「ADA欠損症」の記事一覧

アデノシンデアミナーゼ欠損症に用いる自家ex vivoレンチウイルス遺伝子治療
アデノシンデアミナーゼ欠損症に用いる自家ex vivoレンチウイルス遺伝子治療
Autologous Ex Vivo Lentiviral Gene Therapy for Adenosine Deaminase Deficiency N Engl J Med. 2021 May 27;384(21):2002-2013. doi: 10.1056/NEJMoa2027675. Epub 2021 May 11. 原文をBibgraph(ビブグラフ)で読む 上記論文の日本語要約【背景】アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損による重症複合免疫不全症(ADA-SCID)は、生命を脅かすまれな原発性免疫不全症である。【方法】ADA-SCID 50例(米国で30例、英国で20例)にヒトADA遺伝子をコードする自己不活型レンチウイルスベクターを用いて体外で(ex vivo)形質導入した自己CD34+造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)による開発中の遺伝子治療を実施した。24カ月間追跡した2つの米国試験のデータ(新鮮細胞および凍結保存細胞使用)を36カ月追跡した英国試験のデータ(新鮮細胞使用)と併せて解析した。【結果】最長24カ月間および36カ月間の全試験の総生存率が100%であった。(酵素補充療法の再開や救済療法としての同種造血幹細胞移植がない)無事象生存率は、12カ月時で97%(米国の試験)と100%(英国の試験)、24カ月時でそれぞれ97%と95%、36カ月時で95%(英国の試験)であった。米国試験の30例中29例、英国試験の20例中19例が遺伝子組み換えHSPCの生着を維持した。代謝解毒作用とADA活性値の正常化が保たれていた。免疫再構築が達成され、米国試験の90%および英国試験の100%がそれぞれ24カ月時および36カ月時までに免疫グロブリン補充療法を中止した。単クローン性増殖や白血球増殖性の合併症、複製可能なレンチウイルス出現の根拠は認めず、自己免疫疾患または移植片対宿主病の事象は発現しなかった。有害事象の大部分は低グレードであった。【結論】ex vivoレンチウイルスHSPC遺伝子治療でADA-SCIDを治療した結果、総生存率および無事象生存率が高く、ADA発現の持続、代謝補正および機能的な免疫再構築を認めた。 第一人者の医師による解説 レンチウイルスベクター遺伝子治療 第1選択のHSCTより安全性、有効性で優れる 有賀 正 社会医療法人 母恋 理事長 MMJ. December 2021;17(6):184 アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症は重症複合免疫不全症(SCID)の一型で、従来から遺伝子治療の標的疾患として注目されていた。1990年、初の遺伝子治療臨床研究がこの疾患で実施され(1)、さまざまな遺伝性疾患へも遺伝子治療が応用されていった。しかし、2002年、X-SCIDに対するレトロウイルスベクター遺伝子治療で白血病様副作用が重ねて報告された(2)。これを契機に遺伝子治療の安全性が再強化され、現在、より安全で効果のある遺伝子治療が展開している。今回の報告は米国と英国で実施された異なる3つの遺伝子治療臨床研究「ADA欠損症に対するexvivoレンチウイルスベクター遺伝子治療」の結果を示している。ベクターはEFS-ADALVを共通して使用したが、標的細胞の採取方法、導入細胞の処理、移植細胞数など多くの点で異なっていた。対象はドナー不在のADA欠損症患者50人(米国30人、英国20人[5人は5歳超、このうち3人は10歳以上])で、自己の骨髄由来、または末梢血CD34+細胞が遺伝子導入標的である。必要最低標的細胞数は1x106/kg~4x106/kgであった。標的細胞採取後に、非骨髄破壊的量のブスルファンによる前処置を実施した。ADA酵素補充は診断直後から遺伝子治療終了後30日まで続けられた。生存率は100%(50/50)であった。2人が生着不良(1人は血液幹細胞移植[HSCT]を実施[米国]、1人は酵素補充を再開・継続[英国])で、無イベント生存率は96%(48/50)であった。この2人を除いた全例で、顆粒球、単核球で導入遺伝子が確認され、3カ月後には赤血球中のADA酵素活性の上昇と毒性代謝産物の著減を認めた。T細胞とそのサブセットは一時減少したが、漸次増加し、増加は継続している。ナイーブT細胞、T細胞特異マーカーのTcellreceptorexcisioncircle(TREC)は上昇し、T細胞の新生を示している。B細胞、NK細胞は一時減少も、正常レベルとなった。血清IgA、IgM値は上昇、ほとんどの患者で免疫グロブリン補充が中止できている。また、ワクチンへの反応も確認された。末梢血リンパ球数は正常レベルである。重症感染症の頻度は低く、コントロールできた。注目すべき合併症の免疫再構築炎症症候群が4人にみられたが、ステロイドが奏効した。レトロウイルスベクター遺伝子治療時に認めた白血病様副作用は認めず、増殖性ウイルスも検出されていない。ADA欠損症に対する第1選択治療はこれまでHLA一致ドナーからのHSCTであったが、最近では遺伝子治療もこれと同等と考えられている。今回のレンチウイルスベクター自己血液幹細胞遺伝子治療の結果は、従来のHSCTよりも安全性、有効性に優れていた。 1. Blaese RM et al. Science. 1995; 270(5235):475-480. 2. Hacein-Bey-Abina S, et al. New Engl J Med. 2003; 348(3): 255-256.