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男性におけるテストステロン治療の有効性と安全性。米国内科学会による臨床実践ガイドラインのためのエビデンスレポート。
男性におけるテストステロン治療の有効性と安全性。米国内科学会による臨床実践ガイドラインのためのエビデンスレポート。
Efficacy and Safety of Testosterone Treatment in Men: An Evidence Report for a Clinical Practice Guideline by the American College of Physicians Ann Intern Med 2020 Jan 21;172(2):105-118. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【背景】米国では過去20年間に成人男性におけるテストステロン治療率が上昇している。 【目的】性腺機能低下症の基礎となる器質的原因を持たない男性に対するテストステロン治療の有益性と有害性を評価する。 【データソース】複数の電子データベースの英語検索(1980年1月から2019年5月)及び系統的レビューの参考文献リスト。 【研究選択】経皮または筋肉内テストステロン療法をプラセボまたは無治療と比較評価し、事前に指定した患者中心のアウトカムを報告した6カ月以上継続した38件の無作為化対照試験(RCT)、および20件の長期観察研究、U.データ抽出】研究者1名によるデータ抽出を2名が確認し、研究者2名がバイアスのリスクを評価し、証拠の確実性は合意によって決定した。 【データ統合】研究では、年齢、症状、テストステロンの適用基準が異なる、主に高齢の男性が登録された。テストステロン療法は、効果の大きさは小さいものの、テストステロン値が低い男性の性的機能およびQOLを改善した(低~中程度の確実性を有する証拠)。テストステロン療法は、身体機能、抑うつ症状、エネルギーと活力、または認知にはほとんど影響を及ぼさなかった。試験で報告された有害性の証拠は、ほとんどの有害性アウトカムについて不十分または確実性が低いと判断された。心血管イベントまたは前立腺がんを評価するための検出力がある試験はなく、試験ではこれらの疾患のリスクが高い男性は除外されることが多かった。観察研究では、適応症および禁忌による交絡が制限された。 【Limitation】期間が1年を超える試験はほとんどなく、最小重要アウトカム差がしばしば確立または報告されず、RCTは重要な有害性を評価する検出力がなかった、18~50歳の男性におけるデータがほとんどなく、低テストステロンの定義が異なり、試験の参加基準も様々であった。【結論】性腺機能低下の原因となることが知られている医学的条件が確立されていないテストステロン値が低い高齢男性では、テストステロン療法は性的機能およびQOLにわずかな改善をもたらすかもしれないが、老化の他の一般的症状にはほとんどまたは全く有益でない。長期的な有効性と安全性は不明である [主な資金源]American College of Physicians.(プロスペロー:Crd42018096585). 第一人者の医師による解説 ARTの有用性や安全性 日本人を含めた大規模、長期的な臨床研究を期待 小川 純人 東京大学大学院医学系研究科老年病学准教授 MMJ.August 2020;16(4) 男性において、加齢による性ホルモンレベルの低下は男性更年期障害と関連し、late-onsethypogonadism(LOH)症候群として理解されている。LOH症候群の症状、徴候としては、(1)性欲と勃起の頻度や質の減退、(2)知的活動や認知機能の低下ならびに気分変調(疲労感、抑うつなど)、(3)睡眠障害、(4)筋量減少や筋力低下に伴う除脂肪体重の減少、(5)内臓脂肪の増加、(6)皮膚と体毛の変化、(7)骨量低下や骨折リスク上昇などが挙げられる。 LOH症候群では、不定愁訴で受診する場合も少なくなく、Aging Males’ Symptoms( AMS)スコアなどの質問票を通じた問診、スクリーニング、他疾患との鑑別に加えて、血中テストステロン濃度の測定をはじめとするホルモン学的検査を中心に、男性性腺機能を評価することが大切である。LOH症候群に対しては、アンドロゲン補充療法(ART)が考慮される場合も少なくないが、その前提として前立腺がん、PSA高値、うっ血性心不全などの除外基準を評価する。 本論文ではLOH男性に対するARTに関する臨床ガイドライン(米国内科医学会)の基礎となるエビデンスについて系統的レビューを行った。そこでは、65歳以上の男性にART(経皮薬または注射薬)を実施し、最低6カ月間の観察期間を有した38件のランダム化比較試験と20件の長期観察研究を対象にメタアナリシスが行われた。 その結果、全般的な性機能の改善、AMSスコアに基づくQOLの改善について、ARTにわずかな効果が認められ、その効果は経皮薬、注射薬いずれにおいてもほぼ同等であった。一方、疲労感、活力低下、身体機能低下、認知機能低下など加齢に伴う諸症状に対しては、ARTによる有意な改善効果は認められなかった。また、ARTに伴う心血管イベントや前立腺がんのリスクについては有意差など明らかな結果が得られなかった。 実臨床においてLOH症候群に対してARTを行う際には、『加齢男性性腺機能低下症候群診療の手引き(日本泌尿器科学会/日本Men’s Health医学会編)』(1)などに基づき、患者本人の意向、性機能・QOL改善の可能性、有害事象リスク、費用などを事前に十分話し合うことが大切である。また、ART開始後は前立腺特異抗原(PSA)を含む定期的な血液検査に加えて、臨床症状や治療効果を定期的にフォローアップすることが重要である。本研究を含め、これまでに行われたランダム化比較試験は患者数も少なく治療・観察期間も短いものが多い。今後、ARTの有用性や安全性について、日本人を含めた大規模かつ長期的な臨床研究が期待される。 1. 日本Men's Health 医学会:資料公開サイト http://www.mens-health.jp/wp-content/uploads/2018/08/LOHguidelines.pdf