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米国心臓病学会/米国心臓協会および欧州心臓病学会のガイドラインを支持するエビデンスレベル、2008-2018年。
米国心臓病学会/米国心臓協会および欧州心臓病学会のガイドラインを支持するエビデンスレベル、2008-2018年。
Levels of Evidence Supporting American College of Cardiology/American Heart Association and European Society of Cardiology Guidelines, 2008-2018 JAMA 2019 Mar 19 ;321 (11):1069 -1080. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】臨床上の意思決定は,臨床転帰を評価する複数の無作為化対照試験(RCT)から得られたエビデンスに基づくことが理想的であるが,歴史的に,この種のエビデンスに完全に基づく臨床ガイドラインの推奨はほとんどない。 【目的】現在の主要循環器学会ガイドラインの推奨を支えるクラスと証拠レベル(LOE),およびLOEの経時変化を明らかにすることである。 【データ入手元】心臓血管学会のウェブサイトで確認された現在の米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)および欧州心臓病学会(ESC)の臨床ガイドライン文書(2008~2018)、および現在のガイドライン文書で参照されたこれらのガイドライン文書の直前の文書(1999~2014)。 研究選択]クラスおよびLOEによって整理された勧告を含む包括的なガイドライン文書。[データの抽出と統合]各ガイドライン文書について、推奨の数とLOEの分布(A[複数のRCTまたは単一の大規模RCTからのデータによって支持されている]、B[観察研究または単一のRCTからのデータによって支持されている]、C[専門家の意見のみによって支持されている])を決定した。 主要な成果と 【測定】複数のRCTからの証拠(LOE A)により支持されたガイドラインの推奨の比率を決定した。 【結果】現行のACC/AHAガイドライン26件(2930の勧告、中央値、ガイドラインあたり121の勧告[25~75%値、76~155])において、248の勧告(8.5%)がLOE A、1465(50.0%)がLOE B、1217(41.5%)がLOE Cとして分類されており、中央値はLOE A勧告の割合が7.9%となった(25-75%値、0.9%~15.2%)。現行のESCガイドライン25文書(3399の勧告,中央値,ガイドラインあたり130の勧告[25th-75thパーセンタイル,111-154])全体では,484の勧告(14.2%)がLOE A,1053(31.0%)がLOE B,1862(54.8%)がLOE Cと分類された. 【結論と関連性】主要な心臓血管学会のガイドラインにおける推奨事項のうち、複数のRCTまたは単一の大規模RCTからのエビデンスによって支持されているものはごくわずかであった。このパターンは、2008年から2018年にかけて有意義に改善されていないようである。 第一人者の医師による解説 RCTと相補的な実臨床データの知見 EBM発展に重要 山下 侑吾/木村 剛(教授) 京都大学大学院医学研究科循環器内科学 MMJ.August 2019;15(4) 医学・医療の進歩は、医学研究により推進されてきた。臨床医学の世界では、従来の経験に基づく医療から、科学的根拠に基づく医療(EBM)が、1980年代後半より提唱され、現在広く普及している。 EBMの目指すところは、最良の定量的データを基に、個々の患者での状況を考慮したうえで、客観的かつ効率的な診療を行うことと言える。これまでに循環器領域では、多数の臨床研究が実施されエビデンスが蓄積されてきた。異なる治療方法を比較 する際には、ランダム化比較試験(RCT)がゴールドスタンダードであった。 本論文では、2008~18年に、米国と欧州の循環器領域の主要学会(ACC/AHA、ESC)より発刊されたガイドラインの推奨事項の中で、そのエビデンスレベルの割合と経年的な推移が調査された。 同ガイドラインでは、個々の推奨事項を高い順にエビデンスレベル AからCに分類し、複数のRCT もしくは大規模な単一のRCTによる結果に基づいた推奨事項を、一番高いエビデンスレベル Aとし ている。 結果として、エビデンスレベル Aの推奨事項の割合は、8.5%(ACC/AHA)および14.2% (ESC)に過ぎず、その割合は経年的に大きな変化を認めなかったと報告している。循環器領域では、毎年数多くのRCTを含めた臨床研究が継続的に報告されている状況を考えると、本結果はやや意外な結果であったが、推奨事項のエビデンスレベル Cが減少し、Bが増加している傾向を見る限りは、 エビデンスが蓄積していることも示唆している。一方、より高いエビデンスレベルに裏打ちされた 推奨事項を増やすためには、RCTを含めた臨床研究がこれからも継続的に必要であることを示唆する報告であると考えられる。 今後も、異なる治療方法の比較においては、RCT がゴールドスタンダードであることに変わりはないと考えられるが、近年はRCTの限界も認識されつつある。EBMの目指すところである「個々の患者での状況を考慮したうえでの最良の診療」を日常臨床で実践するためには、RCTのみならず、実臨床での実態や問題点を明らかにするための「観察研究」 (リアルワールドデータ)からの知見も重要である。 これらの研究は、互いに相補的なものであると考えられ、EBMの発展のために今後もRCTを含めたさまざまな臨床研究が継続されることが期待される。 さらに、ガイドラインの推奨の多くが十分なエビデンスに基づかないことを考えると、ガイドラインは妄信すべきマニュアルではなく、推奨のエビデンスレベルと個々の患者の状況を考慮して患者にとってその時点で最良と考えられる治療法を決定するための重要な参考資料と捉えるべきであろう。