「MS」の記事一覧

再発寛解型多発性硬化症患者における非血小板造血幹細胞移植と疾患修飾療法継続の疾患進行への影響。無作為化臨床試験。
再発寛解型多発性硬化症患者における非血小板造血幹細胞移植と疾患修飾療法継続の疾患進行への影響。無作為化臨床試験。
Effect of Nonmyeloablative Hematopoietic Stem Cell Transplantation vs Continued Disease-Modifying Therapy on Disease Progression in Patients With Relapsing-Remitting Multiple Sclerosis: A Randomized Clinical Trial JAMA 2019 Jan 15 ;321 (2):165 -174. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】造血幹細胞移植(HSCT)は、再発型多発性硬化症(MS)における進行性障害を遅らせる、あるいは予防するために有用なアプローチとなりうる。 【目的】非ミエロ切除型HSCTと疾患修飾療法(DMT)の疾患進行への影響を比較する。 【デザイン、設定および参加者】2005年9月20日から2016年7月7日の間に、米国、欧州、南米の4施設で、再発寛解型MSで、前年度にDMTを受けている間に2回以上再発し、拡張障害状態スケール(EDSS:スコア範囲、0~10[10=最悪の神経学的障害])のスコアが2.0~6.0の患者計110名を無作為に割り付けた。最終フォローアップは2018年1月、データベースロックは2018年2月に行われた。 【介入】患者は、シクロホスファミド(200mg/kg)および抗胸腺細胞グロブリン(6mg/kg)と共に造血幹細胞移植を受けるか(n=55)、より有効性の高いDMTまたは前年中に服用したDMTと異なるクラスのDMTを受けるかに無作為に分けられた(n=55) 【主なアウトカムと測定】主要エンドポイントは疾患進行(少なくとも1年後にEDSSスコア上昇が1.0と定義)とし、EDSSスコア上昇は、1.0とした。 【結果】無作為化された110例(女性73例[66%],平均年齢36[SD,8.6]歳)のうち,103例が試験に残り,98例が1年後,23例が5年間毎年評価された(追跡期間中央値2年,平均値2.8年)。疾患の進行は造血幹細胞移植群で3例、DMT群で34例に認められた。進行までの期間の中央値は、HSCT群ではイベントが少なすぎたため算出できなかった。DMT群では24ヵ月(四分位範囲、18~48ヵ月)だった(ハザード比、0.07;95%CI、0.02~0.24;P < 0.001)。最初の1年間で、平均EDSSスコアは、造血幹細胞移植群で3.38から2.36に減少(改善)し、DMT群で3.31から3.98に増加(悪化)した(群間平均差、-1.7;95%CI、-2.03から-1.29;P < 0.001)。死亡例はなく、造血幹細胞移植を受けた患者には非造血グレード4の毒性(心筋梗塞、敗血症、その他の生命を脅かす障害または可能性のある事象など)は認められなかった。 【結論と関連性】再発型MS患者のこの予備研究では、DMTと比較して非血小板造血幹細胞移植は疾患進行までの時間を延長する結果となった。これらの知見を再現し、長期的な転帰と安全性を評価するためにさらなる研究が必要である。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT00273364。 第一人者の医師による解説 長期での疾患活動性の再燃 今後の検証課題 吉良 潤一 九州大学大学院医学研究院神経内科学教授 MMJ.June 2019;15(3) 多発性硬化症(MS)の約90%は、再発寛解型で発症し、その後再発と関係なく徐々に障害が進行する2次進行型に移行する。残りの10%程度は、 最初から再発がなく緩徐に障害が増悪する1次進行型を呈する。再発寛解型 MSに対しては、疾患修飾薬の進歩がめざましい。これらは、再発寛解型の再発を減らし障害の進行を遅らせるが、課題としてnon-responderが一定の割合でどの薬剤でも存在すること、進行型にはほとんど効果がないことが挙げられる。最近、2次進行型にシポニモド、1次進行型にオクレリズマブ(抗 CD20抗体)が部分的に有効であることが報告され注目を集めた。しかし、既存の疾患修飾薬では疾患活動性の高いMSや進 行型 MSの治療効果が限定的である状況は続いている。そこで、骨髄非破壊的造血幹細胞移植(HSCT) が非対照試験で試みられ、MSに対する有用性が報告されている(1)。 本研究は、HSCTの治療効果を、既存の疾患修飾薬と無作為化臨床試験で比較した点が大きな特徴である。先行する1年間に2回以上の臨床再発または1回の臨床再発とそれとは異なる時期に造影病巣を認めた再発寛解型 MS患者110人を、 55人ずつHSCTまたは各種疾患修飾薬の継続に無作為に割り付けた。主要評価項目は、Expanded Disability Status Scale(EDSS)でみた1段階以上(EDSSが6を超える患者では0.5以上)の障害進行を示すまでの期間である。中央値2年(平均2.8 年)の観察期間で障害が進行した患者は、HSCT群で3人、疾患修飾薬群では34人だった。障害進行までの期間は、HSCT群が疾患修飾薬群に比べて有 意に長かった(P<0.001)。1年後の平均 EDSS はHSCT群では3.38から2.36に改善したが、疾患修飾薬群では3.31から3.98に悪化し、この差は有意だった(P<0.001)。副次的評価項目である1年間で再発を起こした患者の割合も、HSCT群 2%に対して疾患修飾薬群69%と有意に低かった (P<0.001)。死亡や有害事象(4度)の重大な副作用は両群ともみられなかった。 本研究はエントリーした患者数が少ないにもかかわらず、疾患活動性の高いMSに対してHSCTが 既存の疾患修飾薬に勝る治療効果を示すことを、無作為化試験により初めて明らかにした点で意義が大きい。しかし、1年後には疾患修飾薬からHSCT への変更が認められていたため長期の比較ができていない点、疾患修飾薬にアレムツズマブやオクレリズマブなどの強力な治療薬が含まれていない点、障害進行の評価では盲検性が保たれていたものの再発の評価は盲検でなかった点などが課題である。特に長期でみた場合に疾患活動性が再燃しないかという点の検証は今後に残されている。 1. Burt RK, et al. JAMA. 2015;313(3):275-284.
初回疾患修飾療法とその後の二次進行性多発性硬化症への転化との関連性。
初回疾患修飾療法とその後の二次進行性多発性硬化症への転化との関連性。
Association of Initial Disease-Modifying Therapy With Later Conversion to Secondary Progressive Multiple Sclerosis JAMA 2019 Jan 15 ;321 (2):175 -187. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要】発症から20年以内に、未治療の再発性多発性硬化症(MS)患者の80%が二次進行性MSと呼ばれる不可逆的な障害発生の段階へと移行する。疾患修飾治療(DMT)とこの転換との関連はほとんど研究されておらず、有効な定義を用いたこともない。 【目的】有効な定義で診断された二次進行性MSへの転換リスクとDMTの使用、種類、時期との関連を明らかにすること。 【デザイン、設定および参加者】1988-2012年にDMT(または臨床モニタリング)を開始し、最低4年間のフォローアップを行った再発寛解型MS患者を対象に、21か国68の神経センターからの前向きデータによるコホート研究。 【曝露】インターフェロンβ、グラチラマー酢酸、フィンゴリモド、ナタリズマブ、アレムツズマブのDMT使用、タイプ、タイミングを評価した。傾向スコアマッチング後、1555例が組み入れられた(最終フォローアップ、2017年2月14日)。 【主要アウトカムおよび測定】客観的に定義された二次進行性MSへの転換。 【結果】1555例中、1123例が女性だった(平均基準年齢、35歳[SD、10])。グラチラマー酢酸塩またはインターフェロンβによる初期治療を受けた患者は、マッチさせた未治療の患者よりも二次進行性MSへの転換のハザードが低かった(HR、0.71;95%CI、0.61-0.81;P < .001;5年間の絶対リスク、12%[407例中49例] vs 27%[213例中58例];フォローアップ中央値、7.6年[IQR, 5.8-9.6]) フィンチモリモドは(HR、0.37;95%CI、0.22-0.62;P < .001; 5年間の絶対リスク)、同様に無治療の患者は、グラチラマー酢酸塩による初期治療を受けた患者と同じように、一次進行を示すMSへの転換のハザードが低いことが示された。001;5年絶対リスク7%[85例中6例]対32%[174例中56例];追跡期間中央値4.5年[IQR、4.3-5.1]);ナタリズマブ(HR、0.61;95%CI、0.43-0.86;P = .005;5年絶対リスク19%[82例中16例]対 38%[164 例];追跡期間中央値4.5年;IQR、4.3-5.1])。9年[IQR, 4.4-5.8]);およびアレムツズマブ(HR, 0.52; 95% CI, 0.32-0.85; P = .009; 5年絶対リスク, 10%[4 of 44] vs 25%[23 of 92];フォローアップ中央値 7.4 年 [IQR, 6.0-8.6])。フィンゴリモド,アレムツズマブ,またはナタリズマブによる初期治療は,グラチラマー酢酸塩またはインターフェロンβによる初期治療よりも転化のリスクが低かった(HR,0.66;95% CI,0.44-0.99;P = .046);5 年絶対リスク,7%[235 例中 16 例]対 12%[380 例中 46 例];フォローアップ中央値 5.8 年[IQR,4.7-8.0])。グラチラマー酢酸塩またはインターフェロンβを発症から5年以内に開始した場合とそれ以降に開始した場合では、転換の確率が低かった(HR、0.77;95%CI、0.61-0.98;P = .03;5年絶対リスク、3%[120例中4例]対6%[38例中2例];追跡期間中央値、11.4年[IQR、18.1年])。グラチラマー酢酸塩またはインターフェロンβを5年以内にフィンゴリモド、アレムツズマブ、またはナタリズマブにエスカレーションした場合とそれ以降の場合では、HRは0.76(95%CI、0.66-0.88;P < 0.001;5年絶対リスク、8%[307例中25例] vs 14%[331例中46例]、フォローアップ中央値、5.3年[IQR]、4.6-6. 【結論と関連性】再発寛解型MS患者において、フィンゴリモド、アレムツズマブ、ナタリズマブの初期治療は、グラチラマー酢酸塩またはインターフェロンβの初期治療と比較して二次進行型MSへの転換リスクが低いことと関連していた。これらの知見は、これらの治療法のリスクと合わせて考慮することで、DMTの選択に関する意思決定に役立つと思われます。 第一人者の医師による解説 病態修飾薬間での2次性進行型多発性硬化症への進展リスクの比較 久冨木原 健二/中原 仁(教授) 慶應義塾大学医学部神経内科 MMJ.August 2019;15(4) 多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)は 若年女性に多い疾患であり、多くが再発寛解型 MS (relapsing-remitting MS;RRMS)で 発症する。 自然経過では発症から20年の間に8割の症例が、不可逆的に障害が進行する2次性進行型 MS (secondary progressive MS;SPMS)に 進展する。現在 SPMSに対してエビデンスのある治療はなく、いかにその進展を阻止するかが治療の課題となっていた。本研究では、このRRMSからSPMSへ の進展リスクと病態修飾薬(disease modifying drug;DMD)の選択との関連について、 インターフェロンβ-1a/1b(IFNβ)、グラチラマー 酢酸塩(GA)、フィンゴリモド(FTY)、ナタリズマブ(NTZ)、アレムツズマブ(日本未承認)の計6種 類のDMDで検討した。 本研究は主にMSBase(1)のデータを利用した前向きコホートのリアルワールドスタディーである。 1988~2012年の期間で21カ国68施設を受診したRRMS患者に対して傾向スコアマッチングを行い、適合した1,555人を対象とした。 その結果、① DMD投与群と無治療群で5年間で のSPMS進展リスクを比較し、IFNβ群もしくは GA群(IFN/GA群)におけるハザード比(HR)は 0.71、FTY群では 0.37、NTZ群では0.61、アレ ムツズマブ群では0.52であり、すべてのDMDにおいて無治療群よりもSPMS進展リスクは有意に低かった。②第1選択薬がFTY、NTZまたはアレムツズマブの群とIFN/GA群を比較したHRは0.66 で、前者の方がSPMS進展リスクは有意に低かった。 ③ IFN/GA群の中で、DMD投与開始がRRMS発症 5年以内の群と5年以降の群を比較したHRは0.77 で、早期開始群の方がSPMS進展リスクは有意に低かった。④ IFNβもしくはGAからFTY、NTZ、ア レムツズマブへ切り替える時期による解析では、 発症から5年以内の群の方が5年以降の群よりも SPMS進展リスクは有意に低かった(HR, 0.76)。 本論文中にも記載があるように、FTY、NTZ、アレムツズマブはIFNβおよびGAより再発を抑えることは知られていた。しかしながら、RRMSの再 発を抑制しても長期予後に影響しないという報告以来(2)、DMDの選択基準は安全性が主となり、効果は劣るが安全性の高いIFNβやGAが第1選択として用いられ、効果は勝るが安全性の確立していないFTY、NTZ、アレムツズマブなどが第2選択以降で用いられるescalation therapyが主流であった。そのような背景の中で今回のリアルワールドスタディーでそれぞれのDMDでの長期予後が差別化され、治療導入時から効果の強いDMDを用いる induction therapyの有益性を立証する形となった。 1. IIngram G, et al. Mult Scler. 2010;16(4):472-479. 2. Haider L, et al. Brain. 2011;134(Pt 7):1914-1924.