希少疾患 脂肪萎縮症~知っておきたい希少疾患
脂肪萎縮症は、糖脂質代謝異常と体重減少が同時に認められる希少疾患であり、極めて予後が不良である。これまで疾患認知が十分ではなかったため、治療に難渋する糖尿病などとして治療継続が行われ、診断遅延や見逃されていたケースも少なくないといわれている。今回は、脂肪萎縮症の概要とエスクメディオが新たに開始した「脂肪萎縮症コンサルト」について紹介する。
脂肪萎縮症が疑われる患者像「脂肪萎縮を伴う重度の糖尿病」
脂肪萎縮症とは皮下脂肪や内臓脂肪などの脂肪組織が減少・消失する希少疾患である。遺伝子変異による先天性または家族性と、自己免疫異常などによる後天性のものがあり、それぞれ摂取エネルギー量とは無関係に全身の脂肪組織が減少・消失する全身性と、四肢などの脂肪組織が減少・消失する部分性の脂肪萎縮症に大きく4つに分類される1) 。脂肪萎縮症では脂肪組織が一定以上消失すると糖尿病や高トリグリセリド血症、脂肪肝などの糖脂質代謝異常を発症し、予後に悪影響を及ぼす。とくに、脂肪萎縮症に合併する糖尿病は脂肪萎縮性糖尿病と呼ばれ、重度のインスリン抵抗性を示すのが特徴である2) 。
国内推定患者数約100人、予後は極めて不良
脂肪萎縮症の推定有病率は、米国において約100万人〜500万人に1人と報告されている3) 。日本では、1985年の厚生省特定疾患、難病の疫学調査研究による脂肪萎縮性糖尿病の全国調査の結果および2007年の日本内分泌学会内分泌専門医を対象としたアンケート調査の結果から、有病率は約130万人に1人と推定されており、国内推定患者数は、約100人の非常に稀な疾患であり、指定難病および小児慢性特定疾病に指定されている。脂肪萎縮症患者は糖尿病合併に伴う重度のインスリン抵抗性や糖尿病以外の高トリグリセリド血症から発現する急性膵炎や肝硬変、肥大型心筋症などが死因となることが多く、平均寿命は30~40歳といわれており、極めて予後不良である4) 。
脂肪萎縮と糖脂質代謝異常合併のメカニズム
脂肪の萎縮は、脂肪細胞の発生分化・増殖・機能に関わる遺伝子異常、自己免疫、感染、薬剤、機械的な圧迫、除神経などさまざまな因子により引き起こされる。脂肪萎縮症における脂肪の萎縮は、食事制限、過度の運動、消耗性疾患などにより生じる痩せとは異なり、摂取エネルギー量が過剰な状態であっても改善がみられないのが特徴である。また、脂肪萎縮が全身性または部分性に生じるかについては、脂肪萎縮の病因により決定されると考えられる5) 。
脂肪萎縮症は、脂肪組織が萎縮することで、脂肪組織から分泌されるレプチンが不足した状態となり代謝異常が引き起こされたり、生理機能の減弱に伴い脂肪組織に蓄積出来ない余剰エネルギーが血液循環に留まり、肝臓、骨格筋などの非脂肪組織に脂質として蓄積される。摂食抑制作用を有するレプチンが減少すると、食欲の亢進が認められ、摂取エネルギー量の増加につながる。これらの結果、脂肪萎縮症患者では、脂肪組織の減少・消失の進行とともに、重度のインスリン抵抗性、糖尿病、高トリグリセリド血症、脂肪肝などの糖脂質代謝異常の合併が高率でみられる1) 。
体重減少+糖脂質代謝異常は脂肪萎縮症を疑うサイン、レプチンも重要な指標の1つ
体重減少や痩せがみられ、重度のインスリン抵抗性、糖尿病、高トリグリセリド血症、脂肪肝などの糖脂質代謝異常が認められる患者では、脂肪萎縮症の可能性を考慮する必要がある。その際、まずは脂肪組織の萎縮時期および萎縮部位を評価することが求められる。脂肪萎縮症の診断においては、痩せや体重減少を呈する他疾患を除外し、身体的特徴から早老症候群、自己炎症症候群の可能性を検討する。これらが疑われる場合は、診断を進めるために遺伝学的検査を実施する。次に、脂肪萎縮の発症時期、分布、家族歴、脂肪萎縮と関連する病歴などを検討し、脂肪萎縮症の病型を診断する。全身MRI T1強調画像検査と血中レプチン濃度の測定は、脂肪萎縮症の診断補助ツールとして有用である。脂肪萎縮症に対する血中レプチン検査は保険承認されており、血中レプチン濃度が男性で0.6ng/mL未満、女性で1.9ng/mL未満の場合、脂肪萎縮症が疑われる。先天性病因による脂肪萎縮症の場合は、病因遺伝子の変異が検出されれば、診断が確定する6) 。
脂肪萎縮に対する根本的治療法は、現時点では明らかとなっていないが、脂肪萎縮に起因する代謝異常に対しては、レプチン補充療法の有効性が示されており7)、本邦においても2013年に承認されている8)。
脂肪萎縮症の早期発見を目指して「脂肪萎縮症コンサルト」サービス開始
非常に稀な疾患である脂肪萎縮症は、これまで疾患の認知度が低いことから、適切な診断治療が行われていなかった可能性が指摘されている。とくに、インスリン抵抗性および脂肪萎縮性糖尿病患者では、通常の糖尿病として治療を継続していることも多く、より良い医療アクセスへ結びつけることが困難であった。このような課題を解決するため、エスクメディオでは新たなサービスとして「脂肪萎縮症コンサルト」をスタートすることにした。
これまでエスクメディオでは、「皮膚科 ヒフミルくん」を代表とする非専門医が専門医へオンラインで直接相談できるコンサルトサービスを展開してきたが、脂肪萎縮症の早期発見を目指し、「脂肪萎縮症コンサルト」を新規ラインナップとして追加した。先生が診察されている患者さんの中で、重度のインスリン抵抗性、糖尿病、高トリグリセリド血症などの糖脂質代謝異常と合わせて体重減少や痩せが気になる患者さんに遭遇した際には、本サービスをご利用いただければ幸いである。
「脂肪萎縮症コンサルト」はこちらから ▶ https://hpcr.jp/v/consult/form/lipodystrophy
(エクスメディオ 鷹野 敦夫)
参考資料
(1)Brown RJ, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016; 101: 4500-4511.
(2)Brown RJ, et al. Proteomics Clin Appl. 2015: 225–236.
(3)Garg A. Am J Med. 2000; 108: 143-52.
(4)海老原健ら. 肥満研究2011. 17: 15-20.
(5)厚生労働科学研究補助金難病性疾患等克服研究事業 脂肪萎縮症に関する調査研究 平成25年度
(6)中尾 一和ら. 日本内分泌学会雑誌 Vol. 94 Suppl. September 2018.
(7)Oral EA, et al. N Engl J Med. 2002; 346: 570–578.
(8)メトレレプチン皮下注用11.25mg「キエジ」添付文書
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