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非閉塞性半月板損傷患者における早期手術と理学療法の膝関節機能への影響。ESCAPE Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
非閉塞性半月板損傷患者における早期手術と理学療法の膝関節機能への影響。ESCAPE Randomized Clinical Trial(無作為化臨床試験)。
Effect of Early Surgery vs Physical Therapy on Knee Function Among Patients With Nonobstructive Meniscal Tears: The ESCAPE Randomized Clinical Trial JAMA 2018 Oct 2 ;320 (13 ):1328 -1337 . 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】関節鏡下半月板切除術(APM)は理学療法(PT)よりも有効ではないことを示唆する最近の研究にもかかわらず、この手術は半月板損傷患者に依然として頻繁に行われている。 【目的】半月板損傷患者における患者報告膝機能の改善について、PTがAPMよりも非劣性かどうかを評価する。 【デザイン、設定および参加者】非劣性、多施設、無作為臨床試験をオランダの9病院で実施した。参加者は45~70歳の非閉塞性半月板断裂患者(膝関節のロッキングがない)。膝関節不安定症、重度の変形性関節症、肥満度が35以上の患者さんは除外した。募集は、2013年7月17日から2015年11月4日の間に行われた。参加者は24ヶ月間フォローアップされた(最終参加者フォローアップ、2017年10月11日) 【介入】321名の参加者は、APM(n=159)または事前に定義されたPTプロトコル(n=162)にランダムに割り当てられた。PTプロトコルは、協調運動と閉鎖運動連鎖の強化運動に焦点を当てた8週間16セッションの運動療法で構成された。 主要アウトカムと測定法]主要アウトカムは、国際膝関節文書委員会主観的膝フォーム(範囲、0~100;悪い方から良い方)の患者報告膝機能の24ヶ月フォローアップ期間のベースラインからの変化とした。非劣性マージンは、治療群間の差が8ポイントであると定義され、0.025の片側αで評価された。主要解析はintention-to-treatの原則に従った。 【結果】無作為化された321例(平均[SD]年齢58[6.6]歳,女性161例[50%])中,289例(90%)が試験を完了した(女性161例,男性158例)。PT群では、47人(29%)が24か月の追跡期間中にAPMを発症し、APMに無作為に割り付けられた8人(5%)がAPMを発症しなかった。24ヶ月の追跡期間中、APM群では26.2ポイント(44.8から71.5)、PT群では20.4ポイント(46.5から67.7)膝機能が改善された。全体の群間差は 3.6 ポイント(97.5% CI、-∞~6.5、非劣性の P 値 = 0.001)であった。有害事象は,APM 群で 18 例,PT 群で 12 例に発生した.再手術(APM群3例、PT群1例)および膝痛のための追加外来受診(APM群6例、PT群2例)が最も頻度の高い有害事象だった。 【結論と関連性】非閉塞性半月板断裂の患者において、24か月のフォローアップ期間における患者報告による膝機能の改善に関してPTはAPMに対して非劣位であった。これらの結果から、PTは非閉塞性半月板断裂患者に対する手術の代替療法と考えられる。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01850719。 第一人者の医師による解説 ロッキング症状を伴わない膝関節半月断裂にはまず理学療法を 芳賀 信彦 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座リハビリテーション医学分野教授 MMJ.April 2019;15(2) ロッキング症状を伴わない膝関節半月断裂に対する理学療法の長期成績は、関節鏡視下半月部分切除に劣らないことが、オランダのESCAPE研究で示された。 膝関節半月は、関節の変性プロセスの一部として断裂することがあり、50歳以上では膝関節痛がなくても60%以上に半月断裂を認める。痛みを伴う場合の治療として関節鏡視下半月部分切除術が広く行われるが、一方で理学療法にも短期的な疼痛軽減効果がある。メタ解析では、半月切除術は術後 6カ月までは関節機能と疼痛の面で保存的治療よりも優れる一方、1~2年後までは効果が持続しないと報告されている。2年を超える長期的な効果は不明である。 本研究はオランダの9施設で行われたランダム化比較試験であり、2013~15年に45~70歳の、 ロッキング症状を伴わない膝関節痛を有し、MRIで半月断裂を確認した321人が登録された。約半数が理学療法群に割り付けられ、1回30分の理学療法が8週間にわたり計16回行われた。プログラムは、心肺機能の調整、協調運動・バランス訓練、閉鎖運動連鎖を用いた筋力増強からなる均一なものである。残りは半月切除群に割り付けられた。周術期には自宅で運動療法を行い、回復が不十分な場合は理学療法を受けた。 両群合わせて289人で24カ月間の追跡が可能であった。この間に理学療法群では47人が症状残存のために半月切除術を受けた。半月切除群のうち 8人は手術を受ける選択をせず、また半月切除後 2年以内に2人が人工膝関節置換術を受けた。主要評価項目である膝関節機能(IKDC自己申告スコア) に関するintention-to-treat(ITT)解析において、3 カ月、6カ月および24カ月目までの全体では、理学療法群が半月切除群に劣っていなかった(非劣性が 示された)が、12カ月と24カ月の時点では非劣性が示されなかった。実際に受けた治療による解析 でも同様の結果であった。副次的評価項目である荷 重時の疼痛に関するITT解析では、24カ月までの 全体で半月切除群が理学療法群より優れていたが、 実際に受けた治療による解析では差がなかった。 日本でも過去には変形性膝関節症に対する鏡視 下デブリドマンとして、変性断裂した半月の切除がよく行われていたが、今回の結果のように、短期的には疼痛が軽減し患者は満足するが、数年でむしろ関節症が進むこともあり、近年はあまり積極的には行われていない。膝関節痛の診療にかかわる医師は、本研究の結果も参考にし、ロッキング症状がない状態ではまず理学療法を行い、症状が残存、悪化した場合のみ半月部分切除術を行うスタンスが望ましい。