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回復した拡張型心筋症患者における心不全の薬物療法の中止(TRED-HF):非盲検試験、パイロット試験、無作為化試験。
回復した拡張型心筋症患者における心不全の薬物療法の中止(TRED-HF):非盲検試験、パイロット試験、無作為化試験。
Withdrawal of pharmacological treatment for heart failure in patients with recovered dilated cardiomyopathy (TRED-HF): an open-label, pilot, randomised trial Lancet 2019 Jan 5 ;393 (10166 ):61 -73 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】 症状と心機能が回復した拡張型心筋症患者は、しばしば薬剤を中止してよいかどうかを尋ねる。このような状況での治療中止の安全性は不明である。 【方法】拡張型心筋症の既往があり、現在は無症状で、左室駆出率(LVEF)が40%未満から50%以上に改善し、左室拡張末期容積(LVEDV)が正常化し、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NTプロBNP)濃度が250ng/L未満である患者において、心不全薬の段階的中止の影響を調べるためにオープンラベル、パイロット、ランダム化試験を実施した。英国内の病院のネットワークから患者を募集し、1つのセンター(ロイヤルブロンプトン・アンド・ハレフィールドNHS財団トラスト、英国ロンドン)で評価を行い、段階的な治療中止または治療継続に1対1の割合で無作為に割り付けた。6ヵ月後、治療継続群の患者さんは、同じ方法で治療が中止されました。主要評価項目は、6ヶ月以内の拡張型心筋症の再発とし、LVEFが10%以上低下し50%未満となる、LVEDVが10%以上上昇し正常範囲より高くなる、NT-pro-BNP濃度が2倍上昇し400ng/L以上、または心不全の臨床症状で定義し、その時点で治療を再確立させた。主要解析はintention to treat。本試験はClinicalTrials. govに登録されており、番号はNCT02859311。 【FINDINGS】2016年4月21日から2017年8月22日の間に、51人の患者が登録された。25名が治療中止群に、26名が治療継続群に無作為に割り付けられた。最初の6カ月間で、治療中止群に無作為に割り付けられた11人(44%)が主要評価項目である再発を示したのに対し、治療継続群に割り付けられた患者は1人もいなかった(カプラン・マイヤー推定イベント率45-7%[95%CI 28-5-67-2];p=0-0001 )。6ヵ月後、最初に治療継続と割り付けられた患者26人のうち25人(96%)が治療中止を試みた。その後の6ヵ月間に、9人の患者が主要評価項目である再発を示した(Kaplan-Meier推定イベント発生率36-0%[95%CI 20-6-57-8])。死亡はいずれの群でも報告されず,治療中止群では3つの重篤な有害事象が報告された:非心臓性胸痛による入院,敗血症,待機的手術。 【解釈】拡張型心筋症から回復したとみなされた患者の多くは,治療中止後に再発する。再発の確実な予測因子が明らかになるまでは、治療を無期限に継続すべきである。 資金提供】英国心臓財団、Alexander Jansons財団、ロイヤルブロンプトン病院とインペリアルカレッジ・ロンドン、インペリアルカレッジ生物医学研究センター、Wellcome Trust、およびRosetrees Trust。 第一人者の医師による解説 心機能の改善 回復か軽快かを鑑別する臨床指標の抽出を期待 猪又 孝元 北里大学北里研究所病院循環器内科教授 MMJ.June 2019;15(3) 今から遡ること30年ほど前、私が医学生だったころ、心筋細胞は再生能力がないから、心不全を起こす悪くなった心臓は決して良くならない、そう教わった。しかし、医師になり、循環器診療へと専門の道を進めたころ、その教えは必ずしも正しくないことを知った。致死の病とみなされていた拡張型心筋症による重症心不全患者に、当時禁忌として扱われていたβ遮断薬を導入することで、心機能が劇的に改善する経験をするようになったからである。現在、左室逆リモデリングと呼ばれるこの現象は、後に加わった心臓再同期療法とともに、なかでも拡張型心筋症で容易に観察できる。当施設からの報告でも、β遮断薬を含む至適薬物療法のみで、約半数の拡張型心筋症に左室逆リモデリングがもたらされる(1)。今や若い医師たちにとって拡張型心筋症は、安全パイとすら思われている節すらある。 喉元過ぎれば熱さを忘れる。治療が奏効し、症状も消え失せ、心機能の劇的改善のデータに歓喜し、その状態が何年も持続すると、「こんなに元気なのに、いったいいつまでこのクスリを飲み続ける必要があるのか」と思うのが患者心理である。一方、服薬の自己中断により、改善した心機能が再度悪化をきたす拡張型心筋症を経験した医師は少なくなく、原則として「一生飲み続ける」ことを患者に勧めている。しかし、系統立ててこれを証明した報告 は皆無であった。 本研究では、51人の拡張型心筋症患者を登録し、 β遮断薬などの心不全治療を継続する群または漸減後に中止する群にランダム化し、服薬中止群の4 割に及ぶ患者において半年間で心機能が有意に悪化する現象を見いだした。より長期に観察すれば、死亡や心不全入院などのイベント発生も観察されたであろう。これまで多くの医師が経験則で患者指導していた内容は、パイロット研究とはいえ正しいことがはじめて実証された。 拡張型心筋症において心筋生検や心臓 MRIで心筋の障害や線維化が高度と評価されても、β遮断薬の導入によってときに心機能データは正常値すらたたき出す(2)。ただし、心筋が傷んでいることは事実である。recovery(回復)とremission(軽快)とはときに混同されがちだが、左室逆リモデリングはあくまでremissionに過ぎないと解釈すべきである(3)。一方、自然回復のような臨床経過を辿る拡張型心筋症も経験され、このような症例では薬物療法の終了が期待できる。同じく心機能が改善した症例間で、recoveryとremissionを鑑別する臨床指標の抽出が望まれる。 1. Ikeda Y, et al. Heart Vessels. 2016;31(4):545-554. 2. Ishii S, et al. Heart Vessels. 2016;31(12):1960-1968. 3. Nabeta T, et al. Heart Vessels. 2019;34(1):95-103.