「ヒトサイトメガロウイルス」の記事一覧

サイトメガロウィルス血清陽性ドナーから肝移植を受ける血清陰性レシピエントに用いる先制治療と予防投与の効果 無作為化臨床試験
サイトメガロウィルス血清陽性ドナーから肝移植を受ける血清陰性レシピエントに用いる先制治療と予防投与の効果 無作為化臨床試験
Effect of Preemptive Therapy vs Antiviral Prophylaxis on Cytomegalovirus Disease in Seronegative Liver Transplant Recipients With Seropositive Donors: A Randomized Clinical Trial JAMA . 2020 Apr 14;323(14):1378-1387. doi: 10.1001/jama.2020.3138. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【重要性】サイトメガロウィルス(CMV)血清陽性ドナーから肝移植を受ける高リスク血清陰性レシピエントに用いる抗ウイルス薬を予防投与しても、高い確率で予防投与後にCMV感染症が発生する。代替アプローチに先制治療(検査で検出した早期無症候性CMV血症に抗ウイルス薬投与を開始)があるが、この状態の患者で抗ウイルス薬予防投与と直接比較したことがない。 【目的】CMV血清陽性ドナーから肝移植を受ける血清陰性レシピエントのCMV感染症予防に用いる先制治療と抗ウイルス薬予防投与を比較すること。 【デザイン、設定および参加者】CMV血清陽性ドナーから肝移植を受ける18歳以上の血清陰性レシピエント205例を対象に、先制治療と抗ウイルス薬予防投与を比較する無作為化臨床試験。試験は、米国の大学病院移植センター6施設で、2012年10月から2017年6月にかけて実施し、2018年6月に最終追跡を完了した。 【介入】被験者を、100日間の間に週1回の血清CMV PCR検査で検出したウイルス血症に対して先制治療(バルガンシクロビル900mg、1日2回、1週間空けた検査で2回連続陰性が出るまで投与)を実施するグループと、予防投与としてバルガンシクロビル900mgを1日1回100日間投与するグループ(105例)に1体1の割合で無作為に割り付けた。 【主要評価項目】主要評価項目は、12カ月以内のCMV症候群(CMV血症および臨床的または検査的所見)と定義したCMV感染症の発症率または末端器官疾患とした。急性移植片拒絶反応、日和見感染、移植片および患者生存、好中球減少症を副次評価項目とした。 【結果】無作為化した205例(平均年齢55歳、62例[30%]が女性)のうち全205例(100%)が試験を完遂した。CMV感染症の発症率は、先制治療群の方が抗ウイルス薬予防投与群よりも有意に低かった(9% vs. 19%、差10%、95%CI 0.5-19.6%、P=0.04)。先制治療と予防投与の移植片拒絶反応の発生率(28% vs 25%、差3%、95%CI -9-15%)、日和見感染(25%vs. 27%、同2%、-14-10%)、移植片機能喪失(2% vs. 2%、同1%未満、-4-4%)および好中球減少症(13% vs. 10%、同3%、-5-12%)に有意差はなかった。最終追跡時の全死因死亡率は先制治療群15%、抗ウイルス薬予防投与群19%であった(同4%、95%CI -14-6%、P=0.46)。 【結論および意義】CMV血清陽性ドナーから肝移植を受ける血清陰性レシピエントで、先制治療は抗ウイルス薬予防投与群と比べて、12カ月間のCMV感染症発症率が低かった。この知見を再現し、長期的転帰を評価する詳細な研究が必要とされる。 第一人者の医師による解説 先制治療の優位性はCMV特異的免疫の誘導効率に依存するかもしれない 宮木 陽輔 東海大学医学部医学科/野田 敏司 東海大学医学部生体防御学領域講師 MMJ. December 2020;16(6):174 ヒトサイトメガロウイルス(CMV)は免疫不全患者や免疫抑制状態にある人において日和見感染症を起こすことが知られている。特にCMV陽性ドナーからCMV陰性レシピエントへの臓器移植では、その発症が患者の予後に多大なる影響を及ぼすため、CMV感染症のコントロールが大きな課題となっている。  現在、肝移植後のCMV感染症の管理には、先制治療(preemptive therapy)と予防投与(antiviral prophylaxis)が用いられている。前者では、介入期間100日において、1週間ごとにCMV PCR検査を行い、CMVが検出された場合、経口抗ウイルス薬のバルガンシクロビル 900mgを1日2回投与する。その後の検査で2回連続のCMV陰性結果が得られた場合、投薬を終了し、通常のモニタリングに戻る。後者では、同100日において、定期的なPCR検査を実施することなく、バルガンシクロビル 900mgを1日1回投与することを骨子とする。ところが、肝移植後のCMV感染症発生抑制にいずれが優位であるのか、従前まで、十分な症例数を用いたランダム化比較試験は行われてこなかった。  本研究では、米国の6つの大学における移植センターの患者(計205人)を対象にランダム化比較試験を実施し、これら両戦略の優位性の判定、加えて当該優位性獲得における免疫学的考察がなされた。結果、主要アウトカムである移植後12カ月までのCMV感染症は、先制治療群(100人)の方が予防投与群(105人)と比較し、その発生率を有意に抑制した(9% 対 19%;P=0.04)。移植後100日目以降の副次アウトカム(遅発 CMV感染症の発生率)でも、先制治療群が予防投与群よりも良好な成績を示した(6% 対 17%;P=0.01)。  前出のアウトカムが得られたメカニズムを、免疫病理学的に考察するにあたり、著者らはCMV特異的 T細胞と中和抗体に注目した。前者の細胞数では、先制治療群が予防投与群を有意に上回った(CD8+, P<0.001)。後者に関しては、予防投与群に比べ、抗体保有者が先制治療群に多く認められた(P=0.04)。これらの結果から、両群間の成績相違をもたらした機序の1つに、CMV特異的免疫の効率的動員が挙げられるのではないか、と著者らは示唆している。  以上、肝移植におけるCMV感染症のリスク低減には、先制治療が予防投与に比べ優位であるとする初めての知見が得られた。今後、本研究の再現性と長期アウトカムをより詳細に評価することが強く期待される。