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アルツハイマー型認知症治療に用いる処方薬と栄養補助食品の便益と有害性
アルツハイマー型認知症治療に用いる処方薬と栄養補助食品の便益と有害性
Benefits and Harms of Prescription Drugs and Supplements for Treatment of Clinical Alzheimer-Type Dementia Ann Intern Med . 2020 May 19;172(10):656-668. doi: 10.7326/M19-3887. Epub 2020 Apr 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】アルツハイマー型認知症(CATD)の薬物治療の効果が明らかになっていない。 【目的】CATD治療に用いる処方薬と栄養補助食品の効果に関する根拠をまとめえること。 【データ入手元】電子文献データベース(開始から2019年11月)、ClinicalTrials.gov(2019年10月)および文献の系統的レビュー。 【試験選択】処方薬と栄養補助食品を用いた高齢CATDの治療を検討し、認知機能や生活機能、全般的評価、認知症の行動と心理症状(BPSD)、有害性を報告した英語の試験。最短治療期間を24週間とした(一部のBPSDは2週間以上)。 【データ抽出】バイアスリスク(ROB)が低度または中等度を示す試験を解析した。レビュアー2人がROBを等級付けした。レビュアー1人がデータを抽出し、別の1人が抽出の精度を検証した。 【データ合成】非BPSD転帰(ほとんどが26週間以下)を報告した試験55件とBPSD(ほとんどが観察期間12週間以下)を報告した12件を解析した。CATDの重症度全般にわたって、主に低強度の根拠から、プラセボと比較したコリンエステラーゼ阻害薬で認知機能が平均してわずかに改善し(標準化平均差[SMD]中央値0.30[範囲0.24-0.52])、生活機能は差がないか、わずかな改善を示し(SMD中央値0.19[範囲-0.10-0.22])、臨床全般印象度に中等度以上の改善の尤度に差がなく(絶対リスク差中央値4%[範囲2-4])、有害事象による治療中止が多かった。コリンエステラーゼ阻害薬を投与する中等症ないし重症CATDで、低強度ないし不十分な根拠から、プラセボと比較してメマンチン追加で一貫性はないが認知機能が改善し、臨床全般印象度も改善を示したが、機能は改善が見られなかった。BPSDに用いる処方薬やあらゆる転帰に及ぼす栄養補助食品の効果に関する根拠が不十分であった。 【欠点】ほとんどの薬剤で高強度のROBを示す試験がほとんどなく、特に栄養補助食品、有効成分の比較、BPSD、長期間の試験に関するものが顕著であった。 【結論】コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンで短期間の認知機能低下が抑制され、コリンエステラーゼ阻害薬でわずかな機能低下抑制が報告されたが、プラセボとの差に臨床的な重要性があるか明らかではなかった。BPSDの薬物治療、あらゆる転帰にもたらす栄養補助食品の効果に関する根拠がほとんど不十分であった。 第一人者の医師による解説 BPSDへの効果やサプリメント類の効果は エビデンス不十分で判断できず 佐藤 謙一郎 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学/岩坪 威 東京大学大学院医学研究科神経病理学教授 MMJ. December 2020;16(6):165 アルツハイマー型認知症(AD)に対する治療として2008年にまとめられた系統的レビュー(1)、また米国家庭医療学会(AAFP)および米国内科医学会(ACP)より発表されたガイドライン(2)においては、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)およびN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬(メマンチン)は、プラセボと比較し、認知機能を統計学的に有意に改善するとされたものの、これらの薬剤使用により臨床的に重要な認知機能・生活機能の改善がどの程度得られるかは不明であった。また日常臨床においては周辺症状(BPSD)に対しても、これらの薬剤はしばしば用いられるが、BPSDに対する効果も不明であった。さらには、ビタミン Dやその他のサプリメント類の効果などについても不明であった。そこで本論文では、AAFPの新ガイドライン出版を見据えて、2008年のエビデンスからさらにアップデートし、上記治療薬・サプリメントの認知機能・生活機能、BPSDなどに対する効果および有害事象について、バイアスリスクが低~中等度の臨床試験を対象に系統的レビューを行った。  解析対象とした試験66件のうち55件がBPSD以外のアウトカムを報告しており、ほとんどの試験で観察期間は26週以下と短期間であった。また12件の試験がBPSDをアウトカムとして報告しており、そのほとんどの観察期間は12週以下とさらに短期間であった。コリンエステラーゼ阻害薬は、プラセボと比較し、認知機能を小幅に改善し、生活機能についてはほとんど改善せず、また有害事象による中止率が高かった。特に中等度以上のADにおいては、(エビデンスは不十分ながらも)メマンチンをコリンエステラーゼ阻害薬に加えた場合、プラセボと比較し、認知機能は改善するが生活機能は改善しなかった。BPSDに対する処方薬のエビデンス、また全アウトカムに対するサプリメント類のエビデンスは不十分であった。  結論としては、既存のコリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチンの認知機能・生活機能に対する効果の位置付けに大きな変化はない。また、今回追加的に検討したBPSDに対する効果やサプリメント類による治療効果についてはエビデンスが不十分で判断できない、という結論になる。 1. Raina P, et al. Ann Intern Med. 2008;148(5):379-397. 2. Qaseem A, et al. Ann Intern Med. 2008;148(5):370-378.
認知機能障害が疑われる高齢者でアルツハイマー型認知症と軽度認知障害や認知機能正常者を見分ける簡易認知機能検査
認知機能障害が疑われる高齢者でアルツハイマー型認知症と軽度認知障害や認知機能正常者を見分ける簡易認知機能検査
Brief Cognitive Tests for Distinguishing Clinical Alzheimer-Type Dementia From Mild Cognitive Impairment or Normal Cognition in Older Adults With Suspected Cognitive Impairment: A Systematic Review Ann Intern Med . 2020 May 19;172(10):678-687. doi: 10.7326/M19-3889. Epub 2020 Apr 28. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】簡易アルツハイマー型認知症(CATD)を検出する認知機能検査の精度と有害性は明らかになっていない。 【目的】認知機能障害が疑われる高齢者でCATDを検出する簡易認知機能検査の精度と有害性に関する科学的根拠をまとめること。 【データ入手元】電子文献データベース(開始から2019年11月まで)と系統的レビューの文献。 【試験選択】高齢者を対象に、既存の診断基準で定義したCATDを軽度認知障害(MCI)または認知機能正常を区別する簡易認知機能検査(個別検査;記憶検査、実行機能検査および言語検査;簡易総合検査)の精度を評価した英語の対照観察試験。リスクバイアス(ROB)が低度または中等度を示した試験を解析対象とした。 【データ抽出】レビュアー2人がROBを等級付けした。レビュアー1人がデータを抽出した、もう1人が抽出精度を検証した。 【データ合成】57試験が解析基準を満たした。多くの簡易個別認知機能検査で、正常認知機能とCATDを見分ける感度および特異度が良好で、個別検査(時計描画検査:感度中央値0.79、特異度中央値0.88[8試験]、Mini-Mental State Examination[MMSE]:0.88と0.94[7試験]、Montreal Cognitive Assessment:0.94と0.94[2試験]、Brief Alzheimer Screen:0.92と0.97[1試験])、記憶検査(記憶遅延再生:0.89と0.94[5試験])および言語検査(意味流暢性課題:0.92と0.89[9試験])が検討されていた。軽度CATDと正常認知機能、CATDとMCIを見分ける精度が低かった。検査の有害性を報告した試験はなかった。 【欠点】試験の規模が小さかった点、複数の試験で評価した測定基準がほとんどなかった点、別の検査やスコア、カットオフ値、検査の組み合わせを直接比較した試験がほとんどなかった点。 【結論】多くの簡易個別認知機能検査で、高齢者のCATDと正常認知機能を正確に見分けることができるが、軽度CATDと正常認知機能、CATDとMCIを見分ける場合は精度が低下した。検査が有害であることを報告した試験はなかった。 第一人者の医師による解説 簡易認知機能検査によりさらに詳細な検査を行うべき「候補」を決めるとよい 福井 俊哉 花咲会かわさき記念病院病院長 MMJ. December 2020;16(6):166 臨床的にアルツハイマー病が示唆される認知症(clinical Alzheimer-type dementia;CATD)の診断は認知症を専門としないプライマリケア医にとっては結構難しい。CATDの診断は、詳細な病歴、問診、身体的診察、形態的・機能的画像所見、脳脊髄液バイオマーカーに加えて、記憶・判断・視空間認知・実行機能などを質的・量的に評価する詳細な認知検査の結果に基づいて総合的に下されるが、この過程は認知機能低下を有する患者と非専門医にとって負担が大きい。残念ながらいまだに簡易認知機能検査がCATDを軽度認知障害(MCI)や認知機能正常者(以下、正常者)から区別できるというエビデンスはない。本論文ではこの点に焦点を当て、簡易認知機能検査の認知症診断能力に関する英語論文を網羅し、どの検査がこの目的に対して有用かについてレビューを行った。論文の引用基準として、CATD/MCIが既存の診断基準(NINCDSADRDA/Petersen criteriaなど)に基づいていること(正常者の定義はさまざま)、各認知機能レベル群25人以上であること、関連因子がもたらすバイアスのリスクが中等度以下であること、検査をすることのデメリット(社会的偏見や不要な治療)について考察されていることなどが設定されている。これらの条件を満たした横断的対照観察研究は57/5,007編あった。  個別的認知機能検査(時計描画検査、記憶検査、言語検査)および総合的認知機能検査(Mini-Mental State Examination[MMSE]、Montreal Cognitive Assessment[MoCA]、Brief Alzheimer Screen)が検討された。CATDと正常者の鑑別において、MMSE、MoCA、BriefAlzheimer Screen、記憶遅延再生、意味性語想起の感度・特異度は高く90%を超えていた。さらにCATDが重度になると、感度・特異度は上がる傾向にあった。一方、CATDとMCI、また軽度CATDと正常者の鑑別においては各検査とも感度・特異度が80%程度に低下した。検査施行が有害であったとの報告はなかった。  結論は、「簡易認知機能検査 は 中等度以上のCATDを正常者から区別する感度・特異度は高いが、CATDとMCI、軽度CATDと正常者を区別する能力は低い」である。将来、CATD/MCI/正常者を正確に診断する簡易認知機能検査を開発する必要があると締めくくられている。実臨床では簡易認知機能検査を用いてCATDを「推定」し、詳しい診断過程を必要とする「候補」を決定するとよい。