ライブラリー 初回疾患修飾療法とその後の二次進行性多発性硬化症への転化との関連性。
Association of Initial Disease-Modifying Therapy With Later Conversion to Secondary Progressive Multiple Sclerosis
JAMA 2019 Jan 15 ;321 (2):175 -187.
上記論文のアブストラクト日本語訳
※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。
【重要】発症から20年以内に、未治療の再発性多発性硬化症(MS)患者の80%が二次進行性MSと呼ばれる不可逆的な障害発生の段階へと移行する。疾患修飾治療(DMT)とこの転換との関連はほとんど研究されておらず、有効な定義を用いたこともない。
【目的】有効な定義で診断された二次進行性MSへの転換リスクとDMTの使用、種類、時期との関連を明らかにすること。
【デザイン、設定および参加者】1988-2012年にDMT(または臨床モニタリング)を開始し、最低4年間のフォローアップを行った再発寛解型MS患者を対象に、21か国68の神経センターからの前向きデータによるコホート研究。
【曝露】インターフェロンβ、グラチラマー酢酸、フィンゴリモド、ナタリズマブ、アレムツズマブのDMT使用、タイプ、タイミングを評価した。傾向スコアマッチング後、1555例が組み入れられた(最終フォローアップ、2017年2月14日)。
【主要アウトカムおよび測定】客観的に定義された二次進行性MSへの転換。
【結果】1555例中、1123例が女性だった(平均基準年齢、35歳[SD、10])。グラチラマー酢酸塩またはインターフェロンβによる初期治療を受けた患者は、マッチさせた未治療の患者よりも二次進行性MSへの転換のハザードが低かった(HR、0.71;95%CI、0.61-0.81;P < .001;5年間の絶対リスク、12%[407例中49例] vs 27%[213例中58例];フォローアップ中央値、7.6年[IQR, 5.8-9.6]) フィンチモリモドは(HR、0.37;95%CI、0.22-0.62;P < .001; 5年間の絶対リスク)、同様に無治療の患者は、グラチラマー酢酸塩による初期治療を受けた患者と同じように、一次進行を示すMSへの転換のハザードが低いことが示された。001;5年絶対リスク7%[85例中6例]対32%[174例中56例];追跡期間中央値4.5年[IQR、4.3-5.1]);ナタリズマブ(HR、0.61;95%CI、0.43-0.86;P = .005;5年絶対リスク19%[82例中16例]対 38%[164 例];追跡期間中央値4.5年;IQR、4.3-5.1])。9年[IQR, 4.4-5.8]);およびアレムツズマブ(HR, 0.52; 95% CI, 0.32-0.85; P = .009; 5年絶対リスク, 10%[4 of 44] vs 25%[23 of 92];フォローアップ中央値 7.4 年 [IQR, 6.0-8.6])。フィンゴリモド,アレムツズマブ,またはナタリズマブによる初期治療は,グラチラマー酢酸塩またはインターフェロンβによる初期治療よりも転化のリスクが低かった(HR,0.66;95% CI,0.44-0.99;P = .046);5 年絶対リスク,7%[235 例中 16 例]対 12%[380 例中 46 例];フォローアップ中央値 5.8 年[IQR,4.7-8.0])。グラチラマー酢酸塩またはインターフェロンβを発症から5年以内に開始した場合とそれ以降に開始した場合では、転換の確率が低かった(HR、0.77;95%CI、0.61-0.98;P = .03;5年絶対リスク、3%[120例中4例]対6%[38例中2例];追跡期間中央値、11.4年[IQR、18.1年])。グラチラマー酢酸塩またはインターフェロンβを5年以内にフィンゴリモド、アレムツズマブ、またはナタリズマブにエスカレーションした場合とそれ以降の場合では、HRは0.76(95%CI、0.66-0.88;P < 0.001;5年絶対リスク、8%[307例中25例] vs 14%[331例中46例]、フォローアップ中央値、5.3年[IQR]、4.6-6.
【結論と関連性】再発寛解型MS患者において、フィンゴリモド、アレムツズマブ、ナタリズマブの初期治療は、グラチラマー酢酸塩またはインターフェロンβの初期治療と比較して二次進行型MSへの転換リスクが低いことと関連していた。これらの知見は、これらの治療法のリスクと合わせて考慮することで、DMTの選択に関する意思決定に役立つと思われます。
第一人者の医師による解説
病態修飾薬間での2次性進行型多発性硬化症への進展リスクの比較
久冨木原 健二/中原 仁(教授) 慶應義塾大学医学部神経内科
MMJ.August 2019;15(4)
多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)は 若年女性に多い疾患であり、多くが再発寛解型 MS (relapsing-remitting MS;RRMS)で 発症する。 自然経過では発症から20年の間に8割の症例が、不可逆的に障害が進行する2次性進行型 MS (secondary progressive MS;SPMS)に 進展する。現在 SPMSに対してエビデンスのある治療はなく、いかにその進展を阻止するかが治療の課題となっていた。本研究では、このRRMSからSPMSへ の進展リスクと病態修飾薬(disease modifying drug;DMD)の選択との関連について、 インターフェロンβ-1a/1b(IFNβ)、グラチラマー 酢酸塩(GA)、フィンゴリモド(FTY)、ナタリズマブ(NTZ)、アレムツズマブ(日本未承認)の計6種 類のDMDで検討した。
本研究は主にMSBase(1)のデータを利用した前向きコホートのリアルワールドスタディーである。 1988~2012年の期間で21カ国68施設を受診したRRMS患者に対して傾向スコアマッチングを行い、適合した1,555人を対象とした。
その結果、① DMD投与群と無治療群で5年間で のSPMS進展リスクを比較し、IFNβ群もしくは GA群(IFN/GA群)におけるハザード比(HR)は 0.71、FTY群では 0.37、NTZ群では0.61、アレ ムツズマブ群では0.52であり、すべてのDMDにおいて無治療群よりもSPMS進展リスクは有意に低かった。②第1選択薬がFTY、NTZまたはアレムツズマブの群とIFN/GA群を比較したHRは0.66 で、前者の方がSPMS進展リスクは有意に低かった。 ③ IFN/GA群の中で、DMD投与開始がRRMS発症 5年以内の群と5年以降の群を比較したHRは0.77 で、早期開始群の方がSPMS進展リスクは有意に低かった。④ IFNβもしくはGAからFTY、NTZ、ア レムツズマブへ切り替える時期による解析では、 発症から5年以内の群の方が5年以降の群よりも SPMS進展リスクは有意に低かった(HR, 0.76)。
本論文中にも記載があるように、FTY、NTZ、アレムツズマブはIFNβおよびGAより再発を抑えることは知られていた。しかしながら、RRMSの再 発を抑制しても長期予後に影響しないという報告以来(2)、DMDの選択基準は安全性が主となり、効果は劣るが安全性の高いIFNβやGAが第1選択として用いられ、効果は勝るが安全性の確立していないFTY、NTZ、アレムツズマブなどが第2選択以降で用いられるescalation therapyが主流であった。そのような背景の中で今回のリアルワールドスタディーでそれぞれのDMDでの長期予後が差別化され、治療導入時から効果の強いDMDを用いる induction therapyの有益性を立証する形となった。
1. IIngram G, et al. Mult Scler. 2010;16(4):472-479.
2. Haider L, et al. Brain. 2011;134(Pt 7):1914-1924.