「腎代替療法」の記事一覧

重症急性腎障害に用いる腎代替療法の遅延と早期開始 系統的レビューと無作為化試験の患者個人データのメタ解析
重症急性腎障害に用いる腎代替療法の遅延と早期開始 系統的レビューと無作為化試験の患者個人データのメタ解析
Delayed versus early initiation of renal replacement therapy for severe acute kidney injury: a systematic review and individual patient data meta-analysis of randomised clinical trials Lancet . 2020 May 9;395(10235):1506-1515. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30531-6. Epub 2020 Apr 23. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】生命を脅かす合併症がない場合の重症急性腎障害に腎代替療法(RRT)を実施するタイミングは活発に議論されている。著者らは、早期RRT実施と比較した遅延RRTが重症急性腎障害の重症患者の28日時生存率に影響を及ぼすかを評価した。 【方法】この系統的レビューと患者個人データのメタ解析では、MEDLINE(PubMed経由)、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trialsで、2008年4月1日から2019年12月20日に出版され、重症急性腎障害に用いるRRT遅延と早期開始戦略を比較した無作為化試験を検索した。急性腎障害(Kidney Disease: Improving Global Outcomes[KDIGO]の急性腎障害分類2または3、KDIGOが使われていない場合、腎Sequential Organ Failure Assessment[SOFA]スコア3点以上と定義)がある18歳以上の重症患者を対象とした試験を適格とした。各試験の研究生責任者に連絡を取り、患者データの提供を依頼した。対象とした試験から、急性腎障害がない患者、無作為化しなかった患者を患者個人データのメタ解析から除外した。主要転帰は、無作為化28日後の総死亡率とした。この試験は、PROSPERO(CRD42019125025)として登録されている。 【結果】特定した試験1031件のうち、1件は適格基準を満たしたが組み入れ時期が古いため除外し、10件(対象2143例)を解析対象とした。9件(2083例)の患者個人データが入手でき、1879例に急性腎障害があり、946例(50%)を遅延RRT群、933例(50%)を早期RRT群に無作為に割り付けた。遅延RRT群に割り付けデータが入手できた929例中390例(42%)はRRTを受けなかった。28日時までに死亡した患者の割合は、遅延RRT群(837例中366例[44%])と早期RRT群(827例中355例[43%])で有意差がなく(リスク比1.01、95%CI 0.91-1.13、P=0.80)、全体のリスク差は0.01(95%CI -0.04-0.06)であった。試験間に異質性はなく(I2=0%、τ2=0)、ほとんどの試験でバイアスリスクが低かった。 【解釈】重症急性腎障害を呈した重症患者で、緊急RRTの適応がない場合のRRT導入のタイミングは、生存率に影響を及ぼすことがない。患者を緊密にモニタリングしながらRRT導入を遅らせることで、RRT実施率が低下し、ひいては医療資源を節約することになる。 第一人者の医師による解説 AKIでの腎代替療法は「伝家の宝刀」 むやみに使わず迷ったら使う 寺脇 博之 帝京大学ちば総合医療センター第三内科(腎臓内科)教授・腎センター長 MMJ. December 2020;16(6):172 『広辞苑』によると、「伝家の宝刀」とは「代々家宝として伝わっている名刀。転じて、いよいよという時以外にはみだりに使用しない、とっておきの物・手段など」…つまり、のっぴきならない窮地に立たされて初めて抜く刀、とされている。今回紹介する研究(メタアナリシス)は、重症の急性腎障害(acute kidney injury;AKI)を治療する上で、腎代替療法(renal replacement therapy;RRT)がまさにその「伝家の宝刀」であることを示唆する結論、すなわち「AKIに対してRRTを一律に早期導入しても予後への好影響は確認されなかった」を導き出している。  著者らは2008年4月1日~19年12月20日に発表された1,031件の研究から、早期導入戦略(early strategy:何らかの基準に従いAKIと診断された時点でRRTを導入)と晩期導入戦略(delayed strategy:高カリウム血症、肺水腫などのため生命の危険が迫った時点でRRTを導入)を比較した無作為化対照試験(RCT)を抽出。最終的に8件の研究から抽出された早期導入群827人、晩期導入群837人(年齢、性比、入院理由、Sequential Organ Failure Assessment[SOFA]スコア、併存疾患、敗血症合併率、割り付け時の利尿薬使用率に関する差なし)の2群を対象に、以下の項目について比較した:主要評価項目(割り付け後28日以内の全死亡)、副次評価項目(死亡までの期間[28日後まで])、60日全死亡、90日全死亡、院内死亡、入院期間、RRTを要しなかった日数[28日後まで])。  その結果、主要評価項目の28日全死亡について、晩期導入群におけるリスク比は早期導入群に対して1.01(95%信頼区間 , 0.91~1.13;P=0.80)と有意差はなく、さらに副次評価項目についても両群間に差は認められなかった。なお晩期導入群では42%の患者がRRTを1回も受けていなかった:このことは、早期導入群の42%においてRRTは不要であった可能性を示唆する。  今回の研究における「早期導入戦略」にとっての救いは、早期導入群では予後が優れていなかったものの、劣ってもいなかったことである。すなわち、早期導入群の42%にとってRRTは不要だったかもしれないが、不利益ももたらさなかったわけである。結局、今回の研究から得られた教訓は、「むやみには使わない(早期導入で予後は改善されないから)」「でも使うか使わないか迷ったら使う(不利益はもたらさないから)」という、AKIにおける伝家の宝刀たるRRTの“正しい振るい方”だと言うことができる。