ライブラリー Irbesartan in Marfan syndrome(AIMS):二重盲検プラセボ対照無作為化試験。
Irbesartan in Marfan syndrome (AIMS): a double-blind, placebo-controlled randomised trial
Lancet 2019 Dec 21;394(10216):2263-2270.
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【背景】マルファン症候群において、長時間作用型の選択的アンジオテンシン-1受容体阻害薬であるイルベサルタンが、解離や破裂と関連する大動脈の拡張を抑制する可能性がある。我々は、マルファン症候群の小児および成人における大動脈拡張率に対するイルベサルタンの効果を明らかにすることを目的とした。
【方法】英国の22施設で、プラセボ対照二重盲検無作為化試験を行った。臨床的にマルファン症候群と確認された6~40歳の個人を含めることができた。試験参加者は全員、イルベサルタン75mgを1日1回オープンラベルで投与され、その後、イルベサルタン150mg(忍容性により300mgまで増量)またはマッチングプラセボに無作為に割り付けられた。大動脈径は、ベースラインとその後1年ごとに心エコーで測定された。すべての画像は治療割り付けを盲検化したコアラボで解析された。主要エンドポイントは大動脈基部拡張の割合であった。本試験はISRCTNに登録されており、番号はISRCTN90011794である。
【所見】2012年3月14日から2015年5月1日の間に、192名の参加者を募集し、イルベサルタン(n=104)またはプラセボ(n=88)にランダムに割り当て、全員が最長5年間追跡調査された。募集時の年齢中央値は18歳(IQR12~28)、99人(52%)が女性、平均血圧は110/65mmHg(SD16、12)、108人(56%)がβブロッカーを服用中であった。ベースラインの平均大動脈基部径はイルベサルタン群(SD 5-8)、プラセボ群(5-5)で34-4mmであった。大動脈基部拡張率の平均はイルベサルタン群0-53mm/年(95%CI 0-39~0-67)、プラセボ群0-74mm/年(0-60~0-89)、平均値の差は-0-22mm/年(-0-41~-0-02、p=0-030)であった。大動脈Zスコアの変化率もイルベサルタンによって減少した(平均値の差-0-10/年、95%CI -0-19 to -0-01、p=0-035)。イルベサルタンは、重篤な有害事象の発生率に差は認められず、良好な忍容性を示した。
【解釈】イルベサルタンは、マルファン症候群の小児および若年成人における大動脈拡張率の低下と関連しており、大動脈合併症の発生を抑制できる。
【助成】英国心臓財団、英国マルファン協会、英国マルファン・トラスト。
第一人者の医師による解説
β遮断薬との併用も可能 広がる内科的治療の選択肢
森崎 裕子 榊原記念病院臨床遺伝科医長
MMJ.June 2020;16(3)
マルファン症候群(MFS)は、全身の結合組織の脆弱化をきたす遺伝性の疾患で、頻度は0.5 ~ 1 万人に1人という稀少疾患である。主な合併症は大動脈の脆弱性による大動脈瘤で、無治療では高率に大動脈解離に至る。解離リスクは大動脈基部径と相関があることから、現行治療の中心は、基部径が拡大した 患者に 予防的大動脈基部人工血管置換術を行う外科的治療であるが、手術による生活の質 (QOL)の低下は否めない。内科的治療としてβ遮断薬が使われてきたが、喘息症状の悪化やふらつきなどの副作用から十分な量が使えず拡張抑制効 果が得られない患者も多かった。
近年、MFS大動脈病変の背景にTGFβシグナル系の過剰応答が判明し、TGFβ抑制効果のあるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が治療薬として浮上し、モデルマウス実験でロサルタンはβ遮断薬を凌駕する治療効果を示した。β遮断薬は、心筋の収縮を抑制し血圧変化を抑えることで大動脈壁のストレスを軽減するという対症療法である。一方、ARBは発症機序を抑制する根本的治療薬として期待されたが、その後の大規模臨床試験においてβ遮断薬に対するロサルタンの優越性は証明されず、「両者の効果はほぼ同等(非劣性)」という結 論に至っている(1)。
今回報告された無作為化プラセボ対照二重盲検試験のAortic Irbesartan Marfan Study(AIMS) では、ルーチン治療(β遮断薬の使用は任意)に長時間作用型 ARBイ ル ベ サ ル タン(開始150mg、 最大300mg)を追加し、プラセボを対照として、 大動脈拡張抑制効果を比較した。英国22施設で登録した6 ~ 40歳のMFS患者192人を対象とし、 最長5年間追跡した。主要評価項目として大動脈基 部径の年間変化量、副次評価項目としてZ スコア変 化量、解離や手術などのイベント発生も解析した。
その結果、心臓超音波検査での大動脈基部径の拡大はイルベサルタン群で0.53mm/年、プラセボ群 で0.74mm/年と有意差を認め、Zスコア評価でも 有意な抑制効果が示された。抑制効果は開始1年目 から認められ、両群とも約半数の患者がβ遮断薬を服用していたにもかかわらず、イルベサルタン 群の80%の患者が300mg/日まで増量可であったと示されている。
β遮断薬には、喘息患者やふらつきなどの副作用を認める患者では使いにくい、といった難点がある。一方、ロサルタンでは血圧抑制効果が不十分という問題があった。今回、降圧効果がより強い長時 間作用型のイルベサルタンで治療効果が認められ、 β遮断薬との併用も可能なことが示されたことで、 今後、内科的治療の選択肢が拡がり、個々の患者の 病態に合わせた治療を選べる方向性がみえてきたといえる。
1. Lacro RV et al. N Engl J Med. 2014;371(22):2061-2071.