、薬剤のより高い有効性が期待できると言われている。近年、本邦においても、ムコ多糖症II型を含む拡大新生児スクリーニングが普及しつつあるが、都道府県・自治体・医療機関によって実施の有無に差があり、出生児にスクリーニングを受ける機会がなかった患者さんでは、診断が遅れてしまう可能性がある。このような患者さんにおいては、受診時に診療にあたった先生が典型的な症状に気付き、できるだけ早期に専門医への紹介となることが望まれる。 (エクスメディオ 鷹野 敦夫) 参考資料 1) Khan SA, et al. Mol Genet Metab. 2017; 121: 227-240.▶https://hpcr.jp/app/article/abstract/pubmed/28595941 2) ムコ多糖症サーチ▶https://muco-tatosho.com/ 3) ヒュンタラーゼ Ⓡ脳室内注射液15mg添付文書▶http://www.clinigen.co.jp/medical/pdf/hunterase_pi_20210426.pdf 4) 用語解説(教えて!ムコタ先生)▶https://mukota-sensei.com/term ヒポクラ × マイナビ無料会員登録はこちら▶https://www.marketing.hpcr.jp/hpcr
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