「高TG血症」の記事一覧

トリグリセリドを低下させるLPLバリアントとLDL-Cを低下させるLDLRバリアントと冠状動脈性心臓病のリスクとの関連性
トリグリセリドを低下させるLPLバリアントとLDL-Cを低下させるLDLRバリアントと冠状動脈性心臓病のリスクとの関連性
Association of Triglyceride-Lowering LPL Variants and LDL-C-Lowering LDLR Variants With Risk of Coronary Heart Disease JAMA 2019 Jan 29 ;321 (4):364 -373. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】トリグリセリドとコレステロールは、いずれもアポリポ蛋白B(ApoB)含有リポ蛋白粒子によって血漿中に運ばれている。血漿中のトリグリセリド値を下げることが、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)値を下げることと同じ程度に心血管イベントのリスクを下げるかどうかは不明である。 【目的】リポタンパク質リパーゼ(LPL)遺伝子におけるトリグリセリド低下変異体およびLDL受容体遺伝子(LDLR)におけるLDL-C低下変異体とApoB単位変化当たりの心疾患リスクの関連性を比較することである。 【デザイン、設定および参加者】1948年から2017年に北米または欧州で実施された63件のコホート研究または症例対照研究に登録された参加者を対象に、LPL遺伝子のトリグリセリド低下変異体およびLDLR遺伝子のLDL-C低下変異体からなる遺伝子スコアと心血管イベントリスクの関連をそれぞれ評価するメンデルランダム化解析。 【曝露】LPLおよびLDLR遺伝子スコアに関連する血漿トリグリセリド、LDL-C、ApoBレベルの違い 【主要アウトカムおよび測定】冠動脈疾患(CHD)-冠動脈死、心筋梗塞、または冠動脈再灌流と定義-ApoB含有リポタンパク質濃度10mg/dL低下あたりのオッズ比(OR).LL-APO-DLは冠動脈疾患(CHD)リスクと定義される.APO-DBは冠動脈疾患(CHD)リスクと定義される. 【結果】91 129例のCHD症例を含む、合計654 783人の参加者が対象となった(平均年齢62.7歳、女性51.4%)。ApoB含有リポ蛋白のレベルが10mg/dL低くなるごとに、LPLスコアは69.9mg/dL(95%CI、68.1-71.6;P = 7.1×10-1363)低いトリグリセリドレベルと関連し、0.7mg/dL(95%CI、0.03-1.4; P = 0.04)高いLDL-C値を示した。一方、LDLRスコアは、14.2-mg/dL(95% CI, 13.6-14.8; P = 1.4 × 10-465)低いLDL-C値と1.9-mg/dL(95% CI, 0.1-3.9; P = 0.04)低い中性脂肪値と関連があった。関連する脂質レベルにはこれらの違いがあるものの、LPLおよびLDLRスコアは、ApoB含有リポ蛋白レベルが10mg/dL低くなるごとにCHDリスクが同様に低くなることと関連していた(それぞれ、OR, 0.771 [95% CI, 0.741-0.802], P = 3.9 × 10-38およびOR, 0.773 [95% CI, 0.747-0.801], P = 1.1 × 10-46)。多変量メンデリアンランダム化解析では、トリグリセリドおよびLDL-C値とCHDのリスクとの関連は、ApoBの差を調整すると無効となった(トリグリセリド。OR, 1.014 [95% CI, 0.965-1.065], P = 0.19; LDL-C。トリグリセリドを低下させるLPL変異体とLDL-Cを低下させるLDLR変異体は、ApoBの単位差あたりのCHDリスクが同様に低いことと関連していた。したがって、トリグリセリドとLDL-C値を下げることの臨床的利益は、ApoBの絶対的な変化に比例する可能性がある。 第一人者の医師による解説 広がる高 TG血症への治療選択肢 さらなるエビデンス期待 遠藤 康弘/池脇 克則(教授) 防衛医科大学校神経・抗加齢血管内科 MMJ.August 2019;15(4) 本論文は、9万人前後の冠動脈疾患(CHD)患者を含む約65万人の症例を対象に、トリグリセリド (TG)代謝に関わるリポ蛋白リパーゼ(LPL)およびLDL代謝に関わるLDL受容体(LDLR)の一塩基多型(SNP)から遺伝的スコアを計算し、メンデルランダム化解析を用いてCHD(心筋梗塞、血行再建術、心血管死)との関連を解析した報告である。 近年、脂質代謝の臨床研究においてゲノムワイド 関連解析(GWAS)といった遺伝学的手法が用いられるようになった。GWASは、SNPジェノタイピングに基づき、疾患に関わる遺伝的変異を調べる手法で、TGやLDL-C、HDL-C値に関わる遺伝子多型が多く報告されている(1)。 さらにGWASで示された遺伝子多型を従来の疫 学手法に組み合わせたメンデルランダム化解析が 国内外で用いられるようになった。遺伝子多型は、 メンデルの独立の法則によれば、環境の影響を受けずにランダムに配分される。そのため、ランダム化比較試験(RCT)におけるランダム化を遺伝子多型で代用し、CHDとの関連を調べることで、環境因子を考慮せずに対象遺伝子とCHDの関連が評価可能である。 本研究において、LPL遺伝的スコアでは、LDL-C 値は軽度上昇(+0.7mg/dL)を示すもTG値の大幅な低下(-69.9mg/dL)を認め、一方でLDLR 遺伝的スコアでは、TG値の軽度低下(-1.9mg/ dL)およびLDL-C値低下(-14.2mg/dL)を示した。 LPL遺伝的スコアによるTG値低下はLDLR遺伝的 スコアによるLDL-C低下と同程度のCHDのオッズ 比低下(LPL遺伝的スコア:0.771 vs LDLR遺伝 的スコア;0.773)を認め、TG値低下はLDL-C値低下と同様に心血管疾患発症のリスク低下に重要な因子であることが示唆された。 一方、TG低下療法 のRCTで は、エイコサペンタエン酸エチル(EPA)製剤を用いたJELIS試験 (2007年)で心血管疾患(CVD)予防効果を認めたが、それ以降のEPA、フィブラート系薬剤、徐放 ナイアシンを使ったRCTでは明らかな予防効果は 示されなかった中で、REDUCE-IT試験(2018年) で高用量EPA製剤による心血管疾患保護効果(1次、 2次予防)が報告された(2)。メンデルランダム化研究は症例数や交絡因子で結果が左右されるRCTの短所を補完できるメリットを有する。 近年、海外ではTG代謝に関わるAPOC3、 ANGPTL3に対する抗体薬も開発され臨床応用が期待される。日本でも2018年に高 TG血症に対 する新規薬剤として選択的PPARαモジュレーター (SPPARMα)ペマフィブラート(パルモディアⓇ) が処方可能となり、高 TG血症に対する治療選択肢 が広がりつつある。今後、TG低下療法のさらなるエビデンスが期待される。 1. Liu DJ, et al. Nat Genet. 2017;49(12):1758-1766. 2. Bhatt DL, et al. N Engl J Med. 2019;380(1):11-22.