「虫垂切除術」の記事一覧

APPAC無作為化臨床試験における単純性(合併症のない)急性虫垂炎に対する抗菌化学療 法の5年追跡調査
APPAC無作為化臨床試験における単純性(合併症のない)急性虫垂炎に対する抗菌化学療 法の5年追跡調査
Five-Year Follow-up of Antibiotic Therapy for Uncomplicated Acute Appendicitis in the APPAC Randomized Clinical Trial JAMA 2018 Sep 25;320(12):1259-1265. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】短期的な結果は、合併症のない急性虫垂炎の治療において手術の代わりに抗生物質を使用することを支持しているが、長期的な結果は知られていない。 【目的】合併症のない急性虫垂炎の治療に抗生物質を使用した後の虫垂炎の後期再発率を明らかにする。 【デザイン、設定および参加者】虫垂切除術と抗生物質療法を比較した多施設共同無作為化臨床試験(Appendicitis Acuta(APPAC))における患者の5年間の観察追跡調査。コンピュータ断層撮影で合併症のない急性虫垂炎が確認された18~60歳の患者530人を,虫垂切除術を受ける群(n=273)と抗生物質療法を受ける群(n=257)に無作為に割り付けた。最初の試験は2009年11月から2012年6月までフィンランドで実施され、最終フォローアップは2017年9月6日だった。今回の解析では、抗生物質のみで治療した患者群の5年間の転帰を評価することに焦点を当てた。 【介入】開腹盲腸手術 vs テルタペネムを3日間静注した後、レボフロキサシンとメトロニダゾールを7日間経口投与する抗生物質療法。本解析では、5年後の追跡調査において、抗生物質治療後の晩期(1年後)の虫垂炎の再発、合併症、入院期間、病欠などの副次的評価項目を事前に規定した。 【結果】本試験に登録された530名の患者(女性201名、男性329名)のうち、273名(年齢中央値、35歳[IQR、27-46])が盲腸手術を受ける群に、257名(年齢中央値、33歳[IQR、26-47])が抗生物質治療を受ける群に無作為に割り付けられた。最初に抗生物質を投与されたものの、最初の1年以内に盲腸手術を受けた70名(27.3%[95%CI、22.0%-33.2%]、70/256名)に加え、さらに30名の抗生物質治療を受けた患者(16.1%[95%CI、11.2%-22.2%]、30/186名)が1年から5年の間に盲腸手術を受けました。虫垂炎の再発の累積発生率は、2年目に34.0%(95%CI、28.2%~40.1%、87/256人)、3年目に35.2%(95%CI、29.3%~41.4%、90/256人)、4年目に37.1%(95%CI、31.2%~43.3%、95/256人)、5年目に39.1%(95%CI、33.1%~45.3%、100/256人)であった。抗生物質投与群で、その後、再発した虫垂炎のために虫垂切除術を受けた85人のうち、76人は合併症のない虫垂炎、2人は合併症のある虫垂炎、7人は虫垂炎ではなかった。5年後の全体の合併症率(手術部位感染、切開ヘルニア、腹痛、閉塞症状)は、盲腸手術群が24.4%(95%CI、19.2%~30.3%)(n=60/246)、抗生物質投与群が6.5%(95%CI、3.8%~10.4%)(n=16/246)であり(P<0.001)、術後に17.9%ポイント(95%CI、11.7~24.1)高くなる計算となった。入院期間は両群間で差がなかったが、病欠には有意な差があった(盲腸手術群が11日多い)。 【結論と関連性】合併症のない急性虫垂炎に抗生物質で初期治療を受けた患者のうち、5年以内の晩期再発の可能性は39.1%であった。この長期追跡調査は、合併症のない急性虫垂炎に対する手術の代替として、抗生物質治療のみを行う可能性を支持するものである。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT01022567。 第一人者の医師による解説 虫垂切除と抗菌化学療法 患者が選択できるよう情報提供が必要 佐々木 淳一 慶應義塾大学医学部救急医学教授 MMJ.February 2019;15(1):11 急性虫垂炎の標準的治療は、過去1世紀以上にわたり、手術(虫垂切除術)であるという概念が確立されていた。抗菌薬の開発以降、急性虫垂炎に対する抗菌化学療法の有効性を示す無作為化対照試験 (RCT)やメタ解析などの結果が発表されたが、いずれも追跡が短期間であった。このため、臨床現場 では穿孔や腹腔内膿瘍形成などの合併症を避けるため、依然として虫垂切除術が標準的治療として君臨 している。ここで、合併症のない急性虫垂炎において抗菌化学療法が手術の代替治療になりうることを長期間の追跡結果に基づき示そうとした研究が、今回報告されたAPPAC(The Appendicitis Acuta)である。 APPACでは、虫垂切除術と抗菌化学療法に割り付けた合併症のない急性虫垂炎患者を10年後まで 追跡する計画を立て、抗菌化学療法群257人と手術 (虫垂切除術)群273人がフィンランド国内6病院から登録された。治療後の評価は外科医が担当し、穿孔、腹膜炎などにより手術が必要になった場合には 抗菌薬化学療法群にも手術を実施することとされ た。主要エンドポイントは、抗菌化学療法群が手術を要さない退院および1年時点の非再発、手術群は 虫垂切除術の成功である。1年間の追跡結果(1)によると、抗菌化学療法成功率は72.7%(186/256)であった。しかし、1年時点でのintention-to-treat(ITT) 解析による両群間の治療効果差は- 27.0%で、虫垂切除術に対する抗菌化学療法の非劣性を示すことはできなかった(非劣性マージン24%)。 本論文ではAPPAC の5年間の追跡結果が報告された。抗菌化学療法群、手術群ともに246人で、抗菌化学療法群の急性虫垂炎の累積再発率は、1年時 点で27.3%、2年時点で34.0%、3年時点で35.2%、 4年時点で37.1%、5年時点で39.1%であった。一方、 5年時点の全合併症(創感染、瘢痕ヘルニア、腹痛、 狭窄症状など)発生率は手術群24.4%、抗菌化学療 法群6.5%、抗菌化学療法群で有意に低かった。これらの結果より、抗菌化学療法は手術の代替治療法として有用なことが示唆されたと結論付けられている。しかし、割り付け後の治療がプロトコールではなく個々の外科医の裁量に委ねられており、必要以上に虫垂切除が行われた可能性があること、手術が現在主流となっている腹腔鏡下ではなく開腹であったこと、抗菌化学療法が最適な処方内容であったか不明であること、抗菌薬に起因した耐性菌問題について検討されていないことなど、いくつかの問題点が指摘されている。単純性(合併症を伴わない)急性虫垂炎の標準的治療は虫垂切除から抗菌化学療法に変わったというには、10年時点での結果も含め、さらなる検討が必要である。しかし、患者に抗菌化学療法と手術に関する情報を提供し、意思決定できるようにすべきであろう。 1. Salminen P, et al. JAMA. 2015;313(23):2340-2348.