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高感度心筋トロポニンを用いた症候性患者からの誘発性心筋虚血の除外 コホート研究
高感度心筋トロポニンを用いた症候性患者からの誘発性心筋虚血の除外 コホート研究
Using High-Sensitivity Cardiac Troponin for the Exclusion of Inducible Myocardial Ischemia in Symptomatic Patients: A Cohort Study Ann Intern Med. 2020 Feb 4;172(3):175-185. doi: 10.7326/M19-0080. Epub 2020 Jan 7. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約 【背景】症候性安定冠動脈疾患(CAD)患者の監視に最適な非侵襲的方法は明らかになっていない。 【目的】症候性CAD患者の誘発性心筋虚血の除外に超低濃度の高感度心筋トロポニンI(hs-cTnI)を用いた新たなアプローチを応用すること。 【デザイン】前向き診断コホート研究(ClinicalTrials.gov:NCT01838148)。 【設定】大学病院。 【参加者】誘発性心筋虚血の疑いで紹介されたCADの連続症例1896例。 【評価項目】単一光子放射断層撮影(SPECT)による心筋血流シンチグラフィ、可能であれば冠動脈造影および冠血流予備量比を用いて、誘発性心筋虚血の有無を判定した。判定を伏せておいたスタッフがhs-cTn濃度を測定した。ほぼ無症状のCAD患者から事前に得たhs-cTnIカットオフ値2.5ng/Lを評価した。事前に規定した誘発性心筋虚血の除外の目標診断精度の基準を陰性適中率(NPV)90%以上かつ感度90%以上とした。hs-cTnTアッセイの測定値、さらに分析感度の高い代替hs-cTnI検査(検出限界0.1 ng/L)を基に感度解析を実施した。 【結果】全体で865例(46%)から誘発性心筋虚血が検出された。誘発性心筋虚血除外のカットオフ値2.5ng/LのMPVは70(95%CI 64-75%)、感度90%(CI 88-92%)だった。いずれの値も事前に定義した目標診断能の基準に達したhs-cTnIのカットオフ値は得られなかった。別のhs-cTnIまたは高感度心筋トロポニンT(hs-cTnT)検査でも、目標診断能の基準に達したカットオフ値はなく。hs-cTnT濃度5ng未満がNPV 66%(CI 59-72%)、hs-cTnI濃度2ng/L未満がNPV 68%(CI 62-74%)だった。 【欠点】中央判定を用いた大規模単施設診断研究でデータを生成した点。 【結論】症候性CADで、hs-cTnIカットオフ値2.5ng/Lの超低濃度hs-cTnでは、安全に誘発性心筋虚血を除外することができない。 第一人者の医師による解説 採血だけの高感度心筋トロポニン 低侵襲による心筋虚血リスク評価は多くの福音 島田 俊夫 静岡県立総合病院臨床研究部統括部長 MMJ. October 2020; 16 (5):134 高感度心筋トロポニン(hsCTn)は急性心筋梗塞、急性心筋炎、慢性心筋炎、心筋症、抗がん剤による心筋障害、心不全などで上昇することが報告されている。急性心筋梗塞の診断に関してはガイドラインも存在し適用がほぼ確立されている(1)。hsCTn検査のメリットとして、採血のみで心筋障害の有無を短時間で低侵襲的に診断できる、入院が不要、無駄な侵襲性の高い検査を回避できる、医療費の削減につながることなどが挙げられ、導入への期待は大きい。心筋トロポニンは3種類(トロポニンI、T、C)あり、臓器特異性のあるIとTが使用されている。 本論文は、hsCTnを使って安定な冠動脈疾患患者で誘発心筋虚血を評価できるか検証したチャレンジングなコホート研究の報告である。結果の詳細は原著に委ねるとして、筆者が作成した2×2分割表を詳細に分析すれば論文の内容を正確に理解できよう。そのためにはBayes乗法の定理の理解が必要であるが詳細は省略する(2)。 研究対象は安定冠動脈疾患患者1,896人で、表から有病率46%(865/1,896)が検査前確率になる。SPECT虚血陽性面積10%未満を陽性とした場合を例に示す。hsCTnIのカットオフ値は2.5ng/Lである3。本研究の関心対象は陰性結果であり、検査後オッズ =検査前オッズ×陰性尤度比=0.84×0.5=0.42であった。以上から検査後確率 =0.42/(1+0.42)=0.3で、検査前確率0.46から0.3に低下した。陽性の場合は陰性尤度比を陽性尤度比に替えると検査後確率は0.485になる。検査前確率0.46から検査後確率0.485とわずかに上がった。SPECT誘発心筋虚血面積10%以上を陽性と判定した場合、陰性において検査前確率0.14から検査後確率0.07に低下、陽性の場合は検査後確率0.15で変わらなかった。比較対照に用いたhsCTnT(エレクシス)、超 hsCTnI(エレナ)の結果もやや劣るか、同等であった。現段階では、採血によるhsCTnによる誘発心筋虚血の診断/除外は難しいが、低侵襲による心筋虚血リスク評価は多くの福音をもたらすため研究達成を期待したい。 筆者らも“健康集団(約1,000人)”を対象に血清 hsCTnI/Tを測定し、四分位数群の下位群と上位群でFraminghamリスクスコアを比較すると上位群のスコアが有意に高く、本論文の内容は意味深長だと受け止めている。 1. ygesen K, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;72(18):2231-2264. 2. 島田俊夫 , et al. 臨床病理 2016;64:133-141. 3. Hammadah M, et al. Ann Intern Med. 2018;169(11):751-760.