「アドレナリン」の記事一覧

院内心停止へのアドレナリン・バソプレシン・ステロイド投与で自己心拍再開率向上
院内心停止へのアドレナリン・バソプレシン・ステロイド投与で自己心拍再開率向上
Effect of Vasopressin and Methylprednisolone vs Placebo on Return of Spontaneous Circulation in Patients With In-Hospital Cardiac Arrest: A Randomized Clinical Trial JAMA. 2021 Oct 26;326(16):1586-1594. doi: 10.1001/jama.2021.16628. 上記論文のアブストラクト日本語訳 ※ヒポクラ×マイナビ 論文検索(Bibgraph)による機械翻訳です。 【重要性】これまでの試験で、院内心停止時にバソプレシンとメチルプレドニゾロンを投与することで転帰が改善する可能性が示唆されている。 【目的】院内心停止時にバソプレシンとメチルプレドニゾロンを併用投与すると自然循環の復帰が改善するかどうかを判断する。 【デザイン、設定および参加者】デンマークの10病院で実施した多施設、無作為二重盲検、プラセボ対照臨床試験。2018年10月15日から2021年1月21日の間に、院内心停止の成人患者計512名を対象とした。最終90日フォローアップは2021年4月21日であった。 【介入】患者はバソプレシンとメチルプレドニゾロンの併用投与(n = 245)またはプラセボ投与(n = 267)に無作為に割り付けられた。エピネフリン初回投与後にバソプレシン(20 IU)およびメチルプレドニゾロン(40 mg)、または対応するプラセボを投与した。エピネフリンを追加投与するごとにバソプレシンまたは対応するプラセボを追加投与し、最大4回投与した。 主要評価項目は自然循環の回復であった。副次的アウトカムは30日後の生存率と良好な神経学的転帰(Cerebral Performance Categoryスコア1または2)とした。 【結果】無作為化された512例中、501例がすべての組み入れ基準を満たし、除外基準はなく解析に含まれた(平均[SD]年齢、71[13]歳;男性322[64%])。バソプレシンおよびメチルプレドニゾロン群では 237 例中 100 例(42%),プラセボ群では 264 例中 86 例(33%)で自然循環の回復が得られた(リスク比 1.30 [95% CI, 1.03-1.63]; リスク差 9.6% [95% CI, 1.1%-18.0%]; P = .03).30日時点で,介入群23人(9.7%)とプラセボ群31人(12%)が生存していた(リスク比,0.83 [95% CI,0.50-1.37];Risk difference:-2.0% [95% CI, -7.5% to 3.5%]; P = 0.48)。30日目において,介入群の18人(7.6%)とプラセボ群の20人(7.6%)で良好な神経学的転帰が認められた(リスク比,1.00 [95% CI, 0.55-1.83]; リスク差,0.0% [95% CI, -4.7% to 4.9%]; P > .99).自然循環が回復した患者において,高血糖は介入群で77例(77%),プラセボ群で63例(73%)に発生した.高ナトリウム血症は、介入群で28(28%)、プラセボ群で27(31%)に発生した。 【結論と関連性】院内心停止患者において、バソプレシンおよびメチルプレドニゾロンの投与は、プラセボと比較して、自然循環の復帰の可能性を有意に増加させることが示された。しかし、この治療が長期生存に有益か有害かは不明である。 【臨床試験登録】ClinicalTrials. gov Identifier:NCT03640949 第一人者の医師による解説 治療方針を大きく変更するものではないが 蘇生治療に用いる薬物候補として検証は続く 鈴木 昌 東京歯科大学教授・市川総合病院救急科部長 MMJ. April 2022;18(2):47 本論文は、デンマークの10施設で行われた無作為化二重盲検試験の報告である。18歳以上の病院内発生心停止(院内心停止)に対して、試験薬群(237人)とプラセボ群(264人)の効果比較を行っている。試験薬群では初回のアドレナリン投与後、すみやかにバソプレシン 20 IUとメチルプレドニゾロン 40 mgを投与、その後バソプレシンをアドレナリン投与直後に20 IUずつ、計80 IUまで投与した。その結果、主要評価項目である自己心拍再開(ROSC)率は試験薬群で42%に達し、プラセボ群33%に対して有意に高かったが(リスク比 , 1.30;95%信頼区間 , 1.03〜1.63)、主な副次評価項目である30日後生存と神経学的転帰に有意差はなかった。有害事象(高血糖、高 Na血症)の発現率に差はなかった。以上から、院内心停止においてバソプレシンとメチルプレドニゾロン投与の追加はROSCを改善するが、30日後の予後改善は観察されなかった、と結論している。 バソプレシンは、以前の蘇生ガイドラインに記載のあった薬剤だが、アドレナリンを凌駕する効果がみられず現在は使用しないことになっている。また、ステロイド投与については現状では結論が得られていない。このため投与の推奨はない(1)。しかし、これらの薬剤が俎上に上る背景には、蘇生治療に対する重症敗血症治療の考え方の反映がある。さらに、バソプレシンや内因性ステロイドの血中濃度は心停止後の非生存者で低いことから、その補充への期待が根強い。バソプレシンではV1受容体の直接刺激による血管収縮が期待される。ステロイドでは副腎を含めた全身の虚血と再灌流障害とが惹起する不安定な血行動態や過剰な免疫応答を改善する効果が期待される。 本研究の2つの先行研究(2),(3)は院内心停止に対してROSC、生存退院、ならびに神経学的転帰の改善を報告していた。本研究はこれらの研究の外部検証と位置付けられ、この研究を含めた3つの研究の系統的レビューでは、成人の院内心停止に対するアドレナリン・バソプレシン・ステロイド投与がROSC改善に寄与するとした(4)。なお、先行2研究と系統的レビューの著者は同一グループと目される。 本研究は、院内心停止を対象にしている。院内と院外心停止とで、心肺蘇生術に違いはなく、各種の研究結果も相互に参照されて活用される。一方、この両者が同様の患者群あるいは治療対象であるとは考えられていない。したがって、この結果が直ちに院外心停止を含めた治療方針を大きく変更するものではない。とはいえ、蘇生治療に用いる薬物の候補としてさらに検討と検証が続くものと思われる。 1. Berg KM, et al. Circulation. 2020;142(16_suppl_1):S92-S139. 2. Mentzelopoulos SD, et al. Arch Intern Med. 2009;169(1):15-24. 3. Mentzelopoulos SD, et al. JAMA. 2013;310(3):270-279. 4. Holmberg MJ, et al. Resuscitation. 2022;171:48-56.