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移植患者のサイトメガロウイルス血症予防に用いるポックスウイルスベクターサイトメガロウイルスワクチン 第II相無作為化臨床試験
移植患者のサイトメガロウイルス血症予防に用いるポックスウイルスベクターサイトメガロウイルスワクチン 第II相無作為化臨床試験
Poxvirus Vectored Cytomegalovirus Vaccine to Prevent Cytomegalovirus Viremia in Transplant Recipients: A Phase 2, Randomized Clinical Trial Ann Intern Med. 2020 Mar 3;172(5):306-316. doi: 10.7326/M19-2511. Epub 2020 Feb 11. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】Triplexワクチンは、造血幹細胞移植(HCT)後間もないサイトメガロウイルス(CMV)特異的T細胞の増強およびCMV再活性化の予防を目的に開発された。 【目的】Triplexの安全性および有効性を明らかにすること。 【デザイン】初めて患者を対象とする第II相試験(ClinicalTrials.gov:NCT02506933)。 【設定】米国のHCTセンター3施設。 【参加者】CMV再活性化のリスクが高いCMV血清反応陽性のHCTレシピエント102例。 【介入】HCT後28日時および56日時にTriplexまたはプラセボの筋肉内注射。Triplexは、免疫優性CMV抗原を発現する組み換え弱毒ポックスウイルス(改変ワクシニアアンカラ) 【評価項目】主要転帰は、CMVイベント(CMV DNA値≧1250IU/mL、抗ウイルス治療を要するCMV血症、末端臓器障害のいずれか)、非再発死亡、重度(グレード3または4)の移植片対宿主病(GVHD)とし、いずれもHCT後100日間にわたって評価し、注射に起因するかその疑いがあるグレード3または4の有害事象(AE)はワクチン投与後2週間以内に評価した。 【結果】計102例(各群51例)が初回ワクチン接種、91例(89.2%)が2回目のワクチン接種を完了した(Triplex 46例、プラセボ51例)。Triplex群5例(9.8%)、プラセボ群10例(19.6%)にCMVの再活性化が確認された(ハザード比0.46、95%CI 0.16-1.4、P=0.075)。Triplex群に初回ワクチン接種から100日以内の非再発死亡や重度AE、ワクチン接種2週間以内のワクチン接種によるグレード3または4のAEはなかった。注射後の重度急性GVHD発生率は両群で同等だった(ハザード比1.1、CI 0.53-2.4、P=0.23)。Triplex群の長期持続pp65特異的エフェクターメモリー表現型T細胞レベルがプラセボ群より高かった。 【欠点】プラセボ群のCMVイベント発生率が予想以上に低かったことで試験の検出力が低下した点。 【結論】ワクチンによる安全性の懸念は特定されなかった。TriplexはCMV特異的免疫反応を誘発増強し、Triplexワクチンを接種した患者にCMV血症はほとんど見られなかった。 第一人者の医師による解説 安全性を有しより効果が確実な サイトメガロウイルスワクチンに期待 新庄 正宜 慶應義塾大学医学部小児科専任講師 MMJ. October 2020; 16 (5):145 サイトメガロウイルス(CMV)ワクチン(1)には、弱毒性のキメラワクチン(全ウイルスを抗原)、体内では増殖が不可能 なdisabled infectious single cycle(DISC)ワクチンであるV160(全ウイルスを抗原)、MF59アジュバントを含むgB/MF59(gBを抗原)、DNAワクチンのVCL-CT02(pp65、IE1、gBを抗原)やASP0113(gB、pp65を抗原)、そしてウイルスベクターワクチンとして、AVX601(gB、pp65、IE1を抗原)と今回のMVATriplex(pp65、IE1、IE2を抗原)などがある。これらは、その効果、免疫原性、持続性などの問題や臨床試験中である事情を有することから、実用化に至っていない。  本論文とは別の報告ではあるが、移植患者へのCMVワクチンの応用については、DNAワクチンのASP0113(上述)の研究(第 III相試験)が知られている。しかし、CMV抗体陽性の造血幹細胞移植患者に対して、移植後1年間の全死亡数やCMV感染症の発生率などの主要評価項目で、有意な効果は認められなかった。また、腎移植患者においても有効性は示されなかった(第 II相試験)(アステラス製薬 ニュース https://www.astellas.com/jp/ja/news より)。いずれも局所部位反応以外の問題はなかった。  さて、本論文で報告された第 II相ランダム化試験は、CMVの再活性を予防するために、ポックスウイルスをベクターとした筋注ワクチン(Triplex)もしくはプラセボを、CMV抗体陽性の造血幹細胞移植患者(合計102人)に2回(移植後28日目と56日目)接種し、CMVの再活性化や安全性を評価したものである。非再発死亡やグレード 3~4の有害事象はいずれもわずかであった。移植後100日以内のCMV感染症(ウイルス DNA 1,250 IU/ml以上、治療を要するウイルス血症、またはCMV末期臓器疾患[EOD])はワクチン接種群で少ない傾向(9.8% 対 19.6%)にあったが、重症の急性移植片対宿主病(GVHD)はワクチン接種群で多い傾向(15.7% 対 7.8%)にあった。いずれも差があると言い切ることはできなかった(P>0.05)。今回は、プラセボ群で30%程度の発症があると見込んだために、効果に有意差が出なかったことが考えられた。メモリーフェノタイプ T細胞はワクチン接種群で有意に多く、移植後365日目までは高い傾向を示した。  移植患者に対するCMVワクチンは、いずれも高い安全性を有しているようであるが、現時点で有効とはいえない。より効果が確実なCMVワクチンの登場に期待したい。 1. 南修司郎. サイトメガロウイルスワクチン.耳喉頭頸.2020 ;92 (4):326-329.